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ノーサンガー・アベイ
Northanger Abbey
    1987年、イギリス * 
 監督   ジャイルズ・フォスター 
 撮影   ナット・クロスビー 
 編集   ロビン・セイルズ 
プロダクション・デザイン   セシリア・ブレアトン 
    約1時間28分 
画面比:横×縦    1.33:1
    カラー 

DVD
* TV映画。[ IMDb ]によると1987年2月15日にUKで放映。
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 ジェイン・オースティンの原作のことはとある知人夫婦が教えてくれました(→こちらでも触れました)。どういった流れだったか、ゴシック・ロマンスの話になったところ、その手の小説が大好きな娘が主人公の物語があるというのです。後日amazonで検索してみれば、さいわい邦訳が文庫化されていました(下掲 cf. 参照)。知識が偏っているためオースティンが英文学史に占める位置など知るべくもなく、もとよりその作品を読んだこともなかったのですが、とりあえず取り寄せてみて一読した次第です。
 顧みれば手もとにあった資料でも、荒俣宏の「ロマンスの再生-月光と鮮血に浸されたページ アン・ラドクリフ」(1975、下掲)や横山茂雄の『異形のテクスト 英国ロマンティック・ノヴェルの系譜』(1998)がともに、始めの方でオースティンの小説を引きあいに出していました(前者:pp.53-54、後者がpp.8-10)。きれいに失念していたのはいつものことだとして、ゴシック・ロマンスを取りあげるのにオースティンのパロディーを枕に置くのは、ほとんど欠かすべくもない手続きと化しているのかもしれません。
 主人公の振舞やお城のありよう、話の落としどころがもっと突き進んでいてくれたならと思わないでもないものの、それはお門違いというものなのでしょう。パロディーと承知の上で読んでみれば、おおむね楽しむことができました。わけても第11章で主人公がブレイズ城(訳註として「1766年に、裕福な商人によって、庭園の飾りとして建てられたまがい物の城」とあります。英語版ウィキペディアの"Blaise Castle"の頁→こちらを参照。そこでは1796–1798年建造。また下掲門田守論文に引用された原文では、"Blaize Castle"となっていました。こちらも1766年築城とのこと(p.149))への遠出に誘われ、
「ほんとのお城なんですか? 古いお城なんですか?」
「小説に出てくるような古いお城ですか?」
「それじゃ、塔や長い廊下(ギャラリー)もあるんですか?」
とたたみかけ(下掲邦訳 pp.122-123、それぞれ間に話し相手の返事がはさまっています)、少しおいて
「どの階段も上がれるの? どの部屋にも入れるの?」
と続くところでは(p.124)、そうそうそうなんだよ他に何がいるというのかと、3連発で肩をはたきたくならずにはいられませんでした。同じ章にはすぐ後に、「たとえば、天井の高い長い続き部屋を歩きまわり、長いあいだ使われていない壮麗な家具の数々を見物する楽しみ。曲がりくねった狭い地下道を進んでゆくと、突然ぎーっと閉まる低い格子戸に行く手を阻まれる楽しみ。そして唯一のランプが突然の風に吹き消されて、真っ暗闇に取り残される楽しみ」という美しいくだりもあります(p.128)。17章の一節や(pp.211-212)、第20章で相手役がヒロインをびびらせようとまくしたてる長台詞をこれに加えてもよい(pp.238-243)。本サイトが憧憬してやまないイメージが、上の引用にほぼあますところなく集約されているといっても過言ではありますまい。

 なお、作中でゴシック・ロマンスの見本とされ、具体的に及されもするのがアン・ラドクリフの『ユードルフォの謎』(1794)です。けっこう長い本らしく、そのせいもあるのか、全訳はされていないようです(ラドクリフの著作では『イタリアの惨劇』に邦訳があるとのこと。未見)。ただ下に挙げた、『アン・ラドクリフ ユードルフォの謎Ⅰ』および『Ⅱ』によって大略をつかむことはできます。主な著訳者である惣谷美智子は、両巻の奥付に記された既刊著作からするとジェイン・オースティンを研究対象としており、そのため同書所収論文のタイトルからもうかがえるように、『ノーサンガー・アビー』のことも頻繁に引きあいに出されます。

