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世にも怪奇な物語
Histoires extraordinaires
    1968年、フランス・イタリア     
    第1話  第2話  第3話 
 監督   ロジェ・ヴァディム  ルイ・マル  フェデリコ・フェリーニ 
 撮影   クロード・ルノワール  トニーノ・デッリ・コッリ  ジュゼッペ・ロトゥンノ 
編集   エレーヌ・プレミアニコヴ  フランコ・アルカッリ、シュザンヌ・バロン ルッジェロ・マストロヤンニ 
 プロダクション・デザイン   ジャン・アンドレ  ジスラン・ユーリ  ピエロ・トシ 
 美術   ジャン・アンドレ  カルロ・レヴァ  ファブリツィオ・クレリチ 
    約2時間1分     
画面比:横×縦    1.75:1    
    カラー     

ケーブル放送で放映
………………………

 ロジャー・コーマンの『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』(1962)に続くポー原作の3話オムニバスで、前者がコーマン一人の監督なのに対し、こちらは3人の監督がそれぞれ1話を担当しています。世評ではヴァディムの第1話とルイ・マルの第2話はもう一つ、フェリーニの第3話だけがダントツとされることがしばしばのようです(たとえば下掲『世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、p.124)。とはいえあらためて見直してみれば、第1話には古城が複数出てきます。内部があまり出てこないのは残念ですが、他方第2話は[ IMDb ]によると北イタリアはロンバルディアのベルガモでロケされたとのことで、古い街並みがなかなかに捨てがたい。というわけで手短かに取りあげることといたしましょう(追記:イタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Tre passi nel delirio (1968)"および第2話に関連して"CASTELLO CHIGI A CASTEL FUSANO"(2009/5/8)([ < il Davinotti ])を参照)。

 手もとの録画ではタイトルは
Tales of Mystery and Imagination ( by Edgar Allan Poe ) となっており、第1話も英語なので英語版かと思いきや、第2話はフランス語、第3話にいたっては主人公のみ英語、他の面々はイタリア語でした。ちなみに第1話はタイトル・クレジットを含めて約39分まで、第2話は約1時間16分までなので約37分、第3話はエンド・クレジットを含めて約45分となります。
 なお手もとの録画では色味がやや白っとして平板な気味があり、複数の色相を活用する第1話、とりわけ屋内場面は損をしているように思われます。明暗の諧調に重点を置いた第2話はそれほどでもないのか、こちらの目が慣れただけなのか。他方色つき照明やフィルターを大盤振舞する第3話、とりわけ前半は、色味の平板さにもかかわらずほとんど力任せで押し切ってしまう。これはこれで圧倒されるというか呆れずにはいられませんでした。

 第1話「黒馬の哭く館
Metzengerstein」の原作は「メッツェンガーシュタイン」。『血とバラ』(1960)に続くロジェ・ヴァディムの怪奇ものとなり、撮影のクロード・ルノワール、音楽のジャン・プロドロミデスも続投している。音楽は主として中世風ないしルネサンス風でした。また『血とバラ』で使用人、『悪徳の栄え』(1963)で運転手に扮したセルジュ・マルカンもヒロインの下僕ユーグとして登場します。仲好しなのでしょうか。
 ヒロインをつとめるジェイン・フォンダはこの頃ヴァディムと結婚していました。そのせいかどうか、とても綺麗に撮られています。相手役のピーター・フォンダはジェインの弟で、これ以前に伝説的な『リリス』(1964、監督:ロバート・ロッセン)で助演、この後『イージー・ラーダー』(1969、監督:デニス・ホッパー)を製作兼主演、やはり伝説的な西部劇『さすらいのカウボーイ』(1971)を監督兼主演することになります。実の姉弟に当てる役としてはどうかと思われますが、ともあれピーターの垂れ目と細長い手足は雰囲気がある。
 また本作では、ジャック・フォントレーが担当した衣裳デザインが見せ場になっています。時代考証ははなからうっちゃって、カラフルでモダンな衣裳が続々登場します。

