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怪猫岡崎騒動

    1954年、日本 
 監督   加戸敏 
撮影   武田千吉郎 
編集   西田重雄 
 美術   太田誠一
 照明   島崎一二
    約1時間26分 
画面比:横×縦   1.37:1 
    モノクロ 

DVD
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 『怪談佐賀屋敷』(1953)、『怪猫有馬御殿』(1953)に続く入江たか子主演の大映化猫映画の第三弾です。屋敷の〈奥〉周辺の廊下は入り組み具合が前作に比べやや減じた感なしとしませんが、それでも庭をコの字状に囲い、一箇所では段差を設けられていました。また前作での火の見櫓に対応するかのように、天守最上階とそこから一階下に下る階段が垂直軸を構成する。さらに()れ寺、別の寺の屋根付き通路などが登場します。「~岡崎~」という唄に踊り付きで川開きのありさま、また前作や前々作と違って街中の道路も出てきます。屋外階段つきです。ただし通行人の姿は見えません。

 岡崎藩主水野伊勢守(澤村國太郎。第一作に続き殿様役です)の妾腹の弟・水野刑部(杉山晶三九)は仏像蒐集家で、伊勢守の妻・萩の方(入江たか子)に懸想していました。側近三人に煽られ伊勢守を毒殺してしまいます。萩の方は伊勢守の息子を産みますが、刑部の妻となった八重(霧立のぼる)は何かと萩に辛く当たる。和子を連れたお宮参りの際、賊に襲撃されます。和子はさらわれたかに見えましたが、家老・水野縫殿(ぬい)之助(板東好太郎)が助けだし、ひそかに保護するのでした。
 刑部は萩に天守最上階に籠もることを命じ、思いを遂げようとしますが、八重に邪魔される。結局八重は萩を刺殺、飼い猫みいもろとも萩は天守最上階の壁の奥に塗り籠められてしまいます。
 約51分、これ以後八重と刑部の身辺で怪異が起こり始めます。八重は萩=化猫に〈猫じゃらし〉され、刑部は四谷怪談風戸板返しあらため畳返しを目撃、また行灯の油を舐める化猫を切り捨てると八重でした。
 並行して5歳になった伊勢守の忘れ形見・雪太郎の命が狙われる。萩の父で霊魂の不滅を生涯追求し、京を追われたという西三条基昭(御橋公)の示唆によって再度天守最上階の壁への封じこめが計られます。萩の妹・綾(阿井三千子。前作からの続投)もからみ、雪太郎の運命や如何に……というのががおおまかな粗筋です。


 帷がゆらゆら揺れるさまを背景にしたオープニング・クレジットに続き、乙川(菅生川)かそれとも矢作川ということになるのでしょうか、水面を隔てた向こうに、左から突きでる岬状になった木立の上に天守がそびえています。夜です。左に小さな櫓がのぞいています。視点は対岸にあるのでしょう、見上げる角度です。
 切り替わってより近い位置から見上げるカメラは、ズーム・インというか上昇していきます。最上階を目指す。
 また切り替わると、縦格子のはまった窓の外から中を覗きこみます。奥の壁にやはり縦格子の窓の影が斜めに落ちている。カメラは前進します。奥の壁の手前に三段ほどの横長階段がありました。その手前の板張り床に左からの窓の影が落ちています。カメラはそのまま窓の格子をくぐって屋内に入ります。若干左右しつつさらに前進すると、突きあたりの壁が向こうから崩れ落ちました。その向こうにあった観音扉が勝手に手前へ開きます。カメラはさらに前進、もう一つの観音扉がやはり開きます。その向こうでは何やら光がゆらゆらしている。向こうから髪を垂らし、恐い顔をした女性が歩み出てくるのでした。


