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怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など
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Ⅴ. 屋上と城壁上歩廊など i. 屋上の上から (後篇)のエピローグで『ヴァン・ヘルシング』(2004)に登場したパリのノートル=ダム大聖堂北塔の屋上に触れました(→こちら)。これ以外にもすでに、『フランケンシュタイン』(1931)および『フランケンシュタインの花嫁』(1935)における見張り塔屋上に設置された雷電を呼びこむための装置(→こちらの2)、『回転』(1961)での鳩小屋のある塔の屋上(→こちらの3)、『たたり』(1963)で角塔から見下ろされた平らな正方形の屋根(→こちらの4)、『レクイエム』(1971)ではラ・ロシュ=ギュイヨン城主塔の、段差がある屋上(→こちらの5)などに出くわしていました。 |
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『ヴァン・ヘルシング』(2004)での北塔屋上や『たたり』(1963)での平らな正方形の屋根は、たとえば『大反撃』(1969)における角塔屋上と比べることができるかもしれません(右→そちら)。 この屋上には機関銃が据えられ、敵の飛行機と戦闘になります。 |
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たとえば『ディメンシャ13』(1963)の一場面のように(右→あちら)、ある時期まで塔の頂上は最も高い位置であり、そこからは下へ向くしかなかったはずでした。ところが飛行機という近代の所産が加わったため、塔の屋上にあって、なお上を見上げるという事態が新たに生じたことを、『大反撃』における件の場面は示す、のだとでもいえるでしょうか。 | |||||||||||||||||||||
もとより飛行機でなくとも、塔の上空を舞うこともあるでしょう。鳥や龍はおくにしても、『大盗賊』(1963)では、凧が空から塔の頂へ接近していきます(右→ここ)。 | |||||||||||||||||||||
そもそも映画においては、飛行機や凧のさらに上から、カメラが塔の頂を見下ろします。『大反撃』や『大盗賊』同様、『ハムレット』(1948)の冒頭では、カメラが高い位置から塔の屋上へ近づいていきました(右→そこ)。 | |||||||||||||||||||||
この作品の舞台であるエルシノア城は、どこがどうつながっているのかわからないのですが、城壁の内外に階段がとりつけられており(右)、階段に思い切り接近してカメラが下降したり上昇したりすることもあります(下左)。とある「露台」では亡霊が出現したりもすることでしょう(下右→そこの2)。 | |||||||||||||||||||||
『冒険者たち』(1967)でも、最後の舞台であるボワヤール砦の屋上をカメラは上空から俯瞰します(下左→あそこ)。高さと遠さを変えつつ捉えられた屋上は、階下のさまざまな様子と交わって、この建物こそを終盤の主人公とするのでした。 | |||||||||||||||||||||
ii. 屋上など 逃げる者と追う者が隣のビルの屋上だか屋根に跳躍し、場合によってはそれを何度も繰り返すという場面は、ちょくちょく見かけるような気がします。といって具体的にどの作品で見たか、ぱっと思いだせなかったりもする。(後篇)のプロローグで触れたヒッチコックの『めまい』(1958→こっち)、その冒頭部分が、何とか思い浮かびました。跳躍にはつねに、墜落の危険がつきまとうという点も、『めまい』の件の場面は例示しています。 『ブレード・ランナー』(1982、監督:リドリー・スコット)のクライマックスでも、ビルからビルへの跳躍が見られました。やはり墜落の恐怖が組みこまれていましたが、その際、ビルの軒や樋につかまって移動するという、近い位置にありそうなもう一つのモティ-フも組みこまれています。 『モルグ街の殺人』(1932、監督:ロバート・フローリー)のクライマックスでは、大猿がヒロインを担ぎあげて屋根伝いに逃走します。