顔のない殺人鬼 La vergine di Norimberga
DVD * [ IMDb ]によると約1時間24分となっています。 ……………………… アンソニー・ドーソンことアントニオ・マルゲリーティが『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)、『死の長い髪』(1964)とともに、1960年代前半に監督した古城を舞台にする作品の一つ。他の二点と違って本作では超自然現象は起こりません。とはいえ舞台はほとんど城内とその庭園に終始します。1度だけ医師の医院が出てきますが、室内だけではあり、また短い場面なので城外の景観とはつながっていかない。またクライマックス近くで登場人物が自動車を走らせる場面があるものの、夜間で外の景色はほとんど見えず、車内での会話が焦点とあって、やはり城の外に出たという気分にはさせてくれますまい。かたや城内には階段あり廊下あり、隠し扉に地下室も登場する。あまつさえ冒頭では寝着姿のヒロインが燭台を手に暗い城内をうろついてくれます。眼福というべきでしょう。 ヒロインを演じるロッサナ・ポデスタは、ロバート・ワイズの『トロイのヘレン』(1956)を始めとする史劇にも出演していますが、個人的には『黄金の七人』(1965、監督:マルコ・ヴィカリオ)とその続篇『続・黄金の七人 レインボー作戦』(1966、同)での悪女役あたりが思い浮かんでしまいます。ちなみにそこでの監督ヴィカリオは本作や『幽霊屋敷の蛇淫』のプロデューサーでもあり、また本作製作当時ポデスタと夫婦だったとのことです(同じ63年に離婚)。 ヒロインの夫役のジョルジュ・リヴィエールは、やはり『幽霊屋敷の蛇淫』で主演をつとめています。 クレジットでこの2人に次いで挙げられるのがおなじみクリストファー・リーです。タイトル・クレジットではイタリア流に"Cristopher"、つまり最初の C の次の h が落として表記されていました。同年のバーヴァによる『白い肌に狂う鞭』とともに60年代イタリア恐怖映画にその足跡を刻みつけたのでした。 また [ IMDb ]によるとロケ先として、バーヴァの『モデル連続殺人!』(1964)と同じヴィラ・シャッラ Villa Sciarra が挙げられています。下掲の The Christopher Lee Filmography, 2004 では、『幽霊屋敷の蛇淫』やバーヴァの『白い肌に狂う鞭』と同じ館でロケされたとありますが(p.127)、ヴィラ・シャッラのことととってよいのでしょうか。Google で画像を検索してみれば、本作では玄関前のバルコニー、間を置いて彫像を配した生け垣、半円アーチの扉が並ぶ1階外観など、館の外観や庭園を確認することができます(またイタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: La vergine di Norimberga (1963)"([ < il Davinotti ])を参照)。 さて、映画は暖炉の火のアップから始まり、カメラが左から右へ、暗い室内を撫でていきます。雷も鳴る。大きな寝台で寝ていたヒロインが悲鳴らしき声を耳にし、起きあがって窓に向かいます。カメラは下からの仰角から上からの俯瞰に切り替わる。「マックス」の名を呼びながら部屋の外に出る。白の寝着にガウンを羽織ります。 暗い廊下です。燭台の蠟燭に火をつけ、右手で掲げながら進みます。燭台を手に暗い廊下を進む寝着姿の女性、これだよこれという感じです。壁に本棚が見える。 |
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吹抜の回廊に出ます。下へ階段がおりている。下の広間が上から見下ろされます。階段をおりた先に大きな半円アーチがあり、その向こうに広間が伸びている。左の壁に暖炉があり、奥の方で廊下に続いているようです。稲光が射すと、欄干らしきものの影が長く伸びます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
下からの仰角に換わり、ヒロインが階段をおりてきます。その途中で雷鳴が轟き、奥の壁に欄干の影が大きく落ちます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
見上げると回廊の向こうにある窓が風で開き、カーテンが揺れます。素晴らしい。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ヒロインは怯えて駈けおります。燭台は手放してしまったようです。火が気になるところです。胸から上の姿が捉えられ、奥に右下がりの階段が見えます。これはおりてきたのとは別の階段であることがすぐにわかることでしょう。この階段には赤い絨毯が敷かれています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
