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ダンウィッチの怪
The Dunwich Horror
    1970年、USA 
 監督   ダニエル・ハラー(ホラー) 
撮影   リチャード・C・グラウナー 
 編集   クリストファー・ホームズ 
 美術   ポール・サイロス 
 セット装飾   レイモンド・ボルツ・Jr. 
    約1時間28分* 
画面比:横×縦    1.85:1** 
    カラー 

VHS
* [ IMDb ]によると約1時間30分
** 手もとのソフトでは1.33:1
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  『襲い狂う呪い』(1965)から5年ぶりとなるダニエル・ハラー(ホラー)によるラヴクラフトの映画化第2弾です。やはりA.I.P.の製作で、ロジャー・コーマンが製作総指揮をつとめています。その割に、コーマンのポー連作の続きと見紛うばかりだった前作とは多少雰囲気が変わりました。ある意味で前作には見られなかったポー連作で恒例の1つだった惑乱場面が、今回受け継がれていると見なすこともできるかもしれません。 [ IMDb ]によれば1970年1月14日アメリカで初公開ということですから制作は1969年だとして、サイケデリック文化への遅ればせな応答とととることもできるでしょう。
 ラヴクラフトの映画化としては本作はいろいろと残念がられているようで、前作とは異なり古城度も高いとはいいがたい。それでも面白い空間がないわけでもなかったので、手短かにとりあげることといたしましょう。


 黒衣の老人2人に髭面の男、ベッドの上で出産しているらしき女を描いたプロローグを経て、タイトル・バックはアニメーションです。影絵状の地面の起伏が2人の人物やドルメン、巨人に転じ、巨人の頭に角が生えたり手が蛇になったりしながら出産の場面に転変していくというもので、それなりに洒落ています。
 本篇が始まると、アーカムの大学で講義を終えたアーミティジ博士(エド・ベグリー)が助手だか学生のナンシー(サンドラ・ディー)とエリザベス(ドンナ・バッカラ)に、本を図書館の展示ケースに戻すよう頼みます。これは『ネクロノミコン』なのですが、日本語字幕では一般名詞扱いで「霊界学の本」とされていました。説明抜きで『ネクロノミコン』と出してもたまたま知っていなければ何のことやらということなのでしょう。
 ケースを容れようとしていたところへ閲覧希望者が現われます。彼が本を読んでいる場面では、日本語字幕はヨグ=ソトースを「ヤグ-サハ」、Old Ones を「古代の霊」と表記します。後に博士も合流して、彼がウィルバー・ウェイトリー(ディーン・ストックウェル)という名で、ダンウィッチの出身、曾祖父のオリヴァーは住民にリンチにされたことなどがわかる。

 最終バスに乗り遅れたウィルバーをナンシーが車で送っていくことになります。かくしてウェイトリー邸の登場です。車中のナンシーによって見上げられた外観は、木造2階建て、左右に伸び、両端で翼が少し前に迫りだしているというものでした。
 玄関から入ると、玄関間を経て広間になります。この広間がなかなか面白い。部屋の形は8角形でしょうか。玄関側から見て左手に2階への階段が2本あるのですが、正面から見ると左下から右上へ1本、右下から左上への1本の階段が上で合流してバルコニー状になり、そこから奥へ廊下が伸びています。欄干は黒塗りの木です。玄関側よりの階段の登り口には柵があるようで、登場人物たちはもっぱら向かって右の階段を使っていました。
 また階段は壁に接しているわけではなく、向かって右の階段の奥の壁には書棚が設けられています。その左には扉があって、そこからウィルバーの祖父(サム・ジャッフェ)が顔を出してナンシーを驚かせる。その際、階段の裏側が赤いこともわかります。ちなみに階段にくわえて、1階も2階も広間から向かって左に伸びる廊下には赤い絨毯が敷かれています。配色もこの屋敷の特徴をなしているようなのです。
 階段の向かいには暖炉があり、その左手には椅子が配されて居間のような体裁になっています。暖炉の左の壁には窓があり、緑のカーテンがかかっている。またこの部屋の壁紙は青を基調に、より濃い青で紋様が連なっています。
 玄関側から見て奥、階段に向かって右は食堂につながっています。こちらは壁紙が橙でした。その突きあたりには仕切りがあって、すぐ奥が窓です。斜めにカーテンが寄せられています。その左手前に台所への扉口がある。
 また階段の下、居間の向かいにも廊下が伸びており、突きあたりに8角形の窓が見えます。窓の内側は真っ赤で、まわりの壁は青い。窓の下に赤い椅子が置いてありました。
 まとめればこの広間は、方形をなしそこに落ち着いて留まるための空間というより、8角形をなすことで四方および2階へ向かうための出発点ないし多方向からの中継点といった性格をもたされているのでしょう。階段のある空間はそもそもそうしたもので、コーマンのポー連作に出てきた階段広間も基本的なあり方は同じではあるのですが、ここでは8角形という形状とそのシンメトリー、および暖炉と居間が組みこまれていることによってその特質が浮かびあがったかのごとくです。


