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フランケンシュタインの花嫁
Bride of Frankenstein
    1935年、USA 
 監督   ジェイムズ・ホエイル 
撮影   ジョン・J・メスコール 
編集   テッド・ケント 
 美術   チャールズ・D・ホール 
    約1時間15分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD
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 『フランケンシュタイン』(1931)の続篇。この間にホエイルは『魔の家』(1932)や『透明人間』(1933)を監督していました。正篇以上に出来がいいとしばしば見なされているようです。劇伴音楽が部分的にしか使われていなかった『魔人ドラキュラ』(1931)や正篇から変わって、フランツ・ワックスマンによる音楽も、全篇を通じて流れるようになりました。またやはりデイヴィッド・J・スカル(→こちらを参照:「怪奇城の外濠」の頁の「iii. 怪奇映画とその歴史など」)が、参照したDVDに収録されたメイキングの脚本・監督などを担当しています。
 物語は嵐の夜のディオダティ荘で1816年、バイロン、メアリー・シェリー、パーシー・シェリーが歓談しているプロローグから始まります。ポリドリは登場しません。ディオダティ荘の外観は暗くてよく見えないのですが、室内に入るとひどく大きな窓、高い天井に暖炉のある居間が映る。壁は装飾のない、いささか素っ気ないものです(追補:→「怪奇城の肖像(後篇)」の頁でも触れました)。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1分:嵐の夜のディオダディ荘
 本篇に入って最初の舞台となるのは、燃えさかる風車小屋の残骸です。風車小屋には深い地下が掘られていて、水が溜まっています。梯子もあるので、何かの用途に使われていたということなのでしょう。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約8分:焼け落ちた風車小屋の地下
 次いでフランケンシュタイン男爵の館が登場するのですが、そのセットは正篇から大きく変更された点の一つです。館の前には石橋が渡されており、右上がりに映されます。城壁のようなものもあるらしく、階段が備えられています。玄関を開くと、扉の向こうには四分の一のアーチが連なっているさまがのぞいており、なかなか印象的です。  
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約10分:城門への橋 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約10分:城門を入ったところ
 館内に入れば大きな広間になります。いくつものゆるやかな尖頭アーチによって支えられていて、柱は壁沿いだけでなく中央あたりにもあって、交差ヴォールトによって分割されていることが分かります。奥には木製の階段があり、何回か折れながら上の階にいたる。また左奥にはやはりアーチが連なる廊下が延びていて、それが玄関につながることが後の場面で読みとれます。こうした広間の様子を、ぐ~と回りながら移動するカメラが捉えます。正篇での館が昼間の明るさで覆われていたのに対し、最初の登場も含めて、ほとんどが夜の場面なので、暗さが空間の密度を高めてくれるのでした。天井も極端に高い様子はない。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約11分:大広間
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約15分:灯りを落とした大広間、左奥が玄関
 フランケンシュタイン(正篇でけっこう魅力的に描かれた父親は今回登場せず、すでにヘンリーが男爵と呼ばれています)が運びこまれた寝室も、やはりいくつものアーチを備え、壁に巨大な燭台や窓の斜め格子の影が映ったりします。 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約12分:ヘンリーの部屋
 この部屋は扉口がいくつもあって、プレトリアス博士が登場した時には、玄関から廊下を通って、階段をのぼって入るのですが、後の場面では、何段か高くなった入口のすぐ脇に、低くなった別の入口があることがわかります。この2つの入口は広間側のセットにもきちんと作られていて、低い方は広間の床と同じ高さにあるのでした。室内から見ると高い方の扉の向こうに広間のアーチが見えます。ほとんど隣りあわせに扉を2つ設けるというのは、高低差がある点からして、低い方を使用人が使うものと考えることができるかもしれませんが、やはり機能上の意義があるとは思えない。あるいはこうした実例があるのでしょうか。ともあれ、映画の中で、見た目があざやかであるとは言ってよいでしょう。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約51分:ヘンリーの部屋の段になった二つの扉口
 この2つ以外にも、一つは屋内、おそらくエリザベスのいる部屋に通じる出入り口があり、さらにもう一つ、屋外の、おそらくは庭に出る扉が後に出てきます。
 エリザベスの部屋も後に映され、やはり屋内に通じる出入り口とともに、庭に面した大きな窓状の扉があって、そこから入ると何段か下がって床になるという段差がありました。壁には窓の斜め格子の影が映っています。
 
