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五本指の野獣
The Beast with Five Fingers
    1946年、USA 
 監督   ロバート・フローリー 
撮影   ウェスリー・アンダーソン 
編集   フランク・マジー 
 美術   スタンリー・フライシャー、バートラム・タトゥル 
 セット装飾   ウォルター・F・ティルフォード 
    約1時間28分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD(『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』(→こちらを参照)より)
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 原作はウィリアム・フライヤー・ハーヴィーですが、短いものなので念のため確認してみれば、いくつかの点を除いてお話は別物でした。ちなみにこの作家は、『怪奇小説傑作集 1』(創元推理文庫、東京創元社、1969)に収録された「炎天 August Heat」(1910)の作者でもあります。脚本は『狼男』(1941)や『フランケンシュタインと狼男』(1943)のカート・シオドマク。実質的な主演はピーター(ペーター)・ローレで、とりわけ後半、『狂恋』(1935)に続いて熱演しています。お話自体は超自然現象は結局起こらなかったというオチで終わるのですが、幻覚としてであれ、切り離された片手が動き回るところが描きだされます。

 50年ほど前のこと、イタリアはサント・ステファーノの、村はずれの館が舞台となります。当主は車椅子で生活するピアニストで、その看護をするためにヒロインがやってくるとなれば、ゴシック・ロマンスの典型的なパターンですが、ここでは看護士はすでに館にいます。
 庭から玄関に向かうと、大きさの異なる石塊を積みあげたかのごとき角柱が支えるアーケードを経て、やはり同様の角柱にはさまれた扉となります。
 玄関から入れば、すぐに吹き抜けの大広間で、ここが館の中心のようです。中央にはピアノが置かれ、カメラは上から見下ろしつつ近づいていく。少し後の場面では、カメラは遠ざかりながら上昇していきます。
 画面左側から階段が上にのぼり、踊り場で少し折れて、画面の正面奥に2階の渡り廊下が右に伸びています。
 玄関扉は右側にあるようで、画面ではその奥に、格子状の影を落とした壁を経てずいぶんと立派な暖炉、窓をはさんで、食堂への扉と並びます。この扉の上あたりに最初、斜めになった手すりが右下がりでおりてくるように見えるのですが、これは影だとわかります。また後の場面で見ると、扉の上に額絵とともに、上ひろがりの直線が2本伸びており、これは槍か何かのようです。
 食堂の扉の向こうは渡り廊下の下にあたります。ここも奥へ続いていく。その中には上辺が斜めになっているように見える戸口もあります。後の場面では、戸口の向こう、上の方に階段の手すりがあるとも見えるのですが、実物か影かはわからない。
 ぐるっと回って階段の前まで戻ってくれば、その手前、左側に後で出てくる書斎への入口があるようです。
 大まかな配置はこんな感じなのですが、この作品では家具調度も何かにつけ豪華です。2階にある寝室や渡り廊下などで、捻り柱が見受けられたりもします。書斎には大きな天球図らしきものが壁にかかり、扉近くには天球儀が置いてあります。書棚の一部には隠し棚があり、金庫が収めてある。そして影が、またさまざまな模様を描きだすのでした。

 まずは画面の手前にピアノがあり、渡り廊下の下の方を向いている場面です。上辺に沿って廊下の下側、それが左端では階段の斜面になって枠どっているのですが、突きあたりの凹みや壁一面に、これは何と呼ぶのでしょうか、斜め四方から伸びてきて、その尖端がくるっと回っている、そんな網目状の模様がひろがっているのです。
 あるいは食堂の場面。テーブルの向こうの壁付き燭台と楕円形の額の間には、斜線が何本も平行に走る影。同じく食堂のちょうど反対側の壁では、暖炉とカーテンのかかった窓の間に、中心から斜めに四本直線が伸びて分割された円の影が、いくつも並んでいたりします。
 館の当主が階段から転げ落ちた時には、踊り場で横転した車椅子と手すりの影が壁に落ち、車輪が回転するさまを映しだす。そもそも夜、灯りを落とした際は、階段や渡り廊下の手すりが、下からの光で異様なまでに大きく、またはっきりと落ちています。これはとりわけクライマックス近くで目につきます。
 ヒロインの寝室ではベッドが斜め格子の影で覆われ、ヒロインの体にまでかぶっています。書斎では天球儀が大きな影を落とし、また後の場面では、書棚の反対側の端、角をはさんで、燭台、窓と続くのですが、燭台はその影が大きく二重写しとなってなぞられ、窓の下には奇妙に有機的な形の影、本棚の右にも斜めに伸びる丸みを帯びた影が落ちています。あまつさえ村の酒場でも、昼間テラスに席をとれば、壁に蔦の絡まった斜め格子の影が映っているのでした。

