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イザベルの呪い
Riti, magie nere e segrete orge nel trecento... 
    1973年、イタリア 
 監督・編集   レナート・ポルセッリ 
 撮影   ウーゴ・ブルネッリ 
美術   ジュゼッペ・ラニエリ 
    約1時間38分 
画面比:横×縦    1.66:1
    カラー 

DVD
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 『生血を吸う女』(1960)の頁でも触れましたが、『血ぬられた墓標』(1960)や『生血を吸う女』に数ヶ月先んじてイタリアで公開された『吸血鬼と踊り子』(1960)の監督ポルセッリによる作品です。『吸血鬼と踊り子』はお色気路線を導入したことで本作にも通じる一方、それもあってか評判をいささか落としているようですが、古城映画としては大いに見るべきものがあったとうろ憶えしております。
 本作では異空間めいた儀式の場、物語上の現在、500年前に起こった魔女狩りがけっこうな速度でカットを交叉させ、3つの状況それぞれの登場人物が相互に対応しているようなのですが、そもそも現在時での人物の関係がいささか把握しづらい。加えて後半では喜劇調のお色気状況が並行して挿入され、しかし全体の雰囲気にそぐうかどうかは意見の分かれるところでしょう。大団円の成行もよくわからなかったりするのですが、何は何、舞台は古城です。

  [ IMDb ]によると本作のロケ先は中部イタリア東側のアブルッツォ州ラクィラ県バルソラーノのピッコローミニ城 Castello Piccolomini di Balsorano、『女ヴァンパイア カーミラ』(1964)や『惨殺の古城』(1965)でお馴染みのお城でした(後者は外観)。お城のイタリア語版ウィキペディア該当頁(→こちら)の"Location"の項もご確認ください(ウェブ上で出くわした"IL CASTELLO DI BALSORANO"(2008/3/13)[ < il Davinotti ])はイタリア語で、不勉強のため中身はよくわからないのですが、ここでロケされた映画が写真付きでたくさんリスト・アップされています)。先の2作でもそうでしたが、小山の上に聳えるこのお城は、屋内もさることながら城壁上の歩廊らしきところに立つと、やはりけっこう高そうな山並みを見渡すという、なかなか印象的な眺めが本作にも事欠きません追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。屋内はどこまでがロケなのか、ともあれ階段が複数出てきます。それも1階分をつなぐものではなく、半階分のものがなぜかいくつも登場する。

 『惨殺の古城』での美丈夫ぶりに比べるとやや老けたとはいえ(8年しか経っていないのですが)、ミッキー・ハージティが重要な役回りで出演しています。また主演にあたるリタ・カルデローニはやはりポルセッリによる前年の『デリリウム』(1972、未見)や『怪奇な恋の物語』(1968、監督:エリオ・ペトリ)に出ていたとのことですが、『悪魔の凌辱』(1974)で再会できることでしょう。

 なお邦題は大人しめで、手もとのソフトのジャケットに記された英題『イザベッラの生まれ変わり
The Reincarnation of Isabel 』からの変奏なのでしょうが、伊語原題は『1300年代における儀式、黒魔術と秘密の狂演…』(後の3つの名詞はいずれも複数形)と、見ようによっては歴史研究の題名めいた曰くいいがたいものでした。少なくとも日本語字幕では過去の顛末は500年前に起こったとされており、とすると原題の1300年代というのには合わないのですが、このあたりをどうとればいいものか。