 さて、邦訳を読んだ後たまたま、ケーブルTVだかBSだかで、映画化したものが放映されるという。2007年の作品という割にはエンド・クレジットが短かったので、劇場用映画ではなくTV用に製作されたもののようでしたが、ちゃんとお城も出てきて、それなりに楽しめました。先の知人夫婦にその話をしたところ、ここにもあると再生されたソフトを見ている内に(お宅に邪魔していたので)、あれ何かちゃうなという気がしてきました。どうも別の映像化だったようなのです。貸してくれるというのであらためて見たのが、ここで取りあげる1987年版です。こちらもちゃんとお城が出てきました。2007年版については追って再見するとして、ただ、いずれも超自然現象は起きません。そもそも参照先であるラドクリフの小説が、超自然と見えた出来事が実は合理的な説明がつくという落ちで知られていたらしい(だからもう一つ興味を強く惹かれなかったのでしょう)。
 なお1987年版も2007年版も邦題は『……アベイ』となっています。手もとの英和辞書では[æbi]で(æの上に左下がりアクセント。意味は(大)修道院、その修道士(女)たち、(もと大修道院(の一部)であった)大寺院、大邸宅)、本作の約3分ほどで最初に出てきた時は「アベイ」とも「アビー」ともとれたのですが、後には「アビー」と聞こえました(たぶん)。なので原作邦訳に従ってここでは「アビー」としておきます。

 [ IMDb ]にはロケ地として、タイトル・ロールにイングランド南東部のイースト・サセックス州北東のロバーツブリッジの近くにあるボディアム城 Bodiam Castle, Bodiam, East Sussex, England(英語版ウィキペディア→こちらを参照。また「ボディアム城(1/2)」< [ ARCHITECTURAL MAP ]。1ページだけですが Simon Marsden, Phantoms of the Isles, 1990 にも掲載されていました:p.101。またチャールズ・フィリップス、『イギリスの城郭・宮殿・邸宅 歴史図巻』、2014、pp.130-133)が、それ以外にも前半の主な舞台であるイングランド西部のサマセット州バース Bath, Somerset, England とそこにあるアセンブリー・ルーム Assembly Rooms、バース修道院 Bath Abbey、ローマ浴場跡 Roman Baths、ロイヤル・クレセント Royal Crescent、さらにバースの東に位置するイングランド南部はウィルトシャー州コーシャム・コート Corsham Court, Wiltshire, England とさらにその東、ボーウッド・ハウス Bowood House, Wiltshire などが挙げられています。画像検索等で見当のついたものはおいおい記していきましょう。

 冒頭、木立越しに同じ高さの三角破風が横に三つ並び、その中央向こうに角塔がそびえる教会が映されます。壁は白い。コーシャム・コートの聖バーソロミュー教会 です([ Corsham 公式サイト → Visit Corsham →What To DoSt Bartholomew's Church ]を参照)。切り替わって教会を右奥に、左手前の木のところにヒロインであるキャサリン・モーランド(キャサリン・シュレシンガー)がいます。目がやたら大きく細面、巻き毛の栗毛です。小さな黄と緑の斑点が散らされた白のドレスを着ています。ちなみにこの作品では、女性陣の身につける衣装類、とりわけ帽子がけっこう目を引きました。不勉強のため時代考証に適っているのかどうかはわかりませんが、衣裳デザインはニコラス・ロッカーでした。
 彼女が読んでいる本の挿絵が大写しにされ、そのまま妄想に移行します。女性が悪漢に横抱きにされ、血まみれのベッドに放りだされる。悪漢は後にティルニー将軍として登場するロバート・ハーディーが演じています。この後も何度か、いかにもゴシック・ロマンスに出てきそうな妄想ないし夢が挿入されることでしょう。こうした妄想の映像化は2007年版でも引き継がれることになります。
 呼びに来た弟とともに彼女は、教会前の墓地を駆け抜ける。墓碑はいずれも上端が丸まっています。カメラも左から右へ追います。右奥に石造りの家が見えてきました、母屋は3階建てで、左に低くなった棟がつながっている。