 エンド・クレジットで本作はブルターニュ地方のケルゼレ城(フィニステール県モルレー郡のシビリル)
Le château de Kérouzéré, Sibiril, Finistère, Bretagne でロケしたと記されます。仏語版ウィキペディアによると、1425年から58年にかけて築造された城砦とのことです(→こちらを参照。また日本語版ウィキペディア→「シビリル」)。Google で画像検索すると、ピーター・フォンダ扮するベルリフィツィング伯ヴィルヘルム(原作では老人)の居城の外観に用いられているようです。ただし本作にはこれ以外にも城が登場し、そのいくつかは同じケルゼレ城周辺の画像検索から見当をつけることができました。フィニステールはイギリス海峡に突きだしたブルターニュ半島の先端を占める県で、ここに限ったことではないのでしょうが、いずれにせよいくつもお城があるわけです。涎が垂れそうです。この点はその都度挙げることにしましょう。
 余談になりますが、本作に登場するお城がブルターニュ半島の北側に位置しているのに対し、同じフィニステール県の南側・カンペール郡には、ゴーギャンやベルナールが滞在したことで知られるポン=タヴァンがあります(→元の職場で開催された『ゴーギャンとポン=タヴァン派展』(1993)の頁)。

 まずはジェイン・フォンダ扮するメッツェンガーシュタイン男爵フレデリック(原作では15歳過ぎの青年)の寝室から始まります。わりと狭い。石積みの壁に色鮮やかな布がかかっています。向かって奥の壁は暖炉が占めている。豹を飼っています。右奥の扉を開くと、すぐに上りの階段がのぞいている。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1分:第1話 ケルジャン城  次いで画面右に寄せて、城の外観が一部映ります。3階建てで、隅に塔、その左に望楼のようなものが2つ、2階の屋上に立っている。
 特徴的な望楼の眺めからすると、同じフィニステール県モルレー郡のサン=ヴゲのケルジャン城
Château de Kerjean, Saint-Vougay, Finistère ではないかと思われます(仏語版ウィキペディア→こちらを参照。また日本語版ウィキペディア→「サン=ヴゲ」)。1545-96年に築城(追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。
 フレデリックは伴を引き連れ馬で別の城に移動する。白と黒のコートに、黄緑の鍔なし大帽子をかぶっています。海辺を経て、空撮が右から左へ流れていくと、岬の上の城が徐々に姿を現わす。右の方に小さく騎馬の一行が見えます。その前を左に道が伸び、先に門番小屋らしきもの、さらに左へ道が続く。
『世にも怪奇な物語』 1968 約3分:第1話 ラ=ラット要塞、上空から さほど高くはない棟が組みあったようなところがあり、その手前で右から左へ城壁が伸びています。城壁の下は崖になっている。さらに左、少し間を置いて大きな円塔が建っています。手前の城壁はその近くでいったん奥に凹み、戻ってさらに左へ、崖をくだって中庭らしきひろがりを囲む。中庭は芝の緑に覆われている。その奥にも城壁は伸び、小塔を角に擁しています。城壁は大円塔や右手の主棟の向こうにも走っているのでしょう。全体が岬の上にひろがっており、その奥は海です。
 とても印象的なこの城はやはりブルターニュ地方、フィニステール県の東にあるコート=ダルモール県プレヴノンのフォール=ラ=ラット(ラ・ラット要塞) Fort-la-Latte, Plévenon, Côtes-d'Armor, Bretagne のようです(仏語版ウィキペディア→こちらを参照)。1340年に築造追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。
 視点が陸側に変わり、城は背景に見えるようになります。手前右に絞首台が立ち、一人吊されている。
『世にも怪奇な物語』 1968 約3分:第1話 ラ=ラット要塞+絞首台 『世にも怪奇な物語』 1968 約4分:第1話 ラ=ラット要塞
 幅の狭い廊下が奥から手前へ伸びています。奥で数段上に登るようになっている。左の壁は規則的な石積みで、人の頭より低い位置から右上へ斜めに天井があがる。右の壁はざらざらした岩壁でした。残念ながら手前へどんな風に伸びているのかは映りません。
 また狭い廊下が映ります。前のものは直線でしたが、こちらは円状にめぐっているようです。窓は右に来る。左右の壁はともに規則的な石積みです(追補:『淫虐地獄』(1971)に出てきた塔の上の方の円形廊下が思いだされるところです→こちら。また→「怪奇城の廊下」の頁や、「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。 『世にも怪奇な物語』 1968 約5分:第1話 円形廊下
 乱痴気騒ぎが行なわれる広間のような部屋が出てきます。ある意味で『悪徳の栄え』におけるよりこちらでのフレデリックとその取り巻きの行状の方が前作の原作に多少は近いかもしれません。
 さて、この広間の一角に壁画のように見える絵が掛けてあります。後に綴織とわかるのですが、鮮やかな色と妙に単純化した形態で騎馬の人物群が描かれている。ただし出来はあまりよくありません。後の場面で図柄ははっきりするのですが、確かめてみるとルーヴルにあるウッチェロの《サン・ロマーノの戦い》に基づくものでした
(右下の挿図、また→こちらに拡大画像(細部を含む)とデータ
追補:馬の左にマッツォッキオをかぶった人物頭部が描かれているのは欣快の至りですが、原作とは配置が異なります。また原作で馬に乗るミケレット・ダ・コティニョーラが省かれるなど、少なからず変更されているようです。→「怪奇城の画廊(完結篇)」の頁でも触れました)。 
『世にも怪奇な物語』 1968 約19分:第1話 広間の綴織(細部) ウッチェッロ《サン・ロマーノの戦い》1456-1460頃 ルーヴル
ウッチェッロ
《サン・ロマーノの戦い》
1456-1460頃