 ネガポジ反転した黄色く染まった空に雷が鳴り、三つ叉の磔台、そこに磔にされていると思しい女性(リタ・カルデローニ)のアップ、『マクベス』の魔女たちが唱えそうな呪文めいた詠唱に続いて、ぼやけた七色の羽根が回転してオープニング・クレジットとなります。ちなみに手もとのソフトはイタリア語版ですが、監督名は「ラルフ・ブラウン」とありました。
 真っ暗な空間に石の祭壇らしきものがあり、赤や紫、緑の照明が当てられている。詠唱が響く中、ミニ・スカートの栗毛娘が怯えています。大きな岩らしきものに女(やはりリタ・カルデローニ)が磔になっています。顔は白く落ち窪み、胸の中央に大きく丸い傷跡がある。栗毛娘は黒マントに全身赤タイツの男3人に捕まり、祭壇に寝かされる。日本語字幕によると男たちは、偉大なる師イザベッラに生贄を捧げる、25日目の月の夜にあの儀式が行なわれるまで等と唱えています。
 石造家屋に黄のフィルターがかかったカメラがズーム・インします。その中でしょうか、普通の色で、黒髪の娘が何やら苦しそうです(後に役名がエリザベートと知れる)。狼の遠吠えが響く。
 儀式の間です。男の数が4人になっている。
 夜明けでしょうか、村の眺めが挿入される。またズーム・インします。やはりその屋内か、金髪娘が悶えています(後に役名がレベッカと知れる)。このあたりのカットの切り換えはけっこう急速に交錯します。
 儀式の間に戻ると、4人男は25日目の月の夜にイザベルは甦るだろうと、磔にされた女に祈りを捧げた後、祭壇の娘を押さえつける。上から見下ろされます。
 装飾豊かな半円天井の礼拝堂のカットが挿入されます。 『イザベルの呪い』 1973 約8分:礼拝堂
この場面に落ち着くと、カメラは上から下へ、つり目の娘が祈っている(後に役名がマベルと知れる)。それを脇の扉口から白衣で細面の司祭(ガブリエーレ・ベンティヴォリオ)が見ています。
 儀式の間では祭壇の娘から心臓が取りだされたらしい。
 夜の方形水汲み場です。黒髪娘がやって来る。
 儀式の間では心臓から血を絞って盃に受け、4人男がそれを飲む。4人男は顔が青塗りです。
 水汲み場では黒髪娘が何かに襲われます。蝙蝠でしょうか。
 ゆるい角度で曲がる城壁の角に円塔を擁し、城壁上に鋸歯型胸壁の走る城がかなり下から見上げられます。バルソラーノのピッコローミニ城にほかなりません。朝でしょうか、霧がたなびく。また城の聳える小山のふもとあたりにも何やら石造の廃屋群のあることがわかります。カメラは右から左へ振られます。
『イザベルの呪い』 1973 約11分:城の外観、下から『イザベルの呪い』 1973 約11分:城がそびえる小山のふもとにある廃墟
 夜の水汲み場で黒髪娘の首筋に黒服の男が襲いかかる。カットは時間上の先後を行ったり来たりする。心臓を抜きだしたらしい。
 朝らしき粗石積みの廃屋群、カメラは少し右から左へ、次いで上向きになると少し上に短い城壁、そしてその上にお城が聳えている。
 黒服の男が何やら本を読んでいます。薄暗い。書斎のようです。この人物の名は最後まで出てこないのですが、[ IMDb ]に「隠秘学者(オカルティスト)」(ラウル・ロヴェッキオ)とあるのが彼でしょうか。日本語字幕によると「闇の主の(たね)に宿る永遠の命が地上に生を受ける日までに - 乙女の心臓を捧げよ。あの女の魂は必ずや蘇るであろう」。
 カメラは右から左へ、扉を開けて召使が入ってきます。禿頭で右目の脇に大きな傷跡がある。儀式の間での4人男の1人と同じ役者ですが、やはり日本語字幕には役名が出てこない。[ IMDb ]に
"Gerg"(マルチェッロ・ボニーニ・オラス)とあるのが彼らしい。新しい城主が明日着くという。
 礼拝堂の司祭のところにつり目娘がやって来て、ラヘルが悪魔に殺されたと告げます。ラヘルとは黒髪娘のことでしょうか。ここまでで約12分でした。
『イザベルの呪い』 1973 約12分:城壁の角の円塔、下から  木立越しに城が下から見上げられます。カメラは前より近い位置にあるようです。
右から左へ、次いで下降すると丸井戸のそばに黒髪を結い上げた娘(クリスタ・バリモア)が立っているのが引きでとらえられます。クリスタと叫びながら金髪長髪娘が駆け寄り、ラヘルが死んだという。
 カメラが急速で右に流れると、白壁の家の扉の前で別の娘が二人話しています。この扉は玄関ではないようで、地面に下り階段でつながっています。
 左右に鋸歯型胸壁が伸びるその手前に円柱が1本あり、赤毛の細っこい娘が寄りかかっています。胸壁の向こうは山並みです。
『イザベルの呪い』 1973 約13分:鋸歯型胸壁、石の門、左下に欄干 レンダ([ IMDb ]では Glenda、クリスティーナ・ペリエ)と呼びかける声、カメラが右から左へ振られると、アーチ状の石の門の下にクリスタがいました。先ほどの長髪金髪娘はレベッカという名のようです。門の左は蔦に覆われており、また門の手前には低めの石の塀が折れ曲がっており、左下へくだっていく。
レンダがもたれる円柱の向こうも緑に覆われ、またすぐ右にも石の柱だか壁があります。ラウレンの義父が新しい城主だという。クリスタの背後に見える山は雪をかぶっています。

 約13分、山並みをカメラは左から右へ撫で、それから下降、少し左にふり戻します。下の方に村があります。かなり高い位置からの俯瞰です。右から左へ車がやってきて、広場の噴水のまわりを巡って手前に進む。『惨殺の古城』の始めの方に相似た場面がなかったでしょうか。
 鋸歯胸壁のある粗石積みの城壁が下から見上げられます。隠秘学者が見下ろしている。城壁はすぐ左で手前にゆるく折れます。また右上には蔦に覆われた棟が見える。先ほどレンダとクリスタがいたのと同じ場所でしょうか。後にも出てきますが、『女ヴァンパイア カーミラ』でもおそらく同じ地点が登場していました。
 森の中の曲がりくねった道を車は進んできます。
『イザベルの呪い』 1973 約14分:城壁の角の円塔、下から 何やら石柱の台座のようなものの前を通り、城を仰視したカメラがズーム・インすると、しかし車は停まり、運転主は先に進むのを拒みます。
同乗していたのは新城主(後に名がジャックと知れます、ミッキー・ハージティ)とその養女ラウレン(リタ・カルデローニ)でした。城壁上の隠秘学者が威嚇する。本の上で女の古い写真に刺される針、石に磔にされた女とラウレンのカットが交錯します。女の笑い声が響く。

