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怪奇!巨大蜘蛛の館

    1978年8月26日放映、日本 
 監督   岡村精 
撮影   佐藤敏彦 
編集   白土純子 
 美術   山口修
 装飾   亀岡紀
 照明   伊藤祐二
 特殊技術   白熊栄治
    約1時間11分 
画面比:横×縦    1.33:1 
    カラー 

ケーブルテレビで放映
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 たまたま残っていたメモに間違いがなければ、この作品は1997年12月8日(月)、『月曜電影座』という枠組みで放映された時に見ました。1時55分からの放送で、おそらく深夜、日付は翌火曜になっていたのでしょう、タイトルに惹かれVHSに録画、実際に見て何じゃこりゃあと一驚したのを憶えています。だから録画もとってあったわけですが、VHSの再生機器のことはおくにしても、いかんせん電波状態が悪い時の三倍録画です。とこうするとさいわい、テレ朝チャンネル2の『EXまにあっくす』第1回(2016/12/25)の中でリマスターしたものが放映されました。そちらで再見することにしましょう。

 初見時に吃驚したというのは、危められた被害者の怨霊が加害者たちを破滅に導くという大筋は昔ながらの怪談ものだとして、怨霊の依り代が蜘蛛なのもいいにせよ、なぜ蜘蛛なのかといういわれはよくわからず、そうこうする内に山崩れの特撮が挿入されたかと思ったら、加害者の姉弟の関係は怪しげだし、実際の蜘蛛がうじゃうじゃするのはともかく、何の前触れもなく突如大蜘蛛が出現、しかも実質的な主人公である加害者・姉の津村昭子(田口久美)をヌードにして糸でくるむというラストには、口をあんぐり開けるほかありませんでした。下掲のインタビューで脚本を担当した田口成光も「あのラストは驚いた」と語っています(p.58)。このあたりも含め、やはり下掲の真魚八重子による解説が的確にまとめてくれているので、そちらをご参照ください(p.134)。

 円谷皐とともにプロデューサーをつとめた満田かずほの下掲談話によれば、「確か『ウルトラQ』の『クモ男爵』のビデオを『観てください』って持ってったはずだよ。これをもうちょっと大人っぽくしてっていうことでね」とのことです(p.134)。「クモ男爵」(1966)も充分大人っぽかったと思うのですがそれはともかく、「クモ男爵」と本作の間には『恐怖劇場アンバランス 第13話 蜘蛛の女』(1969-70制作、1973/4/2放映、監督:井田探)を円谷プロは作っていました(同書、p.91、他にpp.52、96、104-105、112、149 など)。田口成光は「『蜘蛛の女』を基にした作品でしょうか」と問われて「いや、僕はそういう意識はなかったですよ」と応えていますが(p.58)、怨霊の使い魔として実際の蜘蛛がぞろぞろ出てくる点は共通しています。蜘蛛がそうなる理由も『蜘蛛の女』ではおさえてある。他方『蜘蛛の女』で怨霊と化した連子(八代万智子)はあっぱれな悪女ぶりを披露してくれましたが、この点は本作の昭子につながると見なせなくもない。大蜘蛛こそ登場せず、また館ならぬマンションの一室が主な舞台ですが、その部屋の悪趣味な装飾や、エピローグでそれらが取り払われた後に室内をめぐるカメラなど、『クモ男爵』や本作とあわせて見るのも一興かもしれません。
 「岡村さんは凝った映像が好きだけれど」と田口成光は述べていますが(p.58)、監督の岡村精は本作に先だって、『怪奇ロマン 君待てども』を山際永三と共同で担当していました(1974/8/5-10/28、同書、p.139)。本作の悪役の一人・西河役の明石勤も主演の一人だったとのことで、全55話を欠かさず見たわけではないのでしょうが、『血とバラ』(1960)を思わせる場面のあったことを、エンディングで流れる主題歌がたしか糸車(?)が「まわるまわる」とかと歌っていた点とあわせ、朧気に憶えています。悪役組の一人、トップ屋の千葉を演じた梅津栄はあちこちで何度となく見かけた顔でしょう。ここでは円谷プロ関連から『恐怖劇場アンバランス』の第10話「サラリーマンの勲章」(1973/3/12放映、監督:満田かずほ)のみ挙げておきましょう(同書、p.88、また、p.109、p.153)。音楽の冬木透こと蒔田尚昊は、『ウルトラセブン』(1967)や『帰ってきたウルトラマン』(1971)、『ミラーマン』(1971)でお馴染みです。本作でも弦を引っ搔くよう音が連なります。


