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メトロポリス
Metropolis
    1927年、ドイツ 
 監督   フリッツ・ラング 
撮影   カール・フロイント、ギュンター・リッタウ、ヴァルター・リットマン 
 美術   オットー・フンテ、エーリッヒ・ケッテルフート、カール・フォルブレヒト、
エドガー・G・ウルマー、ヴァルター・シュルツェ=ミッテンドルフ
 
    約1時間22分 * 
画面比:横×縦    1.33:1 
    モノクロ、サイレント 

VHS
* [ IMDb ]によると、1時間33分、1時間59分、2時間25分、3時間30分などの版があるようです。下に載せた静止画像は You Tube 掲載の約2時間28分版から伐りだしたもので、画像タイトルに記したのはその版での時間です。下掲の加藤幹郎(2002)も参照。

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 いわずとしれたSF映画の古典。古城も出てこなければ怪奇映画でもありませんが、架空の都市空間の表現という点ではずせない作品です。
 冒頭から、いかにも絵に描いたイメージなのに、その幾何学性に呼応した光と影の交錯によって、摩天楼は幻影であるかぎりでの実在感を獲得し、歯車に重ねあわされていきます。複数の向きに蒸気を噴きだす装置が、後に出てくる巨大な機械室のイメージを予告する。  『メトロポリス』 1927、約1分:摩天楼と機械の重ねあわせ
 特権者階級の庭園の場面をはさんで、労働者階級が働き、住む地下都市の姿が描かれていきます。労働者たちが工場へ行く廊下とエレヴェイターが遠近を強調しつつ映され、まずは、鉄骨をのぞかせた天井を、何本もの下ひろがりの柱が支える空間にいたります。床から中2階の高さにテラスが設けられ、そこに設置された機械が操作される。そこに資本家の息子である主人公が迷いこむのでした。一番低い床をさまよう主人公に対比されて、機械群の巨大さが強調されます。 
『メトロポリス』 1927、約1時間45分:地上と地下を結ぶエレヴェーター 『メトロポリス』 1927、約12分:機械室
 次いであたかも神殿を思わせる巨大な機械が正面から捉えられます。中央には床から3階まで上る階段があるのですが、真ん中のスロープを両側から階段がはさむかっこうになっている。階段の両側には列柱が並び、柱と柱の間ごとに操作盤とそれを操作する労働者が配されています。床の高さで階段の左右には、大きな五角形をなす何らかの装置が置かれ、蒸気を噴きだす。階段を上った先は、アーチ状の開口部で、中では歯車が回転しています。正面から細部へ、細部からまた正面へと撮影されるこの装置には、屋根も付され、見ようによっては巨大な顔とも映ることでしょう。  『メトロポリス』 1927、約12分:神殿風の機械
 高架道路がいくつも渡され、飛行機械が飛び交うビル街を瞥見した後、科学者の実験室が登場します。この部屋は後の場面でも、螺旋階段や上げ蓋であちこちに通じていることが示される一方、何もない壁がひろがる空間もあって、そこでアンドロイドが製作されているのでした。そのための電光を発する装置だの、沸騰する液体を容れるフラスコだのも欠けてはいません。後の『フランケンシュタイン』(1931)連作における実験室のイメージの先駆けと見なしてよいでしょう。  『メトロポリス』 1927、約16分:ビル街と高架道路
『メトロポリス』 1927、約22分:ビル街のヴィジョン 『メトロポリス』 1927、約40分:実験室
 他方、地下に迷いこんだ主人公は、巨大な時計盤のような装置の操作に携わった後、これまでの未来都市とは一転して、石造アーチを横目に階段を下って、秘密の集会場に導かれます。谷底のような空間にある説教壇の背後には、何本もの背の高い十字架が扇状に並んでいる追補:→「怪奇城の地下」でも少し触れました)。ここでヒロインが物語るのはバベルの塔のエピソードで、その模型も映ります(追補:→「『Meiga を探せ!』より、他」中の『K-20 怪人二十面相・伝』(2008)の頁でも触れました)。  『メトロポリス』 1927、約49分:集会場
『メトロポリス』 1927、約51分:バベルの塔 『メトロポリス』 1927、約53分:バベルの塔のエピソードより
また科学者の家からも集会場へつながっていて、実験室の螺旋階段を下った部屋の床に上げ蓋があり、階段を下っていくと、集会場を上から見下ろす位置に菱形の覗き窓が開いているのでした(追補:→「怪奇城の地下」でも少し触れました)。  
『メトロポリス』 1927、約48分:科学者邸、地下 『メトロポリス』 1927、約48分:揚げ蓋の下の階段