 アレン夫妻のお供として湯治地のバースへ出かけることになる。馬車が出発すると第2の妄想です。二人の男に拉致されるというものでした。朝か夕刻、靄の中に間を離して二基の塔が下から見上げられます。
 現実に戻って約3分、木立の向こう、濠か湖越しに白灰色の城が見えてくる。御者に尋ねるとノーサンガー・アビーとのことでした。城門は少し迫りだした二基の角塔にはさまれています。塔はそれぞれ鋸歯型胸壁をいただいている。門の手前、右側に門番小屋らしきものが見え、そこからさらに右へ橋が伸びている。馬車が濠に沿って進むとともに、カメラも右から左へ従い、城の左側が徐々に見えてきます。城門の角塔は少し奥に伸びて、またすぐ別の角塔になる。城門は4つの角塔に囲まれているようです。その左、城壁が伸びて太めの円塔があり、城門の右もやはり城壁と円塔、さらに左の円塔の奥にも城壁と円塔が配されて全体を囲んでいるのでしょう。ボディアム城の眺めであります。


 暗くなってからバースに到着する。石垣状の土台の上に、2本ずつ対になった円柱で区切られた建物が見えてきます。円柱対の間にはさまれた白い壁それぞれに、三角破風の下に半円アーチ窓が、計3つ配されています。建物右側は、こちらが入口でしょうか、少し低くなった褐色のファサードになる。全体は幅が狭く細長いようにも見えます。なかなか印象的なこの建物は、どうもローマ浴場跡 Roman Baths の外観らしいのですが、定かではありません。右奥にも別の大きな建物が見えます。

 次いで、手前で馬車が前に進む、その奥の方に3階分の縦長の窓がずらっと並ぶ建物が横に長々と伸びています。これまた何これという感じですが、夜なのでよくわからない。後に昼間の眺めを見ることができるでしょう(たぶん)。馬車は右へ進み、目的の宿に着くのでした。

 舞踏場へと馬車が通りを進みます。奥に、格子で仕切られたかなり広い窓を前面に配した、教会らしき建物が見える。バース修道院 Bath Abbey です。その右・手前にも立派な建物が二つ並んでいました。
 舞踏場の床は板張りです。ここでちらっとティルニー将軍と黒衣の女が映ります。
 階段室が上から見下ろされ、カメラが右から左に撫でます。階段は下中央から上へ、踊り場で左右に分岐している。分岐した段の下には左右とも、扉があります。右の扉は裏方用でしょうか、衝立か何かで囲ってあるようです。階段をあがった先は左右とも回廊をなして、吹抜を巡っています。階段をあがる人物たちの影が壁の上へ大きく伸びており、下からの光が強いことがわかります。
 ここでヘンリー・ティルニー(ピーター・ファース)と知りあいになる。最初の印象はちょっと貧相やなというものでした。彼には妹がいるとのことです。

 雨の日、キャサリンの兄ジェイムズが友人ジョン・ソープとともに訪ねてきます。ソープには妹イザベラ(キャシー・スチュアート)がいる。赤い服と帽子で、帽子からは白の羽根飾りがびょーんと高く突きだしている。2007年版でも羽根飾りを強調した帽子が出てきました。当時の流行なのでしょうか。キャサリンの服がいつも胸の上まで覆っているのに対し、イザベラの服は胸が開けがちです。
 幌なし馬車2台で遠乗りに出かける。キャサリンとソープが同じ馬車、イザベラと兄が別の馬車です。背後で横にずっと伸びる建物に、細長い窓がずらっと伸びています。全体に少し湾曲しているようです。バース到着の夜に見えたそれの、昼間の姿らしい。これはロイヤル・クレセント Royal Crescent でしょうか(「ロイヤル クレセント(1/2)」< [ ARCHITECTURAL MAP ]。ただし同サイトによると同じくバースにはサーカス Circus という円形集合住宅もあるそうです→「サーカス(1/2)」。後者はジョン・ウッド(父)、前者はジョン・ウッド(子)の設計で半楕円形とのこと。夜の場面での窓の並びはもしかすると後者かもしれませんが、定かではない)。
 アレン夫妻は幌なし馬車に若い娘が男と乗ることにいい顔をしません。