広間の奥の方から、床の高さあたりから見上げたショットに換わります。暗い中、向こうの方に小さくヒロインが映り、ガウンの白が反射する。ここで、おりてきた階段が左、その上で回廊が右に伸び、右端からもう一つ階段がくだっているのが見えます。細部は異なりますが、『白い肌に狂う鞭』での城の広間と同じ配置になっています。後者でセット装飾を担当したリッカルド・ドメニチが本作の美術監督で、[ IMDb ]によると本作が8月13日イタリア公開、後者が8月29日公開とあって、製作時期も近かったものと思われます。同じセットを模様替えしたのでしょうか? なお本作の右の階段は、下方で左に湾曲していました(追補:「怪奇城の広間」の頁も参照)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
話を戻せば、女のあえぎ声にヒロインは手前に進む。先にあった扉の中に入ります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
上からの俯瞰になり、やはり赤い絨毯が敷かれている。鎧だの人間大の鉄籠が並べられており、展示室のようです。鉄籠の中に骸骨があることもすぐに映されるでしょう。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
さて、奥の壁龕に原題でもある〈ニュールンベルクの処女〉が配されています。その背後左右を赤いカーテンが守っている。ヒロインは近づきます。〈鉄の処女〉の下には流れだす血を溜める受け皿がついていて、実際血が満たされていました。ヒロインは蓋を開く。開いた勢いでまず左方、蓋の内側を見てから、次に右方、中に目をやります。両目が血だらけになった女の姿がありました。ヒロインが失神し、タイトル・クレジットとなるのでした。ジャズ調の音楽が流れます。 寝室です。気絶していたヒロインを診察した医師と夫のマックスが部屋を出ます。女中頭らしきマルタ(アニー・デッリ・ウベルティ)が残りますが、鏡に向かったその表情は腹に一物ありげです。 |
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医師とマックスが回廊から右側の階段に向かい、おりていく様子が下から見上げられます。昼間なので壁の年期を経た様子がうかがえます。木の梁が走っている。カメラは左から右に動きます。階段の上、右にも廊下は続いていますが、『白い肌に狂う鞭』同様、残念ながらこちらに入る場面はありません。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
妻の名がメアリであること、昨日の午後着いたばかりであること、メアリにとってドイツは初めてであることなどが会話の中で告げられます。 2人は展示室に入る。〈鉄の処女〉は300年使われていない、「彼」の死後とマックスが語ります。指さすと向かいに「彼」こと死刑執行人の像があります。黒っぽい頭巾と手袋に赤マント、赤服です。医師は床から何か拾いあげる。マックスは年に2回城に来るとのことです。執事のフリッツが医師を見送る。広間から見て正面奥と左に半円アーチが見えます。 暖炉と反対側の壁、広間の手前、玄関近くにダーツの的がかけてあり、マックスが矢を投げています。メアリがやって来る。水色のゆったりした服を着ています。胸刳りの広いそれは、寝着ではないのでしょうが、外出用の服でもなさそうです。ここで約12分、以後57分強までの間ずっとこの服のままです。 ダーツの矢を抜いてマックスに渡そうと登場するのが、お待ちかね、クリストファー・リーです。顔の向かって右側にひどい傷跡がある。この場面ではいっさい口を開かず、口のきけない設定かと思ってしまいました。マックスが「エーリッヒ、世界で一番いい奴」と紹介します。この形容は後の展開とあわせると、なかなか泣けます。展示室の守衛を務めているとのことで、日本語字幕の「展示室」は原語では'museo'だったような気がするのですが、自信は大いにありません。 エーリッヒはダーツの的の右手にある半円アーチの下の扉に入っていきます。そちらが彼の部屋に通じているとのことです。エーリッヒは将軍だったマックスの父の従卒でした。 メアリとマックスは右の階段をのぼり、回廊を左に進みます。カメラは下から見上げ、右から左へと動く。その間マックスは、エーリッヒの傷は先の戦争のせい、戦争は人を変えてしまう云々と語っています。これは後への伏線ということなのでしょう。 左奥から夫妻は廊下に出てきて、手前に進みます。絨毯は明るい緑です。右手の壁に半円アーチをいただいた浅い壁龕がある。そのさらに右、画面のよく見えない暗い額絵、続いて大きな綴織、また暗い額絵と並んでいます。 奥で左に折れれば、そこが夫妻の寝室です。前の場面でも映っていましたが、扉から入っていったん段差があり、奥の高くなった方に寝台がある。 メアリは執事にイルデをよこしてと頼みますが、執事はイルデは昨夜出かけた、トルーデがいると答える。城に使用人は何人いるのというメアリの問いに、マックス曰く、たくさんいる、マルタが把握しているだろう。 メアリはマックスに鎮静剤を渡されますが、飲んだふりだけして捨ててしまいます。 |
