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ノーサンガー・アベイ
Northanger Abbey
    2007年、イギリス、USA、アイルランド * 
 監督   ジョン・ジョーンズ 
 撮影   キアラン・タナム 
 編集   スー・ワイアット 
プロダクション・デザイン   デイヴィッド・ウィルソン 
美術   マーク・ロウリー 
    約1時間33分 ** 
画面比:横×縦    1.78:1
    カラー 

BS放送で放映
* TV映画。[ IMDb ]によると2007年3月25日にUKで放映。
** [ IMDb ]によると約1時間24分版、コマーシャル込みで約1時間33分、同じく約2時間版があるとのこと
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 ジェイン・オースティンの原作による1987年のTV映画化に続く(→こちら)、二度目のやはりTV映画版です。87年度版もほぼ原作どおりですが、今回はそれ以上に忠実です。とはいえ尺は似たようなものなので、やはりはしょった箇所は出てくる。また87年度版に比べて、暖色を強調したやや暗めの色彩設計、つまりはランプの色に準じた照明が目につきます。
 他方87年度版では、原作前半の主な舞台であり、原作者自身も暮らしたことのあるというバースでの観光名所巡りが見ものの1つになっていましたが、ダブリンでロケされた本作では、特徴的な湾曲門が1つ目につくくらいでした。とはいえお城はちゃんと出てきますし、87年版同様ヒロインの妄想が何度か挿入されますので、手短かにとりあげることといたしましょう。

 [ IMDb ]によると本作はアイルランドでロケされました。タイトル・ロールにアイルランド南部マンスター地方のウォーターフォード州リスモアのリスモア城 Lismore Castle, Lismore, County Waterford(→公式サイト。また→こちらも参照。英語版ウィキペディア→こちらを参照)が記されています。それと明記されていませんが、アイルランド中部のレンスター地方オファリー州タラモアのチャールヴィル・フォレスト城 Charleville Forest Castle, Tullamore, County Offaly(→公式サイト。また英語版ウィキペディア→こちらを参照。幽霊噺があるとのことです)が挙げられており、こちらもノーサンガー・アビーの屋内に使われているようです。それ以外にも、キャサリンの故郷フラートンはミース州ナヴァンのアードブラッカン館 Ardbraccan House, County Meath(英語版ウィキペディア→こちらを参照)および同州トリムのヒギンズブルック館 Higginsbrook House, Trim, County Meath、バースはダブリンのヘンリエッタ街キングズ・インズ King's Inns, Henrietta Street, Dublin(英語版ウィキペディア→こちらを参照)、原作第14章のビーチン・クリフでの散策の場面にはダブリン城 Dublin Castle, Dublin (の庭園)などが並べられています。画像検索等で見当のついたものはおいおい記していきましょう。

 冒頭、赤子のキャサリン・モーランドを抱く両親と兄たちが左から右へ進む、その背後の木立の向こうに、白っぽい角塔が聳えています。二段になって上段上辺は鋸歯型胸壁、その上に幅が狭くなって尖塔がのっている。次いで成長したキャサリン(フェリシティー・ジョーンズ)の登場です。やや頬の張った顔立ちで黒髪、白のワンピースを着ている。兄妹たちとの遊びから一人抜けだし、読書に耽れば第1の妄想場面でした。石壁の廊下を男に引っ張られていきます。
 実家は2階建ての屋敷です。[ IMDb ]ではアードブラッカン館 Ardbraccan House とヒギンズブルック館 Higginsbrook House が挙げられていましたが、どちらかはよくわかりませんでした。
 アレン夫妻と馬車でバースに向かう。第2の妄想が始まります。そこでは馬車が襲撃を受け、アレン氏がちゃんばらするのでした。


 門をくぐってバースに到着します。87年版同様、夜です。この門は後にも何度か登場することでしょう。
 昼間の買物に続いて夜の社交場となります。人混みだらけです。女性陣が羽根飾りを頭上にそびえさせているのが目を引きます。87年版でもそうでした。アレン夫人とティー・ルームを出ると、階段下でヘンリー・ティルニー(J.J.フィールド)と出会います。ほっそりと背の高い優男風です。キャサリンは踊りに誘われる。踊りはロウアー・ルームで行なわれます。
 帰りの馬車でティルニー家がノーサンガー・アビーに住んでいる話になると、アレン氏は修道院にはいつでも呪いがかかっているというのでした。
 眠りにつけば夢ないし第3の妄想です。ヘンリーと館から逃走する。ヘンリーはちゃんばらする。


 通りでアレン夫人がソープ夫人に声をかけられます。後者には娘のイザベラ(キャリー・マリガン)とその妹二人がいる。イザベラはえくぼが目立ち、栗毛です。87年版同様、ドレスの胸は開き気味でした。
 イザベラと二人で本屋に行きます。通りに出て彼女たちを見ていた二人の男と行ったり来たりした後、兄とイザベラの兄ジョンに出会う。ジョン・ソープは舞踏会でキャサリンを見ていた男でした。
 また社交場での舞踏です。今回はジョンと、イザベラも兄と踊っています。
 ヘンリーおよびその姉(本作の日本語字幕による:キャサリン・ウォーカー)エリナーと出くわす。ティルニー将軍(リーアム・カニンガム)もいました。大林宣彦の作品でお馴染みの峰岸徹に少し似ているような気がしなくもない。