* 画像をクリックすると、拡大画像とデータが表示されます。 
『世にも怪奇な物語』 1968 約8分:第1話 ケルゼレ城  約8分、また別の城が登場します。壁に開く窓が小さい武骨な城砦で、これが先に触れたケルゼレ城でしょう。手前には芝がひろがり、画面下方に白い柵が渡してある。右手には三角屋根が高い馬小屋らしきものが見えます。
 地面が枯葉に敷きつめられた森で、フレデリックは獣用の罠に足を取られてしまう。白と黒の上下で、下はズボンでした。岩の上にいたヴィルヘルムに気づきます。上は赤で、ズボンは黒です。ヴィルヘルムは大きく平たい丸岩が積み重なった小さな滝からおりてきます。

 城壁らしきところにヴィルヘルムが腰かけている。
『世にも怪奇な物語』 1968 約13分:第1話 ケルゴナデアック城 約13分、カメラが低い位置・正面から二列に並ぶ城をとらえます。中央が通りぬけられるようになったその左は、手前に円塔、奥に伸びたあたりは緑の蔦に覆われている。白い曇り空をはさんで、右奥に独立した煙突状のもの、そのすぐ右で奥から手前へ棟が迫りだしてくるのですが、こちらの屋根にもいやに背の高い煙突が数本立っています。手前は芝の緑です。
『世にも怪奇な物語』 1968 約13分:第1話 ケルゴナデアック城  馬で森から出てくるフレデリックのカットをはさんで、もう1度同じ眺め、次いで左の棟がアップになると、2階建てのそれはすでに廃墟化していることがわかります。左上部は崩れ落ちており、中央の2階部分にヴィルヘルムが腰かけているのですが、向こうの空がのぞいているのでした。
彼は木菟に餌をやっています。フレデリックが近づいてくると、ヴィルヘルムは裏に回って出てくる。残念ながら壁の向こうの様子はわからない。もしかすると梯子か何かを使ったのでしょうか。
『世にも怪奇な物語』 1968 約14分:第1話 ケルゴナデアック城 すぐに右側の棟も廃墟化していることがわかります。こちらは3階建てです。また左の棟の手前の円塔上部に、幾本も樋が突きでている。
 これまた涙が出るほど印象的なこの廃墟は、やはりフィニステール県モルレー郡のクレデールにあるケルゴナデアック城
Château de Kergournadec'h (Kergournadeac'h), Cléder, Finistère でした。2015年12月始め現在、なぜか仏語版ウィキペディアには項目がないようです。とりあえず→日本語版の「クレデール」の頁を参照。同仏語版によると、1630年頃に築城されたが、人が住んだのは150年間のみとのことです(追補:→「怪奇城の肖像(前篇)」の頁でも触れました)。
『世にも怪奇な物語』 1968 約16分:第1話 直線状廊下+豹  直線の方の狭い廊下が再登場します(追補:窓のある壁や天井の傾斜が前回とは左右逆になっています。→「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。 
フレデリックがユーグに何か命じる。次いでヴィルヘルムの城の馬小屋が火事になります。屋根が焼け落ち、煙の向こうに低い陽が映りこむ。
 それを窓からフレデリックが見ていました。手前に戻ると広間です。綴織が前回より広く映り、中央に首をねじ曲げた黒馬の描かれていることがわかる。これはウッチェッロの原画にもあったモティーフです。