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マックスが部屋を出ると、メアリも廊下に出ます。やや暗い。右の壁に本棚が見えます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
左奥から出て手前へ、手前まで来るとカメラもいっしょに後退する。廊下の右側から左側に移動し、それまでカメラに右半身を見せていたのが、左半身を見せることになります。 廊下と階段のある回廊との間に木の扉のあることがわかります。 |
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広間が上から見下ろされる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
マックスを奥へ進み、カットが換わるとエーリッヒの部屋の扉に向かうのがやや下からとらえられる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メアリが階段をおりるさまが上から見下ろされます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
換わってやや下から、カメラは玄関側、広間に対し右よりの位置につく。以前の場面では右の階段が映ったのに対し、カメラの位置が変わったため左の階段がよく見えます。やはり赤い絨毯が敷いてある。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メアリが手前まで来ると、奥の二つの階段の間、その向こうから女中頭とメイドの声が聞こえてきます。メイドはイルデの代わりを務めるよう指示されている。2人は左の階段をあがり、左へ入っていく。 それを見送ったメアリはエーリッヒの扉に向かいます。入ってみると中は倉庫として用いられているようです。手前から奥に進む。右には鎧の類が並び、奥に半円アーチの壁龕があって、その中に窓が見えます。 ケースの中の外科器具類を見ていると、エーリッヒが声をかけます。今回ははきはきと喋る。外科器具は父将軍のものだったとのことです。 約22分にしてはじめて屋外が映されます。広い前庭から車が出ていく。それをメアリがバルコニーから見下ろしています。胸像が4つ配された欄干は、メアリのいる突きでたところ、その奥でいったん右に引っこみ、その向こうでまた左に出ている。頭上には天井がかかっており、半円アーチが並ぶ玄関前ポーチということのようです。 |
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このバルコニーの欄干を左にして、手前に階段がおりています。右上にも別の欄干がのぞいている。メアリは階段をおりて左へ進む。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
奥にバルコニーの外側下部が見え、粗石積みに三つ半円アーチが並んでいる。中央のものは背が高く、少し前に迫りだしている。グロッタのような体裁なのでしょうか。中央のアーチから前に細い水路らしきものが伸びています。水路の両脇は不規則な低い石壁をなしています。また三つの半円アーチの左右にもさらに低いアーチのあることがわかります。これはヴィラ・シャッラの実景をロケしたものです。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メアリは池のすみの方形枠の前でしゃがみこみます。すると水面に倒立した人物の像が浮かぶ。人物はセルビー(ジム・ドレン)と名乗り、ライン川沿いの古城巡りをしているのだという。ここから舞台がニュールンベルクではないらしいこともわかります。 またセルビーへの受け答えで、メアリ夫婦の姓がフンターであると知れます。 |
