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執念のミイラ
The Mummy's Ghost
    1944年、USA 
 監督   レジナルド・ル・ボーグ 
撮影   ウィリアム・A・シックナー 
編集   ソール・A・グッドカインド 
 美術   ジョン・B・グッドマン、エイブラハム・グロスマン 
 セット装飾   ラッセル・A・ガウスマン、リー・スミス 
    約1時間1分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
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 『ミイラの復活』(1940)、『ミイラの墓場』(1942)に続くユニヴァーサル社の〈ミイラ〉4部作の第3弾です。この作品は、当時のユニヴァーサル怪奇映画の定番からすると意想外な結末によってよく知られているようですが、他方、クライマックスの舞台となる建物のセットもとても印象的でした。また物語の設定面でもいくつか面白い点があるので、とりあげることとしましょう。

 古城度が低いためとりあげなかった第2作『ミイラの墓場』について簡単におさらいしておくと、第1作『ミイラの復活』から30年後のお話で、舞台はエジプトからニューイングランドのメイプルトンに替わります。ここに第1作の主人公が住んでいるのでした。他方、前作の最後で燃やされたはずのミイラ・カリスは傷ついただけで、同じく主人公の相棒に倒された神官も、右腕を撃たれたものの生きていたということになっています。ちなみに以上3人は同じ俳優が続投しています。神官役のジョージ・ズッコは腕を痙攣させながらも神官長の地位を占め、新たな神官をメイプルトンに送りだすのでした。続く第3作でも同じ役回りで登場します。カリス役はロン・チェイニー・Jr.に交替、続く2作にも出演することになります。
 前作の主人公とその相棒はあっさりミイラの手にかかってしまい、前者の息子が今回の主人公となります。また新たな神官はまたしても主人公の婚約者に恋着し、いっしょに永遠に生きようとカリスにさらわせるのですが、これまたあっさり倒されてしまうのでした。カリスもまた、またしても炎に呑まれてしまいます。

 さて、本作はエジプトの神殿前の階段をのぼる後ろ姿から始まります。これは『ミイラの復活』での映像の使い回し。神殿内に入って、やはり第1作でのそれに似た、台形の壁龕に石の椅子が映ります。ただし背もたれの紋様は変わっているようです。
 先2作では神官団はカルナクのものということになっていましたが、今回は日本語字幕によれば「アルカム」のものと名乗っています。神殿のある土地の名でもあり、「アルカムの丘」と呼ばれる。 [ IMDb ]の Plot Synopsis では"Arkham"と表記されており、『大英博物館 古代エジプト百科事典』(1997)などでは見当たらない一方、ラヴクラフト(→こちらを参照:「近代など(20世紀~) Ⅳ」の頁の「xix. ラヴクラフトとクトゥルー神話など」)が創造したニューイングランドの町の名前でもあります。それが意識されているのかどうかはわからないのですが。
 また前作では、ミイラと神官のメイプルトン派遣は、アナンカ王女の墓を暴いた者に罰を下すためのもので、本人たちのみならず、その家族にまで呪いの範囲は及びました。この点はなしということなのか、今回はカリスとアナンカをエジプトに連れ戻し、安息の地で憩わせることが目的とされます。そうしないとアナンカの魂は永遠にさまようことになるというのです。これは、やはり古城度が低いためとりあげなかった『ミイラ再生』(1932)の構想への復帰とも見なせるでしょう。また期せずしてなのかどうか、次回作『ミイラの呪い』(1944)の下ごしらえともなっています。