『世にも怪奇な物語』 1968 約19分:第1話 アーケード+黒馬  半円アーチが3つ並ぶアーケードが下から見上げられます。アーケードの上は歩廊になっているようで、欄干が横に伸びています。各アーチは三重ほどになっているらしい。これはどこでロケしたのでしょうか。真ん中のアーチの奥から黒馬が入ってきます。その様が2度3度と反復される。
『世にも怪奇な物語』 1968 約20分:第1話 アーケードとその上の歩廊+黒馬  アーケード上の歩廊は右端で壁に接し、扉口が設けてあります。そこからフレデリックが出てきて見下ろす。黒馬は荒れ狂って手がつけられません。
フレデリックはいったん扉口に引っこみ、真下の扉口から出てきます。上下を結ぶ階段が壁のすぐ奥か、あるいは離れてあるのか。映してほしかったところであります。黒馬はフレデリックが近づくと鎮まります。
 ヴィルヘルムが馬小屋に飛びこんで焼死したという報せがもたらされ、予想外のことにフレデリックは屋内に戻る。ふと見ると、綴織の黒馬の部分にのみ火がついていました。

 フレデリックは黒馬に乗って林から海辺へ、あるいは城壁沿いに駈けます。海辺の手前にはぽつぽつと奇岩が目に止まります。
 綴織の修復が行なわれることになる。別の部屋に移されていました。天井の角は湾曲しており、その上に斜めの板天井がのぼっていく。老修復家は糸が歌うこともあれば絡まることもあるという(追補:右に引いたのは少し後、夜の場面)。 『世にも怪奇な物語』 1968 約31分:第1話 綴織修復のための部屋、夜
 ケルゴナデアック城の廃墟、前と同じ場所に木菟だけが留まっています。
『世にも怪奇な物語』 1968 約34分:第1話 ラ=ラット要塞+雷  約34分、岬の城の外観が映され、しかし空には暗雲が垂れこめ雷も鳴る。最初に出てきた時とは反対側からの眺めです。
荒野の木立に火がつく。黒馬とフレデリックはそれぞれに胸を騒がせています。
 黒馬に乗ったフレデリックは歩廊下のアーケードから出てきて右へ進む。音楽が無調のオルガンになります。
『世にも怪奇な物語』 1968 約36分:第1話 アーケード、真横から 右で別のアーケードをくぐるさまが、アーケード内で真横からとらえられる。
『世にも怪奇な物語』 1968 約36分:第1話 アーチの連なり  奥から出てきます。向こうにアーチが見え、その上にも左から低・高(・低)とアーチがのっている。その奥にもアーチがのぞいています。画面手前もアーチに縁取られていますが、壁がずいぶん厚いようです。
『世にも怪奇な物語』 1968 約36分:第1話 ラ=ラット要塞  アーチをくぐると、城門から出てきます。岬の上の城の門でした。
 一方綴織の修復は完了します。黒馬の目が真っ赤です。老修復家は血ではない、火だと告げるのでした。

 第2話「影を殺した男 William Wilson」の原作は「ウィリアム・ウィルソン」。ルイ・マルは『恋人たち』(1958)でたしかお館を舞台にしていたかと思いますが、うろ覚えなので確認はまた後日にまわしましょう。先に触れたようにベルガモでロケされたとのことです。旧市街ベルガモ・アルタのヴェッキア広場だの大聖堂だの鐘塔が出てくるようで、行ったことのある方ならわかるのではないかと思われます。