北島明弘『映画で読むエドガー・アラン・ポー』(近代映画社、2009)で触れられていたように(p.60)、翌年の『キング・コング』(1933、監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック)を予告するかのごとくです。後者では大猿は巨大化し、パリの町並みはエンパイア・ステート・ビルに置き換えられます。 『キング・コング』に先駆けて、横移動ならぬ縦に移動するのは、『要心無用』(1923、監督:フレッド・C・ニューメイヤー、サム・テイラー)のクライマックスです。ハロルド・ロイド扮する主人公は、ビルの壁をよじ登ります(この作品について、加藤幹郎、『映画ジャンル論 ハリウッド的快楽のスタイル』、平凡社、1996、pp.82-85 参照)。 斜めになった屋根での対決というパターンもあります。『眠狂四郎無頼剣』(1966、監督:三隅研次)のクライマックスがそうでした。 『わたしは目撃者』(1971、監督:ダリオ・アルジェント)でもクライマックスは屋上で展開します。ある研究所の屋上で、平らな部分とともに、ゆるい山型をなす屋根が数列並んでいました。 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018、監督:フアン・アントニオ・バヨナ)のクライマックスでは、横移動と斜めの屋根、というかこの作品の場合半円塔の屋根での対決が組みあわされています。ちなみにシリーズ先行作の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997、監督:スティーヴン・スピルバーグ)では、島のパートのクライマックスで屋根での対決、シリーズ後続作の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022、監督:コリン・トレヴォロワ)では中盤に、別の建物に飛び移る場面がありました。 以上はたまたま思いだすことのできた、わずかばかりの例にすぎません。他の作品で気がつくことがあれば、追って補っていくとしましょう。 屋根伝いの往き来に重要な役割を与えた作品に、『帰って来たドラキュラ』(1968)があります(下左右→そっち)。当該作品の頁でも記しましたが、封印されて中に入ることできなくなった古城の分を補填するかのように、複雑に入り組んでいます。高さがいやに強調されている。ドラキュラの柩を潜ませた、酒場の地下室とも対照しあっているのでしょう。 |
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遡って、単独の建物の屋上としては、『死滅の谷』(1921)の「第一の灯の物語」に二つの屋上が出てきます。同じものなのかどうかは不明。一つ目は若者が追われて上る、枝を敷き詰めたような階段で(下左→あっち)、最上部から揚げ蓋で屋上に出ます(下右)。 | |||||||||||||||||||||
二つ目はカリフが妹を連れてのぼってきた屋上で(下左→あっちの2)、屋上もそこへの階段口も不規則な形になっていました。屋上から下りる階段(下右)は前のものに比べてきれいに整えられています。同じセットを模様替えしたのでしょうか。 | |||||||||||||||||||||
バグダッドを主な舞台の一つにした映画で、『バグダッドの盗賊』(1940)にも屋上が登場しました。右手には幅の広い階段が上がっていきます(下左→あっちの3)。屋上全体が段をなしているようです。登場人物たちは階段の手前を左へ、山型の胸壁に囲まれた部分です(下左)。胸壁近くは何段分か高くなっています。床は赤みを帯び、左奥には噴水がありと、豪華にしつらえられているということなのでしょう。この屋上は後にも出てきて、クライマックスの舞台ともなります。 | |||||||||||||||||||||
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戻って『死滅の谷』と同じくフリッツ・ラングが監督した『メトロポリス』(1927)の舞台は近未来の都市ですが、クライマックスはなぜか教会でした(→こなた)。(後篇)頁の「v. 鐘塔など」を作っていた折りはすっかり忘れていましたが、鐘楼も出てきます(右)。そこを通り抜けて、三角屋根のすぐ下に設けられた通路に出る(下左)。傾斜した屋根には梯子がかかっており、ヒロインを担ぎ上げた科学者が登るのでした(下右)。三角屋根の棟で科学者と主人公が対決します。 | |||||||||||||||||||||
