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犬神家の一族

    1976年、日本 
 監督   市川崑 
撮影   長谷川清 
編集   長田千鶴子 
 美術   阿久根巖
 照明   岡本健一
    約2時間26分 
画面比:横×縦   1.37:1 / 1.5:1 
    カラー 

ケーブルテレビで放映
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 横溝正史の本格探偵小説を原作に、角川映画製作、市川崑監督、石坂浩二が金田一耕助探偵を演じる第一弾となった作品です。超自然現象は起きません。本作が好評につき、『悪魔の手毬唄』(1977)、『獄門島』(1977)、『女王蜂』(1978)、『病院坂の首縊りの家』(1979)と連作化されました。[ allcinema ]によると横溝正史作品の映画化は片岡千恵蔵が金田一に扮した『三本指の男』(1947、監督:松田定次、原作は『本陣殺人事件』、やはりシリーズ化され本作を含め全六作、未見)に遡るとのことで、近くは『本陣殺人事件』(1975、監督:高林陽一)もありましたが、本作のヒットを機に、『八つ墓村』(1977、監督:野村芳太郎)、古谷一行が金田一役をつとめたTVの『横溝正史シリーズⅠ、Ⅱ』(1977-78、未見あり)および『名探偵・金田一耕助シリーズ』(1983-2005、未見)、同じく古谷一行によるパロディー『金田一耕助の冒険』(1979、監督:大林宣彦)、『悪魔が来たりて笛を吹く』(1979、監督:斎藤光正)、『悪霊島』(1981、監督:篠田正浩)、市川崑が豊川悦史を金田一役にして撮った『八つ墓村』(1996)などなどと、あたかも競作するかのように少なからぬ作品を生みだすこととなります。市川・石坂コンビはさらに、本作を2006年に再制作しました。

 昔TVで見た際には、和風の建物も面白いかもと思ったことを朧気ながら憶えています。もとよりこれは単なる不見識のなせるわざで、いつだったか後に、亀山で衣笠貞之助の特集上映が行なわれ、目当ては『狂った一頁』(1926)だったのですがこちらは当時乗り切れず、むしろ題名も筋も忘れてしまった他の1~2本で(すでに取りあげた『甲賀屋敷』(1949)ではなく、たしかカラーだった)、畳の間がずずっと奥まで続くさまに感心したという、やはり朧気な記憶が残っているのでした。
 話がずれましたが、本作を今回あらためて見直してみれば、畳の間もさることながら、けっこう長そうな廊下の出てくることこそが、印象に残った所以なのかもしれません。また主な舞台となる屋敷は純和風ではなく、一部洋風の部分もありましたし、別に廃館も出てきます。冒頭の街並みや、何より湖との対比が、建物の空間を息づかせているのでしょう。
 日本語版ウィキペディアの本作についての頁によると(→こちら)、那須の街並みは長野県上田市で、湖の風景は長野県の青木湖と木崎湖、「那須ホテル」は長野県佐久市にある「井出野屋旅館」、神社は長野県大町市の仁科神明宮でロケされたとのことです。
 これまた関係のない話ですが、たまたま一つ前に取りあげた『血を吸う』三部作の内『血を吸う人形』(1970)と『血を吸う薔薇』(1974)は信州を舞台にしており、また残る『血を吸う眼』(1971)は信州とこそ設定されていませんが、湖畔を主要な舞台としていました。とはいえそもそも、『血を吸う』三部作の肝となるのはいずれも洋館で(『血を吸う眼』の館は能登にあるとの設定)、階段の空間がその中でも重要な役割を果たします。ほぼ水平な平屋建ての和風建築を主とする本作とは、むしろ対比すべきなのかもしれません。舞台が那須湖畔というのは原作に由来するわけですが、その点もあわせ、ただ、信州という土地のイメージとは何ぞやと気になったことでした。


