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襲い狂う呪い *
Die, Monster, Die!
    1965年、USA 
 監督   ダニエル・ハラー(ホラー) 
撮影   ポール・ビーソン 
 編集   アルフレッド・コックス 
 美術   コリン・サウスコット 
    約1時間18分 ** 
画面比:横×縦    2.35:1 *** 
    カラー 

VHS
* TV放映時の邦題は『悪霊の棲む館』
** [ IMDb ]によると約1時間20分、DVDでは約1時間15分
*** 手もとのソフトでは1.33:1
………………………

 上記のように手もとのVHSソフトでは画面左右が半分近くトリミングされていることになり、この映画を見たとはとても言えたものではなく、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

  ダニエル・ハラー(ホラー)は『アッシャー家の惨劇』(1960)に始まるコーマンのポー連作で美術を担当し、各作品のイメージを形づくるのに小さなからぬ役割を果たしてきました(『黒猫の棲む館』(1964)ではクレジットはされていませんが [ IMDb ]によれば携わったとのこと)。『吸血鬼ドラキュラ』(1958)などハマー・フィルムの怪奇映画におけるバーナード・ロビンソンとともに、その功績は大いに顕彰するべきところでしょう。本作はそのハラーが監督に転身した第1作です。コーマンは関わっていないようですが、ポー連作同様A.I.P.で製作され、それかあらぬか、カメラの動きや視角の取り方、館の外観を挿入するタイミングなど、初監督といいながらポー連作におけるコーマンの作法を完全に自家薬籠中のものとしています。いいといっていいのかどうか、連作の続きといわれればすんなり受けいれることでしょう。仔細に分析すると各監督の違いもはっきりさせられるのかもしれませんが、残念ながら当方にはそれだけの目がありません。
 美術は『赤死病の仮面』(1964)と『黒猫の棲む館』で共に仕事したコリン・サウスコットが担当しています。セットもポー連作に劣らず作りこまれ、登場人物たちは階段をのぼりおりし、廊下を行ったり来たりしてくれます。目を引く調度にも事欠きません。それどころか『黒猫の棲む館』を除く連作の全てに登場した地下室までちゃんとある。惑乱場面こそ欠いていますが、肖像画も出てきます。
 なお[ IMDb ]によるとイギリスのバークシャー州にあるオウクリー・コート
Oakley Court, Windsor Road, Oakley Green, Windsor, Berkshire, England, UK でロケされたとのことです。主な舞台となる館の外観に用いられているようです。英語版ウィキペディアの Oakley Court の頁によると(→こちら、とりわけ"6. Film set" の項を参照)、オウクリー・コートは Bray Studios に隣接しているためしばしば映画にも登場しているそうで、気づきもしませんでしたが、[ IMDb ]で確認するとハマー・フィルムの『フランケンシュタインの逆襲』(1957)、『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)、『フランケンシュタインの怒り』(1964)、『吸血ゾンビ』(1966)、『蛇女の脅怖』(1966)などでもロケされていたのでした。この他『ロッキー・ホラー・ショー』(1975、監督:ジム・シャーマン)でも登場するそうです。
 主演はポー連作の『忍者と悪女』(1963)とその姉妹篇『古城の亡霊』(1963)に続いてボリス・カーロフがつとめています。またお話を動かす役にあたるニック・アダムスは、本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣』、『怪獣大戦争』に出演した男優としてお馴染みです。並べてみれば本作とこの2作も同じ1965年の製作でした。カーロフ演じるナウム・ウィットリーの娘にしてアダムス演じるスティーヴン・ラインハルトの恋人でもあるスーザンに扮するスーザン・ファーマーは、ハマーの『凶人ドラキュラ』(1966)で弟の妻ダイアナとして再会できるでしょう。ナウムの妻でスーザンの母レティシア役のフリーダ・ジャクソンは『吸血鬼ドラキュラの花嫁』でグレタ役を演じたほか、『吸血狼男』(1961、監督:テレンス・フィッシャー)やハリーハウゼン特撮の『恐竜グワンジ』(1969、監督:ジェイムズ・オコノリー)に出ていたとのことです。この他『赤死病の仮面』に出演したパトリック・マギーが出番は少ないものの、町の医師役をつとめています。
 本作はラヴクラフトの「宇宙からの色」(1927)を原作としています。脚本はジェリー・ソール。A.I.P.としては『怪談呪いの霊魂』に続く2度目のラヴクラフトの映画化にあたります。『怪談呪いの霊魂』の際はコーマンの意に反して、ラヴクラフトの名前を出すより無理にでもポーに結びつけたとのことで(下掲「ラヴクラフト/クトゥルー神話映画リスト」、p.(38)、「クトゥルー神話シネマ・ガイド」、p.168)、ラヴクラフトを売り物にしようとしたと考えが変わったのかどうか、後にはコーマンのプロデュース、ハラー監督で『ダンウィッチの怪』(1970)を製作することになります。
『襲い狂う呪い』 1965 約0分:色の渦  映画は薄緑の渦に赤が加わり、次々と色が変わっていきつつ、逆時計回りに回転する画面から始まります。これもコーマンのポー連作の冒頭を連想させる点でしょう。
 次いで駅に汽車が到着する。スティーヴン(ニック・アダムス)が下車します。駅の表札には「アーカム ARKHAM」とある。駅を出れば鄙びた田舎町です。タクシーの運転手から「アメリカ人か?」と言われるので、舞台はイギリスに設定されているらしいと察せられる。「ウィットリー家」と行き先を告げたとたん、乗車拒否されます。八百屋、酒場、自転車屋で道を尋ねてもいずれもとりあってもらえません。詮方なく徒歩で向かうことになる。
 牧場を横目にし、土手を歩いている内はのんびりした景色だったのですが、
『襲い狂う呪い』 1965 約7分:アーカムの村と館との間の荒野、凹み 少しすると画面下辺沿いに小さく右から歩くスティーヴンに対し、かなり上から見下ろされた向こう側は、草一本はえていない茶色の波がうねるような眺めとなります。左側には大きな凹みが穿たれています。手前右に先の折れた枯木が立ち、幹から左下に1本だけ枝を垂らしている。カメラは少し右から左へ動きます。マット画ですがものすさまじい雰囲気に満ちていました。残念ながら登場するのはここだけです。
 このあたりは葉の落ちた木ばかりで、触れると炭のようにぼろぼろと崩れるのでした。