『オペラの怪人』(1925)で、仮面舞踏会の夜、オペラ座の華やかな大階段ではなく、どこに位置するのか、下から上がってきて折れ曲がり、上へと続く狭い階段を昇っていくと(下左→そなた)、カットが切り換わって、「オペラ座の裏から(仮)」の頁でも触れた屋上に出ます(下右→そなたの2)。ここでも怪人の根城である地下空間との対照が目指されているのでしょう。それでいて、右腕を差しあげるシャルル・ギュムリー(1827-71)の《調和》像(1869)の陰では、怪人が聞き耳を立てているのでした。 | |||||||||||||||||||||
『幽霊西へ行く』(1935)に出てくる屋上は、形状が不規則らしかったり、玉葱屋根のクーポラがあったりと賑やかな空間になっています(右→あなた)。当主の部屋のある二階か三階、廊下の端にある扉口から入れるようにも見え、所在は必ずしもはっきりしない。とはいえここでヒロインや当主ないしその先祖の幽霊が交流する、重要な場所なのでした。 | |||||||||||||||||||||
『わが青春のマリアンヌ』(1955)における寄宿学校の屋上は、望楼的な性格を持たず、建物や設備の維持管理のために、屋根と屋根の間を往き来して作業できるようにした、実務的なもののようです(右→こちら)。しかしそこは、悪童たちが会合を開く場所でもあるのでした。 | |||||||||||||||||||||
(中篇)の頁で垣間見たように(→そちら)、『フランケンシュタインの逆襲』(1957)における実験室は、館の三階以上か屋根裏に近い位置にあるようです。実験室の窓も斜めに傾斜していましたが、実験室から入る部屋の奥には酸を溜めた槽があって、その上に天窓があります(下左→そちらの2)。こちらも斜めになっていますが、実験室の窓よりは高い位置になるはずです。酸の層の奥に扉口があって、中には上りの階段があるらしい(下右)。 | |||||||||||||||||||||
この階段を上がると、屋上に出ます(右)。すぐ脇にある斜めの窓が酸の槽のところの天窓にあたります。 ともあれ屋上は、傾斜した屋根の下を回れるようになっているらしく、段差もあれば、飛び梁だの小塔だの、出入りのある斜め屋根や壁だの、いろいろ入り組んでいる(下左)。 |
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館の前庭で言い争っていた男爵と相棒は、鋸歯型胸壁のある城壁に設けられた歩廊を歩む怪物に気がつきます(上3段目右)。 (1)男爵は屋内に駆けこみ、 (2)階段を上がってきて実験室へ、 (3)息を切らしつつ拳銃を取りだし、 (4)附属部屋に入り、酸の槽の脇を回って階段へ、 (5)そして屋上に出る(上2段目右の場所)。 合間にエリザベスと怪物それぞれの動きをはさみつつ、5つのカットを費やして(5)の地点にたどり着く。(2)のカットでは角を回って右から左の扉へ、(4)では、やはり角を巡って左から右へ回りこみます。男爵役のピーター・クッシング(カッシング)名物とでもいうべき動きとそれに伴う表情を見せてくれた後は、男爵自身はほぼ(5)の位置に留まりつつ、向かって左からやって来る怪物と対峙するのでした。 ちなみに上3段目右の歩廊から左へ進むと、階段を上がって屋上に出る(5)の部分となります。エリザベスと怪物はさらに左へ向かうのですが、男爵が(5)の位置にやって来たことで、怪物は左から右へ戻ることになる。クライマックス自体は(5)の位置で起こるわけですが、そこへ至るいくつもの動き、最後には天窓を破って落下する上から下への動きと噛みあわせることで、いかにも入り組んでいるかのごとき相を呈する点、ハマー・フィルム怪奇映画路線の劈頭を飾る本作品のクライマックスにふさわしいと見なせましょうか。 『ター博士の拷問地下牢』(1973)で、病院内のあちこちを案内する場面の中に、屋上らしき場所を通るところがありました(下左→あちら)。下左の場面では、右側にすぐ斜め屋根が迫っています。すぐ後の場面で出てくる工場か何かのような建物(下右)の屋上ではないかという気がするのですが、定かではありません。 |
