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ゼンダ城の虜
The Prisoner of Zenda
    1937年、USA 
 監督   ジョン・クロムウェル 
撮影   ジェイムズ・ウォン・ハウ 
編集   ジェイムズ・E・ニューカム 
 美術   ライル・R・ウィーラー 
 室内装飾   カセイ・ロバーツ 
    約1時間41分* 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

一般放送で放映
* [ IMDb ]による。手持ちの録画は約1時間34分
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 幾度となく映画化されたアンソニー・ホープの冒険小説をロナルド・コールマン主演で製作した作品。超自然現象は起こりません。中欧の小国ルリタニアで、新王と瓜二つだったため、王位を巡る陰謀に巻きこまれた英国の快男児の恋と冒険の物語といったところでしょうか。邦題にあるとおり、古城がクライマックスの舞台となります。姿を現わすのは開幕後1時間以上たってからで、映される部屋数も多いとはいえませんが、セットはなかなか見所があるので、手短かに取りあげることにしましょう。電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 まず映されるのは外観です。模型かマット画でしょう。画面の手前を並木道が右下から左上に緩やかな傾斜で区切り、その向こうに湖がひろがる。昼間の光の下、対岸やや左寄りに城がそびえています。城の向こうには穏やかな山並み。城は下の方が黒っぽく、その上は白っぽい。やや右に高い角塔が立ち、周りを低めの塔や家屋状の棟などがとりかこんでいます。左端下の方には水平になった何かが突きでているようにも見え、入口に通じているのでしょうか。手前の並木道を右から左へ、騎手が駆け抜ける。この外観は後に、夜景で再登場します。

 屋内で最初に出てくるのは扉を開けば向こうに低いアーチが左側を区切っている部屋で、後にアーチに鎖が吊りさげられていることがわかります。アーチの左側にはテーブルがあり、見張りたちがいる。ダグラス・フェアバンクス・Jr.扮する仇役のヘンツォがアーチの向こうへ進むと、そこにも扉があり、その中に誘拐してきた王を幽閉しています。入口から数段下がり、この部屋も真ん中に大きなアーチを支える柱がある。柱に一本だけ、蠟燭を立てる燭台があります。壁やアーチは石積みです。階段の下、向かって右手の床には揚げ蓋があり、その下は壕に落ちこんでいます。

 親玉にあたる王の異母兄の恋人アントワネットが王奪還の手助けをすることになり、彼女に仕える執事の手引きで主人公たちは城に忍びこむ相談をするのですが、その際図面まで映しだされました。1階だけの平面図で、セットと一致するものかどうかはよくわかりませんでしたが、興味深いところではあります。またその際、城門には跳ね橋があり、それを下ろさなければならないという話が出ます。

 夜間の外観を経て、主人公は壕を泳いでアントワネットの部屋に入ります。ここでは壕の幅が狭くなっているようで、すぐ近くの岸から水に入ったのでした。目指す部屋は1階にあり、窓が目標です。
 次いで城門の外観が映されます。夜のこととて、真っ暗なシルエットになっていますが、左手に低い三角屋根の塔状の棟が二つ、右手は大きなアーチのように見えます。その下の方には光のあたった階段状のものがありますが、定かではない。この外観は後に、橋が下ろされた時に再登場します。


 アントワネットの部屋はやはり大きなアーチで区切られています。また部屋の扉のすぐ左側にも、少し低い位置で小さめの尖頭アーチがあり、奥に通じています。
 扉を開けると向かい側に、階段があってそこをおりれば見張り室、その先に地下牢があると告げられる。扉からの眺めでは、左に少しずつ幅の狭くなる石を積んだ柱があり、その奥、下の方に低いアーチがあって暗がりを囲っている。これが地下へおりていくのでしょう。その上、天井部分は縞状に区切られており、影のようにも見えます。
 アントワネットの部屋も地下への階段も、玄関広間にあることが続く場面で判明します。まずは画面右手、柱の陰に扉から出た主人公がいて、左側へ進んでいく。床は石畳です。扉と柱のすぐ左、少し奥まった位置にはアーチがあり、そこで執事がひそんでいる。その左少し前には円柱があり、その向こうで数段分の段差がある空間に通じているようです。先走れば、この奥には跳ね橋を開閉するための装置があって、執事は密かに橋を下ろそうとしているのでした。

 さて、主人公は左奥の地下への階段の方に進みます。画面右端は暗くなった壁か柱に縁取られ、すぐ左の奥には、上への階段がのぞいています。その左は壁に暖炉があり、前の床には棒の上に輪がついた、暖炉内の器具の影が落ちている。さらに左へ行けば、柱を経て地下におりていけます。地下への階段は湾曲しています。
 執事の側から見ると、太い柱と太い柱の間、少し奥まって別の柱が立ち、それを巻くようにして階段が設けられている。右手前には光のあたった踊り場を経て、手前やや左向きに階段がおりてくる。柱の左上では、右下からぐるっと旋回して上の階へのぼる階段、その裏側が見えています。この階段を二人の見張りがおりてくる。
 踊り場より下の段では、右側に下ひろがりの台形の石を積んだような柱が見えます。さらに近づけば、まん中の柱の左上、放射状に明暗の縞が交替しており、最初は影のように見えますが、じきに階段の裏側であることがわかります。回りこんだ右下の部分でも、踏面は光があたって明るく、蹴上げは暗くなっている。左下の地下へ続く方は、下の方にアーチがあり、その奥は暗い。後の場面で、真ん中の柱が床に接する部分は、壺のようなもので囲まれていることがわかります。とまれこの階段は、ゼンダ城のセットのハイライトと言ってよいでしょう。