 やがて霧が立ちこめ始め、その中に鉄の門が見えてきます。立ち入り禁止の札が貼られており、しょうことなく脇から潜りこむ。左奥から右手前に橋がかかっています。欄干が白い。この辺は緑が豊かで、画面手前は網状に枝が覆っている。スティーヴンが橋を渡るとともに、カメラは左から右へ動きます。陰で黒衣の人物がそれを見ている。
 スティーヴンが奥から手前へ進みます。手前に水盤を支える彫像が大きく映りこみます。鳥か虫が鳴いています。上から見下ろしていたカメラは少し後退し、少し下へ下がります。スティーヴンは噴水の向こうを左から右へ進む。
 カメラも左から右に動くと、手前に噴水を配し、
『襲い狂う呪い』 1965 約9分:館+霧 先に館が見えてきます。館は2階建てのようで、左右に伸びている。左と中央で半円形に迫りだしています。中央に迫りだした部分の前、右寄りにくだり階段がおりています。階段は途中に踊り場をはさんでいる。
またカメラは左から右へ動き、スティーヴンは手前から奥へ進む。
 またしても黒衣の人物の姿が挿入されます。今回は腰から上を下から見上げてとらえられます。
 スティーヴンは画面下辺沿いを右から左に進みます。手前に金属製の街灯、奥に館があります。霧が濃くなったようで、シルエットと化しています。屋根に煙突類が何本もつき立っているのが見えます。先の荒野の場面に続いて、屋外で下辺沿いを小さな人物が横移動するという画面でした。こうした動きは後にも反復されます。


 温室のようなガラス貼りの天井が映されます。カメラが上から下へ動くと、温室ではなく玄関前のポーチでした。ただし温室も後に出てきます。スティーヴンはノックしますが返事はない。扉が開いたので中に入る。
 屋内からの視角に換わると、奥に半円アーチの玄関扉があり、同じ幅で少し前に来た後、左右に空間が伸びます。手前左右に円柱が立っている。スティーヴンは奥から手前にやってきます。カメラは少し左から右に振られる。
 スティーヴンが見回すのに応じてカメラが左から右へぐるっと撫でます。柱時計、その右に扉口、
また右に階段と並ぶ。階段は奥に少しあがって踊り場となり、折れて右にあがっていきます。欄干は木製です(追補:→「四角錐と四つの球 - 怪奇城の意匠」の頁も参照)。 『襲い狂う呪い』 1965 約10分:一階から二階への階段
もう少し視線を少し右にやり、声をかける。また右へ、柱時計とその右の扉口を向けば、扉口の向こうに暖炉が見えます。
 そこにナウム・ウィットリー(ボリス・カーロフ)のアップが下から映される。背後には階段の折れ曲がった部分が大きくのぞいています。左にスティーヴンを横向きで、右下に車椅子のナウムが配されます。奥に赤い天蓋つきの籠のようなものが見えますが、その用途は後にわかることでしょう。スティーヴンはナウムの娘スーザンとアメリカの大学でいっしょになり、本人は科学を専攻しているとのことです。ナウムの妻すなわちスーザンの母から招待状を受けとってやって来たのでした。階段の向かいにある扉口に男が立ちます。執事のマーヴィンです(テレンス・ド・マルネー)。ナウムは一刻も早くスティーヴンを追い返したそうですが、吹抜の2階からスーザン(スーザン・ファーマー)が声をかけます。このあたりの展開は『アッシャー家の惨劇』を連想させずにいません。