 説教壇の両脇にはトンネルがあるのですが、その先は納骨堂で、ヒロインはここで科学者に追い回されることになります。このあたりは迷路のように入り組んでいるらしく、階段を上っていくつもの扉がある部屋にたどりつくのですが、後の場面からすると、この部屋は科学者の家の地下にあたるようです。  『メトロポリス』 1927、約1時間1分:集会場脇の納骨堂
 こちらも未来都市とは対照的な、昔ながらの教会、その中にあるアーケードの下に一体ずつ収められた七つの大罪の像を映してから、また科学者の家が舞台となります。玄関から入ると廊下が伸びていて、その奥に手すりのついた6段ほどの階段がある。ここを進む主人公を正面からと背中から捉えつつ上の階に上がれば書斎風の部屋で、二つの扉口以外に下の階への螺旋階段があります。これが納骨堂方面に通じているようです。また扉口の一つを進むとやはり螺旋階段があり、まわりががらんとした広い床、つまり実験室へいたるのでした。  『メトロポリス』 1927、約1時間16分:街路
『メトロポリス』 1927、約1時間18分:科学者邸の玄関廊下 『メトロポリス』 1927、約1時間19分:科学者邸、地下へ降りる螺旋階段
 科学者の家にはこの他に、天窓のついた屋根裏らしき暗い部屋もあり、都市の街路や工場など、規模の大きな空間で話が進むこの映画の中では、集中的な性格を帯びた建物の例として描かれているかのごとくでした。  『メトロポリス』 1927、約1時間18分:科学者邸、屋根裏部屋
 身体をいくつもの光の輪に囲まれてヒロインの姿を転写されたアンドロイドがお披露目される場面での、目のアップがいくつも重ねあわされるカットなどを経て、物語はカタストロフへとなだれこみます。 
『メトロポリス』 1927、約1時間23分:転写 『メトロポリス』 1927、約1時間31分:アンドロイドを見つめる目
動力室へ向かう白い壁の広い部屋、壁の中央には下りの階段があり、壁の上は縦棒が連なる。 『メトロポリス』 1927、約1時間51分:動力室への階段
あるいは鉄骨のドームの下に貯水池があって、奥に小さく入口が見える。  『メトロポリス』 1927、約1時間53分:貯水池(?)
『メトロポリス』 1927、約1時間52分:階段の影 『メトロポリス』 1927、約1時間53分:暴走する動力機
地下の集合住宅間の広場には、角張った螺旋状の白い台座(?)とそのすぐ隣にやはり白い円盤が立てられていて、チャイムの役割を果たす追補:→やはり「怪奇城の地下」で少し触れました)。  『メトロポリス』 1927、約1時間55分:集合住宅間の広場とモニュメント風チャイム
煉瓦が円形の壁をなし、パイプが走っている大きな通気口(?)。奥の出口には手すりが見え、下りの梯子か階段になっているらしい。などなどと、興味深い空間の釣瓶打ちなのでした。
『メトロポリス』 1927、約1時間58分:通気口(?) 『メトロポリス』 1927、約2時間0分:地上への階段
 そしてビルとビルの間、あるいはビルの間の階段を駆け抜ける主人公を俯瞰で映して迎えるクライマックスは、しかし、教会が舞台となります。 
『メトロポリス』 1927、約2時間12分:ビルとビルの間の階段、俯瞰 『メトロポリス』 1927、約2時間14分:ビルとビルの間、俯瞰
柱と柱の間を走り、階段を駆け上って、ギャラリー、そして斜めの屋根へと追跡劇が展開します(追補:→「怪奇城の高い所(屋上と城壁上歩廊など)の頁でも触れました」)。 『メトロポリス』 1927、約2時間16分:教会、鐘塔
『メトロポリス』 1927、約2時間18分:教会、屋根附近の通廊 『メトロポリス』 1927、約2時間20分:教会、屋根
 抑圧された労働者と特権階級の対立という物語上の主軸からはほぼ遊離してしまうほどの訴求力を発する、さまざまな未来都市とその崩壊のイメージ、それらに対して物語を収斂させるための舞台として選ばれた昔ながらの教会、反発するのか裏表なのか、両者の関係には何やかやと意味を読みこみたくなるところではありますが、ここでは多様に分岐する空間の感覚に注目しておきましょう。

 なお、本作とともに工場映画と呼びうるのが『宇宙からの侵略生物』(1957)です→こちらを参照:当該作品の頁
追記:本作における工場のイメージはチャップリンの『モダン・タイムス』(1936)やジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(1958)に引き継がれているようにも思われます。また本作とは違うものをと原作者に要請されたという『来るべき世界』(1936)も参照)。
 
Cf.,   セット等については;

