Mr.バンピラ 眠れる棺の美女 Vampira *
VHS * USA では Old Dracula とのこと ** [ IMDb ]によると1時間28分 *** [ IMDb ]による。手もとのソフトでは 1.33:1 ……………………… 下掲のフリン『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』(1995)によると、 「この作品は一般公開を見送られ、数カ月間のお蔵入りになった。しかしながら、メル・ブルックスの『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)が成功したのをきっかけに、…(中略)…新しい題名で公開された」 とのことです(p.198)。上記のUSAタイトルは『ヤング・フランケンシュタイン』と対をなしているわけです。はじめの3分の1ほどですがお城が舞台になり、興味を惹くデザインも見られますので、手短かに取りあげることとしましょう。上記のように手もとのソフトでは画面左右が約2割8分トリミングされており、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。 撮影のアンソニー・B・リッチモンドには前年の『赤い影』(1973)で出会いました。編集のビル・バトラーはキューブリックの『時計じかけのオレンジ』(1971)などに手を染めています。美術のフィリップ・ハリソンはハマー・フィルムで『鮮血の処女狩り』(1971)に携わっていました。その後は博物館×怪獣映画『レリック』(1997、監督:ピーター・ハイアムズ)など多くの作品を担当しています。音楽のデヴィッド・ホイッテカーも、ハマーの『吸血鬼サーカス団』(1972、監督:ロバート・ヤング→こちらで少し触れました:『キャプテン・クロノス 吸血鬼ハンター 』(1974)の頁)に参加していました。 ハマー関連では、いずれも端役で気がつきませんでしたが、お城パートで吸血鬼に咬まれた挙げ句始末されてしまうヘルガ役のリンダ・ヘイドンは『ドラキュラ血の味』(1970)で、お城訪問団の1人で就寝時パックのため吸血鬼風蒼白さになるリトヴァ役のヴェロニカ・カールソンは『帰って来たドラキュラ』(1968)や『フランケンシュタイン 恐怖の生体実験』(1969、監督:テレンス・フィッシャー)で、一部のファンにとっては忘れがたい女優陣です(カールソンについては石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、pp.84-89 、ヘイドンについては同、pp.102-103 を参照)。 余談になりますがカールソンはさらに、フレディ・フランシス監督、ピーター・クッシング(カッシング)主演の『美女を喰う館・グール(ブラッディ/ドクター・ローレンスの悲劇)』(1975)に、ヘイドンはヴィンセント・プライス、ピーター・クッシング、ロバート・クォーリーが共演した『マッドハウス』(1974、監督:ジム・クラーク)に出ていました。いずれにおいても2人は中途退場してしまうのですが、双方主要な舞台としてお屋敷が登場します。 さらに余談を重ねれば、『マッドハウス』には吹抜の地下室とそこをおりる階段やもう一つの舞台であるTV局の人気のない廊下などが出てくる他、ヴィンセント・プライス扮する俳優の過去の出演作として、『怪談呪いの霊魂』(1963)、『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』(1962)第3話、『忍者と悪女』(1963)、『赤死病の仮面』(1964)、モノクロで『アッシャー家の惨劇』(1960)、『恐怖の振子』(1961)と、コーマンのポー連作からの場面が挿入されます。デブラ・パジェット、バジル・ラスボーン、ボリス・カーロフ、ヘイゼル・コートなどの雄姿を拝めるに加えて、『恐怖の振子』等でのマット画による古城外観の仰角ショット、『アッシャー家の惨劇』での焼け落ちる梁の仰角ショットも洩れなく登場します。さらに二重の山場においてプライスとクッシングがそれぞれ大いに熱演するのでした。 話を戻して、とはいえ本作の主役はデヴィッド・ニーヴン、本サイトでは『ゼンダ城の虜』(1937)以来ですが、そこでも記したように中村正の吹替を思い浮かべずにいられません。 |
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オープニング・クレジットは闇に揺れる真っ赤なカーテンに続いて、真っ赤な画面で歪んだトルソ状の黒い何かが、おそらくは踊っているというなかなか洒落た造りでした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
本篇は蠟燭があちこちに立てられた暗い居間をカメラがゆらゆら行ったり来たりするという場面から始まります。暖炉もある。しかし電気系統が故障していたのでした。ウラジミール・ドラキュラ伯爵(デヴィッド・ニーヴン)と執事(後に名がマルトラヴァースと知れます、ピーター・ベイリス)の会話から、城が観光客に公開されていることがわかります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
また居間にはラファエル前派風というかヴィクトリア絵画風の絵が何点かかかっていました。ホイッスラーらしきものもあったような気がしますが、定かではありません(追補:→「怪奇城の画廊(完結篇)」の頁でも触れました)。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ドラキュラ伯爵について本を著したマーク(ニッキー・ヘンソン)を中心にした一行が、ホテルからマイクロバスで城に向かう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
