ホーム 宇宙論の歴史、孫引きガイド 古城と怪奇映画など 美術の話 おまけ
ドラキュラ血の味
Taste the Blood of Dracula
    1970年、イギリス 
 監督   ピーター・サスディ 
撮影   アーサー・グラント 
編集   クリス・バーンズ 
 美術   スコット・マクレガー 
    約1時間35分 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

DVD
………………………

 『帰って来たドラキュラ』(1968)に続いてクリストファー・リーがドラキュラを演じた第4作で、今回の監督はピーター・サスディ。美術監督もバーナード・ロビンソンからスコット・マクレガーに交替しました。音楽は引き続きジェイムズ・バーナードで、いつもどおりの部分もありますが、今回はけっこう抒情的な曲も聞こえてきます。
 さて、前作ではついに中に入ることのできなかった古城は、本作ではちらりとそれらしきシルエットが一度だけ映るものの、もはや舞台にはなりません。ただ城から追いやられたドラキュラが復活し、根城とする廃教会とそこへのアプローチのセットがまずまずなので、手短かにとりあげることとしましょう。

 お話は森を走る乗合馬車から始まります。乗客の一人、古物商はよくわからないまま馬車から放りだされ、とぼとぼと森を歩くことになる。夜空に大きな満月が浮かび、左下に城らしきシルエットが小さく映ります。木かもしれません。すると何やら叫び声が聞こえてくる。古物商は走りだしますが叫びも幾度となく響き、岩の間で転べばその前に背中を大きな十字架に刺された黒マントの男が目から血を流しているのでした。ここは前作ラストのフィルムをそのまま用いているようです。最後に血まみれの十字架と引っかかったマントだけが残るところまでが前作のフィルムですが、その後ドロドロの血が赤い粉末に変化し、そこに落ちたマントの留め金を古物商が拾いあげてみればドラキュラと刻まれているのでした。

 以上をプロローグとして、舞台は別の町中に移ります。日本語字幕では町の名前は出てきませんでしたが、人物の名前は英語名で、下掲の石田一『ハマー・ホラー伝説』などではロンドンとされています。ちなみに先の乗合馬車の場面で古物商はカールスベルクで買いつけしてきたと話していました。ハマー・フィルムの吸血鬼ものなどにおける地名の選択なども気にならなくはありませんが、それはともかく、古物商は自動車を見たことがあるとも話しており、とはいえ本作内ではもっぱら馬車が用いられているという時代設定でもあります。
 さて、週末ごとに集まってはこっそり娼家通いするブルジョワ3人組みは、さらなる刺激を求めて黒ミサを開いたことがあるというコートリー卿(ラルフ・ベイツ)に声をかけます。放蕩が過ぎて家を追いだされたコートリー卿は刺激の約束と引き替えに、古物商からドラキュラ伯爵のマントとその留め金、指環、そして血の粉を買い取らせる。

 別の夜、前回同様集まった3人は遺品と渡された地図を手に馬車を走らせます。馬車は森に入り、途中からは徒歩です。そして手前から奥へ透視画法的に後退する壁が左に映されます。約31分にして、ここからが古城映画的な山場となります。画面奥にはゆるい尖頭アーチの門があり、梁の上は宙空のようです。アーチの下には半ばの高さまでの柵状の門があります。画面右側は見えませんが、ただ手前に蔦らしきものが映っています。左側の壁には7つほどのアーチが並んでいる。屋根のないこの通路を、3人は奥から手前へ進んできます。
 その先は角張った戸口が2つある空間です。左の戸口は三角破風をいただいている。画面左手前には斜めに傾いだ石の十字架、右手前には蔦が見えます。ここもまだ屋外です。3人が手前を向いているのをカメラは上から見下ろす。
 次いで手前から奥へあがる階段が下から見上げられます。のぼった先には三角屋根の教会があります。その正面にはステンドグラスが嵌められている。階段の左右は石造の壁だか構築物になっています。
 階段をのぼる3人が上からとらえられます。下の奥に方形の扉口らしきものが見え、右手前には細い柱が立っている。ここまでの教会堂への経路は以後何度か登場することでしょう。
 場面が堂内になるとカメラはゆっくり後退します。奥には何やら黒っぽい綴織が掛けられ、その上はステンドグラスです。右には束ね柱、その手前に上からおりてきた柱が途中で切れ、右へアーチとして引っこんでいます。篝火が2つ。左に仕切り、その手前に座席がある。カメラがさらに後退すると、上に横臥像(ジザン)をのせた石棺が映ります。そしてゆるい尖りアーチの入口となり、背を向けた3人が入っていきます。