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それを聞いたセルビーが脇を見上げて、始めて城の外観が登場します。約24分のことです。石積みにいくつも尖った塔が並ぶそれは、ただし全景ではなく、建物の上半であるらしい。本作では城全体の外観はついに映されず仕舞いでした(追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メアリに女中頭が声をかける。後者はセルビーが警官だと喝破し、「彼」のことで来た、「彼」が300年経って戻ってきたのだと告げます。メアリを怯えさせて満足げな表情を浮かべます。 メアリは階段をのぼり、ポーチを右へ入る。カットが換わると玄関でした。左の壁にダーツの的が見え、次いでエーリッヒの扉が来る。 物音に右へ進みます。広間、次いで手前右の展示室を見やる。メアリが戻ってフレームから外れると、展示室内の死刑執行人像が動きます。 メアリはまたエーリッヒの部屋に入る。扉の左側の壁に曲線細工の影が落ちています。奥のテーブルに赤い布がかけてありますが、その下に手術器具を入れてあった箱がある。しかしからになっています。 左の石壁に向かい、押してみると隠し扉でした。いやにあっっさり見つかったものです(追補:→「怪奇城の隠し通路」の頁や、『怪奇城の地下』も参照)。 |
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暗い下り階段が下から見上げられる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メアリがおりてきて先へ進むと、上に十字架を立てた石棺がいくつも並んでいます。天井には低い半円アーチの梁が走っている。けっこう奥に深い。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
エーリッヒがおりてきます。陰が交錯します。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
部屋の奥を見回す主観ショットをはさみ、「ご主人様、どこです」と呼ばいながら階段をおりて左にある扉口へ入っていく。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
石棺の陰に身をひそめていたメアリはほっと一息するも束の間、今度は松明を手にした死刑執行人が奥から出てきます。彼は手術器具類を落とす。メアリは見つかってしまい、逃げだして階段を駆けあがる。 エーリッヒが戻ってきます。床に落ちた松明を拾いあげ、また主観ショットが部屋を見回す。物音を聞きつけて階段をあがります。 メアリが寝室に戻ると、女中頭が今夜は部屋から出るなと忠告します。 医院の医師のもとへセルビーが訪問してきます。二箇所しかない城外の場面の一つですが、先にも触れたように室内に終始するので実感はありません。さて、医師はセルビーがFBIだと指摘します。そして展示室の床で拾った金髪を見せる。 冒頭同様暖炉の火がアップになり、カメラが右から左動くと、暗い室内でメアリが肘掛け椅子に腰かけています。メアリは物音に寝室内を一回りします。ドアの取っ手が動く。鍵がかかっているとわかるとドアの板が破られ、手が差しこまれる。メアリは腕にナイフを刺します。 明るくなって夜明けかと窓に駆け寄ります。この部屋では扉と寝台のあるところの間に段差がありましたが、さらに窓の手前でもう一段高くなっています。窓を開くと満月の光でした。 下を見下ろすと庭にセルビーの姿が見えます。バルコニーから伸びる水路の先に楕円形のように見える池のあることがわかります。 |
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部屋から暗い廊下に出ます。左奥から現われて手前へ、また廊下の左から右に移ります。カメラは左から右へ動く。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をおりて広間に向かう。暗い広間を突っ切ると、展示室の前に死刑執行人の人形が転がっていました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
約40分弱、玄関を出て庭への階段をおりる背中がとらえられます。右の欄干に青い照明が当てられている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
庭を走るさまが下からとらえられます。カメラは下からのまま斜めになる。頭上の木の枝に当たる光が赤になり青になりします。 生け垣に間隔を置いて彫像が配されている。これもヴィラ・シャッラの実景でロケしたものです。 下掲の黒沢清・篠崎誠・遠山純生「アントニオ・マルゲリーティ監督『顔のない殺人鬼』 ホラー映画談義」の中で、遠山が 「彼女がどこからどこへ向かって走っているのかわからない。方向感覚をわざと混乱させるような場面です。結局、ぐるっと走ってまた城に戻って来たということなのかもしれませんが、位置関係を曖昧にすることで迷宮感をだそうと意図したところもあったんでしょうか。隠し扉や地下室等、どこに位置しているのかわからない場所も出てきます」 と述べています。