 スーザンのいる回廊が下から見上げられます。手前に欄干があるのですが、右側では途切れてロープを渡してあります。いささか危なそうですが、これには理由があるのでした。とまれスーザンは右から左へ進み、左端で折れて階段をくだります。
さほど行かずすぐ踊り場になる。奥には扉口があり、その左に鏡がかけてあります。 『襲い狂う呪い』 1965 約12分:階段、踊り場附近+鏡と扉口
鏡の前でささっと身繕いして少し左に進み、すぐ左下への階段に続きます。彼女が階段を駈けおりるのをカメラは下から見上げています。また踊り場となり、折れて右下におりる、手前に木の柱があります。この間にカメラは右へ振られ水平になっている。また上の方の踊り場の下が奥まっており、扉か何かがあるようです。カメラはさらに右へ動き、スティーヴンの胸に飛びこむ。1ヶ月ぶりとのことです。

 スーザンはスティーヴンを母親が会いたがっていると2階へ案内します。かなり上から車椅子のナウムとそれを後ろから押す執事が見下ろされます。踊り場でスーザンは肖像画を指さす。少しゴッホ風でしょうか。曾祖父のイライアスとのことで、150年前にこの家を建てたという。少し上にもう1点かかっています。2人は正面向きでとらえられ、奥の扉口に真紅のカーテンが寄せられているのが見えます。もう1点の肖像画は祖父のコービンのものなのですが、スーザンは少し口ごもる。彼は発狂したというのです(追補;→「怪奇城の画廊(中篇)」の頁も参照)。またかなり上からナウムと執事が見下ろされる。換わって少し近く映されます。ナウムはとにかくスティーヴンを帰さないと、といいます。
 2人は2階の廊下を左奥から入ってきて、手前へ進みます。母の部屋に入る。それなりに広くて、右から左へ進みます。母のレティシア(フリーダ・ジャクソン)はヴェイルの向こうにいて姿が見えません。スティーヴンと2人で話がしたいという。
 地下室が斜め下から見上げられます。画面手前で縦の格子が斜めに並んで上下を貫いています。奥の扉からナウムと執事が出てくる。左には鉄格子、その前から右下へ階段がおりています。階段の右は少し伸びているのですが、ここに車椅子用のエレヴェーターがあるのでした。 『襲い狂う呪い』 1965 約14分:地下への階段、下から格子越しに
執事は階段をおり、ナウムはエレヴェーターで降下します。綱を引くと滑車を介して錘が上げ下げされるという手動の仕掛けです。カメラが左から右へ振られ、手前は鉄格子から煉瓦の壁に移る。その右では上に低い幅広半円アーチがかぶさり、向こうにエレヴェーターが見えます。
 2人は奥から手前へ進む。手前左に格子があり、その下半は放射状の格子になっています。双方の影は右下の床に落ちている。 『襲い狂う呪い』 1965 約14分:地下の通路
2人はその前を手前に来ますが、カメラ近くで執事がよろけます。ナウムは心配そうです。
 一方母はスティーヴンに箱に入ったイアリングのことを話しています。それはメイドのヘルガのものだったのですが、彼女は重い病にかかったということです。
 また地下です。2人は奥から手前へ進み、右に折れます。
右奥に格子戸が見え、手前左寄りには方形の井戸のようなものが現われます。上には鉄格子がはまっており、下から緑色の光と煙を発しています。機械音のような音も響く。『怪談呪いの霊魂』の地下が思いだされるところです。また左右に柱が立ち、そこから暗緑色のひしゃげた髑髏状の器具を吊してあります。髑髏の両目から手前に鎖だか綱が斜めに格子につながっており、柱の外側には滑車のようなものがあるので、格子を上げ下げするための設備なのでしょう。だから髑髏型というのはそう見えるだけかとも思ったのですが、そうではなかったようです。
 井戸状の部分は下で少し幅が広くなり、床との間にはさらに広い台座をはさんでいます。
『襲い狂う呪い』 1965 約17分:地下、井戸状の設備+青緑の光と髑髏状の器具
車椅子のナウムが右前に回ると、奥・左の壁にゆがんだ髑髏のような何かが見えます。これもこの時点ではそんな風に見えるだけかとも思ったのですが、そうではなかったようです。執事は井戸を上から覗きこんでいる。
 井戸の上の髑髏状器具は下辺が鋭いギザギザになっています。カメラは右下から上に動き、そのまま左へ、左下にさがってさらに左へ動く。壁に無気味なものが描かれており、確かにそれは髑髏だったのでした。


