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魔人ドラキュラ・スペイン語版
Drácula
    1931年、USA 
 監督   ジョージ・メルフォード 
撮影   ジョージ・ロビンスン 
編集   アルトゥーロ・タバレス 
 美術   チャールズ・D・ホール 
    約1時間44分 
画面比:横×縦    1.20:1 / 1.37 : 1 (35mm version) 
    モノクロ 

DVD
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 スペイン語圏向けに、ブラウニングの『魔人ドラキュラ』と同じ脚本・セットを用いて同時に製作され、しかし永らく完全な形で知られていなかったという作品。英語版より生き生きしていると評価されることが多いようです。製作の経緯や英語版との比較については、下に挙げたデイヴィッド・J・スカル『ハリウッド・ゴシック』の第6章に詳しく記されています。セットは同じでも、撮影のポイントは違っているのですが、この点もスカルの本がしっかり述べてくれています。なので実のところ、あまり書くこともないのですが、少しだけ追っかけておきましょう。

 英語版との違いの一つに、馬車や城の扉が開く際、ぎぎ~という木の軋む音が大きく響く点があります。些細なことではありますが、これが雰囲気を盛りあげてくれます。他方吸血鬼の柩の蓋が上がる時には、音はいっさい立たない。なお最初の地下室の場面では、伯爵の背後にアーチがあって、凹みがうがたれています。水汲み場か何かと思ったのですが、スカル『ハリウッド・ゴシック』、p.266 に掲載された写真を見ると、段を設けて上下に柩を収めるためということのようです。
 城に入って階段の上に立つ伯爵をとらえる際のぐ~と近づくカメラや、寝室で逆に遠ざかって、手前のアーチを映すカメラ・ワークなどについては、スカルの本を参照ください(p.268)。寝室の扉周辺の木製部分の奇妙な質感も、強い印象を与えます。ちなみにスカルによると、寝室に置かれたやたらと背の高い背もたれのある椅子は、『猫とカナリヤ』のラスト・シーンを飾ったのと同じものだそうです(p.270)。英語版にはこの椅子は見当たりません。
 またレンフィールドが窓をあけると、下方に伯爵の姿が見えます。このあたりも空間の拡がりを感じさせてくれる箇所でした。ちなみにこのため英語版と違って、レンフィールドを襲うのは伯爵ではなく、三人の花嫁たちなのでした。


 ロンドンの街頭で花売り娘にふりかかるエピソードはスペイン語版にはなく、他方、レンフィールドと気を失ったメイドのエピソードの顛末や、ルシア(ルーシー)の末路については、英語版では曖昧なままでした。
 スペイン語版では海辺の崖の上に立つカーファックス修道院の外観も映されます。後のロジャー・コーマンによるポーもので、相似たカットがしばしば登場したことが思いだされるところです。
 修道院内部からは、クライマックスでの螺旋階段とは別の階段も登場します。これは英語版では削除されたカットでした(スカル『ハリウッド・ゴシック』、p.234 に英語版からの写真が載っています)。こちらは直線状で、右上から左下に下がり、踊り場で折れて手前にいたります。踊り場と階段の下に大きな窓が見えます。ここをエバ(ミナ)を抱いた伯爵が降りてくるのです。
 螺旋階段の場面をはさんで、地下室に入ると、窓から朝日が射しこむカットに加えて、柩に逃げこんだ伯爵の手を離れたエバが、低いアーチの間をさまようカットが何度か映され、これもまた、いかにもいかにもの雰囲気をかもしてくれていました。

Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.47-50/no.017

デイヴィッド・J・スカル、『ハリウッド・ゴシック ドラキュラの世紀』、1997、「第6章 スペイン語版『魔人ドラキュラ』」


石田一、「ドラキュラ100年史《前編》」、1997、p.95

石田一、Monster Legacy File、2004、p.4

夜にまぎれてドラキュラがもう1人  『ドラキュラ』撮影秘話2」、 『yaso 夜想/特集#「ヴァンパイア」』、2007.11、pp.102-103

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.91-92
 2014/09/01 以後、随時修正・追補
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