 居間のテーブルには2つ、紺の台座にのせられた半透明の置物があって、双方先が丸くなった角のような形をしています。大きい方は黄と緑、小さい方は紺と橙で、ナンシーがふと触れると古の祭祀らしき情景が脳裡に浮かぶのでした。
 車の故障で泊めてもらうことになったナンシーの部屋は、カーテン、ベッド・カヴァーともに紫です。この部屋は2階にある。そこで見た夢にはやはり古の祭祀のイメージが現われる。海辺でからだじゅうにいろいろと塗りたくった半裸のお兄さんお姉さんたちが、まぐわったりナンシーを追いかけ回したりします。いささか貧乏くさくはありますが、贔屓目に取ればある種の荒廃感を見ることもできるかもしれません。


 前夜戻らなかったナンシーを心配して、エリザベスと教授が屋敷にやってきます。庭でドラゴンらしき石像が台座の上にのっています。ナンシーが自分の意志で週末を過ごすことにしたということばに、エリザベスと教授はいったん引きさがりますが、ダンウィッチの町でいろいろとウェイトリー家について聞きこみします。
 新聞社を経てコリー医師(ロイド・ボックナー)のもとにたどり着く。医師は25年前、ウィルバーが生まれた後で母親のラヴィニア(ジョアンナ・ムーア・ジョーダン)の容体を見るように老ウェイトリーに頼まれたのでした。回想場面が挿まれます。モノクロです。雑貨屋に医師を呼びに来た老ウェイトリーを、周囲の人々は嘲笑します。これはひどい。怒るのも無理はありません。日本語字幕によれば老ウェイトリーは、「ラヴィニアは貴様らより多くを知り、多くを見た。いつか彼女の息子が丘から父を呼ぶ声を聞くだろう」と捨て台詞を残します。
 ラヴィニアは命を取り留めましたが、発狂してしまい、今も病院に収監されています。45歳とのことですが髪は真っ白です。


 一方この間、ウィルバーとナンシーは町を歩いています。通りに面した家がいずれも白塗りでした。
 続いて2人は丘にいます。向こうに海が見える。明るい青です。ウィルバーがナンシーに指さすと、一転して黄を帯びたマット画が登場します。
 画面左側に左下から上へと湾曲する崖が配され、その右は落ちこんで海となります。遠く右奥の方では向こう岸が迫りだし、その上に暗い雲がかかっている。左の崖では上の方へ柱が左右に並びつつ奥へ連なっています。柱の高さはまちまちで、上部が折れたりしているようです。柱の間、奥の方には上へのぼる幅の広い階段がのぞきます。間に1カット挿んで、奥へ進む2人の背が小さく合成される。
 ウィルバーはこの遺跡が古代からあるもので、通称「悪魔の庭」と呼ばれているとのことです。階段の上には祭壇がある。豊穣儀礼が行なわれ、祭壇の娘に Old Ones が来訪したという。ナンシーはまた古のヴィジョンを見ることになるのでした。祭壇に横たわったナンシーは何やら色っぽく悶えます。エロティックな場面で売ろうということなのでしょうが、これまた贔屓目に取れば、原作における異界の存在と人間による交配という主題に応じていると見なせなくはないかもしれません。
 またウィルバーの胸から腹にかけて、さらに両腕、ということは全身に何やら象形文字風の呪文か何かが入墨されています。


