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メトロポリス
Metropolis
    1926/27年、ドイツ 
 監督   フリッツ・ラング 
撮影   カール・フロイント、ギュンター・リッタウ、ヴァルター・リットマン 
 美術   オットー・フンテ、エーリッヒ・ケッテルフート、カール・フォルブレヒト、
エドガー・G・ウルマー、ヴァルター・シュルツェ=ミッテンドルフ
 
    約1時間22分* 
画面比:横×縦    1.33:1 
    モノクロ、サイレント 

VHS
* [ IMDb ]によると、1時間33分、1時間59分、2時間25分、3時間30分などの版があるようです。
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 いわずとしれたSF映画の古典。古城も出てこなければ怪奇映画でもありませんが、架空の都市空間の表現という点ではずせない作品です。

 冒頭から、いかにも絵に描いたイメージなのに、その幾何学性に呼応した光と影の交錯によって、摩天楼は幻影であるかぎりでの実在感を獲得し、歯車に重ねあわされていきます。複数の向きに蒸気を噴きだす装置が、後に出てくる巨大な機械室のイメージを予告する。
 特権者階級の庭園の場面をはさんで、労働者階級が働き、住む地下都市の姿が描かれていきます。労働者たちが工場へ行く廊下とエレヴェイターが遠近を強調しつつ映され、まずは、鉄骨をのぞかせた天井を、何本もの下ひろがりの柱が支える空間にいたります。床から中2階の高さにテラスが設けられ、そこに設置された機械が操作される。そこに資本家の息子である主人公が迷いこむのでした。一番低い床をさまよう主人公に対比されて、機械群の巨大さが強調されます。
 次いであたかも神殿を思わせる巨大な機械が正面から捉えられます。中央には床から3階まで上る階段があるのですが、真ん中のスロープを両側から階段がはさむかっこうになっている。階段の両側には列柱が並び、柱と柱の間ごとに操作盤とそれを操作する労働者が配されています。床の高さで階段の左右には、大きな五角形をなす何らかの装置が置かれ、蒸気を噴きだす。階段を上った先は、アーチ状の開口部で、中では歯車が回転しています。正面から細部へ、細部からまた正面へと撮影されるこの装置には、屋根も付され、見ようによっては巨大な顔とも映ることでしょう。


 高架道路がいくつも渡され、飛行機械が飛び交うビル街を瞥見した後、科学者の実験室が登場します。この部屋は後の場面でも、螺旋階段や上げ蓋であちこちに通じていることが示される一方、何もない壁がひろがる空間もあって、そこでアンドロイドが製作されているのでした。そのための電光を発する装置だの、沸騰する液体を容れるフラスコだのも欠けてはいません。後の『フランケンシュタイン』(1931)連作における実験室のイメージの先駆けと見なしてよいでしょう。

 他方、地下に迷いこんだ主人公は、巨大な時計盤のような装置の操作に携わった後、これまでの未来都市とは一転して、石造アーチを横目に階段を下って、秘密の集会場に導かれます。谷底のような空間にある説教壇の背後には、何本もの背の高い十字架が扇状に並んでいる。ここでヒロインが物語るのはバベルの塔のエピソードで、その模型も映ります。また科学者の家からも集会場へつながっていて、実験室の螺旋階段を下った部屋の床に上げ蓋があり、階段を下っていくと、集会場を上から見下ろす位置に菱形の覗き窓が開いているのでした。
 説教壇の両脇にはトンネルがあるのですが、その先は納骨堂で、ヒロインはここで科学者に追い回されることになります。このあたりは迷路のように入り組んでいるらしく、階段を上っていくつもの扉がある部屋にたどりつくのですが、後の場面からすると、この部屋は科学者の家の地下にあたるようです。


 こちらも未来都市とは対照的な、昔ながらの教会、その中にあるアーケードの下に一体ずつ収められた七つの大罪の像を映してから、また科学者の家が舞台となります。玄関から入ると廊下が伸びていて、その奥に手すりのついた6段ほどの階段がある。ここを進む主人公を正面からと背中から捉えつつ上の階に上がれば。書斎風の部屋で、二つの扉口以外に下の階への螺旋階段があります。これが納骨堂方面に通じているようです。また扉口の一つを進むとやはり螺旋階段があり、まわりががらんとした広い床、つまり実験室へいたるのでした。
 科学者の家にはこの他に、天窓のついた屋根裏らしき暗い部屋もあり、都市の街路や工場など、規模の大きな空間で話が進むこの映画の中では、集中的な性格を帯びた建物の例として描かれているかのごとくでした。


 身体をいくつもの光の輪に囲まれてヒロインの姿を転写されたアンドロイドがお披露目される場面での、目のアップがいくつも重ねあわされるカットなどを経て、物語はカタストロフへとなだれこみます。動力室へ向かう白い壁の広い部屋、壁の中央には下りの階段があり、壁の上は縦棒が連なる。あるいは鉄骨のドームの下に貯水池があって、奥に小さく入口が見える。地下の集合住宅間の広場には、角張った螺旋状の白い台座(?)とそのすぐ隣にやはり白い円盤が立てられていて、チャイムの役割を果たす。煉瓦が円形の壁をなし、パイプが走っている大きな通気口(?)。奥の出口には手すりが見え、下りの梯子か階段になっているらしい。などなどと、興味深い空間の釣瓶打ちなのでした。

 そしてビルとビルの間、あるいはビルの間の階段を駆け抜ける主人公を俯瞰で映して迎えるクライマックスは、しかし、教会が舞台となります。柱と柱の間を走り、階段を駆け上って、ギャラリー、そして斜めの屋根へと追跡劇が展開します。
 抑圧された労働者と特権階級の対立という物語上の主軸からはほぼ遊離してしまうほどの訴求力を発する、さまざまな未来都市とその崩壊のイメージ、それらに対して物語を収斂させるための舞台として選ばれた昔ながらの教会、反発するのか裏表なのか、両者の関係には何やかやと意味を読みこみたくなるところではありますが、ここでは多様に分岐する空間の感覚に注目しておきましょう。


 なお、本作とともに工場映画と呼びうるのが『宇宙からの侵略生物』(1957)です→こちらを参照
Cf.,  セット等については;
レオン・バルサック、『映画セットの歴史と技術』、1982、pp.62-64、294

D.アルブレヒト、『映画に見る近代建築 デザイニング・ドリームス』、2008、pp.105-107

若山滋・今枝菜穂・夏目欣昇、「ドイツ表現主義映画にみられる建築空間」、2008

Film Architecture : Set Designs from Metropolis to Blade Runner, 1996, pp.94-103

また
クラカウアー、『カリガリからヒトラーへ ドイツ映画 1918-1933 における集団心理の構造分析』、1970/1995、pp.153-154、167-169

「オット・フンテ」、『映画のデザインスケープ 都市/フォルム/アートの読み方』、2001、pp.186-187

Anton Kaes, "Metropolis: City, Cinema, Modernity", Expressionist Utopias. Paradise + Metropolis + Architectural Fantasy, 1993-1994
おまけ フリッツ・ラングを主人公にした映画が;
『アーティフィシャル・パラダイス』(1990、監督:カルポ・ゴディナ)

 2014/09/21 以後、随時修正・追補
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