それを承けて黒沢は 「とにかく恐そうに進んでいく女性のアップと、彼女の主観になって前進していくカメラの視点とを編集で交互に組み合わせると、何も起こらなくても見ている人は非常な恐怖を感じる、ということを初めて体験した瞬間でした」 と、篠崎は 「マルゲリーティではありませんが、マリオ・バーヴァの『呪いの館』(66)でも同じようなシーンがありました。あの迷宮感覚はある種のイタリア製怪奇映画の 遠山 「一方、ヒロインがゆっくり館内を歩き回る場面が味わい深いんですが、こういうところは位置関係をある程度明確に描いていますね」、 篠崎 「…(前略)…この手の映画の良し悪しは、人が誰も死なない場面というか、物語的にはさして重要とも思えない何でもないシーンがどれだけよく演出できているかにかかってきますよね」 と続きます(以上 p.12)。うんうんなるほどっ!と膝を打ちたくなる座談の一齣でした。 庭に女が出てくる。「アルベール?」と呼びかける。死刑執行人に捕まってしまいます。 メアリが庭を走ります。格子のある地下への入口を見つけ中に入る。 |
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階段をおりると、粗壁の納骨堂でした(追補:→『怪奇城の地下』でも触れました)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
上に戻ると、マックスとエーリッヒが女の亡骸を運んでいるのを見かけます。2人は別の格子戸に入って行く。マックスに言われてエーリッヒが戻ってきて、メアリが潜む格子戸に鍵をかけてしまいます。 やむなくメアリは奥へまた戻ります。 |
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進んでいくとかなり長く続いているようです。エーリッヒの部屋の奥の隠し扉からおりた地下室とは別らしく、この城の地下はかなり入り組んでいるということなのでしょう。先の階段の下でエーリッヒが入っていった左の通路とどこかでつながっているのでしょうか。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
先に格子窓を見つける。その向こうは拷問室らしきありさまです。窓格子の十字越しにの女が車椅子に縛りつけられています。それを見るメアリの顔に十字の影が落ちる。現われた死刑執行人は円筒形の鉄籠を持ちだし、15世紀以来禁じられた拷問だという。籠は二つに区切られ、片方に鼠が一匹入れられている。女の顔に籠をくくりつけ、中央の仕切りを外すのでした。前年のコーマンの『恐怖のロンドン塔』(1962)でも出てきた方法です。 死刑執行人が奥へ行くとメアリが飛びこみ女を助けます。女はエルナといい、恋人と約束していたのでした。 「エーリッヒ、止めろ」という声が聞こえてきて、松明を拾って扉の外へ出ます。死刑執行人と同じ赤い服を着て倒れていたのはマックスでした。エーリッヒが駆けこんできます。メアリは失神する。本作で2度目です。 目を覚ますとベッドにいました。マックスは「忘れろ」と言いますがメアリは肯んじません。マックスは「あと一日くれ」と譲歩します。運んでいたのはイルデとのことです。女中頭のマルタが入ってくる。 マックスは空港へ行ってアメリカ行きの便に乗れと言います。メアリはアメリカ出身で、おそらく夫妻は普段そちらに住んでいるのでしょう。 またマルタが入ってきます。「知ってるが言えない」と言う。 地下です。執事のフリッツの亡骸が横たわっています。マックスは松明を手に奥へ進みます。壁は粗く、洞窟のようです。赤茶の泥で覆われた床に足跡が続いています。岩の間から黒手袋の赤腕が出て何かいじると、落とし戸が落ちてマックスは閉じこめられてしまう。 約57分強、ついにメアリが着替えました。タートル・ネックの薄茶のセーターに浅緑のスカートといういでたちです。メイドのトルーデが荷造りしています。 2人は廊下に出ます。左奥から手前へ、例によって右に移る。カメラはそのまま左から右へ動きます。背を向けて右奥に進みます。 階段をおりて暗い広間に出ます。広間を突っ切るとともにカメラは左から右へ動く。玄関の前まで来ますが扉が開きません。メイドは使用人の出口から出ようといいます。 |
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池が方形でも楕円形でもなく、横長の長方形の両短辺から半円が出っ張っていることがわかります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