約6分、暗い色の木の枝越しに城の外観が登場します。緑に覆われた少し高くなったところに建っているようで、明褐色の壁に小さな窓がぽつぽつと配された、城塞風の造りです。屋根は褐色で尖り屋根、そのすぐ向こうに高い塔、また右で低めの太い円塔、壁から迫りだした円塔などがある。[ IMDb ]にはロケ地は記されていませんが、マット画や模型にも見えないような気がしました(追補:→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁でも触れました。ロケしたのかどうか、映っているのはルーマニアのブラン城のようです)。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
暗い居間をヘルガ(リンダ・ヘイドン)が通りぬけようとするが、執事に見つかってしまいます。フリン『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』(1995)でも記されていましたが、執事はベラ・ルゴシ風の装束です(p.199)。 ヘルガが転職したいというのを、執事は地下室に連れてきます。居間の暗色の壁と打って変わって、こちらの壁は真っ白です。この白さはある意味で鮮烈でした。対するに他の部屋は暗色が基調で、意図的に対照されているらしい。 |
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少しだけ曲がった先には、真っ黒な格子戸がありました。ヘルガはそこに閉じこめられる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
執事が向かったのは、 | ||||||||||||||||||||||||||||||
また黒っぽい壁の部屋です。絨毯は赤い。ここに柩が安置されているのですが、この柩は二人用で、今は伯爵だけが使っています。柩の頭の方の壁では、左右に大きな窓があり、いずれも細かい格子状の桟で区切られている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ヘルガの入れられていた牢の奥は手術室のような広い部屋につながっています。やはり真っ白でした。伯爵がヘルガに咬みつき、執事が吸う血の分量を気にするも、つい吸いすぎてしまいます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
約11分、夜の城の外観がやはり枝越しで、ただし前よりは近づき仰角でとらえられます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」を奏でるパイプ・オルガン、その左右には窓があるのですが、青く染まり点滅しています。オルガンのスイッチには雷や狼の遠吠えを鳴らすものもある(追補:右に引いたのは少し後の場面から)。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
オルガンを下から見上げていたカメラが後退すると、オルガンが中2階にあることがわかります。手前は食堂なのでしょう、長テーブルに客たちがついている。食堂の壁はやはり黒っぽい。床は黒白の市松模様です。オルガンのすぐ右手から、手前に湾曲階段がおりています。また別のスイッチを入れると、蝙蝠が食堂を横切ります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
伯爵とヘルガが手術室に来る。カーテンを引くと奥の小部屋の壁に柩が立てかけてありました。柩の内側は青です。そこにヘルガを立たせた伯爵は、執事にクロスボウで射させる。無慈悲です。 女性陣の泊まる部屋です。やはり黒っぽい。奥から数段おりて手前に伸び、左側に寝台が並んでいます。寝台の頭側の壁にはそれぞれ丸窓があり、人の顔風と見えなくもない日除けか何かがはまっている。 階段のある側と反対の壁は隠し扉になっていました。石積み壁です。 |
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伯爵と執事が入ってきて、眠る娘たちから器具を使って採血します。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
白い実験室です。探していた血が見つかった、これでヴァンピーラがよみがえると伯爵はいう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
実験室のまた別のカーテンを開くと、奥はやはり真っ白な部屋でした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ただしこちらは右と奥の壁に斑のある大理石による古典様式風の扉口状浮彫があり、右のそれの手前には白い台、そこには数段あがります。扉口の中は冷凍機能つき柩入れで、小部屋に霜が浮いている。 50年間眠り続けるというヴァンピーラ(テレサ・グレイヴス)が自動で手前に引きだされます。食中毒のせいだという。ところで邦題の「Mr.」はどういう意味なのでしょうか? 解凍するだけの時間をおいてから、輸血します。肌が黒くなって黒人になります。目覚める。 |
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執事は20年間伯爵の従僕を務めており、一度咬まれただけの名誉会員とのことです。 実験室はゆるい多角形をしているようで、これまでに出てきた青い柩の小部屋、冷凍遺体安置室以外に、扉の一つは真っ白で上辺が半円形、表面に斜め格子が浮彫状に組まれています。この奥はヴァンピーラの部屋でした。 約27分、日本語字幕では「フルーガベン Flughaven 」空港へ向かう車のカットで、お城の場面は終わりです。この後夜の飛行機、ロンドン着と続く。 |
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ホテルの壁は脇も奥も白と黒の波が縦に連なっているように見えます。後にカーテンとわかりました。いずれにせよ白と黒の対比が引き続き強調されているわけです。天井もいやに低く感じられる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
