ヤーコポ・バッサーノ(1515頃-1592)の工房ないし模倣者 《カナンへの出発(アブラハムの出発)》 1570-90年頃 油彩・キャンヴァス 82.6×116.4cm プラハ国立美術館 Jacopo Bassano / Workshop or imitator of Jacopo Bassano The Departure into Canaan (The Departure of Abraham) c.1570-90 Oil on canvas 82.6×116.4cm National Gallery in Prague Cf., 『プラハ国立美術館コレクション ヨーロッパ絵画の500年』、そごう美術館、ひろしま美術館、福岡市美術館、北海道立旭川美術館、三重県立美術館、1987、cat.no.25 Cf. のcf., Catalogo della mostra Jacopo Bassano, Palazzo Ducale, Venezia, 1957 Catalogo della mostra Jacopo Bassano. c.1510-1592, Museo Civico, Bassano del Grappa, Kimbell Art Museum, Fort Worth, Texas, 1992-93, p.CLV / fig.51, pp.162-163 / cat.no.60 Catalogue of the exhibition Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, Sinebrychoff Art Museum, Finnish National Gallery, Helsinki, 2024-25, p.84, p.87 / fig.71 天から見おろす神を軸に左から右へと湾曲する構図は、均衡を旨とした盛期ルネサンスに対し、空間を歪め誇張するマニエリスムの様式を示している。人物と動物たちのほとんどが画面に背を向けているのも、視線を導入する役割と同時に韜晦を感じさせる。馬に乗った中央の人物の身振りは気どりを、彼に子供を渡そうとしている女性は、場面に似合わぬ華やかさをもって描かれている。強い明暗の対比のうちにチラチラと光が明滅して、ややひろがりを欠く構図がはらむ動勢を強調する。 このようなマニエリスム特有の分裂はしかし、大地から足を離してしまうことのない対象の量感ある把握によって統一されている。細部での風俗的な写実とあわせて、ティントレット、ヴェロネーゼとともにバッサーノが属するヴェネツィア・マニエリスムの、後のバロックを予告する特徴がうかがわれよう。 |
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(県立美術館学芸員・石崎勝基) 『中日新聞』(三重総合)、1987.8.29、「プラハからの贈り物 ヨーロッパ絵画500年 2」 『ヨーロッパ絵画の500年 プラハ国立美術館コレクション』展(1987/8/29~10/4)より →こちらを参照:年報昭和61・62年度版(1986+1987) [ < 三重県立美術館サイト ] |
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この作品をめぐってはまた; 「バッサーノの兎 - プラハ国立美術館コレクション展より」、『ひる・ういんど』、no.22、1988/3/25 [ < 同上 ] 「バッサーノの兎(承前)」、同、no.29、1989/12/25 [ < 同上 ] 「バッサーノの兎(完結篇)」、同、no.65、1999/1/25 [ < 同上 ] これらの拙稿→「バルコニー、ヴェランダなど ー 怪奇城の高い所(補遺)」の頁でも挙げました 追補 バッサーノ兎の逆襲(2025/01/03): 上の作品について上掲『プラハ国立美術館コレクション』展図録(1987)では、 「この作品は、最近になって、プラハ国立美術館が個人コレクションから収得したものであるが、長らくヤーコポの作だと考えられてきた(裏側に付いている札には、1773年という年紀が記されている)。けれども、バッサーノ工房で扱われたこの主題は、幾つかのヴァリエーションを生み出している。その一点は、ヴェネツィアのパラッツォ・ドゥカーレに保存されており、ヤーコポの手で仕上げられた大きな寸法のカンヴァス作品である。しかし、プラハにある作品は、どちらかというと、ウィーンにあるヴァリエーションに最も近く、そしてウィーンの作品はフランチェスコの作と考えられている。ただ、プラハの作品と比較すると、構図が異なっており、また形態上の見事な立体感や、大胆な筆触が見られる点で、この作品は主としてヤーコポによって描かれたものだと思われる」(cat.no.25) とありました。