 さて、問題はタイトルにもある館です。館はプロローグ部分、中盤での山崩れの特撮に続いて少し、そしてクライマックスの舞台となります。クライマックスに出てくる応接セットのある広い部屋はセットのようですが、外観や二階の部屋の連なり、階段室、地下の通路などはロケと見えます。酒蔵はセットでしょうか?
 とまれロケ先はわからないのですが、本篇中では昭子と婚約し、殺人の動機ともなった富豪・大村(森幹太)の別荘という設定で、ただしそれがわかるのはかなり後の方になってからなので、いささか落ち着きませんでした。ちなみに本作では主役にあたる小川知子、田口久美、中山仁のクレジットは、それぞれの俳優が登場したところでかぶせられます。中山仁にいたっては始まって約24分経っており、この後もほとんど出番がない点はともかく、画面に映っていない人物の声だけが聞こえる場面も何度かあり、何やら空間や時間のずれが組みこまれているというのは、しかし深読みにすぎるでしょうか。


 真魚八重子によると、「田口成光が執筆した脚本を読むと、オープニングは完全に変更されており、現実的な殺人処理の場面だったシナリオを、映像派監督の岡村精は、少女の亡霊と蜘蛛をムーディーな怪奇演出で描き、非凡さを醸しだしている」とのことです(p.134。文中監督の姓が「岡本」となっていますが、ここでは「岡村」に合わせておきます)。もしかすると脚本では、そこで蜘蛛との関係が示されていたのかもしれません。
 まずは館の外観が、やや距離を置き、見上げるようにして正面からとらえられます。壁は白っぽい。手前左右に木の枝がかかっています。夜です。
 せりだした中央部から左右に後退、左は二段後退します。二階建てで、幅の広い中央は一階二階とも広く窓で占められ、一階はフランス窓になっているのでしょうか。左右はいずれも一階に大きめの半円アーチ窓、アーチ窓一つ分に二階では細長い窓が二つつくというかっこうです。
 下から白い手がのびあがってきます。指先に蜘蛛が引っかかっている。沢田敏子による不穏なモノローグが重なります。
 切り替わると、壁の白い、しかし照明の落ちた廊下を、カメラは右から左へ、やはり仰角で滑ります。向かって右の壁にはいくつか扉がありますが、そのまま突きあたりの扉に向かう。扉が開くと暖炉のある広めの部屋です。手前を白衣の娘が右から左へ横切ります。他方手持ちカメラは左から右へ動く。奥には角部屋がありました。窓ごとに下にラジエーターがあります。背を向けて娘が入っていく。振り向くとカメラはしかし右へ、また暗い奥に進む。窓の多い部屋です。床は碁盤状になっている。窓の前には娘がいました。振り向きます。戸口の前にいたカメラは入らず右へ、暗がりを経てタイル床の部屋へ、右奥の戸口から入ると明るい白の部屋です。アーチにつながる柱があります。突っ切ります。先の方の右で階段が下へおりていくらしい。正面奥はアーチ状の戸口で、奥は暗い。短い廊下を経て、突きあたりの扉が見える。娘は突きあたりの壁のすぐ前で背を向けていました。壁には何やら格子状の影が斜めに落ちています。カメラが前進すると娘が振り向く。
 また最初の外観に戻ります。下から蜘蛛を遊ばせた手があがってきて、少しして下がります。ここまでで約2分前後でしょう。薄暗い中に空っぽの部屋がいくつも連なっているのですが、その連なり具合がよくわからない。実際にはことさら入り組んだ配置になっているわけでもないのでしょうが、そこをあたかも、ことさら入り組んでいるかのように感じさせることこそが、古城映画の誉れにほかなりますまい。
 なお黒地に白抜きのタイトルの文字は、曲線的というかアール・ヌーヴォー風といえなくもなく、右下で白い蜘蛛と糸が下降します。