 メイドのヘルガはヴェイルをかぶるようになり、何か怖ろしいことが起こっていると言い残して姿を消しました、その時イアリングを落としていったというのです。母はスーザンを連れだしてくれとスティーヴンに頼みます。
 ナウムと執事は温室に入っていきます。
 スティーヴンは母の部屋を出て、スーザンと廊下を左に進みます。
そのまま右から左へ行くと、奥で廊下が直交しています。扉口を経て、その奥に窓が見える。 『襲い狂う呪い』 1965 約20分:二階廊下
その先の扉がスティーヴンに割り当てられた部屋でした。中に入る。カメラは少し斜めになっています。2人がキスしているところへナウムが扉を開きかけますが、そのまま閉じて妻の部屋に入り、右から左へ進む。妻は怖ろしいといい、ナウムは祖先の罪のせいかと答える。このあたりも『アッシャー家の惨劇』が連想されます。ナウムが父はずっと前に死んだ、残したのは地下室の無害なものだけだという。ナウムがヴェイルを開けようとすると、妻は光を当てないでという。あなたは父親に似てきたともいえば、自分は呪文を唱えたりしないとナウムが返します。父は死ぬ時に悪の力へ祈りを捧げたとのことで、先代のこうした所業がアーカムの村人たちの態度の原因らしいとわかってきます。あなたは真実を知るだろうと妻がいえば、真実とは未来のことだ、豊かさのことだと答える。カーロフ実に雄弁です。妻は破滅が見えるといいます。
 ナウムの父コービンの肖像がアップになり、暗くなったかと思うと目元だけに光があてられる。


 館の外観が挿入されます。やや近づいた眺めで、やはり霧が立ちこめ、鳥が鳴きます。
 部屋に来たスーザンに母は「お聞き」と耳をすまさせる。
 聖人像でしょうか、木の浮彫が映ります。横に4体並んで1組、それが横に3組、上下に2段あり、左右を2倍の大きさの聖人像がはさんでいます。カメラが下から上へ振られると、それが暖炉の上に据えられていることがわかります。
カメラはそのまま右へ、奥にフランス窓が並び、その手前に少し間を置いて欄干の区切りが配されています。欄干の手前右に扉があり、さらに右には細かく浮彫を施した捻り柱のようなものが見えます。これは後に、円柱に蔓が螺旋をなして巻きついていることがわかります追補:→「捻れ柱 - 怪奇城の意匠より」の頁も参照)。 『襲い狂う呪い』 1965 約30分:書斎の一角、奥にフランス窓
その前のテーブルでスティーヴンが本を見ている。背後すぐ右に蔓巻き柱が見えます。左は書棚ですが、ただしその下半は板で覆われ、板には大振りな渦巻紋様が描かれています。スティーヴンが見ている本はコービン・ウィットリー Corbin Witley 著『外なるものどもの崇拝 Cult of the Outer Ones』というものです。始めの方の頁は大映しにされ、すぐあとでもう1度アップになりますので、書き写しておきましょう;
Cursed is the ground
where the Dark Forces
live, new and strangely
bodied …
He who tampers there
will be destroyed …

日本語字幕では
「地下にいる奇妙な新生物に手を出した者は破滅する」
とありましたが、もう少し直訳調にするなら、
「呪われているのは、闇の諸力が新しく、また奇妙な形もて生きる土地である…そこで手を出す者は滅ぼされることだろう…」。
'new'がどうかかるのか当方の英語力ではよくわかりませんが、おおよそこんな感じでいいでしょうか? 原作には登場しないようで、ラヴクラフトの他の作品かクトゥルー神話関連の作品に出てくるのか、あるいはオリジナルなのかはわからないでいるのですが、それらしい雰囲気は出ていると見なしてよいでしょう(追補:→「怪奇城の図書室」の頁でも触れました)。
 鏡を前にしたスーザンが左を向くと、窓に黒ヴェイルの人物がはりついています。スティーヴンは悲鳴を聞いて書斎の扉を開ければ、スーザンが飛びこんでくるのでした。速い。スーザンはスティーヴンに抱きついて窓に何かいたという。ふと見ると書斎の窓にまた黒ヴェイルの人物です。スティーヴンは逆方向を向いているので気がつきません。
 祖父の肖像で、また目元だけが光ります。