 暗い中の蠟燭のアップ、持っていたのは新城主でした。書斎です。隠秘学者の甥が前の城主で、城を売ったらしい。帆船の模型があります。すぐ奥の壁に二つ掛かっているのは額いり鏡でしょうか。召使が薪を抱えて入ってくる。暖炉もあります。
 ピアノの音が聞こえてくる。養女ラウレンとリチャードの婚約パーティーを開いているとのことです。


 約16分、広間です。ピアノを弾いているのはラウレンでした。背後の壁はくすんだ褐色で、組紐紋様のようなもので覆われています。奥には暖炉がある。
 口髭・頬髭・顎髭の婚約者リチャード(ウィリアム・ダルニ)とともにラウレンが離れると、替わってレンダがピアノを弾きます。クリスタがそれを傍らで見ています。
 手前の暗がりが開くと、仕切り壁だったようで、向こうに広間が見える。ただし仕切り壁は低い位置にあるのか、広間は下から見上げられる格好です。天井が格子状に分割されていることがわかります。また山型に連なる吊り燭台が見える。左下・手前から広間の様子をうかがうのは召使でした。 『イザベルの呪い』 1973 約17分:広間の天井、仕切り壁内の階段から
 食事を並べたテーブルの向こう、暖炉か何かの上でしょうか、壁沿いで建物の正面を象った横長で黒っぽい木製の棚か何かが配されていました。そこにいたラウレンの母親と話していた口髭のウィリアム医師(マックス・ドリアン)を、ラウレンがこわばった顔で見つめています。
 片頬をひくひくさせるふっくらした口髭男がなぜか何度もアップになる。黒の臍だし服の娘(後に名がステフィと知れます、ステファニア・ファッシオ)は医師を追っていきます。医師はさほど大きくない尖頭アーチ口から部屋を出たのでした。

  約18分、蔦に覆われた円塔が下から見上げられます。頂きは鋸歯型胸壁を巡らしている。カメラは右下へ、すぐ右奥にもう一つ円塔のあることがわかります。カメラは下で少し左へ、大きな方形開口部からステフィが出てくる。開口部と奥の円塔の間には露天の空間が少しあるようです。その右から手前へ鋸歯型胸壁が走っています。前にクリスタとレンダがいたところでしょうか。医師は見当たらない。2本の角柱の間から新城主が顔を出します。ふらふらするステフィに新城主はなぜか、危ない、中へ戻れと叫ぶ。
 暗い空間、燭台の向こうで隠秘学者がやや下向き加減でこちらを見ています。下から当てられた赤の照明が緑に変わる。ジャックが戻ってきたという。暖炉の世話をする召使には暖炉の炎が赤く右下から差している。カメラは少し斜めになっています。
 駆け戻るステフィ、見送る新城主、粗石積みの少し右に傾いだ壁の陰から医師がそれを見ます。すぐ奥に鋸歯型胸壁、向こうは山並みです。


 広間でラウレンと婚約者が踊っていると、悲鳴が聞こえてくる。
 階段の上で仰向けで横たわったステフィが叫んでいたのです。
カメラは上向きになり、奥にあがる階段を正面からとらえる。幅はさほど広くはなく、左右を壁にはさまれています。壁はややピンクがかっている。上には半円アーチがあり、奥に天井の格子間と黄色い壁がのぞいています。婚約者やラウレンたちが駆けつける。ステフィは喋りまくります。 『イザベルの呪い』 1973 約20分:階段、下から
 レベッカが下までおりてステフィを助け起こす。カメラは上から見下ろしています。階段下の床はジグザグ状に敷石が敷きつめられ、右側にものぼり段があるようです。階段途中に集まった一同に首を振るレベッカの背後に、やはりのぼり階段が見える。向かいあう下り階段の合流地点ということでしょうか。大理石の彫像の陰で召使がのぞいてます。
『イザベルの呪い』 1973 約20分:二つの階段の合流地点にある代理石像の一部 ミケランジェロ《瀕死の奴隷》1513-15 ミケランジェロ《瀕死の奴隷》1513-15
ミケランジェロ
《瀕死の奴隷》
1513-15