 待ち構えていたコートリー卿は3人が持参した杯を1つずつ渡し、式文を唱えるとパイプ・オルガンの曲が小さく鳴る。杯に血の粉末を入れます。だいぶ余ったはずです。そしてナイフで自分の掌を切り、流れるだした血を杯に注ぐ。雷鳴が轟き、粉末はぶくぶくと液化して溢れんばかりです。祭壇の綴織が黒地に白糸で織ったものだとわかります。自分にも杯を用意して3人に飲めと命じる。しかし3人は怖じ気づき、お前こそ飲んでみろと言う。そこで杯を乾せば、苦しみだして「助けてくれ」と叫ぶのですが、そんなコートリーを3人は足蹴にし、あまつさえステッキで殴殺してしまいます。
 かなり上から見下ろされると、祭壇前、左側は1階部分が木の仕切りで覆われ、その上半は縦格子の窓状をなすことがわかります。2階は歩廊になっていて、アーチつきの手すりで区切られている。この2層になった部分の端に束ね柱が来ます。向こうの座席は2列ほどしかなく、横臥像(ジザン)をのせた石棺は1つでなく、横にいくつか並んでいることがわかります。列柱も見える。座席、石棺のある空間は束ね柱の奥・左へ続いているようです。
 3人が家に戻った後、コートリーの躰は風とともに灰に包まれ、それがひび割れたかと思うと、赤目の伯爵が復活するのでした。伯爵は「奴らはわが僕を滅ぼした。奴らは滅ぼされるだろう」と言う。ここまでで約45分です。
 ちなみに古物商の店内でコートリーは伯爵の遺品に向かって"Master"と呼びかけていました。コートリーと伯爵がどのようにつながっていたのか、また『凶人ドラキュラ』(1966)などでもそうでしたが、伯爵が滅びた後もその支配力はなぜ解けないのかなど、気になるところではあります。しかし本作でそれ以上に目を引くのは復活方法でしょう。『凶人ドラキュラ』での手順はわかりやすいものでしたが、今回は謎が多い。そもそも3人の造反によってコートリーの思惑とは異なる形で事態は進展したわけですから、思惑どおりならどうなったのか。コートリーの躰がいかにして伯爵とすり替わるのかも理屈はよくわかりません。イメージが先行したのでしょうし、たしかに興味深い成行となっていたと言ってよいのでしょう。

 この後は3人を1人ずつ「滅ぼしていく」伯爵の暗躍となります。3人のリーダー格らしきハーグッド(ジェフリー・キーン)には娘アリス(リンダ・ヘイドン)、やや小心そうなパクストン(ピーター・セリス)にはアリスの恋人でもあるポール(アンソニー・コーラン)とルーシー(イズラ・ブレア)の兄妹(?)、書斎で調べ物に励み真相に迫ることになるセカー(ジョン・カーソン)には息子のジェレミー(マーティン・ジャーヴィス)がいます。それぞれの子どもたちの手で親を手にかけさせるという邪悪ぶりです。他方操られているとはいえ、アリスとルーシーが父親たちに嬉々として手を下すさまはけっこう迫力がありました。
 最初の標的となるハーグッドはとりわけ妻と娘に対しやたらと強圧的で、そのくせコートリーを殺してからは酒浸りになるという小心者でもあります。ちなみに『ミイラ怪人の呪い』(1967、監督:ジョン・ギリング)での発掘隊のスポンサーもこれに似た役回りでした。両作品とも脚本は同じジョン・エルダーことアンソニー・ハインズです。あちらは同情しづらい人物なのにあまりにも四面楚歌なため思わず同情させられたものですが、こちらは最期を迎える直前まで娘を鞭で打とうとして追いかけ回すありさまで、いかにも憎々しく好演していました。
 なおハーグッドの死体が発見されて捜査を担当する刑事をお馴染みマイケル・リッパーが演じています。今回はあまり役に立ちません。
 さて、その後アリスがルーシーを連れだして廃教会へと導きます。アリスは黄色、ルーシーは赤いドレスを着ている。まずは馬車で森へ、乗りこむ時とおりた時御者の姿が見えません。また疾走する馬車の中でアリスが哄笑するさまも悽愴感なしとしない。森で馬車を降り、前回と同じ道程で2人は進みますが、前回より明るくなっています。また堂内に入ると、左に石棺をみれば右に聖人の石像のあることがわかります。
 またセカーとパクストンも別の昼間、教会行きを反復します。2人とともにカメラも前進する。ルーシーはすでに吸血鬼化していました。なぜかアリスは後回しになっています。


