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古城の扉
The Black Room
    1935年、USA 
 監督   ロイ・ウィリアム・ニール 
撮影   アレン・G・シーグラー
編集   リチャード・カフーン 
 美術   ステファン・グーソン 
    約1時間8分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD(『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』(→こちらを参照)より)
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 この作品で超自然現象は起こるといえるのかどうか、幽霊も怪物も登場しませんが、冒頭と中盤で告げられる予言が成就する、一種の宿命劇ではあるのでしょう。とまれ邦題どおり、古城が舞台で、しかもそのセットはなかなか魅力的です。主人公の双子はともにボリス・カーロフで、善と悪に分かれたそれぞれの性格を演じ分けています。

 冒頭、晴れた空のもと、城の外観が映されます。画面右に寄せて、かなり背の高い建物です。数本の塔とそれをつなぐ城壁からなり、頂きはいずれも鋸歯型胸壁でした。手前で塀が左に伸びており、周囲には他の家屋がいくつか見えます。
 次いで玄関前を、塔からということでしょうか、かなり高い位置からほぼ真下に見下ろしたカットが続きます。左に門の格子、その少し上に円塔の裾あたりがのぞく。城の外観、玄関前の俯瞰、いずれも後に再登場します。
 領主である男爵家に世継ぎが生まれるということで、領民たちが集まってきており、賑やかでもあれば平和でもある様子が伝えられる。そのままカメラは屋内に入ります。
 広間は幾本ものアーチを支える円柱によって区切られているようで、左端にまず一本見えたかと思えば、右上にあがる階段が顔を覗かせ、2本目の柱の向こうに続いていく。大きな壺のようなものとその左右を支える渦巻状の持ち送りを上にのせた扉口が、幅の異なる石を積みあげたかのような柱にはさまれています。これはちょうど踊り場の手前にあるようで、階段部分と接続して、前方に突きだしています。扉にはダイヤ型の装飾が施されていますが、どこにつながっているかは映されませんでした。階段の下という点からするとただの物置ということなのかもしれません。
 手前に大きく三本目の柱が映り、カメラはさらに右の方へパンします。階段はまだ続いており、ようやく扉のあるところに達します。その下の1階部分は、奥に刳りこまれた尖頭アーチで、窓が二つあります。さらに右へ、扉の右手で角になり、手前に壁が伸びるのですが、2階部分にはやはり尖頭アーチが設けられ、広間に面して祈禱台のようなものが配されています。尼僧がそこで祈りを捧げている。奥にはカーテンが見える。この部分の1階には扉があります。
 この広間をカメラは、左から右へ、上下や角度を変えながら回りこんでとらえます。壁はもとより石積みで、古城だ古城だとはしゃがずにはいられません。広間はこの後も、視点を変えつつ登場することになるでしょう。


 広間は多くの人で賑わっています。階段の先の扉を下から見上げる人々とカメラは視線を同じうし、そこから医師が出てくると、彼が階段をおりるところを上から見下ろします。医師に近づく人々は下から見上げられる。いったいにこの作品では、人物を仰視するカットが少なくありません。
 無事の出産を告げる医師のことばに喜んだのも束の間、双子だったことがわかると一転、ド・バーグマン男爵家に100年以上伝わる予言、「始まりのごとく滅びる」が当主たちを蒼褪めさせるのでした。男爵家の始祖は双子で、しかも弟が兄を原題にもある「黒の部屋」で殺した、再び双子が生まれる時、やはり弟が兄を殺して男爵家は終焉を迎えるだろう。
 当主たちは黒の部屋への入口のある部屋で相談します。ここは書斎のようです。入口は尖頭アーチで、向こうにアーチが二重に見えます。壁には豪華な建築的壁龕があり、網の目状の窓の桟の影が落ちています。暖炉と角をはさんだところにある黒の部屋への入口を煉瓦で塞いで、難を凌ごうとするのでした。


 時間は過ぎゆき、まずは双子の母が1790年に歿し、まだ10歳前後であろう二人が墓前に佇む。父が亡くなった時には二人は20歳前後でしょうか。それから20年、後に1834年とわかるのですが、兄は領主の地位を継ぎ、弟は10年来城を出ている。墓場の彼方には丘の上にそびえる城が見えます。弟が兄からの手紙に呼び戻されたことから、お話は展開します。
 城のある場所は、ブダペストから馬車で往き来できるところにあるとのことです。到着した弟は領民の不穏な視線にさらされながら、一家の友人か後見人なのでしょうか、大佐と黒猫の吊り標識がある村の酒場で落ちあい、城に向かいます。城への道中は岩だらけの土地でした。後の場面で斜めになった磔刑像、さらに聖母像や標識のようなものがところどころ道脇にあることがわかります。


