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処刑男爵
Gli orrori del castello di Norimberga *
    1972年、イタリア 
 監督・撮影   マリオ・バーヴァ 
 編集   カルロ・レアリ 
照明   アントニオ・リナルディ 
 セット装飾   エンゾ・ブルガレッリ 
    約1時間38分 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* 手もとのソフトは英語版。英題は
Baron Blood
追記: 『血ぬられた墓標』の「追補」に記したように、2020年8月19日、『没後40年 マリオ・バーヴァ大回顧 第Ⅱ期』 中の一本として日本版ブルーレイで発売されました。イタリア語版(一部英語音声の箇所あり)、約1時間38分、1.85:1。

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 『血ぬられた墓標』(1960)、『白い肌に狂う鞭』(1963)、『呪いの館』(1966)に続くバーヴァの本格的な古城入り怪奇映画です。ただ本作は、先の三作にあったようなねっとりと纏綿たる雰囲気の濃密さには至っていないように思われます。
 他方古城映画としてはかなり高得点といってよいでしょう。この点でハマー・フィルムにおける『鮮血の処女狩り』(1971)あたりと比べてみるのも一興でしょうか。螺旋階段に回廊、地下空間に隠し通路と隠し部屋のみならず、けっこう複数の空間が登場します。[ IMDb ]によると本作では、ウィーン、およびその北のコルノイブルク
Korneuburg、さらにその北のレオベンドルフ Leobendorf にあるクロイツェンシュタイン城 Burg Kreuzenstein (→公式サイトはこちら)でロケしたとのことです。とりわけクロイツェンシュタイン城で撮影された場所は少なくなさそうです。もとよりセットも用いられているのでしょうし、他の場所も混じっていることでしょうが、それらとあわせていやというほど古城の空間を堪能することができます(追記:下掲 Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, p.873, p.879 ではコルノイブルクとその国立博物館が主なロケ先とされていましたが、少なくともウェブの画像で見るかぎり、外観等はクロイツェンシュタイン城のようです)。
 なお、クロイツェンシュタイン城は、以前珍品『ターヘル・アナトミア - 悪魔の解体新書 -』(1968)でも登場していました。本作に出てくる場所もいくつか見つけることができます(またイタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした
"LOCATION VERIFICATE: Gli orrori del castello di Norimberga (1972)"([ < il Davinotti ])を参照)
追補: ピーター・セラーズ主演版『ゼンダ城の虜』(1979、監督:リチャード・クワイン→こちらも参照:『ゼンダ城の虜』(1937)の頁の Cf.)でも、「騎士の広間」その他の場所が見られました。→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁や、「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。

  本作のヒロインをつとめるエルケ・ソマーは、バーヴァによる『リサと悪魔』(1973)で続投することになります。
 ジョセフ・コットンについては、『市民ケーン』(1941、監督:オーソン・ウェルズ)や『ジェニイの肖像』(1948、監督:ウィリアム・ディターレ)、『第三の男』(1949、監督:キャロル・リード)といった映画史的な名作とされる作品に出演しながら、本作の前には『フランケンシュタイン・娘の復習』(1971、監督:メル・ウェルズ)、ヴィンセント・プライス主演の『怪人ドクター・ファイブス』(1971、監督:ロバート・フュースト、未見)さらにその前には『緯度0大作戦』(1969、監督:本多猪四郎、未見)といった、一般に身分が低いと見なされていたであろういわゆるジャンル映画にも出演している(喜んでかどうかは知らず)奇特な俳優です。
 余談ですが『第三の男』同窓会のアリダ・ヴァリについては、『リサと悪魔』のところで触れることといたしましょう。同じくオーソン・ウェルズも『ウィッチング』(1972、監督:バート・I・ゴードン、未見)なんて作品に出ていたそうですが、『市民ケーン』も含めて何よりその監督作に、『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)、『マクベス』(1948)、『オセロ』(1952)、『審判』(1962)など古城指数の高い作品がありますので、いずれとりあげたいと思っております。

 まずは飛行機の中から始まります。『知りすぎた少女』(1963)にもあった出だしです。手もとのソフトはこのあたり画質がいやに粗く、いささか心配になりますがその内気にならなくなりました。着いたのはウィーンの空港でした。なお原題は『ニュールンベルクの城の諸恐怖』となっていますが、ウィーンという地名ははっきり出ますし、事情はよくわかりませんでした。ニュールンベルクと結びつけられる〈鉄の処女〉にも似た、内側に棘を生やした柩は登場しますが、あくまで柩で〈鉄の処女〉ではありません。ちなみにアントニオ・マルゲリーティ監督でクリストファー・リーが出演した『顔のない殺人鬼』(1963)の原題が『ニュールンベルクの処女
La vergine di Norimberga 』でした(追記:下掲 Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, p.887 によると伊題はイタリアの配給者によってつけられたようで、マルゲリーティ作品との類似がその背景にあるのだろうとのことです。なお同書中では本作は Baron Blood の題で扱われています)。
 乗客の一人ペーター・クライスト(アントニオ・カンタフォラ)を叔父のカール・フンメル博士(マッシモ・ジロッティ)が出迎えます。大学院はうんざりだとか言っている。怪しからん奴です。二人の会話から16世紀、ペーターの父方の祖先に悪名高いオットー・フォン・クライスト男爵がいたことが告げられます。串刺し公ヴラド・ツェペシュあたりがモデルのようです。地元の人たちは今も夜に男爵の城には近づかないという。他方城はホテルにするべく準備が進められている。
『処刑男爵』 1972 約5分:城の外観、森越しに車中から  博士の運転する車で二人は郊外に向かいます。道中、木立の葉叢ごしに丘の上の城が見えてきます。少し進んだところでその外観が映される。緑に包まれた丘、左で一部紅葉したその上に、横に長く城はひろがっている。いくつかの棟からなるそれはけっこう大きそうで、左方には手前に円塔、そのすぐ後ろに角塔がそびています。その左手にはゴシック様式らしき細い塔が見える。右には高さが少し異なる棟が二つ横に伸び、さらに右で高くなる。隙間を置いて右端は円塔です。壁は明るい茶色、屋根はやや濃いめの茶色でした。空は青い。 
 ペーターの希望で城に立ち寄ることになります。まず下から左に角塔、少し間を置いてそれより低い円塔が見える。先ほどの全景で左側にあったのと同じもののようです。角塔の左にゴシック様式風の細い塔が控えています。 
カメラが上から下へと振られると、角塔と円塔の下方がつながって城門の半円アーチを擁しています。アーチの上方に落とし戸の格子が引きあげられている。城門から手前に短い橋が伸びています。ゴシック風の細い塔の左には、三角破風に半円アーチの大きな窓のある礼拝堂のような棟があります。
 城門から車が出てきて左に向かう。奥から教授たちの車が出てきてすれ違い、城門に入っていきます。
 