手がバルブをゆるめます。マックスの閉じこめられた地下に上から水が落ちてくる。池の水位が下がります。 メアリとメイドは階段をおりて左から右へ進む。この階段の位置はわかりません。広間奥の二つ階段の奥のどこかか、あるいは玄関前を左に入ったところでしょうか。いくつも階段のあるすばらしい城です。 とまれ先に扉がありますが、やはり開きません。メアリが「他に出口は?」と尋ねるとメイドは地下の車庫にあると答えます。「マルタの部屋は?」との問いには奥にあると告げ、下を見てくると右の扉口に入っていきます。 メアリはさらに右へ進み、奥で右に曲がります。右から左へ、先の扉を開くとマルタが死んでいました。 車が着き、エーリッヒがおりてきます。扉は開きません。右へ進む。地下のマックスの様子をはさんで、エーリッヒが階段をのぼって玄関に向かいます。やはり扉は開かず、階段をおりる。 |
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メアリはマルタの眼を閉じ、室外に出ます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
メイドも戻ってきますが、地下もだめでしたと言う。 「他に出口は?」と何度目かの問いです。いくつも出入り口があるすばらしい城です。メイドは展示室に見学者用の出口があるが、使ったことがないと答えます。 |
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階段をのぼります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
「シニョーラ・メアリ」と叫びながらエーリッヒが入口を捜します。半円形の扉が並ぶこのあたりもヴィラ・シャッラの実景でロケされています。 マックスのところではますます水が流れこみ、鼠が泳いできます。 エーリッヒは壁沿いの木によじ登ろうとしますが、落っこちて気絶します。 メアリとメイドは展示室にやって来ます。出口を探していたメイドが倒れ、奥から死刑執行人が現われます。迫られたメアリがマスクをもぎ取ると、髑髏のような顔でした。常に指摘されるように『オペラの怪人』(1925)が参照されているのでしょう。 エーリッヒはセルビーに助け起こされ、車で警察に向かいます。2度目の城外場面ですが、夜間なのでやはり実感は湧きません。 エーリッヒは「あなたは何も知らない」と言う。モノクロの回想場面が挿入されます。「彼」はヒトラー暗殺を企てるも失敗、投獄されて手術に次ぐ手術を施され、「生きた頭蓋骨」にされたのだという。 被害者だった将軍が無関係な者に対する加害者に転じてしまうというのは、なるほど現実味はあるでしょうし、畢竟するにいっとう怖いのは人間だという言わずもがなの点とあわせ、しかし、個人的な趣味の域を出ませんが、お化けを出してくれないのでは、ラストで燃え落ちてしまうせっかくの古城が浮かばれまいにと思ったりするのでした。人間ではいかんせん役不足の感が拭えますまい。 「彼」はメアリを別の部屋に連れこみます。エーリッヒ部屋に通じるとされた扉の奥の倉庫状の部屋でしょうか。三度気を失なったメアリに手術器具を向けますが、なぜかまた外へ出ます。 マックスは水の下に潜り、崩れかけた壁の穴をひろげて外に脱出します。玄関に駆けつけるとメアリの叫びが聞こえてくる。 |
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上を見やると。塔が仰視されます。2度目の外観ですが、模型然としています(追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をおり、車庫の扉に向かいますが、やはり開きません。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
また塔の仰視がはさまれ、先のエーリッヒ同様木をよじ登ります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
展示室です。「彼」はメアリを〈鉄の処女〉に押しこもうとしています。この〈鉄の処女〉では蓋の内側で両目の部分だけに棘が突きでています。 窓からマックスが飛びこんできて、閉じようとする〈鉄の処女〉の蓋に取りつきます。 玄関を破った警官たちが突入してきます。「彼」は撃たれ、倒れた拍子に篝火を倒します。火はあっという間に燃え移る。 メアリが助けだされた後も、〈鉄の処女〉の蓋は重みで勝手に閉じようとします。 廊下を「彼」はよろめきます。メアリとマックスが外に出るのと入れ替わりに、エーリッヒが中に飛びこんでいきます。 「彼」がよろめく廊下のいくつものショットがはさまれる。「彼」は倒れます。 |
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「パトローノ」(?)と呼びかけながらエーリッヒが「彼」を探す廊下のショットがいくつかはさまれます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
