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魂のジュリエッタ
Giulietta degli spiriti
    1965年、イタリア 
 監督   フェデリコ・フェリーニ 
 撮影   ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ 
編集   ルッジェロ・マストロヤンニ 
 プロダクション・デザイン   ジャンティート・ブリキエラロ、ルチアーノ・リッチェリ、E.ベナッツィ・タリエッティ 
 装置・衣装   ピエロ・ゲラルディ 
 セット装飾   ヴィト・アンザローネ 
    約2時間17分 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

VHS
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 下掲の『映画セットの歴史と技術』(1982)でレオン・バルサックは、「フィクションという点では、フェリーニが『魂のジュリエッタ』でつくったものを追い抜くことは困難である」と述べています(p.183)。本作を古城映画と呼ぶことはできそうにありませんが、セットと衣装の色彩はなかなか面白いので、手短かに取りあげることといたしましょう。ちなみに「金持の別荘がこの映画のために、ローマから40キロ離れたフレジェーネの松林のなかに建てられた」(同上、p.180)とのことです。
 なお始めの方で交霊会が行なわれ、そこで登場した霊がその後もヒロインに働きかけているようにも見えますが、超自然現象が本作の主題とも見なしがたい。その上で、夢、回想、幻想はニーノ・ロータの音楽とともに大盤振舞されます。

 まずはヒロインのジュリエッタ(ジュリエッタ・マシーナ)が住む邸宅です。海辺に近いここは、本宅ではなく別荘なのかもしれませんが、定かではない。最初に登場する寝室や食堂の内装は白を基調にしており、外観も白塗りです。なお寝室には壁画でしょうか、風景を描いた大きな画面が何点か配されています。あまり達者なものとはいいがたい。エリザベッタとテレジーナという二人のメイドがいます。
 結婚記念日の夜、夫婦水入らずで祝おうと計画するジュリエッタの意に反して、夫のジョルジョ(マリオ・ピスー)は大勢の客を連れてきます。その中にはいささかいかがわしげな人物も混ざっており、交霊会が開かれる。その最中間違い電話だか無言電話がかかってきたりもします。これは後にもう1度繰り返されるのですが、何か意味づけされているのでしょうか。

 翌朝、白い寝室にいるジュリエッタのガウンも白です。ベッドに何か赤い衣が放りだしてあるのが鮮やかでした。
 母親や姉妹、その家族と海岸に来たジュリエッタの服と帽子も白です。サーカス風のボートを隣の別荘の人々が引いてくる。その中に黄色の帽子の女性がいます。ジュリエッタは夢で黒い舟を見ます。
 林を散策する家族。シルヴァ(シルヴァ・コシナ)が顔を出す。母親(カテリーナ・ボラット)は青服です。
 夫が寝言で「ガブリエラ」の名をだす。翌朝問うても白を切ります。間違い電話だか無言電話がかかってきます。

 ヴァレンティーナ(ヴァレンティーナ・コルテーゼ)が訪ねてきます。先日の夜降霊術師を連れてきたのも彼女で、この手のことにはまっているようです。今度はインドから来た盲目のビシュマなる女性のところへジュリエッタを誘う。
 夜、停電で真っ暗な中、ヴァレンティーナとジュリエッタは幅の広い階段をのぼります。けっこう宏壮な屋敷らしい。天井の高い広間で支持者たちの前で質疑応答した後、ジュリエッタが壁の赤い部屋に通される。彼女も赤いショールに襟が赤いグレーのジャケットをを身につけています。扉は白い。部屋には窓があり、向こうは欄干を経て吹抜の空間がのぞいています。
 ビシュマと付き人二人の講釈はいかにも胡散臭げですが、先日の交霊会に現われた霊の名を挙げたりもする。ジュリエッタは幻に迷いこむ。

 雨の中、ジュリエッタが運転する車でヴァレンティーナや他の女性が帰ります。ジュリエッタは踊り子と逃げた祖父フィリピス(ルー・ギルバート)の話をする。それとともに幼い頃の回想が始まります。サーカスです。白、赤、黒が強調されています。山型に配された二基の鉄の階段も映る。と思ったら緑の野原の丘で、祖父は白と黒の複葉式飛行機で飛びたつのでした。

 帰宅すると、夜の青い庭に男がいます。庭にいる間この人物の顔は陰に入ったままでした。夫がホセ(ホセ・ルイス・デ・ビリャロンガ、『恋人たち』)1958)に出ていました)だと紹介する。闘牛の飼育者で、家にはリベーラの絵があるという。
 食堂も青い光に浸されています。