* 画像をクリックすると、拡大画像とデータが表示されます。
腰から下しか映らないものの、ルーヴルにあるミケランジェロの《瀕死の奴隷》の模刻のように見えるのですが、いかがでしょうか。相似た姿勢の作例が他にあっても不思議ではない。右ないし→こちらの拡大画像でご確認ください。
 数段のぼって新城主が入ってきます。その背後は屋外のようにも見えますが、いやに暗い。下の床は細かく石を敷きつめ間を埋めたものでした。ラウレンが下から見上げられる。
医師が階段をのぼっていきます。この階段はレベッカの背後に見えたものでしょうか。あがった先にアーチ、その向こうは白い空間で、奥に別のアーチが見える。 『イザベルの呪い』 1973 約21分:もう一つの階段
 とまれ新城主が入ってきた出入り口が屋外に通じているかどうかはさておき、そこから入ると左右にのぼり階段があるということのようです。右の階段をのぼった先に広間があるのでしょう。扉口から正面にも通路は続いているようですが、こちらは残念ながら映らない。

 広間で皆が乾杯していると、方形開口部の向こうののぼり階段からステフィが駆けあがってきます。向こうは低くなっているわけで、以前召使がのぞいていたのはここからなのでしょうか。緑がかって見える奥の壁にはランプがあり、後に左から突きでた鉄の横棒に吊されていることがわかるでしょう。また下方で右下がりの鉄の欄干がのぞいています。欄干は下で左下に折れているようにも見えます。この階段室にはまた後で再会できることでしょう。

 約22分、ピアノを弾くレンダと話すクリスタのアップに交叉して、過去の場面となります。彼女は魔女じゃないと叫ぶ新城主そっくりの男ジャックが皆に取り押さえられている。ラウレンそっくりのイザベッラが三つ叉磔台に縛りつけられます。それを見つめる司祭は現在の司祭そっくりです。
 儀式の間の石に磔された女のカットをはさんで、また過去へ、今度は現在の広間になると新城主の目から涙が流れる。過去と現在がすばやく切り換えられ、双方に共通の人物が登場する。イザベッラの胸の中央に杭が打たれます。いやに長く続く。パイプ・オルガンとコーラスが響きます。隠秘学者のカット(「真に愛された女は闇の主の胤たる永遠の命を宿す」)、心臓を差しあげる手のカット(「その日までに乙女の心臓を捧げれば彼女の魂は蘇る」)をはさんで、胸に杭を打たれても息のあるイザベッラのまわりに炎が燃えさかっています。現在のラウレンが泣きそうな顔をしている。
 狭い石の螺旋階段をおりていくのは隠秘学者でした。中央は木の角柱のようです。苦悶しています。
 広間に続いてまた過去、火刑を前にはやし立てる人々の間に、現在の登場人物に呼応する人物たちに加えて、おそらくは撮影現地の住人ではないかと思われる老人たちがいます。彼らは後にも登場することでしょう。いかにも素人然としていることでかえって、いやあな感じが拭い去れません。
 手をふりほどいた新城主似のジャックと隠秘学者似の人物が駆け寄ります。
 約31分、左右にひろげたヴェイルの向こうに立つクリスタ、組紐紋に覆われた石の扉が開いて顔をのぞかせる召使に続いて、正面に半円アーチ、その向こうで奥から階段が半階分ほどおりてきている。アーチ周囲の壁は黄色く。手前で幅を拡げた廊下となっているようです。階段の右上には手前へ伸びる木の欄干、奥は尖頭アーチを経てその向こうが広間なのでしょうか。半円アーチの向こう、階段をおりてすぐの左右の壁には、半円アーチの扉口があるようです。半円アーチの手前、左の壁すぐに木の扉がある。『女ヴァンパイア カーミラ』にも出てきた空間です。 『イザベルの呪い』 1973 約32分:黄色いアーチの下の階段
 階段を駈けおりてきたクリスタは少し前に進んで立ち止まる。やや下からの視角です。
向かいということでしょう、扉を経た奥の薄暗い部屋に隠秘学者が立っていました。突きあたりには2連尖頭アーチ窓、右の壁にも開口部がある。そのすぐ手前に細い捻り柱が見えます。 『イザベルの呪い』 1973 約32分:黄色いアーチの下の階段の向かい
 アップのクリスタはゆっくり首を右に向ける。格子間の天井プラス山型燭台の下にいる医師が見下ろしています。クリスタは顔を正面に戻す。隠秘学者、召使のカットに続いて、向かって左、奥まって左右に扉があるらしき、その右の扉の中に入るのでした。