『処刑男爵』 1972 約5分:城門前
 中庭らしきところをカメラは下から見上げ、左から右へパンする。奥に角塔がそびえる手前、尖頭アーチの窓が並ぶ棟が右に手前の木越しに続き、角で手前に折れてやはり2階が尖頭アーチの回廊になった棟が伸びています。カメラは右で下を向く。回廊の下はかなり幅の広いアーチで、車が優に通りぬけることのできるだけの大きさがあります。向かって奥側のアーチの内側の面には、下に出入り口が見えます。アーチの向こうにも横に伸びる木造の回廊がのぞいている。
 車がアーチをくぐって入ってくると、カメラは右から左へ振られます。手前に屋根付きの井戸があります。

 ペーターは博士の右腕で、国有記念物の保存担当だというエヴァ(エルケ・ソマー)に紹介される。改装工事の監督をしているドルトムント(ディーター・トレッスラー)に対してエヴァは臆することなくずけずけ意見を言っていました。 
 エヴァは中庭に面した入口から地下へおりていきます。カメラは下から地下のかなり広い空間をとらえます。天井も高い。湾曲しているらしき壁に沿って上の方に回廊が巡らされており、その左の方から下へ、左下がりで階段がおりてくる。下から光を当てられ、左の壁に階段の影がくっきり落ちています。階段は蹴込がない板状踏面を組みあげたものです。回廊に鎧が見えます。階段をエヴァがおりてくる。カメラは左から右へパンします。床には何やら装置類がいくつも置いてある。右端の石壁には大きな車輪の影が映っています。  『処刑男爵』 1972 約8分:地下の大広間(?)
 エヴァは左から右へ進み、次いで廊下の左の入口から出てきます。武器庫のようです。まずはさほど広くないのですが、右に凸型アーチの扉口があり、その向こうは天井も高く、奥に深い部屋になっています。こちらも武器庫のようです。
 凸型アーチの扉が勝手に閉まり、開かなくなってしまいます。エヴァと扉を右に配し、カメラは左に向き、次いで前進する。テーブルの上に兜の類がたくさん並んでいるのですが、内に人間の首らしきものが混じっていました。エヴァは驚いて悲鳴を上げる。管理人のフリッツでした(アラン・コリンズことルチアーノ・ピゴッツィ。イタリア映画で時たま見かける顔のような気がします。『生きた屍の城』(1964)にも本作に通じる役柄で出ていました。同じバーヴァの『白い肌に狂う鞭』(1963)や『モデル連続殺人!』(1964)、また『ヴェルヴェットの森』(1973)にも出演)。フリッツは左奥へ逃れます。途中大きな尖頭アーチで区切られており、向こうには鎧が並んでいます。次いで回廊の下の階段をのぼる。ぐるっと回ったのでしょうか。画面上ではエヴァが左へ左へと動いてきたので、一瞬あれと思うところでした。


 博士の家での夕食にペーターとエヴァは招かれます。食堂の奥の壁には台形状の梁があり、右手の窓の前は一段高くなっています。台形状の梁の奥も同様のようです。博士の背後は黄を帯びています。
 博士の幼い娘(ニコレッタ・エルミ)、後に名はグレッチェンと知れるのですが、彼女が男爵をお城で見たと言います。
 ペーターはエリザベート・ホリーについて尋ねる。日本語字幕によるとエヴァが答えて曰く、男爵が恐れて火あぶりに処した魔女で、男爵を呪って死んだという。また博士は城で火事が起こり、嵐のため全焼には至らなかったが、男爵はどこにも見つからなかったと言います。ペーターは祖父の家である文書を見つけました。そこには男爵を甦らせ苦しめ続けるという、魔女の呪いを発動させる呪文が記されていたのです。呪文が効くのは男爵が殺された部屋のみとのことです。
 博士が寝室に辞した後語りあうペーターとエヴァを、階段の踊り場から数段登ったところで、白い欄干の柱の間から首を突きだして少女が見ていました。カメラは下から見上げ、陰影が濃い。次いでペーターとエヴァが斜め上から見下ろされます。少女は後にも重要な役割を果たすことになるでしょう。


 夜の中庭から仰角でカメラは右から左へパンします。左で下におりると、幅広の大アーチが映り、向こうから車が入ってくる。ペーターとエヴァはアーチ側面の入口から入ります。それをとらえたカメラは後退しつつ上向きになる。アーチの上の回廊が見えます。
 扉がアップになり、二人が入ってくる。中は暗い。二人は左へ進み、2~3段下りる。真っ暗です。ランプを点し、また数段さがります。上に尖頭アーチがかぶさっています。さらにくだって右へ進む。エヴァが「塔の上よ」と告げます。透かし細工の格子越しに、右にのぼりの階段があります。
 