 ブレイズ城行きの誘いです。87年版のページで引いた原作での会話ははしょられています。キャサリンは青い服を着ている。馬車上でジョンはだましたことを認めつつ、ティルニー夫人の死に不振な噂があるとほのめかすのでした。
 雨が降りだし、森の中の道で羊の群れに通せんぼされる。


 ベッドで読書しています。イザベルが話していたM.G.ルイスの『マンク』(1796)のようです(邦訳は井上一夫訳、『世界幻想文学大系 2A』および『同2B』、国書刊行会、1976)。原作では『マンク』はジョン・ソープが口にしていました(第7章、邦訳 p.64)。

 オペラ見物です。別の桟敷席にいたティルニー姉弟に気づき、謝罪する。ジョンが将軍に何か話しています。
 川岸の林の斜面をティルニー姉弟と散策します。エリナーのところに見知らぬ男が訪ねてくる。

 入浴しています。妄想その4、いつのまにか浴槽が林の中に移っている。『マンク』の登場人物に声をかけられ、思わず浴槽から立ちあがってしまいます。

 イザベラが兄からプロポーズされます。兄は結婚の許しを両親から得るため、フラ-トンに出発する。ジョンも付き添います。二人が出発する際、前にも出てきたゆるく湾曲する黄みがかった門が奥に映る。中央に大きな半円アーチが開き、その左右に小アーチが控えています。中央のアーチの上には何か装飾が据えられている。左右の小アーチのさらに左右、壁龕状アーチの下に小さめの方形開口部が設けられている。通りをまたぐ門の向こう、右側の建物の上階には円形の凹部が並んでいます。これはダブリンのヘンリエッタ街 Henrietta Street, Dublin にあるキングズ・インズ King's Inns =The Honorable Society of King's Inns (HSKI) への入口でした。後にもう1度登場します。

 夜の社交場です。ティルニー大尉がイザベラに粉をかける。ヘンリーは警句好きです。
 妄想その5、地下の廊下らしきところを走ります。通路は薄暗く、枝分かれしているようです。助けを求める男の声が聞こえる。ある部屋に入ると、ベッドにイザベラが囚われ、大尉がほくそえむのでした。


 エリナーと森を散策します。川のせせらぎが聞こえてくる。前にはヘンリーがいます。
 ティルニー宅の階段室は壁が白い。
 社交場でイザベラと大尉が話しています。


 馬車でキングズ・インズの門を通ります。次いでヘンリーと二人の馬車が森を進む。約56分、ヘンリーが「あれを見たまえ」と指させば、丘の上に城が横へずっと伸びているのでした。左から右へと段をなしながら高くなっていく。右端は角塔です。棟は基本的に方形で、上辺に鋸歯型胸壁が走っている。ところどころ煙突や小塔が立っています。これをカメラは仰角で見上げます。リスモア城 Lismore Castle であります。

 ヘンリーは原作どおりびびらせるための台詞を笑いながらまくし立てます。石橋を右から左へ渡る。話の中に吸血鬼も言及されます。Vampirism といっていたようにも聞こえましたが、自信はありません。他は耐えられるけれど吸血鬼だけは勘弁してほしいとキャサリンは言います。
 もとよりそれまで土俗的な吸血鬼の伝説は知られていたにせよ、フィクションにおける吸血鬼の登場第1号とされ、また吸血鬼を貴族として描いた作品でもあるポリドリの「吸血鬼」がバイロン作として雑誌に掲載されたのは1819年のことですから、原作の刊行(1817年)よりも後となります。原作に照らすなら時代錯誤と見なしてよいのかもしれませんが、他方一応、後に伏線として回収されることでしょう。

 道の先に城門が見えてくる。上は尖塔になっています。離れて右に、円塔がいくつか見えます。
 城門は奥に深く、門に入ったところでとまると、右に入口が開いていました。

 階段をのぼります。階段は左で折り返し上へあがる。右は回廊でしょうか。あがった先に方形の扉口がある。その向こうに窓が見えます。

 キャサリンに当てられた部屋は、奥に暖炉があり、左には2メートル以上はあろうかという箪笥が配されている。手前にベッド、その足もとには物入れが置いてあります。

 暗い階段をエリナーと急いでおりるさまが、下からとらえられます。カメラは右へ流れる。左の壁には縦の筋目が入っています。この縦割り壁のある階段は、ウェブでの画像検索からするとチャールヴィル・フォレスト城 Charleville Forest Castle のもののようです。
 画面はいったん真っ暗になり、扉が開けられる。回廊でした。奥から手前へ進んできます。右には欄干が渡され、左の壁は白く、細長い尖頭アーチが連なっている。進んだ先は城内に入って最初に階段をあがったところに当たるようです。
 階段をあがって真っ直ぐ進んだ先が食堂らしい。カメラは左から右へ撫でます。薄暗い。