ヴェネツィアのパラッツォ・ドゥカーレの作品というのは ◇ 《ヤコブの帰還》、1580年頃、油彩・キャンヴァス、150 x 205cm Jacopo Bassano, The Return of Jacob, c.1580, oil on canvas, 150 x 205cm, Anticollegio, Palazzo Ducale, Venezia ( Cf., Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, 2024-25, p.45 / fig.31. →Wikimedia commonsの該当図版頁) のことでしょうか。ウィーンの作品で、以前前掲「バッサーノの兎(承前)」(1989)でフランチェスコ・バッサーノによるものとして挙げた作品は(1頁目、fig.1)、 ◇ ジェローラモ・バッサーノ、《約束の地へのアブラハムの出発》、1595年頃、油彩・キャンヴァスと板、82 x 114cm、ウィーン、美術史美術館 Gerolamo Bassno, Aufbruch Abrahams ins gelobte Land, um 1583/85, Öl auf Leinwand und Holz, 82 x 114cm, Kunsthistorisches Museum Wien, Gemäldegalerie (→そちら < ウィーン、美術史美術館公式サイト Permalink (zitierbarer Link) zu dieser Seite: www.khm.at/de/object/142/ Cf., Verzeichnis der Gemälde, Kunsthistorischesmuseum, Wien, 1973, p.13, Tafel 22 * フランチェスコに帰属) と、現在はフランチェスコ(1549頃-1592)の弟ジェローラモ(1566-1621)に帰属されていました。他方同じく美術史美術館蔵でプラハ本により近いのが; ◇ レアンドロ・バッサーノ、《約束の地へのアブラハムの出発》、1595年頃、油彩・キャンヴァス、136x 183.5cm、ウィーン、美術史美術館 Leandro Bassno, Aufbruch Abrahams ins gelobte Land, um 1595, Öl auf Leinwand, 136 x 183.5cm, Kunsthistorisches Museum Wien, Gemäldegalerie (→あちら < ウィーン、美術史美術館公式サイト Permalink (zitierbarer Link) zu dieser Seite: www.khm.at/de/object/156/ ) と、こちらはフランチェスコの弟でジェローラモの兄レアンドロ(1557-1622)に帰属されています。 ちなみに「バッサーノの兎(承前)」で挙げた英国王室コレクションの作品は(1頁目、fig.2); ◇ ヤーコポ・バッサーノ、《ヤコブの旅》、1561年頃、油彩・キャンヴァス、129.4 x 184.2cm、英国王室コレクション Jacopo Bassno, The Journey of Jacob, c.1561, oil on canvas, 129.4 x 184.2cm, The Royal Collection (→こっち < Royal Collection Trust Cf., Catalogue of the exhibition The Genius of Venice.1500-1600, Royal Academy of Arts London, 1983, p.114 / cat.no.8, p.149) 図録編集の時点で作者帰属に関してすでにいろいろ議論があったのだとして、上で「ヤーコポ・バッサーノの工房ないし模倣者」としたのはおそらく、本頁作成の際(2017年8月7~14日)に "Online sbírky (Online Collections)"( < Naše sbírky (Our Collections) < Národní galerie Praha (プラハ国立美術館公式サイト) で検索したからなのだと思うのですが、2025年1月1日現在、やり方が悪いのでしょうか、見つからない(ちなみに同じ『プラハ国立美術館コレクション』展から、→そっちに解説原稿を載せたモンティセリの作品も見当たらないでいます)。工房ないし模倣者どころか、もしかして真筆ではないとされたのでしょうか? 