 螺旋階段がほぼ真上から見下ろされる。暗青色です。ランプが近づくと左に茶色の部分ができる。螺旋階段の中心には上からロープが垂れています。ペーターがそれを摑みながらあがってきます。このロープには後にも出番が待っていることでしょう。切り替わると、螺旋階段がまた上からとらえられる。やはり暗青色で、奥の壁、やや下方に縦長の窓が見えます。カメラは右へ下がり、また上向きになる。登ってきた二人と平行になり、次いで少し見上げる形に移ります。  『処刑男爵』 1972 約16分:螺旋階段、上から
  階段をのぼりきると水平の通路です。二人は右から左へ進む。カメラもそれを追います。先はテーブルのある部屋でした。奥に角柱が2本見えます。ペーターは呪文を記した文書以外に城の図面も持っているとのことです。仰向きのカメラが左から右へパンします。天井付近のようですが、かなり暗い。ところどころで何やら装飾らしきものが見え、右で窓の上、あざやかな暗青色が照り返していました。 
 二人がやや下から見上げられたかと思うとかなり上から見下ろされ、またやや下から、かなり上からと切り替わっていく。真下から天井付近をカメラは見上げ、逆時計まわりに回転します。二人がかなり上から見下ろされ、またやや下からになる。  『処刑男爵』 1972 約17分:螺旋階段を上がりきった先、上から
 呪文を唱えると鐘が鳴りました。塔が下から見上げられる。真っ青な照明を当てられた霧が上に登っていきます。12時なのに鐘は2回しか鳴らなかった。2時は男爵が殺された時間とのことです。
 がたがたと音がする。カメラはまたしても天井の方を右から左へパンする。暗がりと暗青色です。カメラは少し左にさがります。斜めになって扉の方へ前進する。扉と左の柱は暗褐色、右の壁は暗青灰色で、扉の左隙間から暗青色の光が洩れている。取っ手がガチャガチャする。
 下から見上げられた二人は急いで解除の呪文を唱えます。水平の角度になると、右下がりの梁越しに、奥のやや明るい2本柱が暖炉の両端にあることがわかります。手前の梁と暖炉の上辺は暗褐色です。エヴァのショールは赤い。手前下辺沿いに柱頭のようなものが左右に二つ見えます。これは青です。
 
 ペーターは右へ進む。暗がりを抜け、扉を開けて外を見回します。上から暗い中庭が見下ろされる。下の方から青い照明が映えています。カメラは右から下へ、次いで左上へ撫でます。扉の外は回廊になっているらしく、エヴァも出てきます。カメラはもう1度同じ動きを繰り返す。  『処刑男爵』 1972 約21分:中庭に面した歩廊
 昼間です。カメラはかなり高い位置で左から右へパンしていきます。低く田園がひろがっている。途中で複雑な組み物状の塔頂らしきものをやり過ごします。塔の上あたりから映しているらしい。右で下に城の棟が見える。 『処刑男爵』 1972 約21分:かなり高いところ
 エヴァとペーターが車でやって来ます。塔の上の部屋に赴く。城の図面を見ながら「秘密の通路があるはずだ」とペーターが言う。図面では別の部屋があるとのことです追補:こちらでも触れました:「怪奇城の図面」の頁)。 『処刑男爵』 1972 約22分:城の図面
 二人の向こうには木造の壁が伸びています。部屋の中央は欄干で囲まれており、螺旋階段に通じている。カメラは欄干越しに右から左へ流れます。ペーターが左奥の壁を崩します。保存担当のエヴァが止めるのに聞く耳持ちません。怪しからん奴です。文化財は大切にしましょう。隠し扉が見つかる追補: →「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。  『処刑男爵』 1972 約23分:螺旋階段を上がりきった先
 半円アーチの下の隠し扉を通って二人は奥から手前へ来る。次いで右奥から出てきます。手前には唐草紋の透かし細工が大きく配されている。左奥へ背を向け進む。また切り替わると、左奥の扉口から出て、中で2~3段上がる。一方の壁に絵がかかっており、クライスト男爵を描いたものだという。顔の部分に傷がつけられているとのことです。この場面ではよくわかりませんでしたが、肖像画は後に再登場することでしょう。カメラは絵の側から前向きの二人をとらえます。手前に蜘蛛の巣がかかっている。 
 夜の城が斜めに見上げられます。カメラは下から上昇し、塔の窓をとらえます。窓には飾り縁があり、中に白い光がともっている。カメラは素早く左上から右下に振られます。暖炉の火を世話するペーターが腰をかがめている。次いで左に立つエヴァが映されます。  『処刑男爵』 1972 約26分:夜の城、灯りのともった窓が螺旋階段を上がりきった先か?
 ペーターが呪文を唱える。かなり上からの俯瞰です。エヴァの横顔のアップを経て、またしても下から天井を見上げ、左から右へ撫でます。窓の上は青く、上辺の下は茶色です。
 幾本もの手がゆらゆらしているかのように見えた後、黒い鍔広帽をかぶり、黒いケープを身にまとった髑髏のようにも見える人物が地面から這いあがってきます。場所はわからない。
 下から窓上方のアーチ部分が見上げられ、灯りが左から右へ通り過ぎます。風で窓が開き、呪文を記した文書を暖炉に飛ばしてしまう。下から回廊の列柱越しに夜の城を、カメラは右から左に撫でる。足音らしきものが聞こえる。二人のアップを経て、夜の城、また二人のアップ、カメラは二人を往き来する。また夜の城、二人のアップ、夜の城、そして扉に向かってカメラは前進します。怯えたエヴァが早く解除の呪文をと言うのに、ペーターは過去の人間と話したいとなかなか腰を上げません。研究者の鑑です。このモティーフは後にも登場することでしょう。やっとその気になった時は文書は暖炉で、引っ張りだすも手遅れでした。
 取っ手がガチャガチャされる。ドアの下から真紅の血が流れだします。ペーターは左から右へ、扉を開いて回廊に出る。


 木立の間をよろめきながら怪人は奥から手前へ進んできます。背後は青い霧で、光源が揺れます。霧は青から赤に変わる。城内の扉をがたがたさせた現象とこの怪人との関係は不明です。
 先に館がありました。医院のようです。雷が鳴り、風で霧が流れます。屋内は停電になる。医師は怪人を中に入れ、応急治療を施します。床に大きな血の滴が落ちている。怪人は医師を殺してしまう。恩知らずです。
 