 プレトリアスの実験室にヘンリーが案内されてきた際、最初に映るのが部屋の前の空間です。短い場面ですが、ここもなかなか印象的でした。手前に木の階段があり、奥の方へ廊下が延びて扉に至るのですが、奥への後退はけっこう加速されているように見えます。右側では壁に窓の影が落ちていて、床の光溜まりなど、照明に工夫が凝らされているようです。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約20分:プレトリアスの実験室への階段
 実験室内は広いものではないのですが、斜めの壁を斜めの梁が支えていたりします。やはり薄暗く撮られる中、テーブルの上のランプが真っ白に輝いていました。奥には戸口があり、壁に寝台の頭の部分にでもありそうな半円形の仕切りの影が映ったかと思えば、何やら電線のような曲線がかけてあったりするのでした。  
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約30分:村 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約32分:村
 尖端の見えない木の幹が林立する森での逃走を経て、磔刑のキリストを連想させずにいない態で柱に縛りつけられた怪物が連れてこられるのが、警察らしき建物の地下牢です。石造りの階段、次いで廊下を通って入るそこには、壁の凹みの前にけっこう高い段が何段もあり、その上に怪物を鎖で拘束する椅子が設置されていました。なぜこんなものがあるのか、いささかおどろおどろしいかぎりであります。壁の上の方には窓があって、街路に接しているらしい。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約32分:警察、地下牢への廊下
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約30分:警察、地下牢への階段 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約31分:警察、地下牢
 しかしただちに逃げだした怪物は、森の中で盲目の隠者の小屋にたどりつく。奥の屋根・天井は斜めになっていて、窓が開いてあります。扉を出ると、すぐ脇に何やらギザギザの道具がかかっていました。 
 安住の地と友人を得たと思うも束の間、そこも追われた怪物は、墓場の地下にもぐりこむのでした。この地下墓室はかなり広いらしく、尖頭アーチが交差して連なる中、鉄格子で区切って複数の墓が安置されているようです。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約48分:墓地の地下納骨堂
 その後フランケンシュタイン邸でのやりとりを経て、ついに見張り塔が再登場します。基本的な体裁は同じなのですが、随所で変更が加えられています。玄関前の廊下から実験室に昇る階段には、上に斜めの梁が渡されているのが見えます追補:→「怪奇城の廊下」の頁、また「怪奇城の高い所(後篇) - 塔など」の頁や、「怪奇城の図書室」の頁でも触れました)。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約56分:見張り塔
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約59分:見張り塔、2階と1階を結ぶ階段 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約57分:見張り塔、実験室
また実験室での最大の変化は、屋上に上がるための湾曲する階段が設けられたことでしょう。少し前には寝台のある壁龕の脇に上への狭い階段が映りますが、これがヘンリーたちが昇っていった大きめの階段と同じかどうかは、よくわかりませんでした。屋上には凧を揚げるための装置が設けられ、少し高くなった部分もあります。 
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1時間5分:実験室、俯瞰 左端に屋上への階段 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1時間1分:実験室、寝台と階段
 新たな被造物に生命を与える段取りも前回とは異なっていて、まず手術台の上に天井から大きな放電装置が降りてきます。次いで放電装置ごと手術台は天井の開口部に上昇して、屋上でさらに高く差しあげられるのです。この場面では斜めに捉えられたヘンリーとプレトリアスのアップが激しく切り換えられ、後になるとさらに、明暗の対比も思いきりきつくなるのでした。  『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1時間8分:見張り塔、屋上
『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1時間6分:屋上から駆け降りてくるヘンリー 『フランケンシュタインの花嫁』 1935、約1時間11分:屋上から降りてきた怪物
 そしてクライマックス、前回の風車小屋に応じるかのように、またゴシック・ロマンスの定石の一つをなぞるかのように、塔は爆破されて幕を閉じることになります。