 切り替わって手前の庭を囲んで、左下から右上へ、そのまま廊下は続く一方枝分かれして右下へ伸びる長い廊下が二階の高さから見おろされます。角の床手前には行灯が置いてある。先の廊下より右下の長廊下は一段低くなっていることが後にわかります。カメラは下降する。
 また切り替わると女性(後に八重であることがわかります)が眠っています。カメラは接近します。飛び起きると障子に影が落ちる。消えたかと安心すると既に室内にいました。
 八重は障子に影を映しつつ縁側廊下に飛びだしてきます。廊下は左から右に伸びている。そのまま数段おりて庭に出ます。カメラは右から左へ振られますが、その際左奥へ伸びた廊下のその先で途切れ、さらに左から伸びてきた右下がりの斜面と交差しているのがちらっと映ります。八重の部屋に沿った廊下より、こちらは一段高くなっているわけです。この高床廊下は左へ、角で手前に、少ししてまた左に折れます。
 八重の悲鳴に腰元衆が集まってくると、高床廊下の凹角が最初に俯瞰された行灯置き場であることがわかります。腰元衆とともにカメラは左から右へ、彼女たちは数段下り斜面をおり、曲がって手前へ、それから庭に下ってきます。彼女たちとともにカメラは今度は右から左へ振られる。カメラは近づきます。
 切り替わって、行灯の左から伸びた廊下が曲がらず、そのまま障子間の間に伸びていた中廊下から刑部と伴の者が出てきます。行灯の角で右へ、カメラも右に振られる。右下がりの斜面を降り、曲がって手前へ、庭に降りて左へ進みます。いったん止まったカメラはまた左へ振られる。腰元衆を追った動きに変化を加えつつ反復したわけです。ここまでで約6分、充分元はとった気分であります。
 刑部は八重に小さな観音像を見せます。この時点では八重も刑部もとても悪役には見えません。


 以上のプロローグは、前作同様、時間軸の上ではお話の折り返し時点を先取りしたことになります。
 約51分、壁塗り籠めに続き水面の俯瞰、カメラは右へ、切り替わって天守へのズーム・インが反復されます。壁崩しとその奥までそのままです。
 冒頭の水面越しの天守外観はその際省かれていますが、エンド・マークのところで反復されます。この時は昼間のように見える。
 戻って壁崩しに続いてやはり八重の寝姿に切り替わります。ただしこの折りは顔にあざができています。カメラは今回は後退、やはり飛び起きると髪を垂らした萩=みいが登場、天袋の中から顔を出したりしてから、〈猫じゃらし〉となるのでした。
 他方長廊下に関しては、まず、約19分、奥で鉤状に曲がってから左奥から右手前に伸びる縁側廊下と左側の庭が、再び二階の高さから俯瞰されます。雨が降っています。小姓二人に茶坊主が奥から進んでくる。
 水平に切り替わると、行灯を置いた外角を茶坊主が左から右へ曲がります。カメラもそれを追う。次の内角を曲がるあたりで、庭に刑部側近組の一人が現われます。手前に欄干の影が斜めに引き伸ばされて落ちています。八重がお茶をすり替える際、廊下に置かれた行灯が二つ間隔をとって見えました。
 そしてクライマックス、雪太郎を守ろうとする縫殿之助と敵方の立ち回りの主たる舞台が、この長廊下でした。
 廊下から庭へ降りるさまも再現されます。約1時間9分、松絵兼仏像の間で和子を始末したと虚偽の報告をした側近に刑部が斬りかかり、切り替わると、右奥の中廊下から側近が逃げだしてきます。廊下は左と右に枝分かれして内角をなしています。角の左寄りに行灯が置いてある。右手前に伸びる縁側廊下には、すぐ庭へ降りる3~4段の階段がありました。下りた先、手前に小さな石の丸太橋が水路に掛かっています。冒頭とは別の位置でしょうか。二人はここを手前へ追いつ追われつします。
 とこうして本作では、一度現われた空間なり構図が、変奏を加えつつ再現されるさまをいくつか見ることができます。深読みすればなかなかに幾何学的な組立がなされていると見なせなくもないかもしれません。


 またとても気になるのが、廊下の角近くで斜面となる部分です。地面に段差があるからともとれますが、セット造営に関係するとも考えにくい。それともセットを段差のある所に作ったのでしょうか。いずれにせよ視覚的な効果のために高低差を設けたと見なせるでしょう。充分に活用されたとはいえないかもしれませんが、その心意気やよしというほかありません。