 薄暗い廊下が正面からとらえられます。奥には大きな窓があり、近代的なビルの中のようです。背を向けた二人の女性が奥へ進む。白いコートのジュリエッタと母親です。
 半ばで右の扉に入ると、エレベーターでした。全く同じに見える廊下の、今度は左から出てきます。廊下の途中でいささか怪しげな男が待っていました。
 母親に引っ張られてジュリエッタは夫の素行調査を依頼するために探偵事務所を訪れたのです。事務所には横長の広い窓があり、曇りガラスが格子状に細かく分割されています。窓の上辺はゆるい半円アーチをなす。向こうは廊下のようで、人通りがあります。また別の白い壁には、直接大きな地図が描かれています。


 友人ドローレスのアトリエを訪れます。大きな彫像だらけです。奥の方は暗赤色でした。
 子供の頃の回想で、劇の白っぽい舞台が登場します。縦に細かい木をつないだかのような仕切り壁があります。顔の見えない黒ケープの人物がたくさんいます。寝台状の火刑台に炎を表わす真っ赤な紙だか布がひらひらしています。火刑台に縛りつけられたジュリエッタは宙に吊りあげられる。祖父が怪しからんと止めに入ります。


 余談です。顔の見えない黒ケープの群像はこの後も出てくるのですが、それで思いだしたのが下の「おまけ」に載せたフラクスマンの版画でした。フラクスマンは何かとあちこちに影響を及ぼしているようなのですが、ここで連想の原因となったのは、ゴヤとの関連です。ゴヤは一部変更を加えたこの版画の模写も残していますが(フラクスマンの拡大画像を載せたページで挙げた文献等を参照ください。そこでも指摘されていますが、ブレイクも水彩による『神曲』挿絵の同じ場面で同じイメージを用いています)、ゴヤの版画集などをぱらぱら繰ると、フードで顔の見えない人物がしばしば登場し、その他にもフラクスマンの図像から展開させられたのではないかと思われるイメージを認めることができます。ここでは前の勤め先に収蔵されていた数例を下に挙げておきましょう。

 庭に隣家の黒猫が入りこんでくる。赤のカーディガンに白のズボン姿のジュリエッタが猫を届けに行きます。
 玄関前の階段の左右には、スフィンクス像が控えている。こちらもけっこう大きな屋敷のようです。
 やや暗い室内には、背の高い窓が連なる円の格子で分割されている。孔雀を描いた飾りガラスもあります。円の中に植物紋をおさめた屋内の窓が連なっています。広間は吹抜になっている。以前海岸とボートの場面で遠くから見られた屋敷の女主人はスージー(サンドラ・ミーロ)と名乗る。低い2重の半円に囲まれた酒棚があります。部屋の中央あたりに配されたベッドの天蓋を捻り柱が支えている。
 広間からは宙に浮いた湾曲階段が上へあがっています。2階から吹抜を見下ろすバルコニーのような部分もある。さらに上へ、木の葉だらけの階段が見えます。飾りガラスの扉があり、中は白壁の部屋でした。ベッドに女性がいます。
 さらに上の階にあがります。階段の外壁は蔦で覆われている。3階の部屋は円形で、壁は明るい黄色でした。ただしけっこう塗装が剥がれていたりする。ベッドの天井には円形の鏡がはめてあります。また壁の一角に円形のトンネルが穿たれ、滑り台になっている。滑りおりた先はプールです。


 林を自転車で、黒の鍔広帽をかぶったスージーと黒い笠をかぶったジュリエッタが散策します。スージーは樹上から黒い籠をおろす。それに乗って上へあがると、枝の上に窓をはめた秘密基地がありました。スージーは手鏡で遊びます。

 「猫の目」探偵事務所です。探偵たちは調査報告としてモノクロのフィルム、スライドを上映します。夫の浮気は事実のようでした。探偵たちは妙にもってまわった語り方をします。

 スージー邸です。ジュリエッタは赤のドレスを着ている。薄暗い広間でパーティーが開かれていました。ジュリエッタはシルエットと化して階段をのぼります。スージーのアップが映されるも、顔の右半分が陰になっています。女声のスキャットが流れる。
 スージーに呼ばれてジュリエッタは階段をのぼり、3階の黄色い円部屋に入ります。滑り台のトンネルは青い。スージーの「名づけ子」とジュリエッタの情事かと思いきや、火刑にされる子供の幻が現われる。ジュリエッタが壁に貼りつくと、影が急激に動きます。
 ジュリエッタは子供時代の姿で階段を駈けおりる。外に出ると、テラスの欄干に鳥頭に裸婦の胸像が見える。