 黒い装飾的な椅子の背が大きくアップになり、カメラは左から右へ動きます。ヴェイルの奥から母の手が出てきて掌で蠟燭の火を消す。
『襲い狂う呪い』 1965 約33分:館+霧  館の外観がやや下から見上げられ、画面いっぱいを占めます。3階まであります。随所の窓に灯りがともっている。虫の声つきです。
 斜め上から暗い階段周辺の吹抜が見下ろされます。左下に右下がりの階段が見え、その左上にシャンデリアがかかっている。右半ばから左下がりに踊り場で曲がった向こう側の階段が配されています。その右上に扉口、その左に柱時計があります。 『襲い狂う呪い』 1965 約33分:階段、上から
悲鳴だか叫びが響きます。
 スティーヴンが自室の扉から出てくる。画面左側で、すかさず突きあたりの扉からスーザンも現われます。2人は手前に進み、左に折れる。吹抜の回廊、ロープを渡した部分の左奥から出てきます。スーザンは蠟燭を1本のせた燭台を手にしている。カメラはやや下から見上げていたのが上からに換わる。2人が左へ進み、またカメラはやや下から見上げる。階段をおりていくにつれ、カメラは下向きになる。途中でまた叫び声が響く。階段をおりると右へ進みます。カメラもそれをやや上から追う。
 2人が正面からとらえられます。背後の右には階段、左に扉口が見える。画面左右を壁が縁取っています。2人が近づいてくると右に扉があります。中を見回せばカメラも左から右に振られる。2人の首から上が左から右へ進み、次いで足もとのアップがやはり同じ方向に進みます。カメラも後退しつつそれを追う。また首から上になり、暖炉の火が跳ねる。腰から上で左から右に進みます。先に扉がある。向こうは執事の部屋とのことです。スティーヴンが扉を開き、中に入って左から右へ進めば、また扉となる。中からナウムが顔を出します。マーヴィンが死んだという。ナウムは中に戻り、扉を閉じる。
 スーザンとスティーヴンは2階の部屋の前でおやすみといって別れますが、スティーヴンはそのまま廊下を戻り、回廊から階段へおりていきます。カメラの動きも前段と同じです。
 扉の奥から何やら物音がする。ナウムが出てきて何とか車椅子を押しながら右へ向かいます。車椅子の上には何か黒い箱をのせています。とはいえ人を容れるには小さい。右にしばらく進んでその先の扉は外に面しているのでした。手前・左側の壁はがらんとしており、窓の影のみが落ちています。
 スティーヴンはマーヴィンの部屋をのぞきます。床に人影のような形が焦げついている。それを確かめるとナウムを追って外に出ます。ナウムは土を掘っています。
『襲い狂う呪い』 1965 約40分:温室+脈打つ光 温室の中で何やら青い光が揺れ、象の鳴き声のような音がする。
スティーヴンは温室の方へ右から近づきますが、扉には錠がかけてある。物音にナウムは車椅子に乗って確かめに来ます。スティーヴンは左手前から逃げだす。ナウムは錠を確かめ、左上を見上げます。
『襲い狂う呪い』 1965 約41分:館、斜め下から+霧  館の暗褐色の外観が、斜め下からとらえられる。霧がひろがり、空は暗青色です。館の左端・すぐ右で前に迫りだしており、その右の2階の窓に灯りがともっている。窓の上は装飾の覆い三角破風でした。
 また別の外観です。斜めの視角で、シルエットと化しています。夜明け前のような微かな光が、複雑な凹凸を浮かばせています。その下を左奥から右へスティーヴンが走ります。下辺沿い横移動の第3回です。
 スティーヴンは書斎のフランス窓から入ってくる。 『襲い狂う呪い』 1965 約41分:書斎のフランス窓
扉を開けっ放しのまま右に急ぎ、カメラが斜め上からになって階段を駈けのぼる姿をとらえる。 『襲い狂う呪い』 1965 約41分:階段、上から
ナウムも追って同じ経路を取ります。スティーヴンは自室で眠ったふりをし、それをナウムがのぞきこむ。どうやって2階に上がってきたのか、この時点でははっきりしませんでした。ナウムは出ていきますが、扉をきちんと閉めません。スティーヴンが起きだして扉を閉じる。