 神官長の説明は、メイプルトンでのノーマン教授の説明とつなぎあわされます。彼は前作でミイラの包帯についた黴を分析した人物で、同じフランク・ライヒャーが演じています。もっとも前作ではエジプト学者という話は出なかったかと思うのですが、今回はエジプト史の講義を受けもっています。またメイプルトンには大学があることもわかるというわけです。Mapleton なる地名は各地にいくつも実在するようですが、映画でのそれがどれかに対応しているのかどうかはわかりませんでした。
 教授の話によると、アナンカのミイラと柩は現在スクリップス博物館にあるとのことです。[ IMDb ]によると Scripps Museum との綴りで、検索してみれば Scripps, Edward Wyllis (1854-1926) なる新聞経営者が実在し、またカリフォルニア大学サンディエゴ校にスクリップス海洋研究所 Scripps Institution of Oceanography、オハイオ大学に Scripps College of Communication などがありますが、これまた何か関係があるのかどうかはわかりませんでした。博物館はメイプルトンとは別のところにあるのですが、とても離れているというわけではなさそうです。なお『ミイラ再生』では発掘された遺品はカイロの博物館に収められましたが、今回アメリカに運びこまれています。しかしご都合主義に目くじら立てても詮無きことなのでしょう。
 さて、今回の物語は前作の事件から少し時間を置いた頃のようで、保安官たちが後ほど「あの黴だ」「ミイラか」といった会話を交わしており、その記憶は消え去ってはいませんでした。教授は残されたタナの葉を研究しており、櫃のヒエログリフを解読した彼は、文面どおり満月の夜に9枚のタナの葉を煎じるのでした。タナはすでに絶滅した中央アフリカの低木という設定で、そうした資料を実験に使うというのはどうかと思いますが、ともかくカリスを呼び寄せてしまい、あえなく命を落とすのでした。ここはカリスが焼け落ちた廃墟から這いでてくるカットくらいは欲しかったところですが、他方シリーズものにおいて前作で生き残った人物は次作で殺されてしまうというパターンが、今回も踏襲されたわけです。カリスがタナの葉の汁を欲するという場面は第2作ではあまり出てこず、これも第1作への復帰といえなくはない。なおこの時点では、ジョン・キャラディン扮する神官はまだ到着していなかった模様です。


 カリスと落ちあった神官は、スクリップス博物館に向かいます。不思議なことにカリスがふれるとアナンカのミイラは包帯だけになってしまう。アナンカの魂は他の肉体に転生しており、アルカムの丘で眠らないかぎり救済を求めて永遠にさまようことになるのだという。『ミイラ再生』でイムホテプことアーダス・ベイがからっぽの器に用はないと語ったことが思いだされもします。
 怒り狂ったカリスはまわりの展示品を壊しはじめます。アナンカ一筋のカリスはともかく、それを黙認している神官の態度から、同じエジプトの文物であっても、アナンカ以外には興味はないということでしょうか。ここは製作者たちの意図とは無関係に、文化遺産は大事にしようとの教訓を読みとりたくなるところです。
 
 神官たちはいったん隠れ家に戻り、転生したアナンカを探すべくカリスが送りだされます。隠れ家の屋内は木造の小屋の態なのですが、そこから出ると、かなり長い斜面が地面までおりていきます。斜面には二本のレールが走っており、そこをカリスが下っていくさまが、まずは上から見下ろされる。 『執念のミイラ』 1944 約40分:レール付き斜面を降りていくカリス/上から
『執念のミイラ』 1944 約40分:レール付き斜面を降りていくカリス/地面から  次いでカメラは地面からこの設備を見上げます。斜面の上にあるのはやはり三角屋根の小屋で、斜面の左側にも荒れた様子の小屋らしきものが、高くなったところにのぞいています。斜面の右では電柱らしきものが画面上下を貫き、さらに右には木、そしてまわりにも小屋類があるようです。 
 二本のレールからして、昇降用なのか作業量を二倍にするためかはわかりませんが、トロッコか何かで荷を運ぶためのものでしょう。斜面の角度はけっこう急なので、人力によるものではなく、機械を使ったはずです。斜面をおりた地面のすぐそばに大きな車輪が残っており、そのための装置の一部だったのかもしれません。
 こうした設備が何と呼ばれるのかわかりませんが、実例をモデルにして作られたセットなのでしょう。そのシルエットはたいへん鮮烈で、第1作での神殿前の階段以上に、本作の肝と見なしたいところです。元になった実例と直接つながるかどうかは不明ですが、この点でベルント&ヒラ・ベッヒャーの Pennsylvania Coal Mine Tipples(1991、『ペンシルヴァニアの炭坑、石炭選別場』)や Fördertürme Chevalements Mineheads(1985、捲き上げ塔』)などが参考になるかもしれません。同じく Hochöffen<(1990、『熔鉱炉』)も参照ください
(→こちらを参照(「怪奇城の外濠 Ⅲ」中の「ベルント&ヒラ・ベッヒャー」の項)、また英語版ウィキペディアの>"Headframe"の頁などもご覧ください)。
 余談になりますが、廃鉱山かどこかの斜面でクライマックスを迎えたのは、ポール・ニューマン主演の西部劇『太陽の中の対決』(1966、監督:マーティン・リット)でした。また『ダーティハリー』(1971、監督:ドン・シーゲル)のやはりクライマックスで、犯人と彼を追う主人公は、工場の中で追跡劇をくりひろげます。産業建造物が古城的なるものの役割をはたしてくれる可能性をこれらの例から読みとることができるといっては、いささか大げさでしょうか。『ロボコップ』(1987、監督:ポール・ヴァーホーヴェン)における廃工場も見目麗しかった。SFであれば<『宇宙からの侵略生物』(1957、監督:ヴァル・ゲスト)が思いだされます。また『吸血ゾンビ』(1966)での採掘場跡とも比べてみてください。