 二人の見張りの後をつけて主人公は地下へおりてゆく。階段の下から左奥には大きなアーチがあり、その真下、すぐ内側にも柱が見え、二重アーチになっているようです。右奥には窓がある。

 この間に執事は少し低くなったところから手前を右から左に進み、扉の閂を外してから、また右へ戻ります。奥の数段下がった部分に入ると、その左先に橋を開閉する装置、あれは何と呼ぶのでしょう、鎖を巻いた輪があります。
 他方階段の右脇奥から王兄が出てきます。執事が装置をいじったはずみなのか、階段の右手の壁の暗くなった部分に、左に頂点のある三角の光があたっていたのですが、その下辺が上下するようになってしまう。また玄関扉の右の壁には、斜め格子の影が落ちています。


 地下に戻れば、牢の手前の見張り室は、最初に思ったより広いようで、画面では左に牢への扉、手前下にテーブル、扉のすぐ奥は大きくて低い半円アーチで、その向こう側、すぐ左にはまわりより細かく石を積んだ幅の広い柱らしきものがある。さらに奥にも空間は続いており、階段らしきものも見えます。
 牢内に入ったはいいが、見張りの一人とチャンバラになってしまう。この部屋でも、奥の壁に鎖を吊りさげた座席のようなものが見えます。チャンバラは部屋の中央にある柱をまわりながら行なわれます。
 相手を倒して外に出れば、今度はヘンツォと出くわし、駆け引きを演じなければなりません。その際、見張り室の様子がさらに描きだされ、牢の扉のある壁の奥の方には暖炉があり、脇には上への階段があること、右奥の方にもアーチがあることなどがわかります。
 ヘンツォは手にした銃を落とされ、剣をとって主人公と向かいあった時もニコニコしており、なかなか魅力的な悪役ぶりです。少し前の場面で、雇い主である王兄の恋人にちょっかいを出したあげく、その場を見られて、利益をもたらしてくれるはずの親分を殺してしまうというていたらくだったりもしますが、黒っぽい服を着て立ち回り、自分は紳士じゃないと言い放つさまは、後の『ヴェラクルス』(1954、監督:ロバート・アルドリッチ)におけるバート・ランカスターが演じた役を連想させなくもありません。


 ヘンツォと主人公のチャンバラは1階の広間へ場を移します。カメラは水平でとらえたかと思えば、上から二人を見下ろし、主人公のアップとヘンツォのアップを交互に切り換えて、また上から、少し近づいてやはり上からとめまぐるしい。床に放射状の影が落ちる広間を左から右へ動き、アントワネットの部屋の扉の前に来た時には、左手の壁にヘンツォの影、右手前に本人が、しかし真っ黒なシルエットとなって同時に映る。ヘンツォの影が少し右に後ずされば、左から主人公の影が現われて、影だけが剣を交わすのでした。しかも主人公の影の少し右には、同じ影が小さくなって落ちているという念の入りようです。

 原作には『ヘンツォ伯爵』という続篇があるのですが、それを配慮したわけでもあるまいに、しかしヘンツォは援軍の到着を耳にして、窓を突き破って壕に飛びこみ、命を落とすこともなく逃げ延びることになります。
 この後は後始末というわけで、王の代役を演じていた主人公は、その間に王の婚約者と互いに憎からず思いあうようになっており、いっしょに行こうと誘うのですが、ヒロインは義務があるからと別れを告げます。このあたりは後の『ローマの休日』(1953、監督:ウィリアム・ワイラー)のラストを連想させなくもありません。
 余談ですがこの作品には、主人公の味方となる大佐の腹心として、デヴィッド・ニーヴンが出ていました。ニーヴンといえば中村正の吹替で見たくなるところです。1910年生まれで、 [ IMDb ]によれば1932年から映画に出演、しかし35年まではクレジット無しとのことで、名前が出始めてまだ間もない頃の作品ということになります。

Cf.,  美術監督のライル・R・ウィーラーは『レベッカ』(1940)も担当しています。

原作の邦訳は;
アンソニー・ホープ、井上勇訳、『ゼンダ城の虜』(創元推理文庫 F ホ 4-1)、東京創元社、1970
原著は
Anthony Hope, The Prisoner of Zenda, 1894
続篇『ヘンツオ伯爵』も収録されています;
原著は Anthony Hope, Rupert of Hentzau, 1898
 2014/12/18 以後、随時修正・追補
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