 戻って本篇は伊勢守の部屋から始まります。床の間には右手の幹から左に枝が伸びる松の絵が描かれています。枝には雉だか鷹だかが留まっているようです。前作同様、これも何かネタがありそうですが、不勉強のためわかりませんでした。他にもいくつか出て来ますので、近世絵画史に詳しい方はぜひご確認ください。
 また床の間左手には、いわゆる櫓時計が置いてありました。四角錐状の台の稜線はゆるい曲線をなしているようで、花紋か何かが散らされています。この部屋の続きの間は角部屋になっています。ここでの刑部は子供っぽい我が儘おじさん以上ではありません。
 次いで刑部の部屋です。やはり角部屋で、刑部は縁側廊下を角の方からやって来ます。廊下は一段低い。廊下から入って左側の障子窓の壁に沿って仏像がいくつも並べてありました。入口の向かい側が床の間、仏像の壁の向かいが続きの間となります。ここでの八重はいかにもしおらしい。

 刑部の仏像の間に関してはすぐ後に、前と同じ入口が室内側から見渡されます。角と反対側では、入口のすぐ左で壁が少しだけ迫りだし、縁側廊下が左へ、少しして内角で曲がって続くことがわかります。前作の廊下もそうでしたが、本作でも縁側廊下は何かと鉤状に屈曲しているようです。手前で右を向く刑部、左奥から三人の側近が進んできます。奥行きを強調した構図であります。廊下の内側は畳敷きのようです。ただの我が儘だった刑部を側近たちがいっぱしの悪者におだて上げてしまいます。
 同じく仏像の間、ただし簾越しにカメラが左から右へ振られたかと思ったら、蓮池に雨が降るショットをはさんで、同じ部屋を同じく簾越しでカメラが右から左へ振られます。前者は刑部と三人の側近、後者は刑部と八重の場面でした。相変わらずしおらしい八重と刑部が接写で仰視されたりもする。宗達の《鶴図下絵和歌巻》(→こちらを参照京都国立博物館 )を元にしたらしき襖らしきものがちらりと見えたりもしました。


 松図床の間の部屋については、伊勢守暗殺後刑部が藩主の座につくと、仏像群がこちらへ移されていました。
 後の場面から隣が刑部の寝所であることがわかります。櫓時計はこちらに移されていました。その際背の低い屏風が自動的に閉じます。前作での屏風を逆さにするという二駒を参照しているのでしょうか。この場面では空飛ぶ萩に続いて畳返し、裏返ると伊勢守、また裏返ると萩という、四谷怪談における戸板返しのいただきを見ることができます。


 萩の方の部屋と続きの間です。この部屋の壁や障子は下半が横長市松になっています。腰元たちが手毬遊びに興じ、萩は猫のみいをかわいがっています。
 この部屋については、伊勢守毒殺の段に続き、約22分、木漏れ日を見上げていたカメラが下向きに振られると、廊下内角の斜面、そのままカメラは左へ、次の内角と中廊下への分岐を経て手前へ、外角から左へ、そのまままっすぐ伸びるらしきかたわら、すぐ手前で左から出てすぐ外角、手前に続きます。赤子を抱き子守り唄を口ずさむ萩がいました。廊下の内側は畳張りの入側で外側より一段高い。左側の部屋に入ります。やはり一段高い。下半市松の部屋でした。部屋から見ると縁側廊下は少し進んでから内角となって左へ折れていることがわかります。
 続きの間の入口から八重と伴の者が入ってきます。左への縁側廊下がすぐ折れて奥へ、少しして左へ曲がっているのが見えます。その向かいにも棟があるようです。すっかり見違えた華やかさの八重はすっかり見違えた高慢ちきさを発揮してくれます。彼女たちが廊下を戻っていくさまが奥にとらえられます。
 また後の場面での下半市松の間、前にも見えた続きの間からの廊下の眺め、萩に迫る刑部が廊下に出ると、欄間にいた猫のみいに引っ搔かれます。廊下外寄りの低くなった部分に欄干の影が落ちていました。
 刑部は背を向け廊下を奥へ、曲がって右へ、角で奥へ、また右へ進みます。カメラもそれを追います。先に斜面が見える。
 なお後の場面で、萩の妹・綾が突っ伏すと萩の幻が現われます。この時は城内ではないように思われるのですが、なぜか下半市松の間でした。