伯爵たちは布製の折りたたみ式柩を持参しています。内側は赤です。 伯爵はお出かけします。ロンドンには思い出があるという。地下駐車場で人助けします。 マークの様子が交互に組みこまれます。マークの家だか部屋は、扉から入って数段おり、その先が居間兼書斎になっています。城で女性陣が泊まったのと相似た体裁です。同じセットを組み替えたのでしょうか。 |
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他方伯爵たちは曰く付きの屋敷を購入する。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
地下室に加えて、天井に円形の装飾がある広間があります。占星術風の記号が配されている。壁は黒っぽい。女の笑い声が響きます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
一行は夜の町に繰りだしますが、ヴァンピーラだけ映画を見に行きます。『スーパー・ガン Black Gunn 』(1972、監督:ロバート・ハートフォード=デイヴィス、未見)でした。見終わったヴァンピーラは、殴られるジム・ブラウンが素敵だったと伯爵にいう。 マークの家をヴァンピーラが訪れ、屋敷に連れてきます。 |
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クリムト 《期待》 1905-09 * 画像をクリックすると、拡大画像とデータが表示されます。 |
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広間の壁にはクリムトの《期待》から人物部分を切り抜いた壁面装飾が施されていました。右の挿図でご確認ください(追補:肌の色は黒人のものに変えられているということのようです。→「怪奇城の画廊(完結篇)」の頁でも触れました)。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
他にもあるようで、また小さな絵もかかっています。城の居間といい、どうも世紀末美術づいているようです。 あらかじめマークに送ってあった本には、ウラジミール伯爵、1625年3月3日と記されています。21歳の誕生日とのことです。伯爵はマークに咬みつきますが、今回は加減を調節します。吸った血の量が多いと吸血鬼化、そこまで行かなければ生者のまま僕化できるということのようです。 伯爵はマークに、城を訪れた娘たちの血を採ってくるよう命じる。一人目が青服のナンシー(?)、二人目が眼鏡の宣伝部長アンジェラ(ジェニー・リンデン)、三人目がイヴです。マークの書斎兼居間、寝室、台所を舞台に、何やかやあります。 |
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アンジェラは屋敷の地下室に監禁されます。何やら曲線装飾があります。女の笑い声が響く。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
一方マークは木の杭を研ぎます。パーティーに向かう。皆吸血鬼風の装束です。最後のリトヴァ(ヴェロニカ・カールソン)もいました。 他方アンジェラはいったん逃げだしたものの、電話をかけようとするその背後の階段をおりてくる人影がありました。 |
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地下室にある涸れた井戸に放りこまれる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
水が流れこんできます。 リトヴァの血を採取した伯爵たちはヴァンピーラに輸血するも、変化はありません。ヴァンピーラは伯爵に咬みつく。伯爵に変化の兆しが現われます。 マークは書棚の『ゴシック建築』という本を開き、屋敷で見た天井装飾の図版を見つけだす。ハムステッドにあるとのことです。 |
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屋敷に駆けつけ、アンジェラを助けだす。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
今度は空港に向かうのでした。 舞台がトランシルヴァニアの城からロンドンへ移り、最後にトランシルヴァニアに戻ろうとする構図は、本作ではその直前で終わるにせよ、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を忠実になぞっています。 他方黒人化した伯爵夫人の振舞は、人種差別を茶化しているように見えて、その実、紋切り型化した黒人像・女性像をなぞっているだけではないかという見方もできるでしょう。ただ快楽に忠実な天真爛漫さは人間的というより妖精めいており、また喜劇であるかぎりで、ヘルガやアンジェラに対する伯爵たちのの扱いが無慈悲な点は、吸血鬼をいたずらに人間化していないと解することもできるかもしれません。 喜劇としての切れ味は微妙なものの、『ヤング・フランケンシュタイン』を横目に、ポランスキーの『吸血鬼』(1967)と『ドラキュラ都へ行く』(1979、監督:スタン・ドラゴッティ)の間にはさんで位置づけてみるのも一興でしょう。その上で、暗色と真っ白な部屋を対比したセットのデザインには、見るべきところがあるのではないでしょうか。 |
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Cf., ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.198-199/no.207 Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, p.219 |
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2016/6/1 以後、随時修正・追補 |
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