 広間のラウレンと新城主、婚約者に続いて、緑の光のあたる壁を後ろにした召使を見下ろしたカット、そして自室のクリスタです。扉が開く低い位置からの俯瞰、風に揺れるカーテンの青みがかったカット、扉を閉じるクリスタの足もと、左にクリスタのアップ、右に鏡に映るその像などを経て、背後から肩に手をかけられたかと思うと、首筋に咬みつかれる。気がつくと一人でした。裸になっていたはずが服も着ている。首筋に傷跡が残っていました。なおベッド周辺のカーテンは緑です。
 約36分、ピアノの上に立ってはしゃぐステフィ、石扉の向こうの階段下からのぞく召使などに続いて、レンダは呼び声を耳にします。 『イザベルの呪い』 1973 約37分:広間からの狭い階段
『イザベルの呪い』 1973 約38分:城壁と角の円塔  手前の石の欄干を見下ろすカメラが上向きになると、蔦の絡む城壁が手前右から奥へ伸びていく。昼間です。方形窓が並ぶ先で円塔となります。鋸歯型胸壁に囲われたその屋上にクリスタが立っている。右の城壁も鋸歯型胸壁をいただいています。奥には山並みが見える。
『イザベルの呪い』 1973 約38分:城壁の上の歩廊  室内にいたレンダは、切り替わると手前左から右奥に伸びる鋸歯付き歩廊、奥で左に折れその先に方形の塔の先端らしき棟があり、そこから出てきて手前へ進みます。方形の頂きはやはり鋸歯、下の壁に2連窓が見え、また左手には茶色い切妻屋根の棟がありました。
 歩廊の先が円塔の屋上のようです。クリスタは半ズボンでした。見つめあった後2人は手を取りあって奥へ伸びる歩廊に向かう。この歩廊は円塔をはさんで先の歩廊と直角に交わっているということでしょうか。カメラは左から右へ、山並みを撫でます。その先で鋸歯型胸壁に達する。
 手前に格子戸、その奥で左右を石壁にはさまれた幅の狭いのぼり階段があります。照明は黄を帯びている。2人が階段をおりてくると格子戸が勝手に開きます。クリスタはいつの間にか長ズボンになっています。照明は緑や紫に変わる。 『イザベルの呪い』 1973 約39分:狭い階段と降りたところにある格子戸
 手前を右へ、壁が平滑でない部屋です。左奥・やや下にざらざら壁の半円アーチ口があるらしい。格子戸が勝手に閉まります。クリスタはレンダの首筋に咬みつく。クリスタの背後には円が連なる鉄細工らしきものがあるようです。2人がヌードで絡みあうカットが交えられます。そのまま儀式の間となる。
 心細げにクリスタの名を呼ぶ裸のレンダが幅の狭い10段ほどの階段の下にいます。階段の上に格子戸がある。階段の蹴上げは縦に分割されており、最初におりてきた階段とは別なわけです。手前の天井は丸みを帯びた洞窟状です。息が白い。
 おりた先が儀式の間ということでしょうか。跪くレンダの前に1~2段分上りの階段、そこに立つ裸の足もとが見えます。後の場面からしてイザベッラのものらしい。後ろから赤タイツ男たちがレンダを押さえ、盃の何やらを飲ませます。男の1人が首筋に咬みつく。火刑のイザベッラのカットがはさまれます。男がレンダの胸にナイフを刺す。


 約43分、正面からのぼり階段、その途中にステフィが立っている。薄暗い。階段の中央には絨毯が敷かれています。カメラが下向きになると裸のクリスタが倒れていました。
『イザベルの呪い』 1973 約43分:アーチ越しに中庭附近の(?)城壁  城壁の上に立つ隠秘学者がマントをひらりと身にまきつける。下から見上げていたカメラが後退すると、画面上辺沿いをシルエット化したゆるいアーチが枠どりします。隠秘学者のいる城壁のすぐ手前・すぐ下にも鋸歯型胸壁が左右に伸びている。かすかに右下がりです。その下は2階分あり、壁は右で手前へ折れている。
その前は中庭らしく、円柱2本が丸井戸をはさんでいます。右には木の柩がありました。
 葬列は最初にレンダとクリスタがいたアーチを抜けて右へ、それから手前に進みます。下り坂になっているようです。手前で右へ、すぐ向こうに石垣がある。下り坂が少し続き、柩内のクリスタのカットをはさんで、方形開口部から出てきます。カメラはやや下から見上げている。まだ下り坂が続きます。手前を右へ、続いて埋葬されます。
 クリスタは柩の中で目覚めますが、召使は聞こえないのか、土をかけ続ける。
 なぜか柩の蓋が開きますが、蝙蝠か何かに襲われます。


 帆船模型のある書斎です。婚約者が読んでいるのは吸血鬼について記された本でした。扉から隠秘学者と新城主が入ってきます。陰に召使もいる。500年前のイザベッラの火炙りの話になります。我々は当事者だと隠秘学者はいう。
 過去の場面となります。イザベッラが恋人といた部屋に司祭とともに入ってきて告発したのはつり目娘です。
 村の通りを逃げるイザベッラに泥が投げつけられる。
 約53分、ここで日本語字幕ではイザベッラの恋人はドラキュラ伯爵だったというナレーションが入ります。字幕の勇み足かとも思いましたが、原語でもドラキュラの名は出ていたようです。いきなりなぜドラキュラの名が出てくるのか、判じがたいところであります。とまれイザベッラを甦らせるため、闇の力を借りて吸血鬼に化したという。
 隠秘学者、新城主それぞれの目元のアップに赤や紫、緑の照明がちかちかする。婚約者までも慨嘆の台詞を吐く。召使も続きます。