 城外についてはまず約28分、奥に立派な門を望む道を萩たち一行が手前へ、次いで俯瞰で左の塀に沿った道を奥から手前へ、そこに黒装束の面々が襲撃、チャンバラが始まります。庭の場面をのぞけば前々作・前作でもあまり見かけなかった屋外ロケであります。和子をさらった賊たちは左がやや高い川岸となる道を走ります。右手はやはりお屋敷の塀です。奥にそこから数段おりる階段が見えます。切り替わると同じ階段を覆面の剣士が駈けおり一味に通せんぼするのでした。川に蹴落とされた黒装束の一人の顔がアップになります。顔を憶えていなかったのですが、アップになるということは刑部の側近の一人なのでしょう。

 約35分、和子=雪太郎5歳です。縫殿之助に連れられてお寺に来ます。軒先のショットの後、屋根付きの通路が奥までずずっと伸びています。あまり高くない梁は両端で少し低くなり、両脇は列柱、石畳が敷いてある。奥の方で3段ほど上がり、さらにずずっと続いています。この奥まで続くさまがたまりません。ここを雪太郎が走り去ることでしょう。
 手前へ進むとカメラは後退します。切り替わると右から左への屋根付き通路、こちらは板敷きです。左で3段ほど下り、手前へ曲がれば対面することになります。萩一行でした。雪太郎へのズーム・イン、萩へのズーム・インと切り返されます。先ほどの3段を降りて前方にも通路は続いていました。こちらから萩の父・西三条が現われます。
 同じ境内、えらく太く高い円柱が並ぶところを雪太郎は駆け抜け、そこにいた萩の妹・綾と縫殿之助が出会うのでした。

 下半市松の間での萩の舞いに続いて約42分、天守最上階に萩は追いやられます。猫のみいもいますが、薄暗く、いかにも殺風景です。
 下り階段が真上から見下ろされます。途中に踊り場があり、欄干の影が斜めに落ちています。この時点では踊り場も含めてまっすぐ下っていました。左下から縫殿之助が乱入、階段を登ってきて手前で左に折れます。踊り場が手前にもう一つあったわけです。
 「お方様、このような所は、人の住む所ではございません」と言う。前にも見えた奥の幅広三段の手前で、中央を空けて欄干が左右から伸びてきていました。後にこの上で「~大明神」という札が見えます。後の塗り籠めの件を考えると、下の階ならまだしも、天守最上階にしては広すぎるような気もするのですが。
 斜めの支え柱が手前左を横切ったりもします。後に斜め柱は垂直の太い柱の脇に接続してあることがわかります。また階段登り口の脇では低い梁が幅広三角をなし、その下は凹んで奥に格子をはめた窓があったりもする。
 階段が今度は斜め上からとらえられます。曲がった上下が映りこむ。刑部たちが登ってきます。縫殿之助が連れだされる際には、階段が斜め下からとらえられます。また最上階では階段をあがった先から一段高くなって中央部分となることもわかります。
 刑部は萩に迫りますが八重に邪魔される。刑部が退いた後、八重は萩に小刀を向けます。逃げる萩に追う八重、階段が下から、今度はまっすぐとらえられます。二人は二つめの踊り場のすぐ下までおりてきて、また上へ戻る。この間カメラは動きません。
 約49分、最上階、奥の扉の前まで逃げてきた萩が背後から刺される。カメラは奥の部屋の中に配されています。小刀を口にくわえた八重が扉を一つずつ閉じると、真っ暗になります。
 刑部たちが階段をあがってくると低いカメラはが右から左へ、あがりきると左から右へ振られます。八重が高笑いする。八重役一番の見せ場でありましょう。奥の部屋、またしても欄間にいたみいが切り捨てられます。
 後に約1時間16分、天守最上階への階段がまた真上から見下ろされることでしょう。下の階の床にも長い縦格子の影が縞状に並んでいます。刑部たちが左下から進んできて階段をあがります。


 約1時間、天守最上階での供養に続いて眠る綾が飛び起き、綾が父・西三条の部屋に駆けつけます。この部屋は杉戸に囲まれており、一枚一枚に人物が描かれていました。さすが心霊学研究者というべきか。片側は格子で仕切られています。
 他方萩の幻を見た綾は縫殿之助の部屋を訪れます。もう一人は縫殿之助の母でしょうか。行灯がチラチラする。俯瞰になったりします。子守り唄に障子戸をあけると奥、左右に伸びる廊下の中央で、右手で手前に鉤型廊下が続いています。カメラは右から左へドリーします。切り替わって三人は左手前へ、障子戸をあけると雪太郎の寝所でした。つまり縫殿之助の屋敷だったのでしょうですが、ここも廊下は鉤型というわけでした。城内の館と同じセットの使い回しなのでしょう。