 弟と執事は玄関から控えの間を通り、大きく低いアーチをくぐって広間に入るところを、カメラは右から左へ追います。アーチの下を通り、数段おりれば斜め階段とその下の尖頭アーチ、突出部が見えてくる。さらに進めば階段の上の部屋と角をはさんだ二階の尖頭アーチ、その下の扉も再登場します。
 暖炉と封印した扉のある書斎は階段をおりたすぐ先にあるようで、暖炉は入口から見て右の壁、封じられた扉は正面突きあたり、その左には本棚が控えている。
 再会を祝い、大佐宅へ出かけようとする二人は、領主としての兄の振舞に業を煮やした数人の領民に襲われます。弟と兄は逃げる者たちを追って広間を走り抜ける。その速いこと。玄関の間と広間を仕切るアーチが、柱を経て右の方にも続いていることがわかります。弟は画面奥を、兄は少し遅れて画面手前を走り抜け、それぞれ左右別のアーチの下に達する。


 夜、兄と大佐家の召使いが逢瀬を重ねているのは広間の階段をのぼったところにある部屋です。召使いはハープを奏でながら歌を口ずさんでいます。ちなみにこの映画ではここまでに、村の酒場ではツィター、大佐邸では大佐の姪がやはりハープと、楽器が三度にわたって登場していました。
 さて、画面左の方には柱とそこから右に伸びるアーチがあります。柱の奥には暖炉があり、そのそばに召使いがいます。柱の左の壁には鏡がかかっていて、坐る兄が映っている。カメラは左から右へと移動します。まず尖頭アーチの下の凹みに半円アーチの縦長の窓が二つ、畳んだカーテン、次いで大鏡が置いてあります。こちらの鏡にはハープを弾く召使いが映っています。カメラはさらに右を向き、扉、そして左からおりてくるアーチとその柱、その前に坐る兄を映すのでした。左のアーチと右のアーチはつながっているのかもしれません。
 この長廻しのカットは、冒頭での広間を左から右へと映すカメラを別の形で反復するものと見なせるでしょうか。他方、左右の鏡にそれぞれ反対側にいる人物が映るというのは、構図が大まかに左右相称に組みたてられているわけです。静的な構図とカメラの動きの組みあわせが面白いところでした。ちなみに鏡とそこに映る像は、後の大佐邸での一連の場面でも目につく役割を担うことになります。


 次いでこの部屋の扉側が外から映されるのですが、夜も遅い時刻、灯りは落とされ、カメラはほぼ真下から扉をとらえます。用件がないか聞きに来た執事が蠟燭を手に、扉の前から右へ階段をおりていく。画面左側は、下から見上げた帯つきの円柱が黒々と、また大きく占めています。扉の右は角で、奥の方へ続いていく。グレーの面で明暗が分割された、印象的なアングルでした。この構図は執事に続いて、殺してしまった召使いを運び降ろす兄の姿をも映すことになります。
 その間執事は、1階の弟にも声をかけています。弟のいる部屋は大きな尖頭アーチが枠どりをなし、奥には大きな張り出し窓があります。天井はかなり高い。右の方に暖炉があるようで、そのそばに弟は腰掛けています。その前の床には犬が丸まっている。この部屋は後の場面で、昼間に再登場しますが、城内での位置はよくわかりませんでした。
 一方兄は、階段の踊り場にある尖頭アーチの壁龕にひそんで再び2階に向かう執事をやり過ごし、死体を抱えて封印した扉のある書斎に入る。暖炉の奥まで進み、脇にある仕掛けを動かすと、隠し扉になっているのでした。