『処刑男爵』 1972 約34分:夜の城、敷地の外から  下から城が見上げられます。円塔の左に灯りのついた窓がある。酔っ払いが手前に出てきて、背を向け右奥に向かいます。肩にシャベルを担いでいる。怪人が現われるのでした。 
 街中の大学です。車で博士が着き、すぐやはり車でペーターとエヴァが追いつきます。

 夕方の森です。下からのカメラが左から右へ振られる。低い夕陽を経て、先に城が見えてきます。左に低く円塔、右に高く角塔がある。 
 カメラは上から下へ動く。上階のアーケードがとらえられます。右下に監督官がいる。下方は中庭で、尖り屋根の井戸が見えます。その左向こうが幅広の大アーチです。作業員の車が引きあげていく(追補:→「怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など」の頁でも触れました)。  『処刑男爵』 1972 約37分:二階(?)歩廊から中庭を見下ろす
 それを見送った監督官は、右から左へ向かいます。唐草紋の透かし細工が接写され、向こうにはオレンジの光が射す壁が見える。そこを監督官は右から左へ進みます。カメラはわずかに後退し、監督官にピントを合わせて右から左へ追う。監督官が手前に出てきます。腰から上の姿です。向こうにコカコーラの自販機があるところがなかなかに意外でした。その右にはゆるい尖頭アーチがあり、中は真っ暗です。右の壁は赤みを帯びている。
 自販機の左の戸棚で書類を確認します。左向きです。次いで下からほぼ正面向きに切り替わる。背後に縁が青みを帯びた尖頭アーチ、その向こうの赤みを帯びた2階回廊に怪人の姿がある。左の壁は真っ暗です。

 怪人が監督官を襲います。下から斜めにとらえられる。画面右半は唐草紋の柵で占められています。
 
 死体を担いだ怪人は柵の向こう側にまわり、右の螺旋階段を背中を向けてのぼっていきます。カメラは左から右に振られる。螺旋階段は底面に明灰色の浅浮彫が施されています。右奥にはアーチ型の窓がある。手前のアーチの底面は青くなっている。以前出てきた螺旋階段中央のロープが引きあげられます。監督官が首を吊ったかのように見せかけるのでした。  『処刑男爵』 1972 約39分:螺旋階段、下から
 暗い部屋です。奥の扉口から怪人が進みでてきます。扉口の上の天井は左が暗く、右は明るくと二分されています。扉口の右手には何かのシルエットが見え、その合間は青を帯びている。これも何かの影があります。怪人は左を見る。傷つけられた肖像画の壁です。ここは隠し部屋なのでした。左方で床板を外します。下には箱が隠してあり、中には宝石類が詰まっていました。  『処刑男爵』 1972 約39分:隠し部屋
 フリッツが忍びこんできます。前段で彼は監督官に解雇されており、腹いせなのかどうか、戸棚を物色します。監督官の縊死体を見つけ、一瞬ひるみますが、すぐに腕時計を盗もうとする。 
 螺旋階段が上から見下ろされます。右上から下中央に駆けて踏面は暗色で、蹴込は明るい。明暗の対比はかなり強い。階段は中央下から左に回りこんでいます。こちらは踏面は明るく、左の欄干の透かし細工が影をくっきり落としています。ここを怪人が駈けおりる。  『処刑男爵』 1972 約41分:螺旋階段、上から
 多くの木の梁が組まれたドームが下から見上げられます。カメラは上から下へ、右から左へ動く。地下広間です。2階回廊を怪人が歩いています。階段が下から見上げられる。やはり左上に影がくっきり落ちています(追補:→「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。  『処刑男爵』 1972 約41分:地下広間の中二階(?)歩廊と階段
フリッツを突き落とす。おりてきて彼を抱えあげ、左から右に進みます。画面手前には器具類が配されている。
 柩がありました。蓋の内側にはとげとげが生やしてあります。フリッツを中に入れ、蓋を下ろすのでした。

 翌日の昼間です。中庭に救急車が止まっています。2階回廊から警部がそれを見下ろしている。博士、エヴァ、ペーターが左から現われます。監督官の死を警部は自殺だとは思っておらず、フリッツに容疑をかけている模様です。
 一方地下で柩の蓋が開かれます。フリッツの顔は穴だらけになっている。『血ぬられた墓標』での魔女が思いだされるところです。


 木の葉越しに太陽が照っています。カメラは少し後退して右から左下へ流される。城門が橋の手前からとらえられる。人々が入っていきます。カメラは右で看板を映し、オークションの開催を告げます。
 オークション会場です。博士、エヴァ、ペーターのトリオもいます。最後に城と土地が競売に付されるのですが、前もって入札されていたという。競り落としたのはアルフレート・ベッカーなる人物でした。約45分にしてジョセフ・コットンの登場です。席についた人々の間を彼は左から右へ進む。やけに低いなと思っていたら車椅子にかけていました。三人組も挨拶に行きます。ベッカーは城を復元し、そこに住むつもりなのだという。羨ましいなどという形容ではとても治まりません。


 パイプ・オルガンをカメラは下から見上げ、次いで左から右へ撫でます。オジーヴ=ゴシック建築の交叉リヴ・ヴォールトを映して、カメラは下に下げられる。左からエヴァが出てきます。
 
 幅の広い廊下というか部屋が正面・上からとらえられます。二連の尖頭アーチが横切っている。アーチとアーチの間の柱は捻り柱です。右手はやはり尖頭アーチの窓が連なる壁です。はるか奥に小さくエヴァが現われる。ベッカーの名を呼びながら手前に歩いてきます。右手にあるテーブルのもとへ行く。  『処刑男爵』 1972 約49分:回廊状大図書室(?)
 下からの視角に換わります。左に捻り柱が立っている。その右下にテーブルがあり、背を向けてエヴァがいます。黒の上下に赤い毛糸の帽子をかぶっている。奥・右下には低い本棚が見えます。左奥はかなり高いアーチのドーム状の空間です。カメラが前進する。奥のアーチの側面に市松状の影が落ちています。
 エヴァが振りかえると急速にズーム・アウトします。右手前に車椅子のベッカーが背を向けていました。ベッカーの口調は快活です。『吸血鬼ドラキュラ』(1958)において初登場した時の伯爵が連想されたりもする。左に立つエヴァが右前を向き、右下にベッカーの背という構図が下から見上げられます。ベッカーのすぐ向こうに捻り柱があり、エヴァの背後には上に植物紋浮彫が施された直方体をのせた本棚が見える。エヴァが魔女の呪いの話をすると、カメラは下から近づきます。ベッカーは笑いながら「信じるのかね?」と受け流す。エヴァが呪文を唱えた件を話すと、カメラはやはり下からの角度のまま後退します。
 