 約1時間9分、虚偽の報告をした側近を刑部が追う続きで、今度は橋が濠越しにとらえられます。左が門付きの櫓でした。逃げてきた元側近は橋から濠に飛びこみます。刑部は配下に縫殿之助の屋敷へ行って雪太郎を連れてくるよう命じる。
 配下一同が橋を走って渡ります。一方縫殿之助の屋敷、鉤型廊下の下、庭に逃げてきた元側近が縫殿之助に訴えていました。
 夜道でのちゃんばらとなります。以前出てきた川沿いの道に続く一齣では、手前から奥へ道が伸びているのですが、右で奥への幅広のぼり階段がありました。

 約1時間13分、雪太郎を抱いた縫殿之助は破れ寺に逃げこみます。かなり荒れ果てたさまです。追っ手たちを萩=みいが翻弄する。ゲスト・スターというべきこの破れ寺については、本サイトでは先に取りあげた『犬神家の一族』(1976)における、犬神屋敷と廃屋の関係が連想されたりもします。

 最後に天守最上階、欄間の札が「長壁大明神」とわかります。姫路城以外でも祀られていたのでしょうか。ちなみに〈長壁〉については横山泰子、「恋するオサカベ」、一柳廣孝・吉田司雄編、『妖怪は繁殖する』(ナイトメア叢書 3)、青弓社、2006、pp.158-173 を参照ください。
 縫殿之助、綾、雪太郎の三人が外廻縁に出、冒頭に続いて濠越しの天主仰視で終幕となる。


 前作では殿様役で影の薄かった杉山晶三九演じる刑部は、ただの我が儘から前々作同様立派な悪者に復帰、また当初しおらしかった八重は一気に増長、果ては刑部たちすらあざ笑うこれまた立派な悪者と、悪漢勢の充実ぶりに比して本作での化猫は子を守る母としての側面が強く、クライマックスの大立ち回りも縫殿之助がもっぱら配下たちとちゃんばらするかたわらで、刑部本人と相対すると、あたかも分担したかのごとき善玉ぶりは、怨霊の復讐や勧善懲悪といった図式からはみだしかねない、前々作や前作に引き継がれた化猫映画の見世物的野放図さをいささか割り引いてしまった感がなくはありません。それでも萩が屏風の上に飛び移ると、アクロバットする八重をカメラは上から見下ろしたりし、その際ニコニコしているさま、あるいは破れ寺での忍遁ぶりにそうした相をうかがうことができるでしょうか。
 他方、天守最上階への階段や寺の屋根付き通路、破れ寺といったゲスト陣に助けられた鉤型廊下のつながり具合には、上下左右するカメラの動きとあいまって、賞味すべきものがあるといってよいでしょう。


 入江たか子はこの後『怪猫逢魔が辻』(1954、監督:加戸敏)と『怪猫夜泣き沼』(1957、監督:田坂勝彦、鍋島騒動の再話とのこと)に出演しました(『怪猫五十三次』(1956、監督:加戸敏)では化猫は登場しないそうです。またさらに後には大林宣彦の『麗猫伝説』(1983/8/30TV放映)があります)。化猫映画はこれらも含めて数多製作され(志村三代子、「怪猫映画の系譜学」、上掲『妖怪は繁殖する』、p.118 によると66本)、それ以外にも和風のお屋敷の登場する日本の怪奇映画はまだまだあることでしょうが、不見識のためほとんどが未見につき、今後の課題としておきます。ただ化猫ものについては後1~2本とりあげる予定です(『亡霊怪猫屋敷』(1958、監督:中川信夫)および前掲『麗猫伝説』)。
Cf.,  日本特撮・幻想映画全集』、1997、p.51

『大映特撮映画 DVDコレクション 49 怪猫岡崎騒動 1954年』、デアゴスティーニ・ジャパン、2016/8/2

 2017/11/5 以後、随時修正・追補
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