 朝の館の外観です。やはり霧つきで、その下を右から左へスティーヴンが進みます。下辺沿い横移動の第4回です。黒衣の人物が胸から上の姿で大きくとらえられる。橋をスティーヴンが背を向け、手前から奥へ渡っていく。また叫びが響きます。黒衣の人物がナイフを手にスティーヴンに襲いかかる。
 町です。スティーヴンは公衆電話のボックスに入り、窓からそれを見ている人がいます。スティーヴンは医師宅を訪れる。奥に石造の教会が見えます。電話帳で住所を調べたとのことです。ヘンダースン医師(パトリック・マギー)にウィットリー家のことを尋ねますが情報は得られません。ただ帰り際に家政婦が、先生はかつて名医だった、しかしコービンの臨終に往診してから人が変わってしまったと教えてくれます。
『襲い狂う呪い』 1965 約48分:館+霧  館の外観を経て、
母の部屋をスーザンがノックし、次いでナウムも現われますが返事はありません。室内の荒れた状態が映されます。
 橋をスーザンとスティーヴンが左から右へ渡ります。スティーヴンは左で背を向け、スーザンは右で斜めに前向きです。向こうに木組みの大きな三角屋根が見え、下に欄干がある。その下は柱で川にかかっているようです。
 ナウムは妻の部屋の前で町の医者のところへ行こうと声をかけます。室内の妻は顔の半分がただれ、髪の毛も抜け落ちています。
 スーザンとスティーヴンは温室の前に来ます。カメラは斜めになっている。錠がかかっていますが、スーザンは抜け穴を知っていました。裏に回って窓の下の塀がはずれるのです。2人は中に入る。
果実や花がいちじるしく大きくなっています。 『襲い狂う呪い』 1965 約50分:温室+肥大化した植物
板貼りの向こうから叫びが聞こえる。以前は鉢植えを置く部屋だったという。扉から入ります。中は暗い。床にストーヴのような低い格子が置いてあり、青い光を発したかと思ったら、赤や紫に変化します。それを見る2人が斜め下からとらえられる。また叫びが響く。
 奥に檻がありました。中には蛸のような生物が蠢いています。けっこう大きそうです。黒目が2つある。スティーヴンは放射能による突然変異だという。 『襲い狂う呪い』 1965 約51分:温室、奥の部屋+変異した生物、手前に発光する石のかけら
 スティーヴンは鉢の土に緑の結晶が埋められているのに気づきます。発熱している。何かから切りとられたものだとスティーヴンはいう。
 スーザンの背後で植物が動き、蔓を絡みつけます。スーザンのアップになる。吸血植物でしょうか。


 2人は階段左の扉口の奥から出てきます。カメラは左から右へ動く、階段右奥の扉が地下室に通じているという。スーザンを残してスティーヴンはおりていきます。
 手前の格子越しに、斜め下から地下室の階段の上が見上げられる。やはり暗い。奥の扉からスティーヴンが出てきて左へ進む。切り替わると下から縦格子越しに、右上がりの階段がとらえられます。右からスティーヴンが階段をおり、 『襲い狂う呪い』 1965 約55分:地下への階段、下から格子越しに
踊り場を経て右下へ、カメラも踊り場で左から右へ振られる。かすかに下向きになっています。階段をおりて右へ進み、短い壁越しになって、
また右手前へ、奥には大きな樽が積みあげてあります。カメラも左から右に動く。階段をおり始めてここまで1カットでした。
 左奥から出てきて手前へやって来る。カメラはやや上・やや斜めです。カメラの前を横切り右へ進めば、カメラも右に動きます。
『襲い狂う呪い』 1965 約55分:地下の通路
 一方スーザンは2階への右上がりの階段を駆けあがります。上から見下ろすカメラが左から右に動く。途中で手前に大きく装飾的な柱が映りこみます。
踊り場の真紅のカーテンがかかった扉口の向こうに、右下から左上に湾曲しながらあがる階段がのぞいています。残念ながらその先は登場しませんでした。スーザンは手前に来る。胸から上が大きくとらえられます。 『襲い狂う呪い』 1965 約58分:階段の踊り場附近、扉口の向こうにもう一つの上り階段
 地下ではスティーヴンが右手の扉へ向かう。扉にスティーヴンの影が落ちています。斜め左に背を向けている。扉を開くと中から骸骨が飛びだしてきます。
 低く幅の広い尖頭アーチの奥からスティーヴンが手前に進んできます。アーチの右には縦の格子があります。大きな蝙蝠が飛び交う。骸骨も蝙蝠もこの後の筋運びには関わってきません。こうした状況ならこれをやっておかないと、とでもいわんばかりです。
 手前に赤茶色の井戸状のものがある広間の、右奥からスティーヴンが出てくる。井戸の上には半円アーチがかぶさっています。井戸の上で緑の照明があたっている。 『襲い狂う呪い』 1965 約59分:地下、井戸状の設備+青緑の光
壁の髑髏が下から見上げられます。両目の奥で結晶が反射します。次いで悪魔像、井戸の上のひしゃげた髑髏が次々とアップになります。
 スティーヴンは井戸の向こうを回って右から台座にのります。カメラは左から右へ追っている。下から光と音がする。ナウムが肩に手をかけます。ただの石だといいますが、スティーヴンは引かず言い争いになったところへ、悲鳴が上から聞こえてくる。
 スティーヴンは4カットを経て上に駆け戻ります。ナウムも同様のカットを重ねる。スティーヴンは階段の右下から出てきて、切り替わって階段を駈けのぼるさまが斜め上から見下ろされる。ナウムのカットと交互に連ねられる。2階の廊下にスーザンが倒れています。階段の右手前にある赤い籠が昇降機であったことがわかり、同時にナウムが2階に上がる方法もやっと解決です。映るわけではありませんが、吹抜に面した回廊でロープを張ってあった箇所は昇降機に乗り降りする位置にあたるのでしょう。
 雷が鳴ります。スーザンとスティーヴンは右から左へ進み、奥の扉に背を向けます。カメラは少し斜めになっている。ナウムが右から左へ進むさまが、下から見上げられる。その先で赤枠の昇降機が降下し、円の列を刳った黄色い枠が内側に見えます。
玄関の扉が風で開く。 『襲い狂う呪い』 1965 約1時間2分:風で開いた玄関扉、斜めに
スーザンとスティーヴンは別の扉へ向かいます。ナウムは背を向け玄関の方へ進む。カメラは斜めです。
 スーザンとスティーヴンは書斎のように見える部屋に入ってくる。扉の右側に東南アジア風の彫像が置いてあります。
左から右へ進むと、奥の壁龕に《ラオコーン群像》の縮小複製が飾ってあります。右には窓がある。 『襲い狂う呪い』 1965 約1時間3分:書斎(?)+壁龕に《ラオコーン群像》
2人は2階の廊下にいきます。突きあたりの扉から顔や手の崩れた人物が出てきます。2人は奥から手前へ逃れ、人物も追ってきます。2人が階段をおりるさまが上から見下ろされ、カメラはそのまま右から左へ振られる。1階の書斎に入ります。人物は扉を突き破ります。右から左へ、切り替わって左から右へ、そして奥のフランス窓へ。紺の衣を着た人物も奥から手前へやって来る。書斎は手前とフランス窓付近の間に段差があるのですが、その区切りの2段ほどに斜面をなす板が渡してあります。ナウムが右から合流する。やや下からの視角です。紺の衣の人物は倒れ、血を滲ませつつ顔が崩れていきます。

