怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術 * Tales of Terror
一般放送で放映 * DVDの邦題は『黒猫の怨霊』とのこと。下のCf.に挙げた『自伝』等では『ポーの恐怖物語』と表記 ** 手もとの録画では約1時間25分 *** 手もとの録画では1.33:1 ……………………… 上記のように放映時画面左右が半分近くトリミングされていることになり、この映画を見たとはとても言えたものではなく、加えて電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。 『アッシャー家の惨劇』(1960)、『恐怖の振子』(1961)、『姦婦の生き埋葬』(1962)に続くコーマンのポー連作第4篇は、3つの短篇を集めたオムニバスとなりました。日本では配給した大蔵映画が各短篇をそれぞれ別の作品と抱きあわせで公開したため、公開時の統一邦題というものはありません(下掲『自伝』の「訳者あとがき」などを参照)。脚本リチャード・マシスン、音楽レス・バクスター、編集アンソニー・カラスと、第1作第2作の布陣に戻りました。また3篇中「黒猫の怨霊」を除いて、第4作にしてはじめてそれとわかる超自然現象が起こります。 なお資料類からするとオリジナルでは上のタイトルに挙げた順で3篇が配列されていたはずなのですが、手もとにある録画もとの放映時には、なぜか「黒猫」→「ミイラ」→「人妻」の順になっています。ちなみにこの録画では「黒猫」が約37分、「ミイラ」約21分、「人妻」約27分でした。 とまれ3篇中古城度が高いのは「怪異ミイラの恐怖」です。ここではこの短篇を中心に見ていきましょう。 「怪異ミイラの恐怖 Morella」の原作は「モレラ」(1835)です。 |
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手もとにある録画では、さっそく館の外観から始まります。画面下方は水面で、海か川か、激しく波打っています。暗緑色の部分をはさんで、上下に白い部分が左右に伸びています。その上に低い崖がひろがっている。崖の左方ではV字型に谷が穿たれ、その上にゆるい太鼓橋が架かっています。橋を渡った右手少し先に、館が左右に伸びる。2階ほどに破風屋根がかかっているようです。ほとんど黒いシルエットと化しています。いくつかの棟で凹凸があるようですが、はっきりとはわからない。ただ左から2つ目の棟と次の長い棟あたりで壁が白く照り返し、真っ暗な窓の並ぶさまをうかがわせます。波の色分けとあわせて、この明暗の配分はなかなか雰囲気を出しています(追補:→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
霧の森を馬車が進み、赤茶色の玄関扉の前に止まります。若い婦人(マギー・ピアース)をおろして、御者はボストンへ戻ると告げる。娘はノッカーを鳴らしますが、追い返されたりしない代わりに返事もなく、ただ扉が開くのでした。 娘は中に入ります。しばらく廊下が続くのですが、壁はやけに白っぽく、埃か蜘蛛の巣か黴か、いずれにせよ荒廃しています。娘の胸から上が左から右へ進み、カメラは後退しつつ追います。 1~2段おりれば広間でしょうか、娘はそのまま右へ進みます。 |
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奥の方に廊下口らしきもの、手前から左上に湾曲する階段、また別の部屋らしきものが流れていきます。扉を開閉したような音に振り向くと、下から階段の上が見上げられる。右下からのぼってきた階段は上で左に折れ、少し回廊が続きます。すぐに角となり、右奥へ伸びていくようです。ずっと手すりがついています。また回廊の下は少し奥に引きさがっています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
娘は「お父さん?」と声をかけますが返事はない。詮方なく右へ進みます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
蜘蛛の巣に覆われた食堂を経て、厨房に入る。厨房は吹抜になっていて、ここにも階段があります。壁に沿ってのぼり、途中で左へ折れる。幅は狭く、手すりも簡素です。上でやはり手すりつきの回廊につながり、すぐ右へ折れます。娘は階段をのぼり、奥へ向かいます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
先には廊下が伸びています。背を向けて奥へ進む。カメラも追います。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
右手の扉をノックしかけて止め、突きあたりのドアに入る。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
中は書斎でしょうか、本棚があり、女性の肖像画がかかっています。『恐怖の振子』の場合同様比較的写実的で、やはり芳しい出来とはいいかねます。奥の方にはガラス戸があり、金属の植物紋で覆われています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
そこから酒を手にしてやつれた人物が現われる。ヴィンセント・プライスです。娘は「お父さん?」と問いかけ、娘のレノーラだと名乗る。しかし父親の態度は邪険です。 父は扉から出る。 |