 斜め上から、エヴァが右へ進むさまがとらえられる。上面が焦茶色の手すりがあって、この時は木製かとも思ったのですが、後にそうでないことがわかります。手すりの奥側は鋸歯状の凹凸になっています。手すりの向こう、低い位置に多翼祭壇画が見える。絵柄はよくわかりませんでした。上にアーチがあって、壁龕状になったその奥にあるようです。左上の方には上階の回廊がある。カメラが前進して、手すりの上から下を見下ろす。かなりの高さです。このシークエンスでエヴァが最初に登場した時の廊下状空間をにらみ合わせると、教会というか城内の礼拝堂ということになるのでしょうが、廊下状空間と祭壇画周辺の空間との位置関係が気になるところでした。  『処刑男爵』 1972 約51分:回廊状大図書室(?)から礼拝堂を見下ろす
 エヴァは男爵を戻す別の方法を子供の頃聞いたことがあるのだが、なぜか思いだせないと言います。ベッカーはエヴァが持参した、古物商で見つけたという綴織を手すりにかけるよう頼みます。 
手すり越しにエヴァをとらえる下からのカメラが後退する。カメラは1階にあって、かなり下からの視野です。下から見ると手すりは石造りの明るい色で、上面だけが焦茶なのでした。上にはゆるい尖頭アーチがかぶさっており、こちらはかすかに黄がかったグレーです。奥の方いっぱいに大きな窓が見えます。桟は黒く、ガラスの向こうは明るい青です。  『処刑男爵』 1972 約51分:礼拝堂から回廊状大図書室(?)を見上げる
 エヴァのアップが下から映される。ややふらふらしています。上から1階が見下ろされる。画面が波打ちます。下からの眺めにまた換わり、右手に何やらぼんやりしたものが映りこむ。ピントがずれているのですが、エヴァにあわせたピントがぼけると、右手のものが天使像の翼であるとわかるようになります。またピントがエヴァにあわされる。前後に揺れているかのような感じです。

 かなり上から、エヴァの上半身がとらえられる。右へ進みます。先の壁に扉口がある。その向こうにのぼり階段が見えます。左は回廊になっているようで、多翼祭壇画前の吹抜を両側から囲んでいるものと思われます。 
 エヴァが右奥から出てくる。図書室のようで、手前に進んできます。机で少し作業し、左手の戸棚に書類を戻す。戸棚を閉じるとそこに怪人がいるのでした(追補:→「怪奇城の図書室」の頁でも触れました)。 『処刑男爵』 1972 約52分:小図書室(?)
 約53分、待ちに待った廊下を逃げる場面となります。かなり幅の狭い通路が奥へ伸びています。視野が著しく狭められる。ゆるく湾曲しているようです。左の壁は暗めで、半円アーチとその下の暗がりが間を置いて並んでいるらしい。右の壁は手前と奥が暗く、その間は左からの光で明るくなっています。いかにも城なり教会で、関係者が通るための裏通路といった感じです。涎が垂れそうです。エヴァは奥へ走ります。影が濃い。手持ちカメラがぐらぐらしながら追います。 
 振りかえると細い廊下の、左に扉口、その向かいに開口部があるようです。その前後は真っ暗でした。真っ暗な部分と明るい部分が交互に並ぶのは壁だけでなく床も同様です。一番奥は明るくなっており、向こうから影が追ってきます。  『処刑男爵』 1972 約54分:裏通路(?)
 左の壁に寄りかかっていたエヴァは前へ進みます。胸から上のショットです。
 腰から上の姿で背を向け、奥へ進む。手持ちカメラが追います。
 カメラのみが前進する。撮影場所はたぶん最初に廊下が映ったのと同じところなのでしょう。果てもなく堂々巡りする感覚が暗示されているのでしょうか。
 背を向け奥へ進むさまが全身でとらえられます。左に開口部がある。しかし奥まで進み、姿が見えなくなりますが、壁に影のみ残ります。  『処刑男爵』 1972 約54分:裏通路(?)
 奥から手前へ進む。周囲は暗い。手前左に明部があり、そこを左に入ります追補:→「怪奇城の廊下」の頁も参照)。  『処刑男爵』 1972 約54分:裏通路(?)
 地下広間が下から見上げられます。左に階段のある、お馴染みの眺めです。しかし礼拝堂の上階にいたのがいつの間に地下になったのでしょうか。間の図書室が地下ということか。しかし気にはしますまい。エヴァは画面下方を右から走りでて、背を向け階段をのぼります。 
 カメラが斜めに、透かし細工の柵越しに、1階の廊下を右から出て左に走る。監督官が襲われる前に通ったところです。柱のまわりをくるっと回ると手前右に上へ螺旋階段があがっている。エヴァは上へ、カメラも追います。  『処刑男爵』 1972 約54分:螺旋階段、下から
 上から螺旋階段が見下ろされる。左下からエヴァは駆けあがってきます。このカットも先のカットも、唐草紋の柵の影があちこちに落ちています。あがった先は塔の上の部屋でした。
 向かいに怪人がいます。急速ズーム・インで怪人の目元がアップになる。何とズーム・インが4回繰り返されます。これはどうなんでしょうか。階段登り口を囲む欄干の向こうにエヴァは立ちすくむ。カメラが前進します。
 とまれここまでで約55分、ほんの2分ほどのシークエンスでしたが、本作はこのためにあったのだと言いたくなるところです。でもまだ終わりではありません。