 本作については下掲の春日太一『市川崑と「犬神家の一族」』(2015)というモノグラフィーがあるので、詳しくはそちらを参照していただくとして、ここでは建物関係に話を絞りましょう。
 犬神家の屋敷の話をする前に、金田一が宿泊する「那須ホテル」にふれておきます。坂口良子が本作の清涼剤・女中おはるさん、主人は原作者の横溝正史が演じていました。
 玄関から入って土間をはさみ、右手に帳場、正面少し進むと上への木製階段が奥へ伸びています。階段の左手で廊下が奥へ続き、突きあたりにはガラス窓だか戸が見えます。なかなかに印象的な眺めであります。
 二階も負けていません。向かって右手に奥から手前へあまり幅の広くない廊下が伸び、その右はずっとガラス窓で屋外に面しています。左に襖が連なり、客室となる。廊下は奥で右に折れているらしい。また廊下の奥の方および手前に下り階段があります。
 手前の階段は廊下と同じ向きで下へおりており、金田一はここを二度駈けおります。一階では階段の右側に廊下が奥へ伸び、向こうにガラス戸が見えるのは玄関でしょうか。手前で右に曲がると手洗い、まっすぐ進むとおそらく裏口なのでしょう。
 奥の階段もやはり廊下と同じ向きで、こちらが玄関に通じているのでしょう。金田一が一度駆けあがり、古館弁護士(小沢栄太郎)のあがってくるさまが二階廊下手前からとらえられます。一階と二階の関係は画面に映るだけでは必ずしも判然としませんが、とまれ、主たる舞台である犬神家の屋敷に階段が一度しか登場しないのを、あたかも補填するかのごとくでありました。

 客室からは湖が一望できます。対岸に「犬神御殿」が見えます。画面左に寄せられ、向こうと右はすぐ緑の山が迫っている。屋敷は茶色に見え、いくつかの棟が組みあわさっているようですが、細部はわかりません。

 これに先だってプロローグで、犬神家当主・佐兵衛翁(三国連太郎)の臨終の床が敷かれていた部屋は、向かって左奥に床の間、その右手で少し奥まり、襖一枚分、角をはさんで右を手前へ、部屋の奥半分が金箔に彩画した襖で占められていました。手前半分は無地の襖で、この時点ではよくわからなかったのですが、二間続きなのでした。奥の部屋では手前の部屋との仕切り部分にやはり金襖のあることが後に映されます。襖だけでなく、床の間の左手の天袋なども金箔張りでした(これは他の部屋でも見られたような)。佐兵衛翁亡き後は床の間にその遺影が飾られ、遺言開封もここで行なわれるなど、この部屋は屋敷の中心をなしているらしい。クライマックスもここで展開することでしょう。
 間仕切りを飛ばして床の間と向かいあうのは障子戸になります。この時点では映らない向かって左側は、ガラス入りの障子戸で、廊下をはさんで庭に面しています。ある場面では障子戸のすぐ向こうにも畳敷きの空間があるように見え(入側か)、同じ場所でしょうか、籐椅子なども置かれていました。
 また後に各人の私室や琴の練習に用いる部屋などいくつか映されますが、いずれも二間ないし四間を一つとして使っているようです。そのため仕切りとなる柱と柱の間を人物が通りぬけるさまが一度ならず見られました。和風の建物の面目躍如たる点でしょう。

 勝手口らしき場所が一度映ります。ここで佐兵衛翁の次女・竹子(三条美紀)の夫・寅之介(金田龍之介)が酒を飲み息子の佐武(すけたけ)(地井武男)と話しているところへ、三女・梅子(草笛光子)の夫・孝吉(小林昭二)が帰宅する。周囲では使用人たちが仕事しています。

 奥へ伸びる廊下の手前左にガラス戸で仕切られた狭い電話室があります。廊下の右には障子で仕切られた部屋、電話室の前に左上がりの階段が見える。
 ただし本作内では、ほとんどが屋敷の一階でお話が進められます。約1時間23分、忘れた頃になって。薄暗い廊下を見て回っていたやはり竹子の娘・小夜子(川口晶)が同じく電話室前の階段を登ります。少し上からのカメラが右から左へ振られる。切り替わると屋根裏部屋でした。斜め天井はいたって低い。天窓が一つあり、屋根のかなり広いことが続いて映されます。とまれ、屋敷の少なくとも和風部分は基本的に平屋建てということでしょうか。