 なお、実験室のある見張り塔の階段が再登場するのが『女ドラキュラ』(1936)→こちらを参照
 
追補:見張り塔の窓の桟に関して→「ドラゴン、雲形、魚の骨 - 怪奇城の意匠より」の頁で触れました
 
Cf., 

The Horror Movies, 4、1986、p.147

石田一、Monster Legacy File、2004、p.8

マーク・ジャンコヴィック、『恐怖の臨界 ホラーの政治学』、1997、pp.90-95

デイヴィッド・J・スカル、『モンスター・ショー 怪奇映画の文化史』、1998、pp.210-220

Scott Allen Nollen, Boris Karloff. A Critical Account of His Screen, Stage, Radio, Television, and Recording Work, 1991, pp.98-126 : "Chapter 10. The Monster Demands a Mate : Bride of Frankenstein (1935)", p.375 / no.96

Michael Sevastakis, Songs of Love and Death. The Classical American Horror Film of the 1930s, 1993, pp.89-100 : "Part II -6. The Bride of Frankenstein : A Friend for the Enemy of God"

Jeremy Dyson, Bright Darkness. The Lost Art of the Supernatural Horror Film, 1997, pp.49-60

Alberto Manguel, Bride of Frankenstein, (BFI Film Classics), British Film Institute, 1997
 怪物に出会う/花嫁の作成/メアリーが物語る/博士と悪魔/怪物が喋る!/二人の兄弟のための二人の花嫁/花嫁の諸見解/創造神話:光と塵/彼女の独身者たちによって裸にされたもう一人の花嫁、さえも、など、
68ページ。


 68ページの小冊子ではありますが、1冊本。エルンストやマン・レイ、デュシャンの作品が引きあいに出されたりしています(pp.57-62)。
 →「怪奇城の図書室」の頁の『薔薇の名前』映画版(1986)からの寄り道:ピラネージ《牢獄》風吹抜空間でも触れました。
 同じ著者による→そちらを参照:「通史、事典など」の頁の「x. 事典類など

 BFI Film Classics 叢書から、本サイトで挙げたものの一覧→あちら:「怪奇城の外濠」の頁の「iii. 怪奇映画とその歴史」中の「洋書類」の末尾

Elizabeth Young, "Here Comes rhe Bride : Wedding Gender and Race in Bride of Frankenstein"(extract), Edited by Ken Gelder, The Horror Reader, 2000, pp.128-142: chapter 11
 初出は Feminist Studies, vol.17 no.3, Fall 1991, pp.403-437

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.149-151

 また

Beverly Heisner, Hollywood Art. Art Direction in the Days of the Great Studios, 1990, pp.291-292

Juan Antonio Ramírez, Architecture for the Screen. A Critical Study of Set Design in Hollywood's Golden Age, 2004, p.106, pp.138-139

 この作品を短篇小説化したのが;

ジョン・L・ボルダーストーン&ウィリアム・ハールバット、風間賢二訳、「フランケンシュタインの花嫁」、風間賢二編、『フランケンシュタインの子供』(角川ホラー文庫 H 511-1)、角川書店、1995、pp.207-260


 この映画はリメイクされました;

『ブライド』、1984、監督:フランク・ロッダム

おまけ

Best Hits Horror Movie
(邦題:『ベスト・ヒッツ・ホラー・ムービー』、2006→こちらも参照:『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の頁の「おまけ」)

 の2曲目に
"The Bride of Frankenstein- The Creation of the Female Monster"(「フランケンシュタインの花嫁 クリエイション・オブ・ザ・フィメール・モンスター」)が入っています。8分39秒。演奏は The Westminster Philharmonic Orchestra、指揮は Paul Bateman

『ファンハウス 惨劇の館』、1981、監督:トビー・フーパー
 始めの方でTVのモニターに『フランケンシュタインの花嫁』の一場面が映ります(約7分)。またその前に映る部屋には、ボリス・カーロフ扮するフランケンシュタインの怪物や、ロン・チェイニーJr.扮する人狼化したローレンス・タルボットそれぞれのポスターが貼ってありました。


『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』、2008、監督:ギレルモ・デル・トロ

 TVのモニターにやはり『フランケンシュタインの花嫁』の一場面が映ります(約1時間6分前後)。少し後には『大アマゾンの半魚人』(1954、監督:ジャック・アーノルド)もちらっと映るのでした(約1時間15分前後)。
 2014/09/05 以後、随時修正・追補
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