レオン・バルサック、『映画セットの歴史と技術』、1982、pp.62-64、294


D.アルブレヒト、『映画に見る近代建築 デザイニング・ドリームス』、2008、pp.105-107

若山滋・今枝菜穂・夏目欣昇、「ドイツ表現主義映画にみられる建築空間」、2008

Film Architecture : Set Designs from Metropolis to Blade Runner, 1996, pp.94-103

 また

クラカウアー、『カリガリからヒトラーへ ドイツ映画 1918-1933 における集団心理の構造分析』、1970/1995、pp.153-154、167-169


「オット・フンテ」、『映画のデザインスケープ 都市/フォルム/アートの読み方』、2001、pp.186-187

アンドリュー・デグラフ=絵、A.D.ジェイムソン=文、吉田俊太郎訳、『空想映画地図 [シネマップ]』、2018、pp.14-19

加藤幹郎、『映画の領分 映像と音響のポイエーシス』、フィルムアート社、2002、第3部11「リュミエール・プロジェクトを見る」中の pp.238-241:「どこが新しいのか 『メトロポリス』ディジタル修復版」

 1927年の初公開時は約2時間33分だったが、USA公開時の短縮に加え、当初から「相互に等価値の」(p.259)オリジナル・ネガが三種あった等々の事情が重なって、
「ラングが完成させたフィルムは1927年以来、もはや(おそらく)永遠に失われてしまった」とのこと(p.238)。
 ムルナウ財団のマルティン・ケルバーによる1999年のディジタル修復版は約2時間27分。


北島明弘、『世界SF映画前史』、2006、pp.73-77
  pp.75-76 でH・G・ウェルズ、pp.76-77 でルイス・ブニュエルによる『メトロポリス』評が紹介されています。


長島明夫、「018 メトロポリス」、『映画空間400選 映画史115年×空間のタイポロジー』、2011、p.23

Anton Kaes, "Metropolis: City, Cinema, Modernity", Expressionist Utopias. Paradise + Metropolis + Architectural Fantasy, 1993-1994

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, p.36
おまけ   フリッツ・ラングを主人公にした映画が;

『アーティフィシャル・パラダイス』(1990、監督:カルポ・ゴディナ)


 フリッツ・ラングの登場する映画が;

『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(2005、監督:水島精二)

 少しですが古城も登場します。ドラゴン付きです。
 なお本作は2003年10月から2004年10月まで放映されたTVアニメ『鋼の錬金術師』に続くものです。原作は→こちらで挙げた漫画ですが、まだ連載途中だったため、TVアニメ版は独自の展開を遂げて結末を迎えた、その後日譚となります(原作に大旨添ったTVアニメが後にあらためて製作されました。2009年4月~2010年7月放映)。
 ちなみに原作の方および『メトロポリス』にはともに、〈七つの大罪〉のイメージが登場します。この点に関連して→そちらで触れました


手塚治虫、『メトロポリス』(角川文庫 ん501-20)、角川書店、1995
  『メトロポリス』(1949)と『ふしぎ旅行記』(1950)、「解説 『メトロポリス』、予言の書」(藤子不二雄A)を収録


 その映画化;

『メトロポリス』、2001、監督:りんたろう

 ラングなり手塚の作品と関係があるのかどうか詳らかにしませんが、

Dream Theater, Images and Words, 1992(邦題:ドリーム・シアター、『イメージズ・アンド・ワーズ』)(1)
 2枚目の5曲目が
"Metropolis - Part 1 'The Miracle and the Sleeper'"(「メトロポリス」)、9分30秒。間奏部というか後半における綴織風というかモザイク風というか、リフからリフへとコロコロ転変する展開は、なかなかツボにはまります。

 少し間を置いて、今度はアルバム丸1枚;

Dream Theater, Metropolis - Pt. 2: Scenes from a Memory, 1999(2)

 全2幕12曲。
 第1幕第1場の前半が
"Overture 1928"というのは何か関係があるのでしょうか。器楽曲。 
1. 『ハード&ヘヴィ ハード・ロック/ヘヴィ・メタルCDガイド600』、音楽之友社、1995、pp.34-35、95。
 『ヘヴィ・メタル/ハード・ロックCDガイド』(シンコー・ミュージック・ムック)、シンコー・ミュージック、2000、p.219。
 舩曳将仁監修、『トランスワールド・プログレッシヴ・ロック DISC GUIDE SERIES #039』、シンコーミュージック・エンターテイメント、2009、p.9。

2.上掲『ヘヴィ・メタル/ハード・ロックCDガイド』、同上。
 上掲『トランスワールド・プログレッシヴ・ロック』、p.10。
 
 2014/09/21 以後、随時修正・追補
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