 妄想その3というか夢です。そこではソープが悪漢で、アレン夫人は自分の指に針を通します。
 翌朝イザベラが訪ねてきて、ラドクリフ夫人の小説の話をします。イザベラはターバン風の帽子をかぶっている。

 大浴場です。ローマ浴場跡 Roman Baths なのでしょう。エンタシス付きの円柱が周囲に並んでいます。そのすぐ奥にも円柱の列がある。二つの柱列の間までお湯が入ってきています。柱の脚部はお湯の上に出ている。2重の柱列の奥の壁には石彫が飾ってあります。入口は半円アーチです。
 ここには皆オレンジの服を着て湯に入ります。出くわしたヘンリーの妹エリナー(イングリッド・レイシー)から散歩に誘われる。


 イザベラはおかんむりです。やはり羽根飾りの付いた帽子をかぶっている。それを振り切ってエリザベスはティルニー家へ走ります。スカートをたくしあげています。当時としてはこれはまずいんじゃないでしょうか。
 ロイヤル・クレセントで、各戸の入口の間ごとに黒の格子で四角い囲いの配されていることがわかります。
 入口から入って切り替わると、奥の半円アーチの向こうを右から出てきます。背後には階段があり、3段ほど奥へ上がってから右上へあがっていく。踊り場に馬の絵がかかっています。どうも右で地下へもおりているように見えます。手前にはやや暗い廊下がこちらに伸びており、左右の壁によせて木のキャビネット、その上には絵がかけてある。すぐ左の扉に入ります。廊下は壁も扉も白塗りでした。他方室内は金色に見える壁紙で覆われ、植物紋様が施されています。やはりあちこちに絵がかけてある。そこにいた将軍は赤の上着を着ています。

 3段ほどの滝が映ります。このあたりはボーウッド・ハウス Bowood House, Wiltshire の庭園でロケされたようです。キャサリン、エリナー、ヘンリーが散策している。少し進むと、川か何かの向こう岸に白い神殿風の小さな建物が見えてきます。これも同じ庭園にあります。
 ラドクリフ夫人の小説の話になる。ヘンリーは全部読んだそうです。舟遊びします。ヘンリーは女性蔑視の発言をし、エリナーにたしなめられる。神殿前に将軍の馬車が停まっていました。ヘンリーたちの兄にあたる大尉もいます。やはり赤い上着です。軍服なのでしょうか。
 また妄想その4です。キャサリンを横抱きにする悪漢役の将軍が下から見上げられます。


 キャサリンとイザベラが上からとらえられます。ラドクリフの小説を朗読している。キャサリンは「黒いヴェイル」のところまで来たという。下掲の『アン・ラドクリフ ユードルフォの謎Ⅰ-梗概と研究-』に当該部分の抄訳が掲載されています(pp.125-114)。兄からイザベラへの手紙が届きます。アレン夫人もソープ夫人も帽子が派手です。

 コティリオンでの舞踏会です。キャサリンは白のスカートに薄青の薄そうな上着(?)、同じく薄青の大きなリボンを髪につけている。イザベラは薄紫に横縞の入った上着で、バンド状の帽子に白い羽根飾りがびょーんと高く突きだしている。大尉がイザベラにちょっかいをかけます。
 将軍と黒衣の女が話している。ティエリー伯爵夫人とのことです。彼女には黒人の少年が召使いとして付き従っている。
 帰りの馬車でエリナーは将軍にキャサリンをノーサンガー・アビーに招きたいと頼みます。


 雨の中を出発します。晴れるとヘンリーと二人乗りの馬車に替わっています。キャサリンの実家に彼女の手紙が届く場面をはさんで、約48分、ノーサンガー・アビーの城門が向こう岸に見えてきます。城門にはぽつぽつと縦長の小さな窓があることがわかります。角塔は多角形でした。しかし城内に入るのは、二つの円塔にはさまれて少し奥まった壁に開く尖頭アーチからです。地面から数段のぼります。アーチの上には方形の窓が設けられている。
 尖頭アーチの上部に引きあげられた落とし戸があります。カメラが下から上へ角度を変える。窓が三階分あることがわかります。その上で少し迫りだして鋸歯型胸壁となる。胸壁は左右の円塔より低い。