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次いで広間の階段をおりかけたところで。途中で立ち止まります。レノーラは上の回廊から話しかけ、追って止まったままの父のすぐ下の段にまわる。カメラは下から見上げています。単純な作法ですが映画における階段の活かし方を忠実に守っているといえるでしょうか。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
レノーラは26年も離れて暮らしていたといいます。父は上へ戻り、書斎に入ります。蠟燭は『姦婦の生き埋葬』同様、胴が赤い。父はモレラよ、お前を殺した娘が帰ってきたと呟きます。 レノーラは厨房の暖炉の前にいます。それから階段をのぼる。カメラは彼女を追って水平から上向きになり、上昇してまた水平になります。書斎のガラス戸の奥に入る。胸から上が右から左へ進む。帷の向こうには妻のミイラが横たえられていました。責める父にレノーラは自分は病に冒されており後数ヶ月の命だと告げます。 |
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館の外観が挿入されます。波音が激しい。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
レノーラは結婚にも失敗し、死ぬ前に父親に会いに来たのでした。2人は厨房から食堂に入ります。母の死のさまを尋ねるレノーラに、父は母モレラが、出産で衰弱した末に死んでしまい、しかも死ぬ際に激しい怒りを抱いていたことを語ります。赤子のせいだと思っていたというのです。 レノーラと父は和解し、父は目が覚めた、「やっと At last 」戻ったと言うやいなや、カメラは急激に左から右へ走る。ミイラが見下ろされ、「やっと At last 」の声とともにミイラの風貌が生前の姿に戻るのでした。 館の外観がはさまれます。ほんの少し左から右へパンします。 |
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広間の階段です。暗い。カメラは接近し、下から上へのぼります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
その手前に人影だけが浮かんでいます。影はいったん消えますが、横たわるモレラの前でカメラとともに左から右へすばやく横切ります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
暗い廊下をカメラは左から右へ動く。カメラの動きと少しずれて影も右へ向かう。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
扉の前へ、そして室内に入ります。今度は右から左へ動く。眠るレノーラの前に影が来ると、レノーラは悲鳴を上げます。 それを聞いた父は目覚め、廊下を奥から手前へやって来ます。カメラは後退する。レノーラは息絶えていました。 |
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父は嘆いてベッドの脇から鏡の前へ移動します。鏡像でそのさまが描かれる。鏡の上辺は曲線をなしています。実物は鏡の左に立っているのですが、手もとの録画ではトリミングで切れているようです (追補:鏡像だけの画面から実物と鏡像が同時に映る画面へ移っていました。なおこうした鏡の使用は、『アッシャー家の惨劇』でフィリップがマデリンの部屋へ朝食を持っていく場面でも見られました)。 |
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鏡の中でレノーラが息を吹き返す。そばに戻るとしかし、やはり息はありませんでした。顔に布をかけます。暖炉のそばに移動しますが、振りかえると布が上下しています。布をどかすとそこにいるのはモレラ(レオーナ・ゲイジ)でした。 父は逃げだします。 |
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廊下を奥から前へ進むさまを、カメラは上から見下ろす。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
書斎の奥へ急ぎ、ミイラを確かめるとそれはレノーラに替わっています。振りかえるとモレラが立っている。父は手にしていた赤い蠟燭を落とし、その火が帷に移ります。モレラは父の首を絞めます。夫に対しても恨みを抱いていたのでしょうか。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
それはともかく、『アッシャー家の惨劇』のクライマックスと同じ体勢ですが、さらに天井の格子が炎上するさまを下から見上げた第1作でのフィルムが使い回されます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
夜の館の外観です。窓の中、そして向こう側で炎が立ちのぼります。 屋内に戻って、やはり炎がまわっています。2人は折り重なるように倒れており、モレラはレノーラに戻る。 |