話戻ってカリスがメイプルトンに向かう際に渡る幅の広い橋は、前作に出てきたものとよく似ています。 『執念のミイラ』 1944 約46分:橋
その際、またヒロインをさらったカリスを婚約者が追う際、橋と接岸部の脇から下方におりるのですが、そこで映る橋の木組みも、縦の柱何本かにブロックごとに角度の違う横の柱が交わって、面白い眺めを見せてくれます。その後婚約者は犬のピーナッツに導かれて、丘を駆けおります。けっこう運動感があります。
 
『執念のミイラ』 1944 約46分:橋の木組み
 隠れ家に着いたカリスは、ヒロインに手をさしのべようとするのですが、彼女のはっとした様子に、手を泳がせてしまう。これは同じ年の『フランケンシュタインの館』におけるダニエルとジプシー娘の一節を思わせる、見ようによっては切ない場面でした。
 他方、ここまで毅然としていた神官はぎりぎりになって、前2作での先輩たち同様、ヒロインの色香に迷ってしまう。ともに永遠に生きようなどと考えたあげく、カリスにスロープから投げ落とされることになります。神官が最後までヒロインに魅せられなかったのは次回の『ミイラの呪い』で、しかし別の形で情けない末路を迎えるのでした。

 カリスに立ち向かった婚約者も、スロープを転げ落ちます。転げ落ちた先の地面に、大きな車輪の影が落ちていました。しかし町民たちが迫ってきたことに気づいたカリスは、ヒロインを抱いて隠れ家から脱出します。まず、小屋を宙に持ちあげている木組みが映ります。木組みは斜めに渡されていて、その間に長い梯子がおりていく。左側には石らしき壁が見えます。 
 次いでいったん木組みの上部が映されます。小屋が左手にあり、そこから水平面が右に伸び、それから斜面になっています。下には梯子と木組みがある。カリスに抱えられたヒロインの衣は白く光沢のあるもので、薄闇の中で光を反射するさまがあざやかでした。  『執念のミイラ』 1944 約55分:レール付き斜面の上の小屋と梯子
 再び木組みが画面いっぱいを占め、ヒロインを抱いたカリスが梯子をおりていく。画面左では真っ黒な太い柱が縦断し、右手には何本かの縦の柱と、それらに交わる斜めの柱が錯綜しています。夜の場面とて、柱はやはり、いずれも真っ黒なシルエットと化しています。その隙間は夜のグレーで、左の太い柱のさらに左側や、隙間の一部にやや明るめの木の建物らしき肌理が見える。ここも明暗の段差と幾何学的な分割が印象的なカットでした。  
『執念のミイラ』 1944 約55分:レール付き斜面を支える木組みと梯子 『執念のミイラ』 1944 約56分:レール付き斜面、左脇に梯子

 かくして底無し沼のラスト・シーンとなります。ある意味で『ミイラ再生』におけるアーダス・ベイの宿願は、ここにおいてついに成就したのだと見なせるかもしれません。なお底無し沼に沈む怪物という結末は、同年の『フランケンシュタインの館』と共通しています。この作品ではまた、パターンは違えど、後半部でのヒロインが命を落とす点にも、通じるところがある。またヒロインの変容については、ヘンリー・ライダー・ハガードの『洞窟の女王』(1886)と比べることもできるでしょう。
 他方、最後のカットは、始めの方からちゃんと登場し、大活躍もした犬のピーナッツでした。これはどんな意図なのでしょうか?

  
Cf.,

石川三登志、『吸血鬼だらけの宇宙船』、1977、pp.238-247:「5 イム・ホ・テップの禁断世界」中の pp.240-243

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, p.241

 
 2014/11/11 以後、随時修正・追補
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