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長靴をはいた猫 80日間世界一周

    1976年、日本 
 演出   設楽博 
 作画監督   角田紘一
撮影   高梨洋一、片山幸男 
編集   千蔵豊 
 美術   土田勇
    約1時間8分 
画面比:横×縦   2.35:1 
    カラー 

ケーブルテレビで放映
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 『長靴をはいた猫』(1969)、『ながぐつ三銃士』(1972、演出:勝間田具治)に続くシリーズ第3作で、タイトルどおりジュール・ヴェルヌの小説を元ネタにしているため、あちこち動き廻ってひとところに落ち着くということはないのですが、それでも古城映画的に面白がれる幕が二箇所ほどありました。手短かに眺めることにしましょう。

 レストランの給仕をつとめるペロ(声:なべおさみ)が、町の実力者グルーモン卿(声:瀧口順平)と80日間で世界一周できるかどうか賭けをする。コックのカーター(声:神山卓三)と一作目以来のレギュラー・鼠親子(声:富田耕生、山本圭子)を相棒に出発するが、これもお馴染み殺し屋猫三匹(声:はせさん治、田の中勇、水森亜土)が先々でちょっかいを出してくるは、謎の男ことガリガリ博士(声:大塚周夫)の影もちらつき出す。果たして顛末や如何に、というのがおおよその粗筋です(声優は田の中勇、水森亜土が音楽の宇野誠一郎とともに三部作通じて連投、富田耕生が第二作からの続投で、他は入れ替わっています)。

 前二作では人間が一応の主役をつとめ、ペロはその手助けをするという形になっていましたが、本作では人間は登場せず、この世界の住民はすべて動物の姿をしています。ペロや殺し屋猫たち、鼠たちはいうに及ばず、グルーモン卿は豚、カーターは河馬、ガリガリ博士は狼といった具合です。とりわけガリガリ博士は後のTVアニメ『名探偵ホームズ』(1981年から制作、放映は1984~85)でのモリアーティ教授にデザイン、声優ともども引きつがれました(日本版ウィキペディアの「長靴猫シリーズ」の頁によると(→こちら、注釈5)、先だってTVアニメ『ハッスルパンチ』(1965~66)に登場したキャラクターとのことですが、未見。後者での声優は八奈見乗児:同じく→そちら。ちなみに八奈見乗児は本作では市長役をつとめています)。

 出発の地であり目的地でもある町を船で出発、スペインでの闘牛、ピサの斜塔、ヴェネツィアのゴンドラ、ギリシアのアクロポリス風神殿、「クエズ運河」、「カラビア砂漠」と旅してきて、約17分、砂漠のただ中に白い町が見えてきます。ここが古城映画的山場その一です。サグラダ・ファミリア風の高い塔を中央に擁するこの町は、小山状をなしているようで、細い路地、坂、階段が縦横に入り組んでいます。約20分まで、どこからともなく現われた、先端にドリルのつく車に乗りこんだ殺し屋猫たちがペロ一行の車を追いかけ回し、街中を行ったり来たりするのでした。路地、坂、階段どころか屋根の上まで走り回ります。

 気球に乗ってカッパドキア、イスラーム都市、氷河だか冬山(ヒマラヤか?)、タージ・マハルのある「ピンド」を経て香港から潜水艇で海中へ、「大昔海に沈んだ伝説の都市」を横目にガリガリ博士操る魚型潜水艦と一悶着、秋の「ミニニッピー川」から北極圏へ、ガリガリ博士操る機械マンモスとの一悶着に続いて飛行機を作成、博士の飛行艇に追われつつ、約53分、最初の町に辿りつきます。

