恋人たち Les amants
BS放送で放映 ……………………… 本作では超自然現象は起こりませんし、そこそこ大きな屋敷は出てくるものの古城とはいえますまい。ただ本作について澁澤龍彦が、「仮面について-現代ミステリー映画論-」(1961、『澁澤龍彦集成 Ⅶ 文明論・芸術論篇』、桃源社、1970、p.367)の始めの方で『顔のない眼』(1960)やアストリュックの『恋ざんげ』(1953、未見)とともに、 「明らかなゴシック趣味の現代的反映を見出し」(p.367) たと述べていたのが印象に残っていました。お屋敷の中の空間や鏡の使い方に面白い点が見受けられますので、手短かにとりあげることにしましょう(追記:「『恋人たち』 Les amants (1958)」(2015/10/14) < 『居ながらシネマ』)。 監督のルイ・マルは本サイトでは先に『世にも怪奇な物語』(1968)第2話を見ました。『死刑台のエレベーター』(1958)に続く監督作となります。音楽はブラームスの名が挙げられていました。撮影のアンリ・ドカエは本サイトでは『大反撃』(1969) に続く登場となります。ヒロインのパリでの愛人に扮するホセ・ルイス・デ・ビリャロンガにはフェリーニの『魂のジュリエッタ』(1965)で再会できることでしょう。 なおクレジットされていませんが[ IMDb ]には原作者としてドミニク・ヴィヴァンが挙げられていました。Dominique Vivant Denon のフランス語版ウィキペディアによると(→こちら)、その短篇小説「その日かぎり」( Point de lendemain, 1777/1812) がルイ・マルと脚本のルイーズ・ド・ヴィルモランの発想源になったとのことです (当該頁の Notes et références 2。原作についてはまた→福井寧、「ヴィヴァン・ドノン『その日かぎり』における代替のゲイム」、2008.9.18 [ < ブログで論文 ])。 ちなみにドミニク・ヴィヴァン・ドゥノン(1747-1825)は版画家でもあり、ルーヴル美術館の成立に当たって初代館長として大きな役割を果たしたそうです (たとえば、K.シュバート、松本栄寿・小浜清子訳、『進化する美術館 フランス革命から現代まで』、玉川大学出版部、2004、pp.20-22)。 冒頭はパリを舞台に、主人公ジャンヌ(ジャンヌ・モロー)、その友人マギー(ジュディット・マーグル)、ジャンヌに求愛するポロの選手ラウル(ホセ・ルイス・デ・ビリャロンガ)が紹介されます。ジャンヌはディジョン在住ですが、たびたびパリのマギーの元に滞在している。 |
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約6分、ジャンヌは車で帰宅します。2階建ての横長の建物、長辺は三角破風を戴く中央部の左右に、1階2階それぞれ2つずつ窓が並び、中央部の2階には3つの窓、1階はフランス窓になっているらしい。破風には丸い窓か何か、その左右の屋根には屋根裏の窓が2つずつ。短辺2階は窓が3つあります。壁は白っぽい。車は左から館の前をめぐり、右奥へ入っていく。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
この眺めでは屋敷は直方体のように見えましたが、車が止まったところは右と奥に壁が伸びる角をなしています。最初の眺めの裏側に直交する棟があるようです。そちらが玄関側なのかもしれません。ただしその外観は映らずじまいでした。ジャンヌは右側の壁の扉口から中に入る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
画面左から入ってくると、奥に螺旋階段があります。右上から左下へ、途中で右下に曲がる。屋内はやや暗めでした。階段の右・奥に扉口が見える。ジャンヌは手前右に進みます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
書斎に入ってくる。奥にはフランス窓があり、外はテラスのようです。左手に暖炉があり、夫の新聞社主アンリ(アラン・キュニー)がいました。この部屋も壁はやや暗めに見えます。 次いで食堂が映ります。さほど大きな部屋ではなさそうです。テーブルをはさんでジャンヌの背後に鏡がかかっています。左手には扉口が2つある。 |
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その内左の方に入ると、暗い部屋を1つ通り抜け、書斎となります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
暖炉の上に大鏡のあることがわかります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
書斎の左の扉口からは螺旋階段が見え、玄関に通じている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
前にも螺旋階段の右にあった扉口の奥は、狭い部屋をはさんで食堂となる。このあたりのくるくると循環するかのようなつながり方は、後にも見ることができるでしょう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をあがると、 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
向かって左に廊下が伸びています。薄暗い。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をあがった向かいがジャンヌの部屋です。クローゼット、鏡台、向かって右に扉口があり、その右にベッドがあります。この部屋の壁は明るめでした。 ジャンヌはアンリの新聞社を訪ねます。1階は印刷工場のように機械類が埋め尽くし、 |
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奥に上への階段があります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
2階に上がると中庭をめぐるらしき幅の狭い廊下が奥から手前へ伸びていました。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
天井が浅く傾斜しているように見えます。ジャンヌ・モローに比べると背が高い、ほっそりした秘書(ミシェール・ジラルドン)が登場します。アンリとの関係を匂わせているのでしょうか。廊下を進んで手前を右に入ると印刷室です。 パリでの遊園地やクラブの場面をはさみ、ディジョンでのアンリとの口げんか、その結果マギーとラウルをディジョンの屋敷に招くことになる。またパリでの場面を経て、帰る途中車が故障してしまいます。並木にはさまれた水路沿いでした。 通りすがりの旅行者デュボワ=ランベール(ジャン=マルク・ボリー)に同乗させてもらう。6キロ先にあった自動車工場でちょっとした喜劇が演じられます。モンベールへ行くというランベールにディジョンまで送ってもらうことになる。途中でマギーとラウルの車に追い越されてしまいます。 |