 
 約54分、女の悲鳴に医師が欄干の上から見下ろすさまが下から見上げられます。
 左右を壁にはさまれた狭い通路のようなところがかなり上から見下ろされる。通路の幅に合わせた狭い格子状の檻の中にシーツをまとっただけのラウレンが閉じこめられていました。手前の格子からはいくつもナイフが飛びだしています。上下が90度横に寝たカットがはさまれる。照明も色変わりします。
 レベッカの部屋に駆けこむステフィのカットを経て、婚約者の呼び声、檻の両側からラウレンを捉えるカットが交替する。ナイフ付き格子が迫ってきます。そのすぐ奥に幅の狭いのぼり階段がありました。縦分割階段です。
 やはり両側を壁にはさまれた狭い階段を婚約者が駈けおりてきます。下りた先の格子戸はしかし開かない。よくわからない赤照明いり部屋の片隅の俯瞰ショットをはさんで、ラウレンのアップは上下逆になったりする。肩の上にナイフが少し当たります。
 婚約者が戻ろうとすると格子戸が開く。息が白い。
先に映った赤照明いり片隅が映ったかと思ったら、左右の床が下からの狭い階段をはさんでいるのでした。蹴上げが縦に分割された階段です。10数段で奥への狭い通路になる。ラウレンが駆けあがってきますが、途中で力尽きる。 『イザベルの呪い』 1973 約57分:狭い階段と通路
 とまれ先のクリスタ&レンダの段では、下に格子戸のある階段をおりたその先で、上に格子戸のある縦分割階段がさらに下へおりていくという順になっているようでしたが、ここでは下層の格子戸は見当たりませんでした。

 目を見開いてベッドに横たわるラウレンと医師をはじめとした一同の場面に続いて、雷が鳴る夜、岩の上の十字架のカットをはさんで、レベッカとステフィが同じベッドで寝ています。ステフィはレベッカの鼻をつまみますが起きません。ステフィはつけまつげが異様に長い。突風でフランス窓が開くと、向こうはバルコニーのようですが、こわばったクリスタが立っていました。
 片目をひくひくさせる男ロキが入ってきて、陽気なラグタイム風の音楽が流れて調子が変わります。3人でことに及ぶ。
『イザベルの呪い』 1973 約1時間5分:城の外観、下から  約1時間4分、緑に染まった夜の月夜に続いて、霧の中、昼間の城が下から見上げられカメラは右から左下へ流れる。加えてベッドのラウレン、これらが交互に配されます。檻の中のラウレンのカットもある。ナレーション付きです。
 つり目娘の部屋です。突風で窓が開く。
 黒髪娘の部屋です。やはり窓が開いたようです。左に黒髪娘、その右で鏡に映る像が横に並ぶ。暗がりを誰かが進む。
 風景画の掛かったまた別の娘の部屋です。ここでも風で窓が開く。
 つり目娘のもとには黒マントの司祭、首筋に咬みつく。祈る司祭のカットがはさまれます。
 ピアノに向かっていた黒髪娘のもとには黒マント黒服の新城主、この部屋にはロココ風の雅宴画が掛かっていました。広間での新城主と夫人との会話がはさまれます。
 もう1人の娘の部屋には黒マントの召使、燭台を掲げて隠秘学者のもとに進むカットがはさまれます。
 さらに別の娘が老人といる部屋に黒マントの医師、この部屋には風景画が何点も掛かっている。別の短髪娘を診察する医師のカットが挿入されます。