 館には台所の窓から見える、少し離れた位置に納骨堂などもあったりします。そちらに近づけば画面右はうねる木の幹に縦断され、手前左では石のケルト十字が斜めに傾いでいます。納骨堂は三角破風の下に半円アーチのくぼみがあり、扉となります。屋内は低くて大きな半円アーチによって区切られています。すぼまった窓があり、格子の影を壁に落とす。

 この作品ではしばしば人物をアップで、下から見上げる角度でとらえます。納骨堂内部では二人の人物は、カメラを思いきり斜めにして、下から映されていました。あるいはローレ扮するヒラリーが机についている場面では、やはり下からとらえられたヒラリーが、別のものを映すカットと切り替わるごとに、カメラが近づいてアップになっていきます。
 仰角は人物だけでなく、夜の渡り廊下の場面では、眺め全体に及ぼされる。ある場面では天井と壁の境が湾曲した曲線と化し、壁には大きな手すりの影が映っています。少し後の場面では、手すりの影は天井と壁にまたがっていたりもしました。
 また別の場面では、手前にテーブルか何かの脚が大きく左右を枠どり、その間から、つまり床近くの高さ、テーブルの下から廊下が映される。左の脚のすぐ手前には壺らしきものがあり、他方一番奥には階段の手すりの実物と影が併置される。その間に人物を配しつつ、この時の画面では明暗の面がえらく錯綜していました。
 渡り廊下の突きあたり、仕切りの向こうにはヒロインの部屋があり、その手前、吹き抜けに面したあたりに当主の部屋があるようなのですが、とりわけクライマックス近くでは、それらをつなぐ渡り廊下の空間で人物たちは往き来することになるでしょう。
 もとよりカメラは、いつも仰角で配されるわけではなく、仰角と俯瞰が移動しながら切り換えられたりもします。
 またヒラリーとヒロインが階段にいる時は、二人の頭の上に大きく湾曲した手すりの影がかぶさるかと思えば、横に並ぶ二人を正面から、代わる代わる映したりもする。その際ヒラリーだけが下から光を当てられていたりするのでした。


 クライマックスでヒラリーは、夜の渡り廊下を奥から手前へ駆け抜け、階段を駈けおります。渡り廊下・階段双方の手すりはやはり大きな影を落としている。カメラは最初上から見下ろしつつ首を回してヒラリーの動きを追い、1階では水平の視線となる。これが1カットでとらえられます。
 1階ではピアノの鍵盤を上から見下ろし、ヒラリーの半身をアップで下から見上げる。ここではカットが頻繁に切り換えられます。そして納骨堂の場面に続いて、カメラは斜めに傾いでヒラリーを映したりしながら、破局へと至るのでした。


 この後エピローグ的な場面で終幕となりますが、そこでも階段の手すりは影を落としていました。
Cf.,  Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.291-293

原作の邦訳;
W.F.ハーヴェイ、鹿谷俊夫訳、「五本指のけだもの」、『アンソロジー 恐怖と幻想 第3巻』、月刊ペン社、1971、pp.121-153
原著は
W. F. Harvey, "The Beast with Five Fingers"、単行本収録は1928
なおこの短篇については2つの版があるとのことで、上の邦訳は初出のものだという。この間の事情は「監修者あとがき」(矢野浩三郎)に詳しく記されています(pp.299-303)。「一般に流布しているもの決定稿」は「冒頭の部分を縮約して、終りにエピローグをくっつけ」たものとなっており、その邦訳もあります(未見);
大西尹明訳、「五本指の怪物」、『世界恐怖小説全集4』、東京創元社、1959

 2014/11/29 以後、随時修正・追補
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