 中庭に車が入ってきます。ペーターです。エヴァの悲鳴を耳にした彼は、上を見上げてエヴァの名を呼ぶ。カメラは真下から真上を見上げ、時計回りにぐるっと回ってから下降し、ペーターを映します。彼は背を向け、幅広大アーチの方へ、しかし今回はアーチ内側の入口ではなく、その手前で左へ曲がる。 
 気を失なうエヴァのカットをはさんで、2階回廊を奥から手前へペーターが走ります。左は中庭に面したアーケードです追補:→「怪奇城の高い所(完結篇) - 屋上と城壁上歩廊など」の頁でも触れました)。  『処刑男爵』 1972 約55分:中庭に面した二階(?)歩廊
 上から螺旋階段が見下ろされる。右からペーターが現われ、1度止まって上へのぼる。カメラは下向きから上向きに流されます。 
 下から螺旋階段が見上げられる。上は半円アーチと多角形の形で取り囲む格子柵です。柵の向こうを左から右へペーターは走ります。  『処刑男爵』 1972 約55分:螺旋階段の周囲、下から
 途中に段差のある奥に長い部屋となります。突きあたりに半円アーチ、左手前にはテーブル、その向こうには何やら、白い線で格子状に分割された焼物風の何某かがあります。『吸血鬼ドラキュラ』(1958→こちら)でヴァン・ヘルシングが泊まるホテルの部屋やルーシーの部屋にあった何やらよくわからないものが思い起こされたりもします(『古城の妖鬼』(1935)も参照→そちら)。クロイツェンシュタイン城の公式サイト中、「領主の部屋 Das Fürstenzimmer 」や「狩りの部屋 Die Jagdkammer 」の頁に掲載された写真でそれぞれ類する家具を見ることができます 『処刑男爵』 1972 約55分:段差のある長い部屋、左の壁添いに陶製ストーヴ
追補:「騎士の広間 Der Rittersaal 」のものです。『ターヘル・アナトミア - 悪魔の解体新書 -』でも映っていました→あちら。また同作から→ここも参照。また→そこもご覧ください:「カッヘルオーフェン - 怪奇城の調度より」。 ピーター・セラーズ主演版『ゼンダ城の虜』(1979)でも見られました)。右手前には段ボール箱が積みあげられている。ここをペーターは奥から手前に走ります。この段差のある部屋は終盤にも再訪することになるでしょう)。  
 次いで暗い廊下のような空間です。左の壁に本棚がある。右には捻り柱が奥へ3本並んでいます。捻り柱は光沢のある暗褐色の斑紋入り大理石でできており、不規則な形状の柱頭がついています追補:→「捻れ柱 - 怪奇城の意匠より」の頁や、「怪奇城の図書室」の頁も参照)。ここもペーターは奥から手前に走る。捻り柱があるということは以前エヴァとベッカーが面会した部屋なのでしょうか。案の定ペーターが前に来ると、右手前に車椅子のベッカーがいます。ベッカーはペーターを急かし、ペーターは左に向かいます。  『処刑男爵』 1972 約55分:回廊状大図書室附近(?)
 斜め下から右上がりの直線階段が映る。黒い木の欄干には波打つような装飾が施されている。奥の壁は暗い石積みです。右手前に捻り柱がある。背を向けたペーターが「彼女はどこに?」と問うと、ベッカーの声だけが「塔の上」と答えます。  『処刑男爵』 1972 約55分:回廊状大図書室附近(?)の階段

 斜め下から螺旋階段が見上げられる。左下から登ってきて右上に回ります。
上から階上が見下ろされ、カメラは下向きから水平になる。暖炉の前にエヴァが倒れていました。

 ここまでで約56分、ほんの1分ほどのシークエンスでした。まだ続きがあります。以上二つのシークエンスでは光と影の交錯は強調されるものの、バーヴァ印の極彩色照明が見られませんでした。でも心配ご無用、すぐに待ち構えています。


 すでに暗くなった中、車が寮の前に着きます。"STUDENTENHEIM"(学生寮)の標識がついています。送ってくれたペーターと別れてエヴァが玄関の扉を開けると、中から青い光が洩れます。
 エヴァは右下から階段をあがってきます。奥に長く廊下が伸びています。左手前で鍵をとり、奥へ背を向け進みます。奥で左に曲がる。
 自分の部屋に入ります。停電のようです。窓の前の白レースのカーテンが風で揺れます。怪人が現われる。右奥の窓の向こうで青い霧が激しく沸きあがっています。左手にある扉口の向こうはオレンジに映えています。

 約58分、エヴァ逃走劇後篇の始まりです。エヴァは窓から飛びだします。戸外が下からとらえられると、すぐ下のバルコニーに飛び降り、さらに下の地面におります。
 下から階段が見上げられる。左上から出てきて手前におります。手前で左に折れる。カメラは上から下向きに、かつ右から左へ振られます。青い霧だらけの空間をエヴァは左奥へ走る。
 左右手前に暗い壁が縁取り、その間から向こうが見える。右の壁のこちら側には看板と蔦が見えます。ここは後にまた出くわすことでしょう。壁と壁の間、向こう右手にトンネルのような空間があり、そこを奥から手前へエヴァが出てきます。青く染められ、左からは黄の光が射している。エヴァは左手前の壁の前に隠れ、いったん奥に眼をやってから左へ進みます。
 右から左に走る。肩から上の姿です。カメラもそれを追う。向こう側で黄の光、青の光が次々と移っていく。
 路地です。右奥から出てきて手前へ進む。青い光に満たされています。カメラは後退する。左に壁があって右奥で切れ、向こうに街灯が並ぶ広い道になっているようです。ここも青い。右手前には暗い壁があります。この場所にも再会できるでしょう。エヴァは左へ向かいます。手前にシルエットと化した低い木がかぶっています。向こうは黄の光です。
 奥から手前へ、正面向きで真っ直ぐ進んでくる。背後から青い光がやはり真っ直ぐ射しています。そのためシルエット化している。近づいてくると顔が明るくなり、下から見上げられます。
 左に家並みがあり青い光に包まれています。そちらに向かうと右から怪人が現われる。左奥へ逃れます。向こうから青い光が伸びている。
 左に壁があり、そこに背を寄せる。向こうは左が黄、右上に青の霧です。右へ進む。
 右手前に曲線の透かし細工が見え、その向こうには低木が植えてあります。奥から黄の光が射す。右奥は青の光です。左から木立の前を右へ進み、右奥に入っていきます。
 