 まずは狭そうな街路をカメラが低い位置で前進します。白い軍服を着た男(アラン・ドロン)が走っているのでした。方形の塔から同じ服の男が転落するショットが挿入されます。
『世にも怪奇な物語』 1968 約39分:第2話 鐘塔、下から+落下する人物 『世にも怪奇な物語』 1968 約40分:第2話 街路
先の男は大きな教会に入る。告解室に駆けこみ、ミサの後でという神父を無理に引き留め語りだすのでした。
『世にも怪奇な物語』 1968 約42分:第2話 オデスカルキ城、下から
  ↙ 
『世にも怪奇な物語』 1968 約42分:第2話 オデスカルキ城
 約42分、下からどこぞの城が見上げられる。手前に円塔、その左右で城壁が後退しています。右側はゆるく折れ、奥に円塔がのぞいている。カメラは右上から左下に下降します。奥にある城門の前で、左右を城壁にはさまれている。城壁は奥へ行くほど狭まっているようで、ゆるいのぼりになっているものと見えます。地面は白っぽく、継ぎ目もないかのごとくです(追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました。
『世にも怪奇な物語』 1968 約44分:第2話 半円アーチ越しに階段  約45分、手前のアーチを縁取りに、向こうに幅の広い階段が真っ直ぐ上へ、次いで右に折れます。あがった先は左右に伸びる通路のようで、欄干が走っている。その上にも壁が高くそびえています。手前のアーチのすぐ向こう、右の壁には扉口が見える。周囲で学生たちが雪合戦しています。やや下からの視角でした(追補:アーチ越しの壁付き屋外階段という点で、『長靴をはいた猫』(1969)に出てきたそれと比べることができるでしょうか→そちら)。
 まだ小学生高学年くらいの主人公はすでに立派な悪ガキなのですが、そこに姓も名も同じウィリアム・ウィルソンだという少年が現われる。

 寄宿舎で同姓同名の少年の首を絞めたため放校された主人公(アラン・ドロン)は、数年後医学生になっていました。半円形・漏斗状の階段教室で解剖の講義が行なわれている。教室はぴかぴかに見えます。
 夜の路地で学生たちが騒いでいる。
『世にも怪奇な物語』 1968 約50分:第2話 坂をなす街路 通りすがりの娘(カティア・クリスティーヌ)を主人公は捕まえ、
再び階段教室に舞台は移ります。娘は裸にされ、解剖台に縛りつけられている。主人公は贋解剖講義を行ないます。
 階段教室は左右両端で下から階段が上ひろがりにのぼり、10段ほどで脇に扉口があります。階段状座席はその上にも伸びています。 『世にも怪奇な物語』 1968 約54分:第2話 階段教室、上から
さて、扉口から男が現われ、娘を解放する。まわりにいた学生たちは逃げだしますが、解放者が主人公と同じ顔であることに気づいた娘は、なぜか主人公に抱きつきます。すると主人公が手にしたままだったメスで脇腹を刺されてしまうのでした。娘は死んだのかと問う神父に、主人公はそんなことはどうでもいいと先を続けます。