 約1時間11分、左右を壁にはさまれたその向こう、夜の岩のようなものをとらえたカメラは上向きになり、頂きには木の十字架がありました。雷鳴とともに十字架は燃えだす。
 つり目娘と黒髪娘は逃げだす。裸身に黒マントです。やはり挿入される十字架のショットは夜ですが、逃げだした2人の娘の場面は昼間のように明るい。つり目娘の名がマベル、黒髪娘の名がエリザベートであることがわかる。岩の途中に司祭が立っています。村の老婆たちが2人の娘を魔女だと告発する。十字架のそばにいると2人娘のまわりは夜の暗さです。
『イザベルの呪い』 1973 約1時間13分:村の家の戸口にある狭い石段 戸口からおりる狭い石段や村の狭い道の階段、小広場などが映ります。
村人たちが群がり集まってくる。村人たちの様子は素人だけにいやあな感じがいや増ししますが、道幅が狭く入り組んだ石造りの山村の眺めはなかなか魅力的でした。
 昼と夜が入り乱れる中、2人娘は二叉の杖でちくちくされます。マベルは黒マントの下に黒いパンツをはいていました。隠秘学者、婚約者、医師も告発に加わる。3人の背後に離れて城があるようです。逃げだした2人娘の背後に廃屋、その左少し上に円形の低い石の囲いがある。その中に三つ叉磔台がありました。村人たちに混じってこちらを向く隠秘学者、婚約者、医師はこわばって蒼褪めています。
 また夜に替わると、円形囲いの中で炎が燃え立ちます。円形囲いには下から数段のぼり階段がついている。ここは?と問うエリザベートにどこでもないとマベルは応える。煙の中、2人はくずおれる。カメラは上昇して夜空を見上げます。
 約1時間17分、格子戸の下の縦分割階段にラウレン(?)が立っています。薄暗い赤の照明です。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間18分:格子戸の下の縦分割階段
誰か男の声が詠唱しています。暗い下・手前から背を向けたマベルとエリザベート(?)が階段の方へ進む。
 書斎に入ってきた婚約者が隠秘学者を問いただします。私には何もできないと隠秘学者はいう。婚約者はナイフを突きつけますが、ねじふせられる。隠秘学者が話しだすと暗くなり、赤や緑の照明が当たる。私は沈黙を守ってきた、私が見たことは幻覚かもしれん、だが現実だと言うこともできる。ナイフを投げます。私も月の夜が怖い。召使が笑いだします。
 ベッドのラウレンです。扉が開き黒マントが入ってくる。緑の壁を背に、召使がどこやら上から見下ろしています。左にランプがある。婚約者が駆けつけると誰もいません。
 黄の壁のアーチの奥の階段が正面から捉えられます。ステフィが駈けおりてくる。アーチの向こう・右の半円アーチ扉から婚約者が、同じく左の扉口、またアーチ手前左の扉からもそれぞれ女性が出てきます。
 約1時間21分、何やら鎖が渡された粗壁に開いた扉口、その向こうに下りの湾曲階段がありシルエット化した婚約者がおりてくる。かなり下からの仰角です。階段室の壁は緑でした。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間21分:格子戸とその向こうに湾曲階段
 切り替わるとやはり壁が緑の階段室がかなり下から見上げられます。左下がりの金属の手すり、および天井から吊りさがるランプの影が壁に大きく落ちている。この階段室は以前、ステフィが通って広間に出たもののようです。召使がおりてきます。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間21分:壁が緑の階段室
婚約者が左下へ、また召使のカットになる。
 瓢箪状のガラス器が大きく正面に配される。上下の膨らみそれぞれに逆さになった顔が映っています。上半が外される。向こうにいるのはラウレンでした。真横になった瓢箪ガラスのカットをはさんで、背後から赤タイツがラウレンの額にバンドを巻く。詠唱付きです。
 瓢箪ガラスの向こうに岩に縛められたイザベッラ、また瓢箪ガラスに逆さで拘束された他の娘たちが映りこむ。瓢箪ガラスはいくつもあるようです。娘は3人、裸身に赤布を引っかけ、拘束台の形も山型、脚立、X字と3様でした。
 約1時間22分、中央に絨毯を敷いた階段が下から見上げられます。階段の右上には欄干が伸びている。あがった先の尖頭アーチの向こうの天井は格子間でした。音楽は軽快です。黒い薄衣のステフィが舞うようにおりてきます。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間23分:黄色いアーチの下の階段
 レベッカとロキがベッドにいる部屋に入ってきます。奥の壁にゴッホの向日葵の絵の複製が掛かっている。額無しです。

 約1時間23分、儀式の間です。瓢箪ガラスと倒立像のアップ、枯木にマベルが縛りつけられています。
 またステフィたち3人の場面をはさみ、婚約者が格子戸をこじ開けようとしている。周囲の石壁や階段は白っぽい。左手の壁は凸凹している。右下では石積みです。
 召使が少し上から見下ろしています。その右背後の格子戸は装飾的な円の連なりをなしていました。以前クリスタの背後に見えたのと同じなのでしょうか。手前右で壁から何やら上面が水平、下の面で右下に波打つ何かが突きだしていました。何千年も前からの開かずの扉だという。
 隠秘学者の部屋に新城主夫人が訪ねてくる。新城主も見当たらないと聞くと笑いだします。照明が赤や緑、紫や黄に変わる。
 召使の背後に隠秘学者が現われます。後ろには新城主夫人もいます。死者の魂を探したければ死者の国に行くんだという。お前も地獄へと、逆らった召使を右方へ進ませる。
 儀式の間です。囚われの娘たちに赤タイツ青塗り男たちが盃を差しだす。クリスタとレンダ(?)も差しだす側に加わる。瓢箪ガラスのカットをはさんで大騒ぎ、ステフィたちの場面、ラウレンの背後に立つのは青塗り赤タイツの新城主でした。時に水平になる瓢箪ガラスのカットが何度か挿入されます。