 館の再登場には約30分頃まで待たねばなりませんが、その間にも面白い場面を見ることができます。タイトルの後、中川彩子(小川知子)が夜の道を歩き、カメラの右から左への首振りに応じて角を曲がり、幅の広い階段坂を降りるさまが3カットでとらえられます。ピアノの音に立ち止まってから今度は4カットで、階段坂を下り、カメラの左から右への首振りに応じて角を曲がってそのままマンションの入口に入る。階段を登ってくるさまが上から見下ろされ、次いで階段をあがって屋外に面した廊下を右へ、部屋の扉の前まで来るさまが屋外から見上げられます。贔屓目にとるなら、移動する際の空間と時間の動きが意識されているのでしょう。
 部屋に入ってからも、壁にかかった楕円の鏡にまず像が映り、追って実物が右から左へ横切る。鏡の活用はこの後も、彩子の妹カオリ(渡井直美)の殺害前などに見られます。またガラスへの映りこみなども何度か用いられていました。
 話を戻すと、彩子は今度は昼間、線路沿いを歩きます。角のカーヴ・ミラーにまた像だけが映る。進み続ける。暗い地下道を手前に進んできます。階段を登っていくさまが見上げられる。以上5カットでした。
 続く大村との会見の場面では、目と鼻周辺の極端なアップが3カット続きます。この後も本作品ではむやみとアップが多く、しばしば強張った正面像をなします。
 と思ったら、広い庭をはさんで奥に日本家屋がとらえられ、右に縁側が伸びるかたわら、左端の小部屋に彩子と大村がいたりするのでした。カメラは固定のまま、大村が話しながら縁側を右へ、庭に出たりもします。遠近対比の誇張は、昭子と大村の婚約発表の席の、さらに窓の外に小さく彩子が現われる場面でも見られました。
 大村がカオリを紹介したという作詞家・昭子のマンションでの会見の場面を経て、彩子はまた階段をくだり、地下道を進みます。


 昭子の周辺で蜘蛛が跳梁しだし、あげく死んだはずのカオリの姿まで目撃されるくだりを経て、館が再登場します。雨風が強く、雷も鳴る中、階段を降りて庭となる、その階段の上に館の一角がのぞいていました。左に広いフランス窓の壁、右で一階が半円アーチ窓、二階が細長い窓の壁との境目は、半円筒になっているようです。冒頭での外観に対し、向かって右斜めから見た位置ということになるでしょうか。
 約34分、半狂乱になった昭子の弟・健二(小林文彦)がフランス窓から中に入ります。玄関ホールを経て、左に円柱のあるつなぎの間、円柱の向こう、左に上りの階段が見える。奥には仕切り壁があって扉がついている。
 15年前に山あいの集落を襲ったという台風と山崩れの特撮をはさんで(使い回しなのでしょうか?)、階段室が上から見下ろされます。さほど広くはないが、欄干は装飾的です。踊り場の左にも扉が見え、奥には窓が設けてある。色ガラスに斜め格子がはまっています。下にラジエーターつきです。
 プロローグでも見られた、階段をあがってすぐ右のアーチ口が映り、扉がいくつも勝手に開きます。カメラの位置は低い。やはり再登場の角部屋を経て、健二は揺り椅子のある部屋にやって来る。壁には柱時計がはめこんであります。揺り椅子の後ろには棕櫚の鉢植え、その反対側、少し離れて応接セットです。その向こうは半円アーチ窓でした。


 トップ屋・千葉以外の三人がそろって一方を見る下からのショットを含む、千葉のアパートの場面を経て、千葉を含む加害者組四人がそろって、階段を降りた先、コンクリートの壁にはさまれた狭い道を走ります。俯瞰です。天井はないようで、前に彩子が通った地下道とは別らしい。
 四人は廃工場だか倉庫跡だかにたどりつきます。かなり広く、三角天井も高い。天井近くから首吊り死体めいた何かが吊りさがっている。これは後の場面での大蜘蛛による所業を予告しているのでしょうか。


 青い波状の装飾が上下から壁にのびる殺害現場の回想を経て、四人は中盤同様、庭から館に入ります。扉を開くと応接セットの間となりますが、ここはセットに見える。天井が高く、奥に中二階に当たるのか、踊り場がありました。中盤ではこの部屋は二階にあるように思われましたが、ここでは一階ともとれる。それとも別の部屋か?
 約53分、やはり中盤に出てきた階段室から二階へ、カメラが右から左へ滑る中、まずトップ屋が階段をあがってすぐ右の奥へ入る。壁にやはり、何やら格子状の影が斜めに落ちています。カメラは部屋に足を踏みいれることなく手前の廊下(?)をさらに左へ、弟の健二が入った部屋には何やら積みあげたマットのようなものが見える。カメラはそのままさらに左へ、奥に扉があり、その奥で右から左へ昭子が横切る。また左へ、奥に西河、その左の奥が角部屋でした。風で窓が開きます。四人が集合する。カメラはやや下からとらえています。
 プロローグにおいてカメラを翻弄するかのように現われては消えた白衣の娘が、この場面では不在のままに四人をもてあそんでいるのでしょう。溜息が出ずにはいません。