 とはいえ外見も内部も、屋敷の全体像を作中から引きだすことはできそうにありません。
 先の電話室の場面に続いて、約21分、戦地で顔にひどい傷を負ったためマスクをつけた佐清(すけきよ)(あおい輝彦)とその母であり佐兵衛翁の長女・松子(高峯三枝子)が、薄暗い廊下を奥から手前へ進んできます。やや上からの手持ちカメラは彼らの前で後退する。廊下は途中で左に枝分かれしており、左手前は庭らしい。この廊下の交差するところと同じらしき場所が、後にも出てくることでしょう。
 二人はただし、そのまままっすぐ進んできます。手前で左に折れる。少し進んで今度は右へ、切り替わるとカメラは床近くの低い位置につきます。手前から奥へ廊下が伸びている。途中の右から二人は出てきて、廊下をすぐ奥へ、向かいの戸から部屋に入るのでした。古城映画的山場にほかなりません。

 佐清と松子が到着した際も屋敷の門附近が映りましたが、その際は夜でした。他方昼間、金田一は画面左右に伸びるなまこ壁の塀、土蔵の前を走り、門を通りぬけて左へ進みます。その先が菊人形の飾られた庭でした。
 またこの屋敷には「展望台」があります。地面から欄干にはさまれた石の階段を4~5段のぼり、やはり石の手すりで囲われています。白い椅子やテーブルが配されている。階段を右に置くと、向かって奥になまこ壁が見えます。とはいえ屋敷本体との関係ははっきりしない。また後ほど - 約2時間3分、階段の向かいには二連半円アーチが配されていました。

 応接間は洋間です。向かって右に半六角形の出窓、向かって左が木の扉となります。

 手前に庭があって、その奥を左右に縁側の廊下が走っている。廊下の左右両端は双方、手前から奥へ伸びる廊下と交わっています。つまりH字型をしていることになる。以前佐清と松子が通ったのは、この右側ということになるのでしょうか。今回は梅子の息子・佐智(すけとも)(川口恒)と古館弁護士が右から左へ進みます。カメラもそれを追う。左の廊下ですぐ奥、左側の部屋に入ります。ここで佐清の手型照合が行なわれるのですが、部屋の奥にはガラス障子をはさんで縁側の廊下、その向こうは狭い庭でした。すぐ奥になまこ壁が見えます。

 約1時間1分、小夜子と佐兵衛翁の恩人の縁者・野々宮珠世(島田陽子)が廊下を奥から手前へ進んできます。カメラは左から右へ振られる。奥に伸びる別の廊下が交わります。突きあたりには半円アーチ窓が見えます。左手前あたりは和風なのに対し、右あたりは洋風の壁紙が貼られていました。奥への廊下口の右手前、壁沿いにソファが置かれ、その上に額絵が掛かっています。
 奥への廊下を進んで右の扉口が、珠世の部屋でした。ここも洋室です。この部屋は後に何度か登場するのですが、その内約1時間49分の際には、いやに明るいステンドグラスが飾ってありました。
 珠世の部屋に潜んでいた復員姿の男は、「バルコニーから庭へ」出たとのことで、廊下突きあたりの半円アーチ窓がフランス窓をなしていることがわかります。ここはやはり約1時間49分の際、昼間の設定で登場します。昼間とはいえやはり薄暗い。