 冒頭ですでに現われており、80日後の正午の鐘が鳴り終わるまでに上に登っていれば賭けの勝ちだという時計塔が、本篇のクライマックスにして古城映画的山場その二となります。
 ただし時計塔に入る前に一齣ある。町に流れる川は海につながっており、時計塔の見える河岸から少しして、トンネルをくぐると海に出ます。冒頭通った道筋を今度は逆にたどるのですが、時計塔の近くに達する前に、翼をもがれて船に変じたペロたちの飛行機はガリガリ博士の飛行艇に追われ、冒頭同様橋の下を過ぎ、しかし冒頭には通らなかったもう一つの地下水路に入っていきます。
 その突きあたりは円形の池をなし、天井が抜けて竪穴となっていました。ペロたちの船はここを上昇、博士の飛行艇も狭い孔をあちこちぶつけてぐしゃぐしゃになりながら追ってくる。竪穴はけっこう長く、この時点ではよくわからない、平らな橋に丸い穴をあけた何かを突き抜け、その上方で外に飛びだしてみれば、時計塔のある建物の三階の屋根あたりでした。
 時計塔で錘・振子のための空間が下まで伸びているのだとして、それがなぜ地下まで続いているのか不明ですが、ともあれペロたちの船は川に投げだされる。もう一つの地下水路入口に入ります。突きあたりはやはり円形の池をなし、その壁に沿って階段がのぼっていきます。そこをあがると、時計塔のある建物が見えました。屋外で踊り場をはさんで折れ曲がり、もう少し階段が続いています。
 なおこの時点でガリガリ博士は追跡を断念しますが、なぜかエピローグで二度ほど姿を現わすことでしょう。

 冒頭に映った時計塔は、上に少しずつ狭くなった三階建ての建物の頂から伸びあがっていました。壁は白く、屋根は青です。二階の角には小塔がつき、三階の屋根は他より高さがあって曲面をなす。屋根の中央には窓があいています。この上に建つ時計塔はけっこう高く、上端では壁無しで柱四本が支える鐘楼になっています。
 また時計塔の建物のすぐ隣にも、やはり白い壁・青い屋根のやや細めで背も低い建物が建っていました。下でつながっているのか別の棟なのか、冒頭でもクライマックスでもわからずじまいです。


 時計塔の建物の入口は、尖頭アーチが三つ並ぶ、ゴシック建築のような体裁でした。ペロとカーターは飛びこみ、広間を突っ切ります。カメラは俯瞰でした。正面に幅の広いのぼり階段があります。踊り場で左右に枝分かれしているらしい。踊り場突きあたりの壁には時計が掛かっています。
 左右に分かれた先は階段の幅が狭くなっています。ペロたちは右へ登る。あがった先、向かいの壁に階段への半円アーチ口が二つ左右に並んでいるのですが、その間で吊り椅子が揺れ、グルーモン卿が坐っていました。
 左右の階段はどちらも途中で壊されていましたが、ペロはカーターに放り投げてもらって上の三階にあがります。
 他方カーターが下の二階に戻ると、天井から吊り階段が降ってきて、グルーモン卿はそれを登ります。

 上への階段はまたしても塞がれていました。階段の扉の前はさほど広くない廊下が伸びており、途中で枝分かれします。また俯瞰でした。枝分かれした廊下の左右には扉口がいくつも並び、登り口を求めてペロは入っては出を繰り返します。
 それぞれの廊下の突きあたりは窓になっています。ペロは見つけた槍を手に廊下を駆け抜け、棒高跳びの要領で、窓の外のバルコニーから冒頭でも映ったすぐ隣の建物のバルコニーに飛び移る。グルーモン卿も何とか追跡します。


 隣の建物のあまり広くない階段を登った先は、やはりあまり広くない廊下です。階段の踊り場の壁には薔薇窓がついていたりするものの、時計塔の建物といいこの建物といい、二階以上は実用的な造りになっているのでしょうか、いささか殺風景です。グルーモン卿に追われて階段をあがった先を右へ、扉で区切られた部屋が続きます。最後の扉を突き破るとバルコニーでした。下は川です。
 落ちそうになったグルーモン卿が何とか持ち直して戻ると、上方でペロが建物間に橋を渡していました。この時点で隣の建物が、方形ではなく多角形であることがわかります。