 暗い路地の奥から出てくる。左から青い光が射し、右は暗い黄に染まっている。  『処刑男爵』 1972 約59分:路地
 右奥に街灯が並ぶ地点に戻ってきました。やはり青い。手前を右奥に進みます。左手前は木の枝で、その向こうは黄色くなっている。  『処刑男爵』 1972 約1時間0分:路地から街灯の並ぶ道路へ
 また左右手前に壁が縁取りする地点です。右の壁には看板と蔦がある。左から黄の光、右奥は青い。城内の細い廊下同様、あたかも同じところを堂々巡りしているかのごとくです。右奥から出てきて、右手前を見ると向こうにタクシーが通り過ぎる、 
つかまえようと背を向け奥へ走ります。  『処刑男爵』 1972 約1時間0分:路地
 しかしタクシーは曲がっていってしまいます。
 エヴァが下からのアップでとらえられる。後ろから青い光が射しています。
 タクシーを最初に見かけた路地です。奥で左から右へ進む。
 首から上が左から右へ振られる。背後の青が濃い、暗くなって、黄に移る。
 狭い路地です。手前左右に壁が縁取る。左は緑、右は赤を帯びている。青い奥には門状の敷居があります。奥から手前に出てきて、カメラの前を横切り、右に背を向けて進む。右手に半円アーチがあり、その中へ入っていく。
 アーチの左の壁に身をひそめる。右に進む怪人をやり過ごして、左へ戻ります。
 足もとがだけが真っ直ぐ奥へ走る。画面上半は青みを帯びています。足が上に消えると、画面は真っ青になる。
 青い右奥から出て、手前を左へ、先に赤茶の扉があります。下からの仰角です。
 霧の中を怪人の上半身がぼんやりと、前へ進んでくる。

 扉はフンメル博士邸のものでした。屋内が上から見下ろされ、博士が扉を開くとエヴァが飛びこんできます。画面手前に斜めの柱があり、手前は暗く側面は黄色い。

 ここまでで約1時間2分弱、ほんの4分ほどのシークエンスでした。城内での逃走開始から数えれば、ペーターのターンに寮の前での息抜き場面を入れて約9分、逃げ回っている間はほぼ台詞なしだったこれらのくだりを、全約1時間38分の中で長いとみるべきかどうか。本作でのヒロインはもっぱら怯え逃げ惑う役割を担っており、『白い肌に狂う鞭』やエルケ・ソマー自身が続投した『リサと悪魔』のヒロインのようなニュアンスは与えられていませんが、黒の上下に赤い毛糸の帽子姿で、迷宮と化したかのごとき相を帯びたまずは城内、次いで街路を逃げ回っただけで、永く記憶されるに値することでしょう。

 さて、下から階段が見上げられます。少女がおりてきて以前同様、踊り場の少し上で欄干の柱の間から首を出します。カメラは接近してアップになる。

 大学の教室です。博士のもとにペーターとエヴァが訪ねてきます。博士は超感覚的知覚の調査をしたことがあり、1年ほど前にESPの実験を行なったという。その際例外的な結果を出したクリスティーナ・ホフマンという人物の名を口にします。

 鉄製の円に内接する正三角形が揺れ、その向こうに女性の顔がアップでとらえられます。彼女がクリスティーナ(ラーダ・ラッシモフ)です。カメラは右から左にドリーしていきます。天球儀、梟の剥製、斜めになったプリミティヴな2体の木彫などが次々と映しだされる。訪ねてきた三人組に彼女は、日本語字幕によると復活の呪文を解けるのは唱えた者だけ、呪いの秘密を握るのはエリザベートだけと告げます。

 ピントをずらして水面のきらめきが画面を覆い、カメラが上を向くと木立、そしてまた水面となります。
 エリザベートの遺品であるという金属の護符が正面からアップになる。左右から掌が支えています。ここがエリザベートの死んだ場所とのことです。薄青の空、シルエットと化した葉叢、焚き火のオレンジが対比されます。
 左右に炎、その間に赤みを帯びた暗がりが映されます。炎の向こうにエリザベートの像が浮かびあがる。次いで左にクリスティーナ、右に炎と小さなエリザベートが配される。クリスティーナの口を借りてエリザベートは、男爵を滅ぼせるのは彼に命を奪われた者のみと告げます。
 クリスティーナの家での場面で彼女はエリザベートのことを罪なき魔女と呼んでいましたが、復讐のために男爵を甦らせるのはともかく、男爵がまたしても凶事を重ねることが予想されるのであれば被害者のことはどうするんだとか、復活の呪文を唱える者がいなければそもそも復讐が実現しないとか、考えだすといろいろと気になる点が出てくるのでした。


 天球儀越しにクリスティーナのアップがとらえられます。風で扉が開き、怪人が入ってくる。

 警部の部屋に三人組がいます。相手にされず車で帰る際、博士が娘の帰り道が城のそばを通ることに気づきます。

 よく晴れた昼間、博士の娘が自転車で奥から現われます、まわりは木立です。
 
『処刑男爵』 1972 約1時間17分:城、敷地の外から 彼女は自転車を止めて城の円塔を見上げる。左奥に角塔、さらに左にゴシック風の塔頂が並んでいます、角塔の破風屋根の角からは窓が出っ張っており、そこに下からのカメラがズーム・インする。 
今度ははるか上から少女が見下ろされ、やはりズーム・インします。また下から、城の別の箇所にズーム・インする。