 墓です。コービン・ウィットリー/1869~1942と刻まれています。とするとこの話は映画の製作・公開とほぼ同時期あたりという設定なのでしょうか。カメラは上から下に撫でる。
 墓地をカメラは左から右に撫でます。ナウムとスティーヴンがいます。あの石は父から贈られたものだ、日曜の朝に空から荒野へ落下したとナウムは語る。隕石かとスティーヴンがいいます。翌朝荒野は目のさめるような緑に覆われていた、あれを使って荒野を緑の園に変えようと考えたのだという。しかし石を始末することを決心します。
 館の外観が挿入されます。次いで地下です。下から見上げられます。ナウムは下へおりていく。壁に掛けてあった斧を手に取る。この間井戸の上の髑髏や格子のアップが挿まれます。ナウムは井戸にかぶせた格子を滑車であげます。『古城の亡霊』におけるクライマックスでボリス・カーロフは同じような行動をとっていたことが思いだされます。緑の光がアップになり、点滅する。斧をふるっているところへ、向こうからナイフを構えた黒衣の人物がやってくる。ナウムはヘルガと呼ぶ。斜め下からの壁画のアップを挿み、ヘルガは奪った斧を振るも、井戸の中に落ちてしまう。
 スーザンが荷造りしています。下から悲鳴が聞こえてくる。
 ナウムは石に触れてしまう。頭部の下の方が緑に光ります。
 スティーヴンが階段を駈けおりるさまが斜め上から見下ろされます。
 ナウムのアップが下から見上げられる。頬や手に緑の筋がひろがっていきます。
 地下の階段を駈けおりるスティーヴンが下から見上げられる。井戸の広間に右から入ってきて左へ進む。カメラもそれを追います。物音に振りかえれば、壁に青く光る手の跡がついている。
 幅の狭い通路をスティーヴンが奥から手前へやって来ます。画面左右を広く壁が枠取っている。 『襲い狂う呪い』 1965 約1時間11分:地下の狭い通路
右手前から背を向け奥へ進む。向かいに背の低い幅広尖頭アーチがあります。その上の壁にも青い手型がいくつもついている。アーチの奥へ進みます。青緑に光るナウムが襲いかかってきます。歩行は自由になったようです。スティーヴンは腰くらいの高さの石棚に跳びあがり、奥へ逃れる。浅いのぼり階段が右へ伸びています。このあたりの空間は初登場です。
 スティーヴンは地下への扉に鍵をかけ、2階に上がります。
青緑に発光するナウムは扉を破り、 『襲い狂う呪い』 1965 約1時間13分:扉越しに発光する青緑の光
右から左へ、そして階段をのぼります。スーザンの部屋です。扉が突き破られる。
 スーザン、ナウム、スティーヴンが順に廊下を右から左へ走ります。ナウムは勢い余って回廊から下へ落ちてしまう。スーザンも落ちかけますが、何とかスティーヴンに引きあげられる。落ちたナウムは燃えあがり、館はあっという間に炎上する。『アッシャー家の惨劇』の炎上ショットが出てくるかと思わず期待してしまいましたが、さすがにそれはありませんでした。
『襲い狂う呪い』 1965 約1時間15分:炎上する館  2人は外へ逃れ出ます。館の外観が映り、窓の奥で炎があがっている(追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。
そこにコービンの肖像がオーヴァラップするのでした。