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iii. 城壁上歩廊など 「怪奇城の外濠」の頁の「iv. 城など」に挙げたJ.E.カウフマン、H.W.カウフマン、作図:ロバート・M.ジャーガ、中島智章訳、『中世ヨーロッパの城塞 攻防戦の舞台となった中世の城塞、要塞、および城壁都市』(2012)の「用語一覧」には、 「アリュール(歩廊/Allure):カーテン・ウォールの頂部に沿って設けられた城壁上の通路。フランス語では『シュマン・ドゥ・ロンド』という」(p.302) とありました。 「カーテン・ウォール(Curtain):城塔の間の城壁のこと」(同上)。 またチャールズ・フィリップス、大橋竜太日本語版監修、井上廣美訳、『[ヴィジュアル版] 中世ヨーロッパ 城郭・築城歴史百科』(2022)の「用語集」には、 「Wall walk 城壁上歩廊 カーテン・ウォールの頂部にある歩道。外側に設けられたバトルメント(狭間胸壁)に守られており、城を防衛する際には戦闘の場となる。歩哨や弓兵が使用する。アリュール(歩廊)とも言う」(p.329)。 カウフマン&カウフマン『中世ヨーロッパの城塞』には「様々なクレノーとアリュール(歩廊)」として、いくつかのパターンが図示されています(p.35)。〈クレノー〉等については、「怪奇城の外濠」の頁の同書のところで少しメモしました。 フィリップス『中世ヨーロッパ 城郭・築城歴史百科』の第3章「カーテン・ウォールとバトルメント」(pp.94-133) や、 マルコム・ヒスロップ、桑平幸子訳、『歴史的古城を読み解く 世界の城郭建築と要塞の謎を理解するビジュアル実用ガイド』(2014)第2章中の「城壁上での防衛」の項(pp.138-153) などもあわせてご参照ください。 さて、城壁上歩廊を往き来する歩哨、そこに忍びより、音を立てないよう一人一人沈黙させてゆく……こんな場面もちょくちょく見かけたような気がします。例によって具体的にどの作品で見たか、ぱっと思いだせなかったりもする。いずれにせよ、あまり怪奇映画には出てきなさそうで、活劇向きと予想できましょうか。 |
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上で触れた『大盗賊』(1963)の姉妹篇『奇巌城の冒険』(1966)の全体は、『大盗賊』ともども活劇映画と呼べるかどうか、やや微妙ではありますが、クライマックスは紛れもなく活劇の趣向でしょう。右に引いた場面は城門の上にある歩廊で、主人公がいつの間にか城内側から忍びより、門衛たちを、しかし一人ずつではなく、一気に突き落としたところです(→こっち)。画面奥に階段が見えます。別の空間につながっていることが示されているわけです。 | |||||||||||||||||||||
ロジャー・コーマンによるポー連作第7弾、『赤死病の仮面』(1964)は怪奇映画と呼んでよいでしょう。この作品では何度か、城壁上歩廊が出てきます。一度は城門の上にある歩廊らしい(約29分)。スカルラッティ公が入城を請います。城の外では赤死病が蔓延しているという状況下ゆえ、城門の上と下、内と外との対比が強調されています。これは村の生き残りが入城を請いに来た三度目も同様でした(約1時間4分)。 戻って二度目は主人公たちが脱出しようと歩廊に出ます(下左→こちら)。正門の上ではなさそうですが、すぐ脇に出入りのための扉があるのは共通しています。セットは同じなのでしょう。歩廊自体はあまり長くない。 そして四度目、城内に忍びこむべく、鈎付きロープを引っかけ、城壁をよじ登ります(下右→こちらの2)。城壁の右奥には、マット画らしき、出入りのある小塔が見えます。ちなみに少し後の場面で赤仮面はヒロインに、日本語字幕で「今すぐ屋根に行け」と言いますが、その中の「屋根」は英語では"the battlement"(胸壁)でした。 |
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少し遡って同じコーマンによるポー連作の番外篇とでもいうべき『恐怖のロンドン塔』(1962)では、城の外壁に沿って、周囲を巡る歩廊が二度登場します(下左→そちら、下右は→そちらの2)。本作では城の外と内の対比はあまり感じられません。というか最後の戦闘場面以外は、ほとんど城内が舞台に終始しました。外部のない自閉空間といった感さえありました。 ただしこの二度とも、ヴィンセント・プライス扮するリチャード三世が出くわすのは、亡霊なのでした。二年後の『赤死病の仮面』とは異なる形で、城壁上歩廊は斯岸と彼岸の境界に位置するものと見なされていると解せるかもしれません(追補:→「バルコニー、ヴェランダなど - 怪奇城の高い所(補遺)」の頁でも触れました)。 |