 召使いの失踪と、執事が階段に落ちているのを見つけたショールとを結びつけて、召使いのもと恋人に率いられた領民の一団が城に押しかけます。それを説得すべく、大佐が城の前で待つ。この時城の外観が、仰角のショットでとらえられます。晴れた昼間です。大佐の後ろには方形の高い塔がそびえ、その左右、斜め後方に、鋸歯型胸壁を走らせた高い城壁が伸びていく。随所に銃眼が開いています。塔の左下には、ここだけ粗い石組みの円塔が低めの位置で付随しています。城の古い層ということなのでしょうか、他の部分の平滑な肌理との対比がアクセントの役割をはたしています。左後方に伸びた壁は、やはり鋸歯型胸壁をいただく方塔に迎えられるのですが、二つの塔の中間、壁の上辺まん中あたりには、壁から突きでて、窓を二つ擁した部分がある。望楼か何かなのでしょうか。右後方に伸びた壁は陰になって、こちらも鋸歯型胸壁をいただく方塔に達し、そこから手前にさらに壁が続いています。こちらの方塔は地面までおりず、壁の途中で途切れています。
 大佐が一歩前に出ると、中央の塔の頂きが映ります。やはり鋸歯型胸壁をいただいている。また左端の方塔には小塔が付随しており、その先端にポールのようなものが立てられています。この小塔にも銃眼があけられているのですが、中央の塔のそれより縦長になっています。
 次いで玄関前が、冒頭に続いて再び、ほぼ真上から見下ろされます。領民たちは昨晩弟がいた大きな張り出し窓のある部屋にやってくる。前回よりもカメラは引き、部屋はより大きく映されます。左から右へ大きな尖頭アーチが区切り、その手前側は陰になっている。アーチの向こう、右寄りに張り出し窓、左よりは奥へと続き、ゆるいアーチが覗いています。張り出し窓の右手にはガラス張りの扉があって、バルコニーに出られるようになっていることが前後の場面からわかります。画面手前の床には家具類が斜めに置かれ、奥行きを確保する。左側の柱の前には大きな燭台があり、その垂直軸によって部屋の高さと家具類の水平軸とを仲介します。画面左端にあたるところに小さめの尖頭アーチがあり、これが部屋への出入り口になっている。


 弟に領主の座を譲ることで難を逃れた兄は、弟を書斎の暖炉の奥の隠し部屋へ案内します。これが「黒の部屋」なのでした。真っ暗な中を蠟燭を手に兄が進む。ほんとに黒いと弟が言うと、壁にはオニキス(黒瑪瑙)が貼られていると答え、壁の埃を手で拭えば、鏡のようです。部屋には大きな操舵輪のついた滑車があり、それを回すと、床の落とし蓋が鎖で持ちあげられます。
 上から垂れ下がる鎖の束をはさんで兄と弟が向かいあうカットでは、双方の背中側にも鎖が斜めに垂れ下がっており、暗いグレーをバックに印象的な構図をなしています。後の『フランケンシュタイン復活』(1939)で、怪物と博士が実験室で対面した場面と比較できるでしょうか。
 弟を孔に突き落とした後、兄は鏡状になった壁の前に再び立ちます。入る際の拭った跡が丸みを帯びた面になっているのですが、左側で妙にくっきりした羽のように突きでていました。帰りの際には、この羽状の部分に、前になかった白っぽい帯が縁に沿って生じています。
 なおこの場面は夜なのですが、後に昼間の場面で、黒の部屋に縦に細長い窓のあることがわかります。


 弟と入れ替わった兄が大佐邸を訪れる一連の場面では、三度にわたって鏡とそこに映る像が登場します。まずは背後に大きな窓のある廊下で、大佐の姪とその恋人である中尉が話しているのですが、手前にあるガラス張りの扉に姪の姿がいやにくっきり映っています。
 次いで書斎での兄と大佐。兄は書類に署名しなければならないのですが、右手が不自由だった弟のふりをしているので右手は使えない。そこで大佐に乾杯の酒を準備してもらっている間に右手で署名するのですが、その姿が大佐の前の壁にかけられた鏡に映っているのでした。
 最後に翌朝、メイドが大佐の書斎に入り、大佐の死体を発見した悲鳴が響くのですが、そのさまは廊下の鏡に映った像として物語られます。


 この他、嫌疑をかけられた中尉の裁判の場面では、法廷での証言者が終始下からの角度でとらえられます。また大佐の墓前に立つ姪と兄の場面では、兄の背後の空に、丘の上の城とあわせて、グレーの空を鎖状に分割する白い雲が、奇妙な紋様のようでした。姪と兄は村の教会で結婚式を執り行なうことになるのですが、教会の身廊部分、および花嫁の控え室などでも面白い空間が見られます。
 それらはさておき、結婚式の前に兄は城の2階の部屋で、鏡を前に2度と右腕を使ってはならないと自ら誓うのですが、結婚式に乱入した弟の愛犬に吠えかけられて思わず右腕を動かしてしまい、列席者と脱獄してきた中尉に正体を察知され、一路城へと逃げ帰ります。三たび玄関前がほぼ真上から見下ろされ、彼は玄関をとおり黒の部屋に向かう。そして四たび、玄関前に押し寄せた領民たちがほぼ真上から見下ろされる。最後に宿命が成就するさまを描いて、幕が閉じられるのでした。
 外観ではあれだけ背の高い城なのに、塔など上層の部分やそこに至る階段、長い廊下などが登場しなかったのは残念ですが、外観の印象的な姿、広間などのセットの入り組み具合をもって、贅沢は控えるべきところでしょう。

Cf.,
 
Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.157-158
 
 2014/12/2 以後、随時修正・追補
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