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ランベールの昔の恩師の家に立ち寄る。川の端に立つ家は、屋外から直接2階へ階段が上っていきます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
屋敷の外観です。フランス窓のところにいたアンリ、マギー、ラウルの三人組を見てジャンヌは笑い上戸の発作に見舞われる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
ランベールも泊まることになります。彼に割り当てられた「緑の部屋」は階段をあがって廊下の左側にありました。ランベールは考古学を研究しているらしい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
書斎から食堂に移動します。食堂から見て左の狭い廊下をアンリ、マギー、ラウル、ジャンヌが進んでくる。一方同じ画面で、右側の扉の向こうの部屋の奥でランベールが行き先を探すさまがとらえられます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
ラウルはスペイン人で、ソ連に行く予定がある、ジャンヌとアンリは結婚して8年になる。窓から蝙蝠が飛びこんできます。外に出るまで灯りが落とされる。 食堂を出て手前の部屋に来ると、扉の向こうに螺旋階段が見えます。書斎に一同が集まる。やはり扉の向こうに螺旋階段が見える。 階段をあがって右手の部屋がマギーに割り当てられる。 |
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薄暗い廊下が奥の方から見渡され、向かって右手前にラウル - その奥がランベールの部屋になるわけです -、その向かいにアンリとジャンヌが入っていきます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
ジャンヌはすぐ出てきて奥の自室に戻る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
以前部屋の奥に見えた扉口の向こうは浴室でした。少し手前に傾いているように見える大きな鏡がかけてあります。 夜中、ジャンヌはレコードの音に階段を下ります。 |
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書斎に入る。グラスを手にフランス窓から外に出ます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
約1時間、夜の散策が始まる。館から長辺の壁に沿って右の方へ進んでいくと、 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
角の陰にランベールがいました。少し進んだ先に下り階段があります。さらに下は川のようです。また階段をあがって木立に入る。木と木の隙間の奥に壁が見え、ランベールのシルエットが横切ります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
大きな二連水車の脇にジャンヌがいると、 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
ランベールも近づいてきます。グラスとグラスの当たる音が響く。 野原です。ブラームスの曲が流れる。野原の奥の方は月光に縁取られて白くなっています。 |
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丸太を横に並べた幅の狭い小橋を奥から手前に渡ります。橋のすぐ右下は小さな滝になって落ちている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
先に桟橋があり、その先端には囲いらしきものが設けられています。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
二人はそこで舟に乗りこむ。 木の枝につかまって上陸します。ランベールのファースト・ネイムがベルナールであることが、日本語字幕ではここでわかる。ここまでで約1時間11分でした。 |
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屋敷に戻ってきて二人は陰になった角のところにいます。奥に伸びていく長辺は明るく見え、手前にくる角の右側の陰と対照的でした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
裏口から屋内に入る。中は素っ気ない部屋です。奥に扉がある。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
その向こうは上への階段でした。少し湾曲しているようにも見える。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
娘の部屋に立ち寄った後、暗い廊下を手前に進む。右に自室がありました。ということは主階段をあがって向かって右奥から出てきたということでしょうか。浴室の鏡がこのすぐ後と、夜が明けてから画面づくりに活用される。 ジャンヌとベルナールは2人して主階段を下り、そのまま車で出奔してしまう。朝食に立ち寄ったカフェでも、テーブルの向こうのジャンヌの背後に鏡がかかっていました。 末尾近くのナレーションで、ジャンヌはすでにあの夜のような幸福感を再び得られるかどうか疑問を抱いていました。車で出発した時点で映画が終わらず、その後にカフェの場面が足されたため、聖別された夜の祝福は日常的な生活に移行してしまう。それゆえ-置いてきた娘のことをおくにしても-、二人の関係に未来があるようには思いづらいところが、偏見かもしれませんがある意味でフランス映画だなという感触を抱かせてくれるのでした。 それはともかく、屋敷の1階での階段広間と書斎や食堂、つなぎの部屋の関係はなかなかに面白いものでした。2階の廊下は薄暗く、加えて使用人用ということなのでしょうか、裏口に何もない部屋、裏階段まで出てくる。随所での鏡による空間構成とあわせて、本作に古城映画として記憶されるだけの資格をもたらしているのではないでしょうか。 |
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Cf., 花田清輝、「マス・コミ芸術の性格」(1959)、『近代の超克』(1959)、『花田清輝全集 第八巻』、講談社、1978、pp.361-372 冒頭で言及されます。 同じ著者による→こちらも参照:「図像、図形、色彩、音楽、建築など」の頁の「おまけ」 |
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2016/03/08 以後、随時修正・追補 |
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