 城の外観が下から見上げられます。夜です。.稲妻が走り雷鳴が轟きます。
 侍女に先導されて階段をのぼります。カメラは上からの視点で、右に流れる。
 部屋に戻ると寝着に1本燭台を手に、物入れを開けます。蠟燭が風で吹き消される。

 エリナーと木立を散歩します。
 ほぼ真上から回廊が見下ろされる。左に上りの階段、右には上階の回廊がのぞいている。カメラは上から下へと向きを変える。ティルニー夫人の部屋へ行こうというのです。
 次いで階段をのぼる姿が下から見上げられます。階段は右で折れ曲がり上へ続く。左の壁は縦に分割されており、青緑の光を帯びています。
 上に将軍がいました。二人が上から見下ろされます。今度は将軍が下から見上げられる。階段をあがった先が小バルコニーのように見えます。
 とまれ数階分を貫いているらしき階段とその周辺こそが本作のハイライトでしょう。この階段は後にも登場します。


 白っぽい部屋の窓際でイザベラに手紙を書いています。
 朝か昼間の食堂は明るく白っぽい。細い捻り柱で区切られた大鏡があります。
 アーチをくぐり将軍の乗った馬車が城門へ向かう。アーチの向こうに別の棟が見えます。城門の左右は少し前に迫りだした角塔にはさまれています。城門の上は尖り屋根でしょうか。


 ヘンリー、エリナーと屋外に出ます。奥・左に角塔が見え、そのすぐ右には尖り屋根の塔、少しおいて右に円塔をいただく棟がある。
 ヘンリーとウッドストンの牧師館まで馬で来ます。牧師館は丘をおりた先にある。2階建てです。なぜか中には入らず引き返すのでした。原作では寄っていきます。雷鳴が鳴り雨が降りだす。
 城門の下、やはり片方に数段のぼって入口となることが確認できます。


 丘の上、城を望む野原に来ます。左端に角塔があり、その上に鋸歯型胸壁をいただく煙突が伸びている。

 階段を駆けあがるキャサリンが上から見下ろされます。左に大窓がありますが、薄暗い。階段をあがると右に鷹の剥製が置いてある。キャサリンは左を見上げます。真上から階段室が俯瞰される。長円形をしています。画面左右を上階の欄干が縁取り、下の階の左にキャサリンがいる。その下の階も見えます。左に窓があり、右の階段に窓からの光が射している。
 カメラは上向きになる。階段をのぼるキャサリンの背が見上げられます。あがった先の部屋がティルニー夫人の部屋でした。広い窓に白と暗色のカーテンが交互にかかっている。ヘンリーが入ってきます。扉の向こう、右に奥まって窓が見える。


 馬で走り去るヘンリーを、3階以上の高さにある広い窓からキャサリンが見る。泣いています。
 庭に出る。少し高くなったところです。背後に角塔がある。
 エリナーが兄からの手紙を持ってきます。バースでの大尉とイザベラの情事の場面が挿入される。捨てられたイザベラが手紙を書きます。
 庭にはいくつも段差があるようです。エリナーと歩く。背後の角塔が前より大きく見えます。
 将軍が帰宅する。キャサリンの部屋にエリナーがやってきて"Oh God"と言う。お金を渡します。エリナーは真夜中に追いだされるのでした。
 暗い階段室が上から見下ろされます。キャサリンとエリナーが下にいる。

 町で一人乗合馬車に乗りこみます。87年版では割愛された心細い道中です。
 実家は壁が蔦で覆われています。キャサリンは目の下に隈がある。鞄から『ユードルフォの謎』を取りだし、暖炉にくべるのでした。
 ノーサンガー・アビーはとても大きく奇妙で、開かずの間や隠し通路があったと妹たちに話します。妹たちは白服、キャサリンはモス・グリーンです。幽霊はいると思ったけどいなかったとのこと。
 キャサリンは自分を責めています。
 ヘンリーが白馬で来訪します。Vampirism とは父のことだと言う。
 ヘンリーが客間に通されます。彼の前にキャサリンとその母、背後には窓際に妹3人が横に並んでいる。ヘンリーは落ち着かなさそうです。
 二人でアレン家への道を行く。ヘンリーは父と絶縁したという。
 尖り屋根の塔のある教会が映ります。エリナーもハッピー・エンドを迎えたことがナレーションで告げられます。
 丘の上のリスモア城を背に、将軍が一人歩いてきます。彼の姿が手前に消えると、城のみが画面に残り、急に暗くなって雷鳴が轟くのでした。このラストのカットはいったい何を言わんとしているのでしょうか。

Cf.,  原作については→こちらを参照
 2015/12/20 以後、随時修正・追補
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