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『オセロ』(1952)における城壁上の歩廊は、ずいぶん幅が広く、また長く伸びているようです(下1段目左→あちら)。城館だけでなく、港でもある城塞都市全体を囲むものなのでしょう。城壁の外は海です。また内側から幅の広いもの、狭いもの双方の階段幾本もによって、歩廊にあがれるようになっています(下1段目右と下2段目左→あちらの2、下2段目右→あちらの3)。 | |||||||||||||||||||||
『悪徳の栄え』(1963)後半の主な舞台である古城では、二股の階段を上がった先の正門から中庭に入る、その上に橋状の歩廊が架かっています(下左→こっち)。歩廊は折れ曲がって、中庭の少なくとも一辺まで伸びています。 画面向かって右端には角塔か何かが接している。歩廊の床より高い所に入口があって、幅の狭い、黒っぽい階段で上ります。中に入るとまた数段下がるのですが、内壁は円筒状で、格子状に区切られています(下右)。天井はけっこう高そうです。鳩小屋なのか、どうした性格の部屋なのでしょうか。 |
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『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)の終盤、奥に角塔らしきものがあって、手前に低くて幅のある欄干がある、ここは歩廊でしょうか。ヴァイオリンの旋律がスピーカーで増幅される(下左→そっち)。聞きつけた怪物が城壁をよじ登るさまが、はるかに高い位置から見下ろされます(下右)。 | |||||||||||||||||||||
『生きた屍の城』(1964)では、ボマルツォの《聖なる森》での撮影がどうしても目を引きますが、古城映画的には、もう一つのロケ地である ブラッチャーノのオデスカルキ城 も決して引けを取りません。とりわけ約1時間4分からの、ヒロインのラウラと実質的な主役である小人のニープが城内を彷徨する一連の場面は、古城映画史に燦然と輝いています。 階段や廊下の讃嘆措くあたわざる諸場面を経て、二人は、頂が丸い欄干にはさまれた、幅の狭い歩廊を通ります(下左→あっち)。歩廊は奥で左へ折れ曲がっていました.。曲がり角のところには下り階段があります。すぐ後の場面で(下右)、一段低く、やはり歩廊がすぐ右下で平行して伸びていたことがわかります。歩廊全体はどうなっているのか、気になるところです。 |
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映画では手前に数段上り階段があって、塔に入っていきます(下左)。塔内の階段も折れ曲がったりしているようなのですが、手もとのDVDの画質がとほほものなため、もう一つよくわからない(下右)。 | |||||||||||||||||||||
塔の屋上は鋸歯型胸壁に囲まれています。向こうの方に別の塔が見えます(下左)。ただの召使のはずなのに何とも悪漢めいたサンドロがニープと争い、ニープは屋上から投げ落とされてしまう(下右)。塔は円形でした。 | |||||||||||||||||||||
一方ニープに逃がされたラウラは、斜め屋根のすぐ下を走る歩廊を進みます(右)。こちらも片側に鋸歯型胸壁つきでした。 | |||||||||||||||||||||
『惨殺の古城』(1965)は、 城の外観はバルソラーノのピッコローミニ城、 屋内はアルテーナのパラッツォ・ボルゲーゼ で撮影したとのことです(→ここ)。クライマックス直前、善玉側男性主人公は、段状に積み重なった屋上のある棟とその下の歩廊のある部分を逃げ回ります(下左右→ここの2)。屋上と歩廊双方に鋸歯型胸壁があります。これはピッコローミニ城のものでしょうか。 |
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ピッコローミニ城は『イザベルの呪い』(1973)でもロケ先でした。下左に引いた場面では、奥へ伸びる城壁の先に円塔があります。円塔にも城壁にも鋸歯型胸壁がある(→そこ)。切り換わると、左奥に角塔、そこから右へ、折れて手前へと屋上ないし歩廊が伸びている(下右)。手前に先の円塔があるということのようです。 | |||||||||||||||||||||