 原作はラヴクラフトの作品の内でも超自然色を排したSF性の強いものですが、この映画では登場人物はナウムにせよスティーヴンにせよ、隕石のもたらすものを科学的にとらえている一方で、三人称的な視点からは、コービンの肖像画や地下の壁画が何度も映され、その因縁が館に降り積もっているかのごとく描かれています。これをもって原作に対する後退ととらえるかいなかはさておき、またコーマンによるポー連作に対してそれ以外の何かがもたらされているかどうかもおくとすれば、荒涼の極みというべき荒野、蛸の怪物や吸血植物の登場とともに、館の中を人物たちが上下左右に動き廻ってくれたことでよしとしましょう。
 
Cf.,

菊地秀行、「ラヴクラフト・オン・スクリーン」、『怪奇映画の手帖』、1993、pp.164-171、また同書、p.211

青木淳編、「ラヴクラフト/クトゥルー神話映画リスト」、『秘神界 歴史編』、2002、p.(39)


殿井君人、「クトゥルー神話シネマ・ガイド」、『クトゥルー神話の本 エゾテリカ別冊』、2007、p.168

Scott Allen Nollen, Boris Karloff. A Critical Account of His Screen, Stage, Radio, Television, and Recording Work, 1991, pp.303-316 : "Chapter 27. 'Quickie' Horror : Roger Corman and AIP" 中の p.316, pp.395-396 / no.151

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.124-126

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.38-39, 167-168

 原作等については→こちら(「図像、図形、色彩、音楽、建築など」の頁の「おまけ」)を参照

 原作は何度か映像化されているようですが、見る機会のあったのが、ニコラス・ケイジが出演した;

『カラー・アウト・オブ・スペース - 遭遇 -』、2020、監督:リチャード・スタンリー

 約10分あたりで、『ネクロノミコン』が映ります。ペイパーバックなのが複雑な感慨を催させずにいませんが、ともあれ、「メソポタミア」の頁の「おまけ」で挙げた

 Simon, Necronomicon, Avon Books, New York, 1977/1980
にほかなりませんでした。この本は約1時間5分に再登場、約1時間7分には pp.112-113 の図表を載せた見開き、別のカットをはさんで今度は p.115 のやはり図表がアップで映り、双方そこに血が滴るのでした。
 また別の場面では、登場人物がA・ブラックウッドの『柳
The Willows 』を手にしていました。表題作の邦訳は中西秀男訳、『ブラックウッド怪談集』(講談社文庫 64-1 B125)、講談社、1978、pp.144-208:「ドナウ河のヤナギ原」。ちなみに「柳」(1907)には、

「地・水・火・風の霊だのむかしの神々だの、そんなものならちゃんと素性がわかる。ぼくら人間と関係があって、人間が信奉したり犠牲をささげたりするからこそ存在する。ところが今ぼくらを囲んでいるのは人間とは絶対に関係がないものなんだ。人間世界がここで奴らの世界に触れているのも、まったく偶然なのさ」(pp.194)

とのくだりがあって、いかにもクトゥルー神話的ではありますまいか。ブラックウッドについては→「近代など(20世紀~) Ⅳ」の頁の「ブラックウッド」の項も参照。
 クライマックスでは、〈宇宙からの色〉の故郷(?)らしき景色もちらっと見られます。


 なおラヴクラフトについては→「xix. ラヴクラフトとクトゥルー神話など」(<「近代など(20世紀~) Ⅳ」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照


おまけ

  「近代など(20世紀~) Ⅳ」の頁の「おまけ」でも挙げましたが(→こちら)、

人間椅子、「宇宙からの色」

という曲があります。
 
 2015/4/23 以後、随時修正・追補
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