 教授が医師から話を聞いている間、受付のコーラ(タリア・コッポラ(シャイア)、『ディメンシャ13』(1963)の監督フランシス・コッポラの妹とのこと、コーマンつながりでしょうか)と話していたエリザベスは、友人をウェイトリー家から連れだした方がいいと助言され、1人屋敷を訪れます。玄関ポーチの欄干に木菟が止まっています。
 広間が上から見下ろされると、階段下から伸びてきた赤い絨毯の先の床に、大きな円陣が描かれていることがわかります。エリザベスは老ウェイトリーを振り切って2階へ上がる。階段合流部から奥に伸びる廊下は少しして突きあたりになる。突きあたりの壁には半円形の壁龕が穿たれています。その前で廊下は左右に枝分かれします。双方に赤絨毯は続いています。エリザベスは左へ曲がる。廊下の壁や天井は青灰色で、左に黒っぽい扉が3つ、右に2つある。突きあたりにはステンドグラスをはめた窓があります。その手前・右に上への螺旋階段がはみだしている。階段は鉄製で、のぼった先に扉があります。エリザベスが扉を開けると、何やらわけのわからないものが襲いかかるのでした。画面は赤に、次いで青や黄に染められ反転する。
 内側からがたがたされる何かを幽閉した扉は先立つ場面にも出ていたのですが、それが階段の上にある点と合わせて、やはりラヴクラフト原作の『怪談呪いの霊魂』(1963)で見られたモティーフです。


 戻ってきたウィルバーはエリザベスの車を見て、祖父と言い争いになる。祖父としてはウィルバーの試みはかつて自分や曾祖父が失敗したもので、何とか止めさせたい。しかしバルコニー状の部分から転げ落ちてしまうのでした。
 ウィルバーは祖父を墓地で埋葬します。日本語字幕では「ヤグ-カニ」とかと唱えています。電気的な鳥の群れの声のようなものが聞こえ、ナンシーがあれは何かと問うと、魂を迎えに来た、だが失敗したと答えます。
 墓地へ町民たちが押し寄せ、埋葬を止めさせようとします。これまたひどい。『襲い狂う呪い』の冒頭でもそうでしたが、過去に理由があるとはいえ、町民たちの振舞は傍目にはあまり同情を誘えそうにありません。


 夜の大学です。時計塔がかなり斜め下から見上げられます。画面右にはアーチを受ける2本組みの柱頭が映りこんでいます。カメラが左上から右下へ振られると、奥から手前へ伸びる回廊がとらえられます。天井は三角で梁が平行にずらっと並んでいる。両側は欄干つきの半円アーケードです。奥の壁は赤煉瓦と間の白い漆喰が帯をなしている。なかなかかっこうのいい眺めでした。その向こうを左から赤い車が入ってきます。
 ウィルバーは車にナンシーを残して、回廊の奥の突きあたりを右に折れて進みます。窓から忍びこんだのは図書館でした。『ネクロノミコン』を奪おうとして守衛に見つかり格闘になる。ただし原作とは違ってウィルバーは逃げおおせます。


 教授は医師からの連絡でラヴィニアが危篤になったと知り、病院へ向かいます。ラヴィニアの視界は赤や緑、青に染まる。またしても電気的な鳥の群れの声が響き、ラヴィニアが息を引きとると止む。