 少女は手にしていた林檎を落としてしまう。ころころとくだっていく林檎を追ってカメラは左から右へ振られます。追ってきた少女は、物音に逃げだします。
 森の中を手持ちカメラが前進する。車で駆けつける博士たちのカットをはさんで、少女が左から走りカメラの前を横切って右奥へ駆けます。前進する少女が正面からとらえられ、カメラは後退する。次いで少女の背中をカメラは前進して追います。城内、霧の夜の街路に続いて昼間の森の逃走劇なのでした。
 博士たちは木の下に倒れた少女を発見する。無事でした。


 三人組はベッカーに警告をしに訪れます。少女もいっしょです。ベッカーは相手にせず、復元作業が完了した、夜にまた来てくれと三人を招待します。
 博士邸に戻ると、少女はあの人は亡霊だ、眼がぎらぎらしていたものと言います。1度引っこんでからまた顔を出し、倒すための力とはたぶんお守りのことだと告げる。この子は一体何もんなんだといいたくなるところです。『呪いの館』における悪霊少女の善玉版ででもあるのでしょうか。

 顔の部分が傷つけられた肖像画が映されます。カメラは右へ振られる。植物紋の透かし細工の扉がついた半円アーチの奥から三人組が入ってきます。
 
部屋は薄暗い。手前に手すりが横に伸びている。木製で曲線の紋様で飾られています。その左手に階段があり右下へおりていく。とはいえ5~6段で床に達します。以前ペーターが駆け抜けた部屋のようです。  『処刑男爵』 1972 約1時間24分:回廊状大図書室(?)への降り口、右の壁添いに陶製ストーヴ
 出迎えたベッカーは三人を中庭に案内する。下から塔が見上げられます。黒々としている。空は薄青です。塔の上方、突きでた部分から斜め上に槍が突きだし、そこに人型が串刺しになっています。これが数体あります。 
 カメラは上からズーム・インする。回廊に四人がいる。  『処刑男爵』 1972 約1時間26分:高い所から二階(?)歩廊を見下ろす
ズーム・アウトして右に回ると、シルエット化した串刺し人型にズーム・インします。これがもう1度繰り返される。
 ベッカーは三人を地下牢に案内します。斜めの台に縛りつけられた赤黒い骸を映し、カメラは右から左へ撫でる。各種の器具類を経て、四人をとらえます。奥に左上がりの階段が見える。階段の下から黄の光が射し、また上の壁は薄紫になっています。
 ベッカーがスイッチを押すと、叫び声が響き渡ります。するとカメラは、下からドームが連なる石造りの天井を右から左へ流す。暗がり、黄、青み。
 いささかお化け屋敷の出来を誇る興行主のごとくではあります。廊下や階段が入り組んだお城というだけで充分ではないかと思ってしまうのは、しかし個人的な嗜好以上ではありますまい。街路をも色つきの霧だらけにして迷宮化する方がはるかにすごいと思うのも同様なのでしょう。なぜ男爵は自分とエヴァをさっさと始末しないのかというペーターの疑問に、遊んでいるんだと博士が述べるくだりがありましたが、遊びの内容がいかにもいかにもなお化け屋敷ではいささか頼りない。この点は続く『リサと悪魔』において、悪魔による人形劇という形で深化されると見なすこともできるかもしれません。

 辟易して暇を乞うた三人は段差のある広間に戻ってきました。段差上から下へおります。
 三人はベッカーこそ甦った男爵であると確信しますが、ペーターはもっと話したいと言います。博士がそんな余裕はないと答えると、ベッカーが段差の上に現われ、博士には失望した、研究者としての好奇心はないのかと責めます。はなはだもってもっともです。
 ペーターの研究者としての知識欲は呪文を唱える際にも描かれていましたが、このあたりがもっと練りあげられていたらという気がしなくもありません。ちなみに過去に葬り去られた魔性の者が数百年を経て復活するという主題は、バーヴァ自身の『血ぬられた墓標』、あるいはコーマンの『怪談呪いの霊魂』(1963)などとも共通しますが、いずれの場合も、過去の人物と現在の人物を同じ俳優が二役で演じ、アイデンティティーの揺れを引き起こしていました。本作の設定は少し違いますが、ペーターの役割を掘り下げることで、より説得力を増せたのではないかとも思ったりするのでした。
 ともあれ車椅子から立ちあがったベッカーははなはだ雄弁で、エヴァが突きだした護符をものともせず、エヴァを突き飛ばされて頭に来たペーターを軽く放り投げ、博士が何発も撃ちこむ銃弾にもいっかな動じないのでした。


 地下牢です。ペーターと博士は別々の台に縛りつけられています。ベッカーはまずおのが子孫を手にかけようとする。エヴァは串刺し柩の横に倒れています。なぜか服がぼろぼろです。気がついた彼女は柩の中に横たわる穴だらけのフリッツの上に護符を落としてしまう。するとベッカーが苦しがる。奥の車輪の方へよろめいていきます。黄に染まっています。フリッツが起きあがり、さらに扉からわらわらと死者たちが出てきます。後にバーヴァの息子であるランベルト・バーヴァが監督したTV作品『バンパイア 最後の晩餐』(1987)に相似たイメージが現われていなかったでしょうか。

 かなり上から階段が見下ろされます。三人があがってきます。段差広間をおりる。 
リヴだらけの湾曲する天井を下からのカメラが、右から左、右下、右上と撫でる。  『処刑男爵』 1972 約1時間35分:回廊状大図書室(?)附近の天井
男爵の悲鳴が響く中を三人が車で去った後、カメラは下から上へ振られます。塔のバルコニーの右端にマントの人影がとらえられる。カメラが接近します。霧がたなびくと消えていました。カメラは後退します。
 
Cf., 

「『処刑男爵』 1972」、『没後40年 マリオ・バーヴァ大回顧 第Ⅱ期』 ブックレット、2020、pp15-16

Kim Newman, Nightmare Movies. Horror on Screen since the 1960s, 1988/2011, pp.263-264

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.172-173

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.126-131, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.870-893

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.51-52, 54

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.239-241

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1970-1979, 2017, pp.53-57

 バーヴァに関して→こちらも参照:『血ぬられた墓標』(1960)の頁の cf.
 2015/6/30 以後、随時修正・追補
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