 主人公は軍隊に入る。神父がこの町の軍隊は評判が悪いというと、主人公は私のせいだ、今夜までは思いのままだったと答えます。夜、お祭り騒ぎの広場です。右手に上への階段があります。おそらくヴェッキア広場なのでしょう。
 階段の上は賭博場らしい。そこで主人公は黒髪の女(ブリジット・バルドー)とカード勝負することになる。カットが切り返されるさまはあたかも決闘のごとくです。夜通し続けられた勝負は主人公の勝ちとなり、女の背に鞭を打ちます。そこへ仮面の男が現われ、主人公のいかさまを暴く。女は主人公に往復7連ビンタを喰らわせます。『血とバラ』での3連ビンタが思いだされたりもするのでした。
 主人公は仮面の男を追って階段を駈けおり、
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間10分:第2話 広場への階段、上から 『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間10分:第2話 広場への階段、下から
広場に出ます。まわりを建物に囲まれ、さほど広くはない。チャンバラが始まります。アップが多いので迫力が削がれています。先のカ-ド勝負の方が緊張感があったのではないでしょうか。サーベルをはじき飛ばされた主人公は、ナイフで仮面の男を刺し、仮面を剥ぐ。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間13分:第2話 広場、やや下から 両側を建物にはさまれた街路がやや下から、少し斜めになってとらえられます。
 主人公は告解室を飛びだします。下からいくつもの鐘がとらえられる。
狭い歩廊を奥から出て手前に走ります。左側は外に開けている。 『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間14分:第2話 鐘塔への歩廊
手前左に上への梯子がかけてありました。上から見下ろされます。のぼりきると少し位置をずらして二つ目の梯子がさらに上へ続く。今度は下から見上げられます。上には鐘が連なっている。
 下から鐘塔が見上げられます。転落した主人公に神父が駆け寄り、上向かせると腹にナイフが刺さっていたのでした追補:→「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁でも触れました)。


 第3話「悪魔の首飾り Toby Dammit」の原作は「悪魔に首を賭けるな」。カーニヴァル映画の巨匠フェリーニの本領発揮といってよいでしょうか。白い鞠と白衣の少女のイメージは2年前に公開されたマリオ・バーヴァの佳作『呪いの館』(1966)そのままですが、ぱくりはイタリア映画の常道、穿って見るなら、本作での主人公の彷徨は『呪いの館』における村や館でのそれへの応答と見なせなくもないかもしれません(追記:下掲 Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, p.188 によれば事情は単純ではないとのことでした)。ニーノ・ロータの音楽も絶好調です。ところで美術を担当しているのは画家のファブリツィオ・クレリチ(1913-1993)なのでしょうか?

 曇り空をカメラが下から巡ります。飛行機の操縦室はいかにもセット然としている。空港の待合室は人工照明の色が濃い。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間17分:第3話 空港 カメラはずっと動いていきます。
映る人物は皆胡散臭い。
 イギリスからやってきた蒼白い俳優トビー・ダミット(テレンス・スタンプ)に対し、製作者が出演を依頼したのはカトリック西部劇で、草原にキリストが現われるのだという。日本語字幕によると「ドライヤーとパゾリーニの間にある連鎖関係にジョン・フォードを少々加える」そうです。『コレクター』(1965、監督:ウィリアム・ワイラー)に出たテレンス・スタンプが、本作に続いてなのでしょう、西部劇でこそないものの、パゾリーニの『テオレマ』(1968)で神性をはらんだ役柄で出演することに触れているのでしょうか。ピエロ・デッラ・フランチェスカにジンネマンをかけたものともいう。本作の脚本はベルナルディーノ・ザッポーニとフェリーニの共同ですが、このあたりの台詞はどんな発想によるものなのか、気になる点ではあるのでした。
 車が走る街路にもフィルターがかけられています。車内はやはりセット然としている。


 主人公が空港での出来事を回想します。エスカレーターが上から見下ろされる。白い鞠が跳ねながらのぼってきます。『呪いの館』に忠実です。白衣の少女も続いて登場、金髪でにまりと笑います。『呪いの館』より表情がどぎつい。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間24分:第3話 空港のエスカレーター、上から+跳ねる白い鞠 『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間24分:第3話 空港のエスカレーター、上から+白衣の少女
 主人公へのインタヴューが撮影されるスタジオは、いやに白っぽい。神は信じないが悪魔は信じると主人公は述べます。悪魔はかわいくて陽気だ、少女のようとのことです。
 次いでイタリアの映画賞授賞式の会場です。霧が這っています。 『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間45分:第3話 水上の壇への橋と階段+霧
周りのみんなはお芝居をしているかのごとくです。トーマス・ミリアンのスタントマンだという人物もいます。三人続けて「胸がいっぱい。一言だけ……ありがとう」と反復します。盲目のパントマイム師も出てきます。片目が猫のそれです。英語を話す女はやたらに目が大きい。主人公が壇上にあがります。もとシェイクスピア俳優だという。よれよれになっています。