 夜、雷が鳴り、祭壇でウィルバーが兄に呼びかけます。屋敷の3階の扉が内側から破られ、異形が飛びだします。カメラは螺旋階段を下から見上げ、階段の下のステンドグラスを同じく下から、次いで2階廊下、バルコニー状部分から主階段へ、仰視するカメラが左から右下へ動く。テーブルの上のガラスの1つが転がり落ち、暖炉に達すると発火、屋敷は炎上するのでした。
 画面は真っ暗になり、次いで玄関前の欄干が青で染まる。また真っ暗、そして青や赤に、ネガポジを反転させながら移っていく。
 屋敷の外観が映ります。窓の内側が燃えています。壁は橙色に下からライトアップされている。
 夜の道をカメラが風とともに前進します。
 祭壇でウィルバーが呪文を唱えます。日本語字幕によれば、「ヤグ-オワ、ヤグ-オワ」。ヤグ-サハは数個の天球が出会う門。門が開く時 Old Ones はそこから来るとのことです。
 農家に見えないものがやって来ます。赤、青、緑に画面が反転する。
 教授と医師が農家に到着します。住人夫婦は惨殺されていました。農家が踏み潰されたりはせず、原形をとどめていたのはいささか拍子抜けです。町民たちはいきりたっていますが、教授の指示に従うよう何とか医師が説得する。教授は皆と屋敷へ向かいます。
 看護婦のコーラが車で帰宅中、何かに襲われます。
 一行が屋敷まで来ると、すでに炎がまわっている。何かの声がし、心臓の動悸音が響く。丘の方、「悪魔の庭」だということになります。夜の森を散らばりつつ進むと、次々に撃退されていく。予算の都合なのでしょうが、ここはさすがに、もっと大活躍してくれよと思わずにいられますまい。原作ではウィルバーの双子は怪獣レヴェルの大きさだったはずなのです。
 医師と教授だけは祭壇の下までたどり着きます。教授は階段の下から「ケジマ」と叫ぶ。ウィルバーは上から「イグナイーパ」と返す。最初ウィルバーが優勢でしたが、教授が階段をのぼりながら「ケジマ、ケジマ」と押し返すと、ウィルバーに雷が落ち、崖から落ちていきます。
 祭壇の上に横たわるナンシーが赤に反転したかと思うと、その上に黒い煙が浮かびあがり、その中に中央に顔のある触手の塊が見えます。ゴルゴーンを思わせます。しかし色が元に戻り、煙も消える。
 引きで階段をおりてくる3人が映されます。やや下からのショットです。2人に支えられたナンシーが近づくと、その胎内に赤子が浮かびあがるのでした。
 波立つ海面を真上からカメラはとらえ、右から左へ飛んでいく。動悸の音とともにキャストがクレジットされます。


 ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』は1968年に初公開されているとのことですから、本作のラストもそちらが意識されていたのかもしれません。そもそもコーマンの『怪談呪いの霊魂』(1963)も相似たエンディングでした。本作にせよ『怪談呪いの霊魂』にせよ、ともに原作はラヴクラフトとしては珍しくといっていいのか、異形の存在は結末で退散させられていたことを思えば、ある意味で皮肉なことといえるかもしれません。
Cf.,  青木淳編、「ラヴクラフト/クトゥルー神話映画リスト」、『秘神界 歴史編』、2002、p.(40)

殿井君人、「クトゥルー神話シネマ・ガイド」、『クトゥルー神話の本 エゾテリカ別冊』、2007、p.169

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.156-157

原作等については;
H.P.ラヴクラフト、大瀧啓裕訳、「ダニッチの怪」、『ラヴクラフト全集 5』(創元推理文庫 523-5)、東京創元社、1987

原著は H. P. Lovecraft, "The Dunwich Horror", 1928

この原作を映像化したものとして他に;
『H・P・ラヴクラフトの ダニッチ・ホラー その他の物語』、2007、監督:品川亮
「家の中の絵」、「ダニッチ・ホラー」、「フェスティヴァル」の3話からなるオムニバス・アニメーションの第2話


また漫画化したのが;
水木しげる、「地底の足音」(1962)、『魍魎 貸本・短編名作選』(HMBホーム社漫画文庫 HMB M6-5)、ホーム社、2009、pp.133-267


なおラヴクラフトについては→「xix. ラヴクラフトとクトゥルー神話など」(<「近代など(20世紀~) Ⅳ」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照
 2015/4/24 以後、随時修正・追補
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