 扉の開くさまが下からとらえられます。右の壁にまず綴織、その奥に木製らしきキャビネット、鱗状の表面をしています。ゆるい尖頭アーチいくつかに横切られた廊下が伸び、奥で数段あがります。その向こうは少し進んで大きな窓のある突きあたりとなる。カメラは前進します。
 大窓の前のテーブルには金の天球儀らしきものが置いてあります。将軍は右へ、エリナーに案内されたキャサリンは左へ進む。そちらに上りの階段が見えます。
 切り替わると、階段をのぼる二人の背が下から見上げられます。左右の壁は粗石積みです。あがった奥に窓が見える。踊り場から左へ数段のぼる。手前に欄干が伸びています。
 奥の扉を開いて手前に進むさまが上から見下ろされます。左の壁に綴織がかけてある。カメラが少し右から左に流れます。手前左の扉に入っていく。数段おります。
 室内は右に豪華な木のキャビネットらしきもの、扉の向かいが暖炉、奥の壁には窓が三つ並んでいる。ベッドは真ん中でしょうか。暖炉の左にも木の箪笥があります。キャサリンは鞄から本を取りだし挿絵に見入るのでした。
 実際のボディアム城では内部はすっかり崩壊しているとのことですが、城内の場面はどこか別の場所でロケしたのでしょうか、あるいはセットなのでしょうか。
 また原作ではノーサンガー・アビーの屋内はいたって「現代風」(第20章:邦訳 p.244、また第21章:p.247、第23章:p.278 など)に模様替えされており、キャサリンをいたくがっかりさせるのですが、本作ではさいわいそうした点は持ちだされませんでした(「現代風」といっても18世紀末風のことなのですが)。これは2007年版も同様です。


 食堂がやや上から正面にとらえられます。天井は高く、木製でアーチ状をなしています。突きあたりにはゆるい尖頭アーチの窓が見える。左の壁に扉口が二つ開いています。中央を奥へ長テーブルが伸びている。床は石板を敷いてあるようで、褐色です。燭台がいくつも配されている。同様のショットは後にも出てくることでしょう。

 約51分、古城映画的山場です。キャサリンが自室から出ます。右の扉に向かい、切り替わると螺旋階段をおりてくる。階段は下が宙空のものです。奥に窓がある。画面手前をアーチが枠取っています。
 カメラが上向きから下向きに移ると、さらに下へとおりていきます。やはり奥に窓が見えます。壁も円形をなしており、石積みです。
 途中で引き返して手前へ、そのまま右に向かいます。カメラも左から右へ流れる。奥左に半円アーチの扉口があります。その右で上への階段が右上がりになっている。上方は明るくなっています。カメラは少し上向きになる。左の扉口から鳥が飛びだしてくると、カメラはいったん上からの俯瞰になりますが、すぐに元に戻ります。
 屋外に出る。右に角塔、少し奥まって左へ壁が少し伸び、その間からキャサリンが左へ出てきます。かなり小さく映っている。左の突きでた部分から下に低く鋸歯型胸壁が二つ、そこから手前へ城壁が伸びています。城壁の左はずっと奥に壁が見え、さらにその左で角塔と接した棟がある。キャサリンは手前へ進んでくる。
 食堂のやや上・正面からのショットが前より少し近づいてはさまれた後、右から左へキャサリンが肩から上のシルエットで背を向けてとらえられます。屋内に戻っている。下にはくだり段がおりていく。中央には水平に幅広の欄干が配されています。その向こう、左から右下へと曲がっておりていく階段を、召使いが進むのが見える。鳥籠を手にしている。奥と右に窓があります。キャサリンはその後を追うのでした。約53分弱、2分にも満たないシークエンスですが、少なくとも古城映画愛好家にとってはなかなかにおいしいくだりでありました。