 ところで[ IMDb ]には本作のロケ場所としてローマ県のカステル・ガンドルフォ Castel Gandolfo, Roma とオデスカルキ城 Castello Odescalchi, Bracciano, Roma が挙げられています。カステル・ガンドルフォは城の名でもあれば町の名でもあるとのことで(日本語版ウィキペディア→こちらそちらを参照)、この後出てくる街景なのでしょう。他方ブラッチャーノのオデスカルキ城(オルシーニ=オデスカルキ城)は『生きた屍の城』(1964)での主なロケ地の1つでもありました。本作ではどこに出てきたのでしょうか?(第3話ではなく第2話の始めの方で出てきた城と城門前がそれっぽくもありますが、定かではない:追記:当たりのようです。上掲"LOCATION VERIFICATE: Tre passi nel delirio (1968)"([ < il Davinotti ])の下の方に記されていました。→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました)。

 約1時間46分、夜の街路に出た主人公は念願のフェラーリに引きあわされます。トンネルの舗装されない道を疾走する。轟音が響きます。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間47分:第3話 坂をなす街路+人形 街中に入る。宣伝用の人形がいくつか街角に立っています。
また舗装されない道を走る。いったん止まって、また郊外に出る。羊がいっぱいいます。また人形が立っている。街中を曲がりくねる。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間51分:第3話 街路+アーケード状電飾 照明がアーケード状をなしています。
古い街中に入ります。また止まる。驢馬が一頭います。鐘の音が響く。舗装された道を疾走します。霧が出てくる。インターチェンジです。カメラは前進する。通行止めに突っこんで停止します。道路の脇の小屋から「橋は通れない」の声がしました。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間55分:第3話 途中が落ちた橋+霧  轟音に振りかえると、橋は途中が落ちています。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間55分:第3話 橋の向こう側に白鞠で遊ぶ白衣の少女+霧 向こう側に白鞠を手にした白少女が見える。霧がまとわりついています。
主人公は車をいったん後退させ停止する。やはり霧が這っている。発進します。画面が真っ暗になる。橋の裂け目が映され、また真っ暗になります。霧がたなびく。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間57分:第3話 橋の向こう側に渡されたワイアー+霧 向こう岸の通行止めの間にワイヤーが張ってありました。血がついています。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間58分:第3話 跳ねる白鞠+霧 白鞠が跳ねる。
『世にも怪奇な物語』 1968 約1時間58分:第3話 途中が落ちた橋+朝の訪れ 朝になるのでした。
 赤く染まったポーの肖像を背景に、エンド・クレジットが流れます。手もとの録画では英語でした。ニーノ・ロータの音楽付きです。
 
Cf.,

世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、pp79-80、pp.124-125

The Horror Movies, 2、1986、pp.74-75

北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.99-101

岡田温司、『イタリア芸術のプリズム 画家と作家と監督たち』、2020、「Ⅱ フェリーニとカトリシズム」、pp.85-86

 同じ章から→こちらでも挙げています:『魂のジュリエッタ』(1965)の頁の「Cf.」


José María Latorre, El cine fantástico, 1987, "Capítulo 22 Poe, entre Corman y Fellini" より pp.362-366

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.684-686

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.183-192

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.179-181

Bruce G. Hallenbeck, Poe Pictures. The Film Legacy of Edgar Allan Poe, 2020, pp.143-145

 第1話「黒馬の哭く館」の原作については;

小泉一郎訳、「メッツェンガーシュタイン」、『ポオ全集 1』、東京創元新社、1970、pp.195-206
原著は
Edgar Allan Poe, "Metzengerstein", 1836

 第2話「影を殺した男」の原作については→こちらを参照

 第3話「悪魔の首飾り」の原作については;

野崎孝訳、「悪魔に首を賭けるな」、『ポオ全集 2』、東京創元新社、1970、pp.71-84
原著は
Edgar Allan Poe, "Never Bet the Devil Your Head", 1841

 なおポーについては→「viii. エドガー・アラン・ポー(1809-1849)など」(<「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照
 2015/12/05 以後、随時修正・追補
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