以上三作のイタリア映画は、実在する古城で撮影されたわけですが、対するに空想的な城壁上歩廊の見本として、『オズの魔法使』(1939)を挙げておきましょう。西の魔女の城の本体部分に隣接するのでしょう、石畳の中庭を歩廊が囲んでいました(下左→あそこ)。上右寄りの出入口から少し下り階段を経て、歩廊が伸びます。角の部分には円塔、もう一方の端ではやはり少し上り階段を経て、角塔かその隣に達します。少し前に城の部分的な外観が出てきましたが(下右→あそこの2)、灯りのついた窓がを体部分だと見なしてよいのであれば、その右下、一段低くなって、鋸歯型胸壁を頂く円塔のような部分にあたるのでしょうか? | |||||||||||||||||||||
『長靴をはいた猫』(1969)で前半の主な舞台である王様の城では、角に塔のある城壁などが見られました(下左→こなた)。こちらは実際にありそうなのに対し、後半の舞台というか、それ自体主役の名に値する魔王の城は、いろいろぶっ飛んだ細部を有しています。下右に挙げた、円形の梁とそこに接続する階段付きの柱(→こなたの2)は、歩廊とか屋上と呼べるのかどうかわかりませんが、いたく印象的な眺めではありました。そしてその上を登場人物たちが走り回るのでした。 | |||||||||||||||||||||
iv. 中庭上歩廊、他 ポランスキーの『袋小路』(1966)の舞台である城は規模の大きなものではなさそうですが、屋上があって屋根裏部屋に入ることができました(下左→そなた)。 同じポランスキーが監督した 『吸血鬼』(1967)の城は、ずっと規模が大きそうで、ポランスキー自身が演じる主人公たちは、吸血鬼が眠る納骨堂に忍びこもうと、軒や屋根伝いに移動します(下右→そなたの2)。 |
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ところで『吸血鬼』の城では、中庭を囲む棟の二階に、歩廊が巡っていました(右→そなたの3)。欄干が向かって左では木の柵、右では石積みと、体裁が違っています。床の高さも左側は低くなっていました。 | |||||||||||||||||||||
相通ずる回廊は、同じくポランスキーの『マクベス』(1971)でも見られました(右→こちら)。やはり高さが変化したり、下を通り抜けることのできる箇所がありました。 | |||||||||||||||||||||
城壁上の歩廊は、もともと外部に対する防衛のための設備でした。中庭に巡らされた歩廊にもそういった要素はあるのでしょうが、城内での往き来の便を図るためという比率も小さくはなさそうです。また各部の体裁がばらばらなのは、歩廊なり本体が時間を置き、必要に応じて継ぎ足されたりしたからなのかもしれません。『吸血鬼』でも『マクベス』でもフィクションのセットですが、何か参照した実例はありそうな気がします。 | |||||||||||||||||||||
前節で見た『生きた屍の城』(1964)では、先の場面の後、ラウラが、中庭に面しているとおぼしき歩廊を通ります(右→そちら)。ここは先立つ場面で、警官たちが一応の男性主人公と中庭の階段を上がり(下左→そちらの2)、一度曲がってから進んだ歩廊と同じ場所なのでしょうか(下右)? | |||||||||||||||||||||
ウィーン近郊のクロイツェンシュタイン城 で撮影された『処刑男爵』(1972)では、車で中庭まで入ってきた男性主人公が、女性主人公の悲鳴を耳にして、駆けつけるべく、中庭を巡る二階回廊を走り抜けました(下左→あちら)。先立っては、二階回廊から井戸のある中庭を見下ろす場面がありました(下左→あちらの2)。そこでは、向かい側にも二階歩廊が見えます。 |
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『デモンズ3』(1989)の舞台は大きな教会です。その中に橋状の歩廊が出てきます(下左→ここ)。すぐ後で人がここから転落するのですが、けっこう高い位置にありました。前の場面に出てきた図書室とその近くの階段(下右→ここの2)などもそうですが、教会内のどこにあるのでしょうか? | |||||||||||||||||||||
高い所ではありませんが、『さらば美しき人』(1971)には、鋸歯型胸壁つきの、湖だか海だかに突きだした突堤が登場しました(下左→そこ)。 向かって左端の小塔に扉口が開き、そこから狭い歩廊が伸びています(下右)。先の扉口のすぐ下にも扉口があって、数段下って水面に近い高さの通路に通じています。 | |||||||||||||||||||||