 地下に酒蔵があるというので、アルコール中毒気味のトップ屋が向かいます。「クモ男爵」同様、上下三層をなすわけです。地下への階段室が真上からとらえられる。画面中央、下から上へ直線状に欄干が区切り、左下から上へ上階廊下、欄干の上で半円に回りつつ下への階段がめぐる。左の壁には梯子がかかっています。
 階段室の壁はあちこち表面が剥がれ落ちています。忍びこんだ彩子がトップ屋の後をつけます。酒蔵は蜘蛛の巣だらけでした。
 先ほどの階段を降りると右へ短い廊下が伸びており、酒蔵はその先にあるのでしょう。右の壁には金属の扉が見えます。ここで彩子は西河と鉢合わせてしまいますが、約59分、大蜘蛛が登場するのでした。
 やはり追ってきた昭子と彩子、トップ屋が出くわす場面では、まわりの壁沿いをパイプやタンクが取り囲み、さらに下へ降りる階段と金属の手すりが見えました。この金属の手すりは先ほど真上から見えたものと同じのようですが、もう一つ定かではない。屋外に通じるらしきガラスをはめた扉もある。


 地震の勃発を経て、最後の舞台、応接セットの間に戻ります。二階踊り場へは向かって右から登る階段があり、踊り場の奥に黒い扉がありました。踊り場の下・左手に地下に通じるらしき戸口が見えます。
 突風に雷、踊り場の扉から飛びだしてきた健二を誤って撃ってしまった昭子に対し、弾劾する彩子は右から左へ回ります。カメラは彩子を正面からとらえたまま、360度めぐる。『血ぬられた墓標』(1960)や『催淫吸血鬼』(1971)それぞれの一齣が連想されるところです。
 約1時間7分、大蜘蛛再来、昭子に襲いかかりますが、むしろ愛撫するようにも見えます。服が裂け、昭子も苦しそうではない。かくしてヌードになった昭子を彫像のように蜘蛛の糸が立ちあげるのでした。「クモ男爵」のところでタイトルのみ挙げたマン・レイの《クモの巣の上のヌード Nu à la toile d'araignée 》(1970年、シルクスクリーン)を思いだすこともできるでしょうか。
 真っ白な画面に縦でクレジットが記されます。


 最後になってようやく駆けつけ、しかし彩子と身を寄せあうばかりで、結局何もしなかった彩子の恋人(?)で高級船員の「ジンさん」(中山仁)はともかく、さほど根拠もなくストーカーよろしく昭子たちの身辺を探る彩子も、実のところ事態の進展にはほとんど関わっておらず、彼女無しでもお話は成立すると見てよいでしょう。
 ただ強いて深読みするなら、昭子と彩子がともに〈姉〉である点に手がかりを見出せるかもしれません。中盤で「姉さんは僕のもんだあ」と叫び、クライマックスでは「姉さんはいったい誰を愛してたの?」と問いかけて息絶える健二の存在はなかなかに印象的ですが、一方で彩子とカオリの仲睦まじい幼少時代を描いた、少なくとも彩子視点からの回想も挿入されていました。それぞれに弟なり妹との関係の内にある二人は、姉として呼応しているわけです。しかも妹・弟はそれぞれに失なわれる宿命にある。あなたは私の大切なものを奪うといって彩子に拳銃を向ける昭子に対し、健二の最後の問いへの答えも兼ねて彩子は、あなたが愛したのは自分だけだと返します。いささか理不尽とも唐突ともとれるこの告発は、二人のいずれがあるべき姉だったのかを張りあってでもいるのでしょうか。
 柳田国男の〈妹の力〉ならぬ〈姉の力〉といいだしたくなるところですが(関礼子『姉の力 樋口一葉』(1993)という本があるそうですが、未見)、それはともかく、この点から昭子と彩子を一人の人物の二つの相と見なすこともできなくはない。二人が交換可能なのであれば、ラストでの大蜘蛛の襲撃が愛撫めくのも、話が始まった時点ですでにこの世のものではなかったカオリが、昭子を道行きの伴たるすべき姉と認識したからと解せます。もっとも個人的には、『血とバラ』や『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)の場合同様、二人の姿で現われたものは別々の二人なのだととりたいところではあるのでした。
 とまれ、話運びのテンポや筋立てに賛否はあることでしょうが、いくつかの視覚的な画面づくりや館の上下三層構造とともに、何よりプロローグや中盤、約53分以降での二階の空き部屋の連なりを行ったり来たりするカメラの動きをもって、本作の古城映画的勘所といたしましょう。

Cf.,  『円谷プロ 怪奇ドラマ大作戦』(洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)、洋泉社、2013、p.58(インタビュー:田口成光)、pp.134-135(真魚八重子による解説、プロデューサー満田かずほ(のぎへんにつくりは「斉」、旧字では「穧」)の談話)
 2017/09/14 以後、随時修正・追補
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