 屋敷の外では、最初の「那須ホテル」以外にもう一つ、「柏屋」が登場します。三木のり平が主人に扮するこの旅館に、復員姿の男が宿をとるのでした。帳場のすぐ奥に、右上がりの階段が見えます。那須ホテルの階段に比べると慎ましやかです。
 他にいやに大きくて色鮮やかな絵馬を飾った神社、横長の絵馬は神社周辺を描いたものらしい。大滝秀治が神官役をつとめます。本殿までは階段を登らなければなりません。
 そして金田一がおはるさんにうどんをおごる食堂、古館弁護士の事務所、警察署の廊下、署長室や取調室が出てきます。加藤武扮する署長は篇中三度、「よし、わかった!」と叫び、これが以後の連作でも反復されることになる。


 しかし何より、約1時間12分、湖上で珠世に一服もった佐武が、彼女を抱いて背の高い草原を通りぬけた先にたどり着く、廃館こそが本作のゲスト・スターでしょう。二階建てで、少し手前にのぼり階段がのぞき、左脇に低い石の欄干、その上にやはり低い石の親柱を従えています。地面から数段おりた、半地下の入口から入ったその先は、腰板部分が白の方形タイルに覆われています。幾部屋も続きますが、すべて分割タイル張りでした。「犬神家の最初の屋敷跡」という設定ですが、画面に映った部分だけからすると、むしろ病院か学校の跡のように見えます。
 背の高い草原、廃館ともども、後にもう1度登場することでしょう。


 約2時間6分、奥へ廊下が伸びています。奥の右側は庭らしい。やはり以前に出てきたH字型廊下でしょうか。右側手前は障子が連なります。庭に面しては光が射しこみ、手前は薄暗い。佐清と署長が奥の右から出てきて手前へ進んでくる。切り替わると反対側の奥に珠世がいました。佐清と署長は庭沿いの部分の手前で右に折れます。応接間のカットをはさんで、金襖の間でクライマックスとなるのでした。

 少なくとも手もとの録画と再生装置で見るかぎり、本作の画面はやや緑みを帯びていました。『凶人ドラキュラ』(1966)のところでもふれましたが、これはある時期以降の映画の色調なのでしょう。その際しばしばありがちな青を基調とする場合では、画面の中にイメージが定位しきらず、視線をすり抜けることが多いような気がするのですが、同じく寒色系とはいえ、緑寄りの本作では、赤みを帯びた人肌の色がはっきり出て対比されることもあってか、より落ち着いているように思われなくもありませんでした。とはいえこれは、原版や再生装置の状態が主観的な感触にかけあわさったものでしかありません。

 本作に限っての話ではありませんが、市川崑の「空間設計」について春日太一は、「市川崑の映画に出てくる日本家屋は、なんだか落ち着かない感じがする。…(中略)…たしかに日本家屋が映る場面を見てみると、直線と角で区切られている格子が絶えず背景に映り込んでいる。それは障子だったり、畳の角だったり、鴨居だったり、天井の梁だったり。全てが幾何学模様で映し出されている。…(中略)…市川崑が撮ると幾何学模様で構成された異様な空間になる」と述べていました(下掲『市川崑と「犬神家の一族」』、pp.37-38)。
 そうした点ともからんで本作では、蛍光灯のような光の行き届ききらない薄暗く幅の狭い廊下を、どこともしれず、人物たちがいったり来たりします。廊下の脇は壁ではなく、動かすことのできる障子や襖で、その感触も作用を及ばさずにはいますまい。物語上の中核が金襖の部屋だとして、しかし古城映画としての肝はH型廊下なのです。しかもH字型廊下等の位置、和様の部分と洋風の部分との接続をはじめとして、屋敷の内部構造はまったくもって定かではありません。これこそ本作の魅力の少なくとも一環ではないでしょうか。

Cf.,  春日太一、『市川崑と「犬神家の一族」』(新潮新書 644)、新潮社、2015

モルモット吉田、『映画評論・入門! 観る、読む、書く』(映画秘宝セレクション)、洋泉社、2017、pp.228-241:「第5章 6 『犬神家の一族』(76年)」

原作は;
横溝正史、『犬神家の一族』(角川文庫 緑 304-5)、角川書店、1972
初出は 1950-51

 2017/10/18 以後、随時修正・追補
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