「工房ないし模倣者」との言い方は、「1570-90年頃」という制作時期の推定ともども、後に触れるロンドンのナショナル・ギャラリーの作品のデータを参考にしたのか、あるいはごっちゃにしてしまったのか? ともあれ、そもそも上に挙げた「バッサーノの兎」全三回の原稿をしたためたのは、画面にひっそり兎が描かれていたからでした(→下の兎のいる細部)。図版ではそう言われればそうかもと思うかもしれませんが、言われなければ気づきそうにない。ただ実物の前に立てば、たしかに認められた - 当時は少なくともそう思ったはずです。 上掲「バッサーノの兎(完結篇)」(1999)で触れた、ターナーの《雨、蒸気、速度》(1844、ロンドン、ナショナル・ギャラリー)における兎と同じパターンと見なせましょうか(p.5 / fig.1)。 ところでバッサーノ工房周辺による同じ主題を描いた作品は、ウィーンのもの以外にも、何点かあります。その中で早い段階のものと見なされているのが、ヤーコポとフランチェスコの署名があるベルリンの作品です(下)。 ヤーコポおよびフランチェスコ(1549頃-1592)・バッサーノ 《アブラハムのカナンへの出発》 1576頃 油彩・キャンヴァス 93 x 115.5cm ベルリン、国立絵画館 Jacopo and Francesco Bassano Departure of Abraham for Canaan c.1576 oil on canvas 93 x 115.5cm Gemäldegalerie, Staatliche Museen, Berlin Cf. Jacopo Bassano. c.1510-1592, 1992-93, p.CLV / fig.51, pp.162-163 / cat.no.60 Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, 2024-25, p.84, p.87 / fig.71 ……………………… と、「Cf. のcf.」に挙げた2024-25年のバッサーノ展図録をぱらぱら繰っていておやっと気がついた、ではメモしておこうとここまで書いてきたのですが、「バッサーノの兎(完結篇)」でターナーの兎の件にたしか触れた、一応確認しておくかと掲載誌『ひる・ういんど』65号を引っぱりだしてみれば、この後続けるつもりだったことも、すでに記してありました(p.6 / fig.5-6)。きれいに忘れていたのは常のとおりです。 すなわち、プラハ本とベルリン本、双方構図はほとんど同じだけれど、赤子を抱きあげる女性がベルリン本では頭にスカーフを巻いているとか、その右、赤いつばなし帽をかぶった男性がプラハ本ではいないとかといった細かな違いがあります。その内、ベルリン本もプラハ本も、ほぼ同じ位置に兎が描きこまれているのですが(赤子を抱く女性と右側の石の門との距離が、プラハ本の方がひろがっている)、プラハ本でうずくまっていた兎が、ベルリン本では跳びはねているのでした(下二図)。 兎のいる細部(プラハ本) 兎のいる細部(ベルリン本) 画面全体に対してほんの小さなものではあれ、兎が跳ねる姿は、何らかの動きを導きこまずにいないと見なしてよいかどうか。跳ねる向きも左に向かっており、前景の人物や家畜たちが進む、右から左へという方向に呼応して、陰ながら構図全体の動きに寄与しているととれなくもない。 それをうずくまらせれば、そうした動勢は抑えられる。人物や家畜たちとは逆に右向きでもある。顔あたりなどにわずかながら白が用いられているものの、草むらの暗くなった部分に溶けこみそうにも映ります。ベルリン本でも、暗がりの手前に配されている点に変わりはありませんが、顔から胸、腹にかけて掃かれた明色は、暗がりからくっきり浮きあがろうとしています。 こうした違いは、ベルリン本では全体への働きかけを考慮して選ばれたのかもしれないけれど、プラハ本ではその小ささゆえ、効力の及ぶ範囲も小さく、さほど影響のないものとして交換可能と見なされでもしたのでしょうか。些細なだけに答えを見つけようもなさそうです。答えが出ないことがはじめからわかっているかぎりで、原稿を何とか終わりまでもっていこうと四苦八苦するさまは、 「バッサーノの兎(完結篇)」後半に見られるとおりです。 ところでこの構図は、ベルリン本や先に触れたウィーン本(レアンドロ帰属)以外にも残されていて、見かける機会のあったものだけ挙げておきましょう。 「Cf. の cf.」