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薮の中の黒猫

    1968年、日本 
 監督   新藤兼人 
撮影   黒田清巳  
編集   榎寿雄 
 美術   丸茂孝 
 照明   田畑正一 
    約1時間39分* 
画面比:横×縦    2.35:1 
    モノクロ 

ケーブルテレビで放映
* [日本映画製作者連盟]等によると1時間48分となっています。[ IMDb ]では1時間39分。
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 農家に住む二人の女が、落武者の一団に暴行された挙げ句に命を奪われ、彼らが去ると小屋に火がつく。小屋は燃え落ちますが、なぜか二人の遺骸は焼けることもなく、黒猫がやってきて、口元の血を舐めるというプロローグを経て、夜の京、羅城門が下から見上げられます。斗栱(ときょう)の複雑な組物が映ったかと思えば、上の歩廊を女が駆け抜ける。あるいは空中でくるりと宙返りする女の姿が、闇を背景に浮かびあがる。いったいにこの作品では、夜闇の暗さが画面を浸しています。
 通りかかった武士が出会わせた女(太地喜和子)を送って竹藪を抜ける道を進むと、奥に屋敷の門が見えてきます。縁側の廊下を通って、角を曲がった先にある部屋に入る。部屋の方から見ると、奥に廊下がまっすぐ伸びています。その手前、左に娘、右に武士が坐って左右相称をなしていると、奥から娘の義母(乙羽信子)が進んできます。廊下の左右の柱の隅にのみ、光があたっている。廊下は部屋から数段低くなっているようです。
 カメラは右から左へ回転します。娘が立ちあがると、首から下だけが映ります。娘がいた側の背後も一段さがって廊下になっており、手すりが見えます。廊下は部屋の縁に沿って曲がっているわけです。手すりの向こうは竹藪でした。武士の背後には帷がかかっており、これが風にたなびきます。この帷は部屋の奥にある寝所を囲むものであることが、後にわかります。出された酒に酔った武士は、娘と寝所に入る。今度は手前の竹越しに部屋をとらえれば、寝所の帷に武士に襲いかかる猫化けの影が映るのでした。
 カメラは右から左へ進みます。地面には霧が這っている。義母の右向きの横顔がアップでとらえられ、回りこんで右4分の3観になります。

 第2、第3の犠牲者が同じパターンで描かれます。娘が武士を手にかける時、義母が廊下で舞を舞います。第4の犠牲者は竹藪の途中で斬りかかりますが、これも返り討ちに遭うのでした。

 源頼光が貴族から妖怪騒ぎをどうにかしろと言われる場面を経て、どこかの草原で金棒使いがむさ苦しい若武者(二代目中村吉右衛門)を追っかけ回しています。どうにか金棒使いを倒した若武者は、ひたすら馬を走らせます。彼が主人公であるわけですが、その登場までにすでに32分ほどたっています。また36分ほどから始まる源頼光のもとでの報告の場面まで、台詞はありません。
 その際にはいかにもむさ苦しく、百姓言葉で話す若武者は、女官たちからくすくす笑われるていたらくですが、手柄を認められ、藪の銀時と名乗ることも許され、みるみるさっぱりした風体に早変わりします。さっぱりした姿で馬を走らせ、向かう先は冒頭の農家でした。しかし小屋は焼け落ち、母親と嫁の姿もない。その一方で頼光からは妖怪退治を命じられるのでした。

 夜の羅城門から竹藪の奥の屋敷へというパターンがくりかえされます。しかし母と嫁は、畑仕事の最中に連れ去られたまま消息の知れなかった息子であり夫を、手にかけることができない。主人公の方も、母と妻にそっくりな二人を求めて、消え失せた屋敷から羅城門へ、また竹藪の奥にもどれば屋敷は復活しているものの、人の影はない。また羅城門へ、また屋敷へと動いて、ようやく再会するのでした。夜の暗さと、その中での黒と白の対比が印象的です。なお『怪談』(1964)第1話同様、『雨月物語』の「浅茅が宿」が意識されているのかもしれません。

 母と嫁は「魔神に願をかけ、侍の生き血を啜る」ことを誓ったのですが、「掟」によって正体を明かすことはできない。そんな関係のまま、主人公と妻は逢瀬を重ね、主人公は衰弱していきます。しかし七日間の契りを経て、妻の姿は消えてしまいます。天地の魔神に誓願した復讐の誓いを破ったため、地獄へ堕ちたというのです。
 他方、母は妖かしのままです。その後も犠牲者は続出し、母は昼間にも出没します。主人公はまた羅城門へ向かう。闇に浸された画面の上半に4本の太い円柱が浮かび、縁に光があたっています。その下方、騎馬の主人公、次いで母が現われ、二人が向きあうさまが真横からとらえられるショットはたいそう印象的でした。
 母は今一度屋敷に来て、経文を読みあげてほしいと主人公に頼み、主人公も従うのですが、水面に映った黒猫の姿に剣を振るってしまう。巨大な黒猫の片腕のみが残されれば、物語は渡辺綱と茨木童子の逸話をなぞって展開するのでした。ちなみに最初に頼光が登場する場面で、渡辺綱は坂田金時ともども任で不在とされていました。
 母が片腕を取りもどした後、主人公はまた竹藪の奥の屋敷に向かいますが、屋敷は消え失せ、母を救うこともできないまま、雪が降りしきって幕となります。

Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.165-166/no.140

日本特撮・幻想映画全集』、1997、p.186

José María Latorre, El cine fantástico, 1987, pp.201-210 : "Capítulo 14 Intermedio con Mizoguchi"、その内 pp.209-210
 2015/01/03 以後、随時修正・追補
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