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また館の外観ですが、角度が変わっています。下から見上げる角度で、館はシルエットと化しており、3本の塔が目につきます。向こう側で上ひろがりの炎が燃えあがるのでした。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
第2話と第3話にも簡単に触れておくと、第2話「黒猫の怨霊 The Black Cat 」は何といっても、本サイトであれば『狂恋:魔人ゴーゴル博士』(1935)や『五本指の野獣』(1946)でお馴染み、ピーター・ローレの独壇場でしょう。前半での手前勝手な酔っぱらいが妻の不倫を知るや表情を変えるさまなど、なかなか迫力があります。他方ヴィンセント・プライスは誇張した気障ぶりを楽しそうに演じています。 空間の点では、始めの方でローレ演じるモントレソーが呑み代を物乞いしながら街路を左から右へえんえんと歩いていく場面に加えて、モントレソーと妻(ジョイス・ジェイムソン)の住む家で、階段が果たす役割も見逃せません。 |
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まずは1階から2階へ上がる階段が幾たびかのぼりおりされ、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
次いで1階から地下への階段が登場します。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
また恒例の悪夢の場面も出てきます。今回はやたらとひずませた映像が目につく。なお幽霊も登場しますが、アルコール中毒によるもの同様モントレソーの幻覚として描かれており、末尾で鳴く黒猫も死んでいたわけではなさそうで、3篇中唯一、はっきりした超自然現象は起こっていないと見なしてよいでしょうか。 ともあれ『自伝』によるとコーマンはこの短篇における「笑いと恐怖の融合」(p.133)に満足したようで、連作次回作の『忍者と悪女』(1963)では喜劇性を展開するとともに、ローレにも再登場願っています。 第3話「人妻を眠らす妖術 The Case of M. Valdemar 」では再び館が登場します。 |
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明るい日の下で2階に破風屋根をいただいた外観とともに(追補:このマット画はポランスキーの『吸血鬼』(1967)のDVDに収録された「吸血鬼講座」で再登場していました→こちらを参照。また→「怪奇城の肖像(完結篇)」の頁でも触れました)、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
1階広間から2階へ上がる階段、 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をあがって主な舞台となる主人公の部屋への廊下などが出てくる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
またこの短篇では催眠術に用いる、回転して色が変わっていくランプによってヴィンセント・プライス演じるヴァルドマアルの顔のアップが各色に染められます。この多色回転ランプには『古城の亡霊』(1963)で再会できることでしょう。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
加えてやたら顔のアップが多いのも特徴と見なせるかもしれません。 なお本作でヴァルドマアルの若妻に扮したデブラ・パジェットは、『怪談呪いの霊魂』(1963)でもプライスの妻役に当たることとなります。まったく結びつかなかったのですが、いかにも悪党らしい催眠術師を演じたバジル・ラスボーンは、古城映画の金字塔『フランケンシュタイン復活』(1939)でフランケンシュタインの息子を演じた俳優でした(追補:暖炉の中からのショットに関して→「暖炉の中へ、暖炉の中から - 怪奇城の調度より」の頁でも触れました)。 |
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Cf., | 北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.89-90 ロジャー・コーマン、ジム・ジェローム、『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか - ロジャー・コーマン自伝』、1992、p.133、 また「訳者あとがき」(石上三登志)、pp.388-389 も参照 The Horror Movies, 1、1986、p.144 石川三登志、「ビックリ箱の中の悪夢〈ロジャー・コーマン論)」、『吸血鬼だらけの宇宙船』、1977、pp.180-185 石田一、『エドガー・アラン・ポォ 怪奇コレクション vol.2』(2003)中の『黒猫の怨霊』解説 Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.114-115 Joel Eisner, The Price of Fear. The Film Career of Vincent Price; In His Own Words, 2013, pp.127-129 Bruce G. Hallenbeck, Poe