 庭から白い浴室に入る。火刑少女の幻をはじめとした何やかやが現われます。

 銀のチャイナ服風ジャケット、白いズボンのジュリエッタが庭に出てきます。精神分析劇が行なわれるのだという。黒ケープ・黒マントの一群が周囲にいる。踊る人物たちは黒か白をまとっています。ジュリエッタはホセと踊る。ジュリエッタは女医と林で話します。

 ジュリエッタはガブリエラ邸を訪れます。本人は不在でした。屋内は濃いめの色で統一された、古風な佇まいです。ジュリエッタは黒服を着ています。電話でガブリエラと話す。

 自宅に戻ります。玄関に通じる道の両脇に、セロファンをかぶせた黒い花が立てられ、列をなしている。内装は白ですが、鎧戸の内側は黒っぽい。夫はシルエットと化しています。誘うような声が聞こえてくる。黒ケープ軍団などなどが現われます。
 寝室の壁に低い半円扉があります。その中は白い部屋でした。赤いヒラヒラの舞う寝台が置いてある。部屋は三角形で、奥が鋭角をなしています。ペータース&スクイテン『闇の国々』(2011)所収の「傾いた少女」の内、フォト・ブック部に現われた、先すぼまりの廊下のイメージ(pp.353-355、379)が連想されたりもする。その廊下が異界に通じていたように、三角の部屋の角も透視画法を加速させ、無限遠に後退していくのかもしれません。
 床は白い板貼りです。寝台に縛りつけられていた娘を解放すると、幻たちは退く。娘は祖父のもとに走ります。飛行機が再登場する。
 夢は去り、風の音が鳴る。白い柵の門を開き、ジュリエッタは野原に出ます。「友達」の声がする。笑みを浮かべ、ジュリエッタが柵に沿って右へ進むさまが引きで映されます。林に入っていく。木々の葉叢は丸っこくまとまっています。


 本作は長篇としてはフェリーニの最初のカラー映画だそうです。そのゆえもあって、下掲の出口丈人による解説にも記されていましたが、色彩の効果が最大限に活用されています。それは一方で、『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963)や『白い肌に狂う鞭』(1963)をはじめとするマリオ・バーヴァの諸作品を連想させつつ、『凶人ドラキュラ』(1966)のところでも書いたように、色彩を高彩度で用いるという画面設計は、必ずしもその後に引き継がれたとはいえないような気がします(古い映画を当初の状態で現在見ているとは決していえないにせよ)。それはともかく、本作における色彩の使用法には、いろいろと読みこめる点がたくさんあるのでしょう。不勉強のため知らないだけで、そうした研究も既にあって不思議ではない。
 またフェリーニの前作『8½』(1963)が、やはり主人公の彷徨を描きつつ、これは確かに鮮烈でもあれば感動的でもある、ラストの万象復興(アポカタスタシス)めいたイメージによって、一切を幻想に溶けこませることで大団円となしたのに対し、本作でも過去の自分を解放するものの、そのラストは必ずしも歯切れよくないのではないでしょうか。監督のフェリーニが男性であり、主人公が男性だった前作と女性である本作では取り組みが同じようにはいかなかったからなのかどうか、このあたりも何か研究されていそうではあります。もっとも歯切れがよくないからこそ、きらびやかなイメージの乱舞にもかかわらず、本作の方が足を地につけていると、見ようによっては見えなくはないのかもしれません。

Cf.,  レオン・バルサック、『映画セットの歴史と技術』、1982、p.142、pp.180-181、183、253-254

手もとにあるVHSソフト所収のリーフレットには、出口丈人による解説が掲載されていました。
おまけ   フラクスマン《神曲地獄篇第23歌 偽善者たち》1807
フラクスマン
《神曲地獄篇第23歌 偽善者たち》
1807

ゴヤ《戦争の惨禍(62) 死の床》1810-20
ゴヤ
《戦争の惨禍(62) 死の床》
1810-20
ゴヤ《戦争の惨禍(70) 行くべき道を知らない》1810-20
ゴヤ
《戦争の惨禍(70) 行くべき道を知らない》
1810-20

ゴヤ《妄(8) 袋詰めの人たち》1815-24
ゴヤ
《妄(8) 袋詰めの人々》
1815-24

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 2015/11/6 以後、随時修正・追補
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