 黄色いカナリアの入った鳥籠が尖頭アーチの手前にかけられている。アーチの中は漏斗状に奥まって窓となります。壁は白い。鳥籠の前にキャサリンがいます。右手前からヘンリーが現われる。「この屋敷の恐怖(ホラー)に耐えられますか?」と問いかけます。無気味な廊下にミステリアスな階段……というわけで、場面設定は違いますが、上で触れた原作由来の台詞なのでした。
 食堂のやや上・正面からのショットが再現され、その後やっと別の角度で人物たちを映します。


 自室の暖炉が映され、次いで寝着姿のキャサリンが1本燭台を手にしています。雷が鳴る。ベッドの頭の部分は黒っぽい木製の豪華な造りです。
 「エリナー」という声が聞こえてきます。扉からのぞくと、廊下でエリナーとヘンリーが話していました。二人とも1本燭台を手にしています。
 部屋の中に大きな物入れがあります。上面を揚げる蓋があるのですが、前面にも蓋が付いており、そちらを開けると引出がいくつもあります。内一つに書類が入っていました。
 妄想その5ないし夢です。城壁の扉から侍女が出てきて、奥様の肖像画の話をします。血まみれのたらいに手を浸す悪漢役はやはり将軍です。


 朝、侍女のアリスが件の書類を洗濯物の請求書だと言い放ちます。彼女がカーテンを開くと、窓の前に大きな人形が置いてありました。他方キャサリンは別の紙面を見つける。来週同じ所で、無名の女性像の所でと書いてある。
 ヘンリーはいったん領地に向かい、将軍は庭を案内します。エリナーは白い服、キャサリンは白のドレス、薄いベージュに斑点の散った上着です。庭には彫像もあります。
 なお原作ではキャサリンはヘンリーの牧師館を訪れますが、本作でははしょられています。

 約1時間4分、エリナーが母の部屋へ案内します。左奥のアーチから出てくる。向こうの右の壁に窓が見えます。このアーチのすぐ右手にやはりアーチが並び、こちらは右上へ階段があがっている。なかなかにそそられる空間でした。
 手前は廊下のようで、左にテーブル、その上には人形が載せてある。すぐ左の壁には絵がかけてありますが、見えるのは側面のみです。右手にあるのが母の部屋への扉らしい。入ろうとすると右奥の階段から将軍が現われて止めるのでした。


 客人がありました。黒衣の女です。いささか異様なまでに白塗りで頬紅も濃い。こんなものなのでしょうか。黒人少年の侍従もいます。ヘンリーは歌います。居間でしょうか、床は食堂と同じような褐色の石板でした。奥に3つ、縦長の窓が並び、いずれも上が三つ葉状になっています。壁は区切られた板張りです。
 黒人少年はキャサリンの手を取り、庭へ連れだします。庭への出口の向こうはくだり段で、そこをのぼってくる。少年は左から右へ、側転で進んでいきます。奥の方は壁に占められているのですが、途中でいったん途切れ、また右へ続く。左部分の2階にはゴシック風の尖頭アーチの窓が2つあり、その内左の窓からは向こうの空が透けています。廃墟状態なのでしょうか。これはボディアム城の景色だと思われます。
 側転がスローモーションになると、妄想その6です。白馬のヘンリーが救いに現われます。妄想その2に出てきた2つの塔の廃墟のあるところが舞台です。
 黒人少年が昔風の礼をすると、そのまま窓の前の人形に入れ替わる。侍女のアリスが奥様の噂話をする。


 母の部屋につながる廊下をキャサリンが手前へ進んできます。細かい点々とそれより少し大きい茶色の星印を散らされた白のゆったりしたワンピースです。この時は右にあるはずの階段は映っていません。カメラが右に滑ると入ってくる。
 キャサリンが部屋に入る。追ってヘンリーが現われます。静かに怒っています。将軍を弁護します。最初は貧相に見えたヘンリーがだんだんハンサムかもと思えてくるのでした。


 キャサリンは自室で本の頁を破りとり、暖炉にくべていく。ゴシック・ロマンスとのお別れです。しかし本を破くのはどうかと思います。
 泣き寝入っているとエリナーが届いた手紙をもって入ってきます。イザベラかと思ったら兄からでした。破局を告げている。
 庭を散歩しながらエリナーが兄の大尉の部下と好きあっていたという話をします。無名の女性像のところで待ち合わせたのでした。女性像はずいぶん粗い造りで、そのためかえって近代的に見えます。