Pictures. The Film Legacy of Edgar Allan Poe, 2020, pp.89-94 Chris Alexander, Foreword by Roger Corman, Corman / Poe. Interviews and Essays Exploring the Making of Roger Corman's Edgar Allan Poe Films, 1960-1964, 2023, pp.52-67 : Tales of Terror 「怪異ミイラの恐怖」の原作については; 河野一郎訳、「モレラ」、『ポオ全集 1』、東京創元新社、1970、pp.27-33 原著は Edgar Allan Poe, "Morella", 1835 「黒猫の怨霊」の原作については→『黒猫』(1934)のページ また次の短篇からも取りこまれています; 田中西二郎訳、「アモンティリャアドの酒樽」、『ポオ全集 2』、東京創元新社、1970、pp.513-522 原著は Edgar Allan Poe, "The Cask of Amontillado", 1846 「人妻を眠らす妖術」の原作については; 小泉一郎訳、「ヴァルドマアル氏の病症の真相」、『ポオ全集 2』、東京創元新社、1970、pp.478-489 原著は Edgar Allan Poe, "The Facts in the Case of M.Valdomar", 1845 →こちらでもふれました(『悪魔の命令』、1941) また、本作に触発されたというのが;『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』、1970 なおポーについては→「viii. エドガー・アラン・ポー(1809-1849)など」(<「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照 本作の一部場面が挿入されるのが; 『マッドハウス』、1974、監督:ジム・クラーク →こちらで少し触れました(『Mr.バンピラ 眠れる棺の美女』の頁) |
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おまけ | Pierrot Lunaire, Gudrun, 1977(邦題:ピエロ・リュネール『グドルン』)(1) イタリアの分類しづらいプログレ系グループの2枚目、CDで7曲目が"Morella"。5分01秒。邦題は「黒馬」となっており、手もとの伊和辞書を引くと"morello"=形容詞として「黒ずんだ色の」、男性名詞として「あお毛(青味がかった黒いつやのある馬)」とありました。歌曲ですが手もとのソフトには歌詞は掲載されておらず、内容はわからないものの、1枚目に"Lady Ligeia"なる曲があったので(4曲目、2分35秒→こちら(『黒猫の棲む館』の頁を参照)、ポーがらみかもということで一応挙げておきましょう。 |
1. 片山伸監修、『ユーロ・プログレッシヴ・ロック The DIG Presents Disc Guide Series #018』、シンコーミュージック、2004、p.69。 アウグスト・クローチェ、宮坂聖一訳、『イタリアン・プログ・ロック イタリアン・プログレッシヴ・ロック総合ガイド(1967年-1979年)』、マーキー・インコーポレイティド、2009、pp.403-404。 『ユーロ・ロック・プレス』、vol.49、2011.5、p.88。 タイトル曲に関連して→そちらも参照(「北欧、ケルト、スラヴなど」の頁の「おまけ」) |
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→あちら(『アッシャー家の末裔』の頁)でも挙げた; The Alan Parsons Project, Tales of Mystery and Imagination. Edgar Allan Poe, 1976(邦題:アラン・パーソンズ・プロジェクト『怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポーの世界』) のA面4曲目が"The Cask of Amontillado"(「アモンティラードの酒樽」)でした。 「アモンティラードの酒樽」に関連して、 ダリオ・ガンボーニ、山上紀子+長屋三枝訳、『ルドン《アモンティラードの酒樽》 夢のまた夢』(Series 作品とコンテキスト)、三元社、2013 原著は Dario Gamboni, Das Faß Amontillado : Der Traum eines Traumes, 1998 あわせて; ダリオ・ガンボーニ、廣田治子訳、『「画家」の誕生 ルドンと文学』、藤原書店、2012、第5章「グラフィック芸術におけるエドガー・アラン・ポー」 原著は Dario Gamboni, La plume et le pinceau : Odilon Redon et la littérature, 1989 / 2011 |
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2015/4/4 以後、随時修正・追補 |
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