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猿の怪人
The Ape Man
    1943年、USA
 監督   ウィリアム・ビューディン 
撮影   マック・ステングラー
編集   カール・ピアソン 
 美術   デイヴィッド・ミルトン 
    約1時間4分
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

VHS
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 この作品の日本版VHSソフトは1996年にアップリンクから『ホワイト・ゾンビ』こと『恐怖城』(1932)および『幽霊の館』(1941、監督:ジョセフ・H・ルイス)とあわせて発売されました。いずれもタイトルの頭に「ベラ・ルゴシの」とつけられていて、ティム・バートンの『エド・ウッド』(1994)のおかげでルゴシの知名度があがったことに応じたものででもあるのでしょうか。ありがたいことではあるのですが、映画におけるゾンビ登場の第1作とされ、今見てもけっこう楽しめ、その上古城指数が大いに高い『恐怖城』はともかく、他の2点は現在見るにいささかしんどいものがあると言わざるをえますまい。そのかぎりで『幽霊の館』では、踊り場がやけに高い位置にある階段が救いとなっていました。『猿の怪人』ではもう少し入り組んだ建物が出てきて、階段も四つ登場しますので、手短かにとりあげることとしましょう(追記:『幽霊の館』は『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.2』(→こちらを参照)でDVD化されました。ただVHS版が約56分だったのに対し、DVD版は約1時間5分となっています。始めの方でところどころカットされていたようです。 )

 ルゴシ演じるブルースター博士の屋敷が主な舞台です。最初に共同研究者が博士の姉(霊媒という設定)を案内して、居間の暖炉の前に連れてきます。
手前の床のどこかを踏むか何かすると、暖炉が回転して隠し部屋への入口となるのです(追補:右に引いた画面は後の場面から。→「暖炉の中へ、暖炉の中から - 怪奇城の調度より」の頁でも触れました)。  『猿の怪人』 1943 約58分:居間、奥に暖炉の隠し扉
 研究室である隠し部屋は地下にあって、粗末な階段でおりるのですが、 『猿の怪人』 1943 約6分:隠し扉の先の地下への階段
階段が床近くで折れて、その先はなぜか段のないゆるい斜面になっています。 『猿の怪人』 1943 約6分:階段が折れた先の斜面
 画面では階段/斜面の右側に研究室が伸びていて、向かって奥の壁にはレバーがついている。これを操作すると、左隣の壁が上にせりあがって、奥に隠し檻があるのでした。
 研究室の右奥はいったん区切られていて、その向こうに階段がのぞいています。三段ほどあがって平らになっているようです。ある場面では、手前の側面は暗くつぶれ、半暗の上の壁にはさまれて、階段の踏面や蹴上げが微光を放っているかのように見えていました。この階段は屋外に通じているようでもありますが、はっきりとはしません。 『猿の怪人』 1943 約26分:研究室の奥の階段
『猿の怪人』 1943 約18分:玄関前を見るモニター  ちなみに研究室には玄関前を見ることのできるモニターが設置されています。『倫敦の人狼』(1935)にも同様の装置が登場していましたが、当時、実用化されていたのか、あるいは科学者の家にはそうした仕掛けがあるものだと見なされていたのでしょうか。
 後の場面で、暖炉のある居間は玄関から見て右側、少し奥にあることがわかります。また左手は書斎に通じている。
双方の間、正面左寄りには2階への階段がのぼっています。階段は踊り場で折れて右に曲がる。踊り場には柱時計、その右隣に絵がかかっています。玄関側から階段の方を見る時には、しばしば画面手前に何か櫃のようなものが映って奥行きを強調しています。 『猿の怪人』 1943 約22分:二階への階段とその右手の半円アーチの通路
 階段の右手、居間への入口との間は、いったん半円アーチで仕切られて、その向こうにも右上にのぼる階段がのぞいています。突きあたりの壁には風景画がかかっている。半円アーチの右端で壁は折れて、居間への入口との間には壁に楕円形の鏡、下には低いチェストが置いてあり、電話機がのせてあります。半円アーチの向こう、左側へ進めば、書斎の奥の扉につながっているようです。 『猿の怪人』 1943 約22分:二階への階段の右手 奥に上への階段のある半円アーチの通路
 お話のクライマックス近く、屋敷にまず新聞記者が入りこみ、次いで同僚の女性カメラマンが忍びいるのですが、相手をそれと気づかぬまま後を追って屋敷内をうろうろすることになります。これをさらに博士がつける。
まず記者が正面の階段から2階にあがり、少し遅れてカメラマンも続きます。 『猿の怪人』 1943 約55分:二階への階段と右手に上への階段がある半円アーチの通路
階段をあがった先は廊下で、その突きあたりは窓、下に椅子を配してあります。 『猿の怪人』 1943 約55分:二階の廊下
廊下には左右に二部屋ずつ、扉があります。左右それぞれの部屋は中でもつながっている。
他方博士は半円アーチの奥の階段から2階にあがります。彼がのぞいているのは、ちょうど廊下の反対側からということなのでしょう。画面右端に階段からの手すりが続いていて、壁にその影が落ちています。 『猿の怪人』 1943 約58分:二階の廊下、反対側から(?)+手すりの影
後に記者が正面の階段を駈けおりる際にも、壁に手すりの影が映っていました。 『猿の怪人』 1943 約58分:二階への階段+手すりの影
 とまれ2階の部屋で演じられる追いかけっこは、いささか喜劇的な相貌を呈しており、『凸凹フランケンシュタインの巻』(1948)のクライマックスが連想されたことでした。
 物語は次いで地下の研究室に移動し、最後に地下から1階への動きをもって結末を迎えます。決して上出来とは言いがたい作品ではありますが、1階、地下、2階それぞれの各空間とそれらを結ぶ階段や廊下を描くことで、屋敷内の空間の分節を感じさせてくれた点はよしとしたいところです。

 
Cf.,

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, p.237
 
 2014/11/25 以後、随時修正・追補
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