 約1時間31分、暗く狭そうな廊下を召使が背を押されて進んでくる。白っぽいスポット・ライトが召使に合わせて動きます。やや下からの視角でした。
 蛇だの何だのがいる地面から下向きカメラが急速に上昇、両側を壁にはさまれた狭い階段がかなり上から見下ろされます。おりた先はすぐ壁で、左右に通路が伸びているようです。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間31分:狭い階段、上から
怯える召使は隠秘学者に突き落とされる。夫人もいます。彼らが通って来た廊下は天井が低く、中央で少しだけ高くなっている。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間31分:狭い通路、下から
 暗い中白い枝を映すカメラが右に左に揺れる。儀式の間も揺れ、いくつもあった瓢箪ガラスが皆割れ砕けます。開かれていたイザベッラの目が閉じる。青塗り赤タイツの新城主も動揺し、ラウレンの肩を押さえたままイザベッラの足もとに倒れかけます。
 木の枝で組んだ柩の中に横たわる人物がいました。ずっとこの柩を探していたと隠秘学者はいう。
 真っ暗な中、左に紫照明の隠秘学者、中央に黄照明のしゃがんだ召使、右に婚約者がいずれも左を向き、間を置いて横に並びます。柩を開けられるのはラウレンだけだという。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間32分:闇の中の三人、真横から、それぞれ異なる色の照明
 青塗り赤タイツの新城主がラウレンの首筋に咬みつきます・イザベッラがまた目を開く。笑いだします。しかしラウレンは拒む。新城主は苦悶します。
 真っ暗な画面、左辺沿いに隠秘学者の顔右半分で切られる。続いて右辺沿いに召使の顔左半分が配されます。赤や紫、緑の光がちらちらする。カメラが右に滑ると婚約者の顔が入ります。右半分が陰になっている。
 柩の中の男に続いて、画面右半分に隠秘学者のアップ、赤く染まります。隠秘学者が睨みつけると柩も赤くなる。柩の中の男が塵に変じます。
 左に隠秘学者と召使、少しあけて右に婚約者がこちらを向いている、間にラウレンが現われます。左の2人だけちらちら色が変わる。お城の地下で迷ったというラウレンに、君は死者の国から僕たち3人を現代に甦らせたと隠秘学者は応えます。ジャックは下僕でイザベッラは隠秘学者の恋人、ジャックとイザベッラは密通した、隠秘学者は500年耐えてきたという。
 灰になったはずのジャックが赤に浸された状態で映ります。枝の柩に入り、隠秘学者に渡されたナイフをラウレンは振りおろす。
 約1時間36分、ベッドに横たわるラウレン、向こうに横長の鏡がかかっていますが、見えない手前にも鏡があるのでしょう、合わせ鏡をなしています。と思ったらカメラは右へ、ラウレン本体が映る。奥は壁面全体が鏡だったようです。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間36分:ベッドと合わせ鏡
 起きあがって黄の壁のアーチ奥、中央に絨毯を敷いた階段を駈けおりてきます。 『イザベルの呪い』 1973 約1時間37分:黄色いアーチの下の階段
『イザベルの呪い』 1973 約1時間37分:アーチ、円柱、鋸歯型胸壁 手前に走り、切り替わるとアーチと円柱、奥に鋸歯型胸壁のあるテラスです。手前で蔦に覆われた幅広アーチが縁取っている。
向こうを左から右へ、カメラもそれを追います。手前右に婚約者がいました。
 2人が見下ろした先、森の中ではチュチュを着たステフィが、レベッカとロキの支える横に渡した棒から落ちる。カメラは急速で左上へ、青く染まった城の外観を最後に映して幕を閉じるのでした。

 儀式の間は城の地下、縦割り階段をくだった先にあるようにも見えますが、新城主や召使など現在の城にいる人物と対応する赤タイツたちが跳梁する点からして、この世とは別の領域とも解せそうです。召使が階段から突き落とされて地震状態になる点からすると、枝の柩の中で眠るジャックの見る幻だったのかもしれません。柩の中に実体はとどまり、幻が地上で活動するというのは、『女ヴァンパイア カーミラ』の設定でもありました。
 他方柩を見つけた隠秘学者たちが立つ真っ暗な空間と対面することを思えば、真っ暗な空間も柩もまたレヴェルの異なる異界に位置しているともとれそうです。
 召使や隠秘学者の後ろに着いてきた夫人、儀式の間で囚われていた娘たち、そして新城主や隠秘学者、召使、それに司祭や医師たちはどうなったのか、わからずじまいでした。他方最後直前のショットがステフィの姿だったのは、どういう意図なのでしょう。
 編集を監督のポルセッリ自身が担当している点からして、頻繁かつ急速なカットの交錯は意識的に組みあげられたものなのでしょうが、把握しづらい点は把握しづらいままに、バルソラーノのピッコローミニ城の姿、城壁上の歩廊、いくつもの階段が登場し人物たちがそこを動き廻る点をもって、古城映画として記憶することにいたしましょう。

 
Cf., 

山崎圭司、「レナート・ポルセリ 人間の本質を見つめた孤高の探求者」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.168-171

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, p.153

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.301-302

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1970-1979, 2017, pp.102-104 
 2016/7/19 以後、随時修正・追補
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