「彼」は最後に正気に戻る。看取るエーリッヒは傷のない右顔でとらえられています。そもそも最初の登場時以外あまり傷は強調されていませんでした。エーリッヒの頬に涙が流れ落ちます。天井が焼け落ち、玄関前で抱きあうメアリとマックスの姿をはさみ、金色に輝く〈鉄の処女〉とともに終幕となるのでした。 物語の年代は示されなかったかと思いますが、仮に映画製作と同時期に設定されているとして、第二次大戦が終了した1945年から10数年の間、将軍がどのように暮らしていたのかは語られません。おそらくエーリッヒが世話していたのでしょうが、事情に通じていたマルタも城内にいたものと思われ、とするとなぜこの時になって事件が起こったのかが気になるところです。メアリと使用人たちの来城がきっかけになったのか、あるいはそれ以前にも闇に葬られた事件があったのか。マックスもまた事の次第を承知しており、エーリッヒとともに死体の隠蔽を謀る件とともに、警察の捜査員があたりをかぎまわっていた点からして、何らかの前ぶりはあったと見なしてよいのでしょうか。 なお本作では末尾をのぞいてほとんどヒロインの視点から物語が綴られますが、何らかの事情で滞在することになった古城なり館で、当主ないしその一族の過去の秘密に触れて怖い目に遭うという点では、『ジェイン・エア』(→こちらも参照)や『レベッカ』(→こちらも参照)タイプのゴシック・ロマンスの結構を忠実になぞっています。 他方、本作でのクリストファー・リーはいわゆる〈レッド・ヘリング=偽の手がかり〉役ですが、たとえばハマー・フィルムの『恐怖』(1961、監督:セス・ホルト)でも相似た役割をつとめていました。〈レッド・ヘリング〉が〈レッド・ヘリング〉たりえるのは、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)でよかれ悪しかれ確立してしまった、怖そうな役ならリーというイメージが前提になってはいるのでしょうが、『バスカヴィル家の犬』(1959)での怖がらせられる方の役とあわせ、この頃存外に幅のある配役をされていたようです。それにしてもラストで彼の頬を伝う涙は、それを同性愛的ととるにせよホモ=ソウシャルと見なすにせよ、登場時のマックスによる紹介の言葉と相まって、いたく感動的ではありました(『魔の家』(1932)におけるボリス・カーロフの役どころと比較できるかもしれません)。 |
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Cf., 手もとのソフトに封入されたリーフレット掲載になる; 遠山純生、「解説」 黒沢清・篠崎誠・遠山純生、「アントニオ・マルゲリーティ監督『顔のない殺人鬼』 ホラー映画談義」 またこのDVDは同じマルゲリーティの『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)とあわせて『映画はおそろしい~アントニオ・マルゲリーティ篇~』(紀伊國屋書店、2006)というボックス・セットに含まれていたものです。 黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、pp.176-177 The Horror Movies, 2、1986、p.62 二階堂卓也、「四人目 アントニオ・マルゲリティ 肩で風切る銀幕渡世」、『マカロニ・マエストロ列伝 暴力と残酷の映画に生きた映画職人たち』、洋泉社、2005、pp.65-77 →こちらにも挙げておきます 殿井君人、「顔のない殺人鬼」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.28-31 同、「アントニオ・マルゲリーティ」、同上、pp.176-179 後者は→こちらにも挙げておきます The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.125-128 Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.42, 44, 58 Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.97-102 Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.132-134 マルゲリーティ監督作として→『ヴェルヴェットの森』(1973)も参照 |
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2015/7/28 以後、随時修正・追補 |
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