直前に映るヴェランダ(右)は、ロケ先の一つ トッレキアーラ城 の伊語版ウィキペディアの頁(→そこの2)の下の方、"Camera d'Oro"(黄金の部屋)の項に写真が掲載された"Loggia di nord-est"(北東のロッジア)と同じものでしょう。ただトッレキアーラ城は丘の上に建っており、近くに湖などはなさそうです。どこで撮影したのでしょうか?(追補:→「バルコニー、ヴェランダなど - 怪奇城の高い所(補遺)」の頁でも触れました) |
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戻ってすぐ後に、同じものなのか別なのか、突堤が水面を囲っているところも出てきました(下左)。下の画面より右の方で壁が途切れています。 次いで屋根付きの歩廊が映されます(下右)。映画ではここから突堤周辺を見ることができるのですが、実物も同じ場所にあるのでしょうか? |
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『大いなる幻影』(1937)の第二部にあたる部分は アルザスのオー・クニクスブール城 でロケされました。そのクライマックス、貴族出身のボワルデューが囮役になるくだりで、彼はまず、石壁沿いに木製の屋根付き通路が設けられたところに現われます(下→あそこ)。見上げなければならない高さでした。 そこから右へ。上り階段があります(右の一番下)。この作品の頁で「ここもウェブ上でのオー・クニクスブール城の画像に出てきます」と書いていて、どの画像なのかちゃんと思いだせないのですが、たぶん、中庭からの上り階段で、二階の高さの歩廊に上がる場所のことだったのでしょう。 ともあれそこから上へ(右の真ん中)、画面に映るかぎりで、踊り場ごとに階段の向きが逆になるのが三回、最初の通路を一階とすれば、四階まで昇ります。そこから右へ少し、数段下り階段になって、さらに右へ進む(右の一番上)。 全体像が引きで示されないので確かではありませんが、もしかすると、右2段目のギザギザ階段の部分はセットで、それを最初の歩廊や、階段登り口など実際にある眺めと組みあわせたのかもしれません。 |
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それぞれの作品頁でも触れたように、『大いなる幻影』における階段櫓からは、『蜘蛛巣城』(1957)での物見櫓周辺が連想されました(下および右→こっち)。後者はまた、清水寺の舞台を思わせなくもない。 |
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別の場面で見られる城全景からすると(右→こっちの2)、追手門の左に位置するはずで、手前に突きだす角の壁の向こうにあるのがそうかと思われますが、定かではない。 ともあれ主人公は何度か、階段を駆けあがっては物見から外部へ視線を走らせ、物見の下の二階走り櫓へ下りて城内の兵たちと向かいあいます。 |
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高い所に達するのは階段を上り下りしてこそなのでした。階段を上り下りするため、そこまで歩廊を進まなければならない。歩廊や階段を経てこそ、高い所に立つことのリアリティが得られるのでしょう。そして常にそうなるとはかぎらないにせよ、高い地点には墜落する可能性がつきまといます。『大いなる幻影』や『蜘蛛巣城』での事件の顛末を顧みれば、映画を始めとするフィクションでは、その確率は高まらずにはいますまい。本頁で触れた作品にかぎっても、『フランケンシュタインの逆襲』、『生きた屍の城』、『デモンズ3』で誰かが転落しました。転落しないまでも、『冒険者たち』では人が死ぬ。かと思えば、『ヤング・フランケンシュタイン』の場合のように、よじ登ることに成功する例がないわけではないのでした。 |
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→「バルコニー、ヴェランダなど - 怪奇城の高い所(補遺)」へ続く 2023/03/27 以後、随時修正・追補 |
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