 約1時間21分、ノーサンガー・アビーを去って帰郷します。このあたりはいささか唐突の感を受けました。濠越しの城門前の眺めがまた一度映ります。原作では一人での帰りに心細い思いをするのですが、その辺ははしょられていました。
 将軍とヘンリーがやりあいます。ヘンリーはこれまで将軍をかばってきたのですが、堪忍袋の緒が切れたというところでしょうか。将軍は手にとまらせていた鷹を放つ。将軍を中心に配して、カメラは左から右へ回っていきます。向こうに城の棟が取り囲んでいる。これもボディアム城の中庭なのでしょう。
 「私の腹黒さなど大したものではない」と言い放つ将軍はけっこう堂々として見えました。また「彼女は小説でも書けばいい」という原作にない台詞は、ヒロインと原作者を重ねているのでしょうか。


 実家に帰ってからのキャサリンは、これまでにもまして目の大きさが強調されているように見えます。
 馬に乗ったヘンリーが現われる。白馬ではなく栗毛でした。
 原作ではきちんと始末をつけられるエリナーの件はここでははしょられ、キス・シーンをもって終わります。


同じ原作による2007年版TV映画について→こちら
Cf.,  原作の邦訳は他にもあるようですが、とりあえず;

ジェイン・オースティン、中野康司訳、『ノーサンガー・アビー』(ちくま文庫 お 42-8)、筑摩書房、2009
原著は
Jane Austen, Northanger Abbey, 1818
出版されたのは著者の歿後になってからだが(1817年12月)、執筆は「22、23歳ごろ」(p.391、1798~99年)とのこと。

パロディーの標的であるアン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』については;

荒俣宏、「ロマンスの再生-月光と鮮血に浸されたページ アン・ラドクリフ」、紀田順一郎編、『出口なき迷宮 反近代のロマン〈ゴシック〉』、1975、pp.52-72

さらに詳しくは;

惣谷美智子・堀田知子訳著、『アン・ラドクリフ ユードルフォの謎Ⅰ-梗概と研究-』、大阪教育図書、1998
梗概の他に「『ユードルフォの謎』における情報操作」と「ユードルフォ:ノーサンガー僧院からの眺め-ゴシック・ロマンスと風習喜劇-」を収録。なぜか各論文の筆者は記されていませんが、堀田が前者(p.163)、惣谷が後者を著したようです。


惣谷美智子訳著、『アン・ラドクリフ ユードルフォの謎Ⅱ-抄訳と研究-』、大阪教育図書、1998
第1巻、第2巻、第3巻、第4巻の各第1章および第4巻第18-19章の訳の他に「ユードルフォ在処-テクストの快楽・虚構の快楽-」と「ユードルフォの〈解放〉 女のテクスト-そのフェミニズム的考察 ラドクリフとオースティン」、および「『ユードルフォの謎』-謎と解明(原文抜粋)」を収録。


『Ⅰ』が13点、『Ⅱ』が19点の挿絵を掲載(掲載元を記したリストあり)。

ブレイズ城について検索してまたたまたまウェッブで見かけたのが;

門田守、「『ノーサンガー僧院』の換喩的構造-ゴシック小説のパロディとして読むことの誤謬について-」、『奈良教育大学紀要(人文・社会科学)』、vol.62 no.1、2013.11.30、pp.143-158[ < 奈良教育大学学術リポジトリ(NEAR = Nara University of Education Academic Repository)

CiNii Articles ]で「ノーサンガー」を検索すると、これ以外にも原作を扱った論文でウェッブ上に掲載されたものをいくつか見ることができます。
おまけ  『ノーサンガー・アビー』のことを扱っているわけではないのでしょうが、
Steve Hackett, "Jane Austen's Door", Darktown, 1998(邦題:スティーヴ・ハケット、「ジェーン・オースティンズ・ドア」、『ダークタウン』))
9曲目。

ハケットの曲から→こちらも参照
 
 2015/12/18 以後、随時修正・追補
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