 円塔状の壁の廻りを巡る階段をペロが駆けあがると、飛行艇が突き破った際取り残されたらしい殺し屋猫たちが待ち構えていました。大きな歯車を落としてきます。
 ペロが階段途中の窓から外に出ると、すぐ上が三階の曲面屋根でした。やはり取り残されていたということなのでしょう、鼠親子が上からロープを垂らします。
 追ってきたグルーモン卿は他方、曲面屋根の窓から中に入ります。塔の時計の振子だか錘にしがみついて針の歩みを早めようとする。カーターがこれをくい止めますが、この時点で、先に飛行機と飛行艇が通りぬけた二つの円形孔をあけた橋状のものが、塔の時計の錘と振子を通すためのものであることがわかります。おそらくは取材に基づくであろう、こういうものが実際にあるのでしょう。
 さて、三階の曲面屋根の上、塔の下方には半円アーチ窓がありました。しかし殺し屋猫たちにロープを切られ、ペロは屋根中央の窓から中に入ります。
 入った先は多角形の壁を囲む廊下で、左へ巡ると上への階段が見える。壁の途中には大きさの異なる半円アーチ口が二つ開いていました。左の大きい方からグルーモン卿が斧を手に出てきます。向こうに円形穴の開いた橋がのぞいていました。
 ペロは廊下を右に戻る。突きあたりの壁に円形の穴があります。そこに飛びこむ。グルーモン卿も大きなからだをねじこんでくる。穴は途中で垂直に上へ伸びていました。

 穴を登りきった上は、時計塔の機械室でした。巨大な歯車が幾重にも噛みあった絡繰をなしています。歯車の間を縫い、あるいは乗っかってペロは逃げグルーモン卿が追う。『長靴をはいた猫』に先触れがあり、後に『ルパン三世 カリオストロの城』(1979、監督:宮崎駿)で引き継がれる巨大絡繰は、チャップリンの『モダン・タイムス』(1936)あたりにその先例を見てよいのでしょうか。

 機械室の壁の上の方、上への円孔が見えます。[ 型の梯子を縦に壁付けしてある。
 また壁にも円い窓が開き、そこから出ると時計の文字盤の上半に二つ並ぶ穴でした。
 機械群の上には大きな円形の床があり、真ん中は丸く開いています。端にやはり小さな丸穴がうがたれ、梯子の昇降口になっている。壁付き梯子はさらに上へ続きます。かなり高くまで登らねばなりません。
 天井にまた円孔が開かれ、そこを登ると四本の柱に支えられた鐘楼でした。上に鐘が吊られています。


 ペロは今回、名実ともに主役の座を占めるわけですが、殺し屋猫たちが後半ガリガリ博士の子分扱いされる点とあわせて、とりわけ一作目での多声的な絡みあいがいささか単線化してしまったきらいなしとしません。これは旅をするという大筋によるところもあるのでしょう。主役になったためペロが責任感のある人情家めいて描写されるのも、一作目の脳天気さをやや薄めていはしないでしょうか。
 とはいえペロや殺し屋たち、クライマックスではグルーモン卿も、カーターや鼠たちともども時計塔を大いに動き廻ってくれます。とりわけグルーモン卿は、当初居丈高なばかりで第一作での魔王に比べて魅力に乏しいとも見えましたが、クライマックスでの理不尽なまでの執念によって、存在感を放つに至ったように思われます。


 時計塔の機構について先ほどは『モダン・タイムス』(1936)の名を挙げましたが、巨大な機械というなら『メトロポリス』(1927)や『来るべき世界』(1936)、絡繰仕掛けであれば『猫とカナリヤ』(1927)、あわせて『デモンズ3』(1989)などを思いだすこともできるでしょうし、そうした例はまだまだあることと思われます。これらのイメージは、単に工業生産だの社会機構、未来予想、あるいは過去からの残響だのといった意味づけにつながるというだけではなく、個々それ自体は独立した歯車なり部品が噛みあい連なることで、運動を順々に伝えていく点においてこそ、一作目や本作におけるキャラクターたちのドタバタ騒ぎに呼応しているのでしょう。その点では『ロスト・チルドレン』(1995、監督:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ)における一齣や、劇映画ではありませんが(?)『事の次第』(1987、監督:ペータ・フィッシュリ、ダヴィッド・ヴァイス)、『ピタゴラスイッチ』(2002~ )中の「ピタゴラ装置」などを引きあいに出すこともできるかもしれません。
 とまれ一作目の再話だという趣きもちらつきはするものの、こうしたキャラクターたちの動きを保障するのはやはり、幾重にも入り組んで分節された時計塔の上下構造だといってよいでしょう。
Cf., 
 2017/09/21 以後、随時修正・追補
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