でも記しましたが、Jacopo Bassano. c.1510-1592 展図録(1992-93)の p.CLV には、次の作品のモノクロ図版が掲載されています( fig.51、また p.CLIV / note 283 も参照); ◇ ヤーコポおよびフランチェスコ・バッサーノ、《アブラハムのカナンへの出発》、1576頃、油彩・キャンヴァス、134 x 183cm、個人蔵 Jacopo and Francesco Bassano, Departure of Abraham for Canaan, c.1576, olio su tela, 134 x 183cm, collezione privata この他ウェブで見かけたもの; ◇ ヤーコポ・バッサーノの工房ないし模倣者、《アブラハムの出発》、1570-90頃、油彩・キャンヴァス、82.6 x 116.4cm、ロンドン、ナショナル・ギャラリー Workshop or imitator of Jacopo Bassano, The Departure of Abraham, about 1570-90, oil on canvas, 82.6 x 116.4cm, National Gallery, London (→こっち < ロンドン、ナショナル・ギャラリー公式サイト ) ◇ フランチェスコ・バッサーノに帰属、《アブラハムがハランを去る》、1578頃、油彩・キャンヴァス、95.5 x 125cm、アムステルダム国立美術館 Attributed to Francesco Bassano il Giovane, Abraham Leaves Haran, c.1578, oil on canvas, 95.5 x 125cm, Rijksmuseum, Amsterdam (→あっち < アムステルダム国立美術館公式サイト ) ウィーン本(レアンドロ帰属)、個人蔵本、ロンドン本、アムステルダム本いずれも構図はほぼ同じで、図版や画像でみるかぎりでは、兎は見当たらないようですが、実物を見ていないので確かとはいえない。プラハ本でも図版だけでは気がつかなかったことでしょう。 やはり「バッサーノの兎(完結篇)」で述べていましたが(pp.6-7 / fig.7-8)、別の主題の作品、ウィーン美術史美術館の《秋》で、駆ける兎が描きこまれてありました。Jacopo Bassano. c.1510-1592 展図録(1992-93)で見かけたわけですが( pp.142-143 / cat.no.51)、そこでの図版は左右が反転しており、そのため『ひる・ういんど』65号での挿図も左右逆になっています。なので、実物で確かめたわけではありませんが、正しい向きと思われる画像をここに載せておきましょう(下およびもう一つ下の部分図); ヤーコポ・バッサーノ 《秋(モーセが律法の石板を受けとる)》 1576頃 油彩・キャンヴァス 75.7x109cm ウィーン、美術史美術館 Jacopo Bassano Herbst (Moses empfängt die Gesetzestafeln) um 1576 Öl auf Leinwand 75.7x 109cm Kunsthistorisches Museum Wien, Gemäldegalerie Cf., Verzeichnis der Gemälde, Kunsthistorischesmuseum, Wien, 1973, p.14, Tafel 22 * フランチェスコに帰属 Jacopo Bassano. c.1510-1592, 1992-93, pp.142-143 / cat.no.51 * 図版左右反転 →ここ < ウィーン、美術史美術館公式サイト 兎のいる細部(《秋》) ……………………… 上で触れたように、今回メモしておこうと思ったきっかけは、2024-25年のバッサーノ展図録を見る機会があったことでした。その際 fig.71 としてベルリン本の図版が載っている p.87 にたどり着く前に、p.6 にいずれかの作品の細部が大きく頁いっぱいに、fig.2 として掲載されていました。少し先、p.28 いっぱいの fig.19 も、同じ作品の少しずらした部分図のようです。で、まじまじと見ていると、兎が小さく描きこまれていました。 しかも p.6 の fig.2 では、これまで見る機会のあった《アブラハムのカナンへの出発》の構図で、必ず左下隅に配された、木の柱だか幹だかが三本交差していたのと( 上掲「バッサーノの兎 - プラハ国立美術館コレクション展より」(1988)、1頁目、fig.2 も参照)、ちょうど同じように交わる三本の木の柱か何かの右やや下にうずくまる兎、左やや上には跳ねる兎と、二羽います(→下二つ目の兎のいる細部)。部分図の右、いささか見にくい位置に配されたキャプションから、全図はベルリン本の p.87 よりさらに後ろ、p.143 に載っていました(下); ヤーコポ・バッサーノ 《ルツとボアズ(収穫)》 1571-72頃 油彩・キァンヴァス プラハ、国立美術館に長期貸与 Jacopo Bassano Ruth and Boaz (Harvest) c.1571-72 oil on canvas 78.5 x 1085cm Long-term loan to National Gallery Prague Cf. Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, 2024-25, p.143 / cat.no.14 兎が二羽いる細部(《ルツとボアズ》) ……………………… 田園で見かけそうな景色を演出するための小道具として描きこまれたのでしょう。ただうずくまる姿と跳ねる姿の二態が並ぶのは、あたかもレパートリーの見本市という役割を果たしているかのごとくだといっては、深読みがすぎるというものでしょうか。 「バッサーノの兎(完結篇)」で触れた素描《二羽の兎の習作》(1570-75頃、ウフィッツィ美術館、pp.6-7/ fig.9)に関連して、註9(p.7)では Jacopo Bassano, c.1510-1592, (1992-93)で見られたうずくまる兎を描いた作品、また同じ註7 で駆ける兎の作例を列記しました。2024-25年のバッサーノ展図録では、同じ《二羽の兎の習作》素描(p.168 / cat.no.32)とともに、 ◇ ヤーコポ・バッサーノ、《羊飼いたちと燃える芝のある風景》、157年代初頭、油彩・キャンヴァス、45 x 114cm、ヴェネツィア、アカデミア美術館 Jacopo Bassano, Landscape with Shepherds and the Burning Bush, early 1570s, oil on canvas, 45 x 114cm, Gallerie dell'Academia, Venezia ( Cf., Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, 2024-25, pp.144-145 / cat.no.15) の画面ほぼ中央で駆けているのは兎でしょうか? またやはり横長の ◇ ヤーコポ・バッサーノの工房、《農家の中庭の動物たちのいる風景》、157年代、油彩・キャンヴァス、44 x 108.6cm、ヴェネツィア、アカデミア美術館 Workshop of Jacopo Bassano, Landscape with Farmyard Animals, 1570s, oil on canvas, 44 x 108.6cm, Gallerie dell'Academia, Venezia ( Cf., Jacopo Bassano. Renaissance Painter of Venetian Country Life, 2024-25, pp.162-163 / cat.no.29) の左中景に駆ける兎らしき姿が見えます。 これまた「バッサーノの兎(完結篇)」に記したことですが、バッサーノには、駆ける犬を描きこんだ作品もあります(pp.6-7 / fig.10-11)。駆ける犬は跳ねる兎に対応するとして、うずくまる兎に応じるのが、丸くなった犬でしょうか。たとえば下に載せた《冬》の左下・最前景に、そんな姿が見られます。目は開いており、観者の方を見ている。すぐ左で接しているのは、お馴染みの交差する三本の木柱です。またこの作品では、犬の右の背を向けた少年からロバ、緑のシャツの男と奥まったその先、白い布をかけたテーブルの足もとで、猫がやはり丸まっていました。 ヤーコポ・バッサーノ 《冬》 1570-76頃 油彩・キャンヴァス 76x108cm ソウマヤ美術館、メキシコシティ Jacopo Bassano Winter c.1570-76 oil on canvas 76x 109cm Museo Soumaya, Ciudad de México Cf., Jacopo Bassano. c.1510-1592, 1992-93, p.99 / fig.79 丸まった犬と猫のいる細部(《冬》) バッサーノとその工房のレパートリーとして、牛や羊、馬など、前景に大きく描かれることが多い動物たち以外に、しばしば点景として小さく挿入される、兎がいる。兎は飼い兎と野兎に区別することができます。野兎はまた、うずくまっているものと跳ねているものの二種類いる。ただしうずくまる野兎と飼い兎は、形態としては似通ったものとなることでしょう。他方うずくまる兎と跳ねる兎に対応して、丸まった犬と駆ける犬がいます。 牛や羊、馬などに比べると、画面全体の主題から見れば、兎は必ずいなければならないというものではありません。別のパターンに変更しても、あるいは抜きとっても、差し支えが生じることもなさそうです(たぶん)。そのかぎりで、どの時点で、誰が、どのパターンを選択して、描きこまれることになったのか、気になったりするのでした。 |
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