 ルーシーは伯爵を"Master"と呼びます。伯爵に咬まれ始めはうっとりしていますが、すぐに愕然とする。『帰って来たドラキュラ』での同巧の場面が思いだされるところでした。
 その後3人への復讐を完遂した伯爵が暗い教会にもどってくる。アリスも"Master"と呼んで駆け寄ります。伯爵が咬みつこうとすると鶏が鳴く。伯爵が眠る石棺に斜めにかけられた蓋の上で添い寝するかのごときアリスの姿はなかなか印象的なイメージでした。


 息子に殺されたセカーの手紙で事態を知ったポールは馬車で森を行きます。途中でおりて歩けば水辺です。『吸血鬼ドラキュラの花嫁』などと同じロケーションなのでしょうか。水面にうち捨てられたルーシーが浮かんでいるのを見つけます。
 教会に続く門付近はさらに明るくなっています。カメラは階段下を上からとらえた後、堂内をかなり上から見下ろします。『帰って来たドラキュラ』にならうかのごとくポールは扉に十字架をかけ、祭壇奥の黒い綴織をはずす。下には別の古そうな綴織がかかっていました。祭壇に白布を敷き、燭台2本と十字架をのせます。そしてアリスを探す。扉側からみて石棺の右側、束ね柱の手前にあたるのでしょう、尖り気味のアーチがあり、その右上に窓があいています。ポールがアーチに入って右の窓から顔を出すので、中が階段になっていることがわかります。
 暗くなると大音量のノイズが響きます。音が止むと伯爵とアリスが現われる。ポールは祭壇上の十字架を伯爵に突きつける。伯爵に向けた側は金色に輝き、裏は普通です。しかしアリスに邪魔される。アリスは伯爵に連れてってと頼みますが、伯爵はもう用済みだという。『帰って来たドラキュラ』では最初に咬んだジーナは捨て去り、少なくとも城門の十字架をはずさせるためであれヒロインは連れ去っていましたが、今回はコートリーの復讐のためには邁進しておきながら、〈花嫁〉たちに対しずいぶん冷たい。
 伯爵が扉の十字架にひるむと、アリスは祭壇の十字架を伯爵の足もとに投げつけます。この時点では捨てられたことへの意趣返しとしか見えません。
 いつの間にか伯爵は2階歩廊にあがっており、やけになったかのように下のポールとアリスに物を投げつけます。と思うと今度はステンドグラスの前の張り出しの上に立っている。ふと気づくとステンドグラスの十字架が赤く発光しています。それを割って振りかえれば、祈禱の声が響き、伯爵の目に堂内は教会が使用されていた頃のように見える。2階の手すりの向こうにパイプ・オルガンの設置されていることもわかります。伯爵はくらくらして転落し、祭壇の上に倒れる。雷鳴が響きます。躰は崩壊し、赤い粉末と化してしまうのでした。


 復活方法の理屈がよくわからなかったのと同じように、伯爵が滅びる経緯ももう一つ不分明でした。下に挙げた菊地秀行「我がドラキュラ映画の時代(後篇)」によると、「ヒーローはドラキュラがこもる廃寺を浄めてしま」ったとのことです(p.281)。
 ともあれ外に出た2人をカメラは上から見下ろし、次いで下から教会を見上げます。ステンドグラスが内側から明るみ、空はくすんだ緑灰色でした。

Cf.,  石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、pp.181

石田一、『ハマー・ホラー写真集 VOL.1 ドラキュラ編』、2013、pp.44-53

石川三登志、『吸血鬼だらけの宇宙船』、1977、pp.290-295:「ドラキュラ血の味〈吸血鬼はやっぱりヒーローだった〉」

The Horror Movies, 4、1986、p.62

菊地秀行、「我がドラキュラ映画の時代(後篇)」、『妖魔の宴 スーパー・ホラー・シアター ドラキュラ編 2』、1992、pp.279-281

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.99-101/no.053

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.125-126

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.166-167

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.216-219

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.113-114, 161-162、また p.58 掲載の写真も参照
おまけ Hammer. The Studio That Dripped Blood!, 2002
2枚組の1枚目5-9曲目が
"Taste the Blood of Dracula - The Blood of Dracula (2:14) / Romance: The Young Lovers / Shadow of the Tomb (3:24) / Ride to the Ruined Church / Romance at Dusk (5:30) / Dracula Triumphant / Pursuit / Death of Lucy (3:42) / The Victory of Love (2:24)"
 2015/2/21 以後、随時修正・追補
   HOME古城と怪奇映画などドラキュラ血の味 1970