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倫敦の人狼
Werewolf of London
    1935年、USA 
 監督   ステュアート・ウォーカー 
撮影   チャールズ・J・ステューマー 
編集   ラッセル・F・スコーンガース、ミルトン・カラス 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ 
    約1時間15分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD
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 ユニヴァーサル社が人狼を主題にした最初の作品で、『狼男』(1941)に引き継がれることになります。古城が出てくるわけではありませんが、素敵な階段のセットが一つ登場しましたので、手短かにふれることとしましょう。
 冒頭の舞台はチベットで、斜めの巨大な岩盤が印象的でした。手前に鋭く尖ったもの、そのすぐ向こうにやや丸みを帯びたものが背景をなしています。空には満月が煌々と照っている。 [ IMDb ]によればロサンジェルスの北、バスケス・ロックス自然公園 Vasquez Rocks Natural Area Park でロケしたとのことで、その映像が用いられているのでしょう。  『倫敦の人狼』 1935、約2分:チベット
 次いでロンドンにある主人公の植物学者の実験室が映ります。奥の左側は煉瓦の壁になっており、その向こう、右手では左上から階段がおりてきています。その手前に、円の内側が中心から放射状に分割され、その周囲を小さな円が取り巻いているという、何だかよくわからない装置(?)が見えます。右手には天井から吊りさげられた大きな照明器具、左の方には8角形ほどの鏡か何かがかかっています。 
『倫敦の人狼』 1935、約7分:実験室 『倫敦の人狼』 1935、約22分:実験室、右に円形装置のぼやけた反射
ここにはまた、玄関前を映すモニターまであります。家の方には先ほどの階段であがるとして、直接庭に出る扉も後に出てきます。  『倫敦の人狼』 1935、約8分:実験室、玄関モニター
 またこの家には植物園も設けられており、ハエトリグサのような実在するものに続いて、蛙や鼠を食べる植物なるものも登場します。花の周りに触手のような蔓がうねうねと蠢いており、秘境冒険映画かよと思ったことでした。  『倫敦の人狼』 1935、約13分:秘境の食肉植物
 ところは移って主人公の妻の叔母のアパルトマン。広間から上の階にあがる階段が、壁に沿って湾曲しているのですが、やたらと急な角度に見えます。叔母の部屋は明るい色の壁が、斜め格子の線によって分割されています。 
『倫敦の人狼』 1935、約36分:叔母の部屋、鏡像付き 『倫敦の人狼』 1935、約37分:叔母の部屋、欄干とその影、毛むくじゃらの手付き
 自分が人狼に変身することを知った主人公は、宿だか下宿の一室に閉じこもることで、人狼が襲わずにいられないという最愛の者-妻に危害を加えることから免れようとする。酒場に隣接するか、同じ建物の中にあるようで、まず、主人公と大家が階段をのぼってくるところが上から見下ろされます。ずいぶんと幅が狭く、両側から壁が迫っています。  『倫敦の人狼』 1935、約48分:宿、最初の階段
 さて、いよいよ問題の階段です。上の階にあがり、扉を開くと、そこからさらに上にのぼることになります。扉のすぐ右脇に太い木の柱がまっすぐ立っていて、木の階段はそのまわりを巡るようにしてあがっていきます。まず左下から右上へ数段、ここには木の手すりがついており、両端には球をいただく半柱が見えます。踊り場を介して折れ、左上へあがる。奥は壁で、上の方にランプがかかっています。上の階の高さに達すると、短い廊下を経て部屋の扉がある。階段から廊下に移り変わるところにはやはり球をいただいた半柱が立っています。他方、下から伸びてきた太い柱は、球のあるあたりの高さで、右横へ水平の太い梁として折れます。梁の左端ともう一箇所、少し細くなった柱が天井へ伸びることになる。いささか錯綜したさまがたまりません。天井は斜めになっていて、壁は下の方を残して一段くぼんでいます。この階段をのぼったりおりたりしながらくりひろげられるのは大家とその友人との喜劇的なやりとりで、怪奇映画としての雰囲気にそぐうかどうかはさておき、セットの空間はとても印象的なものでした。  『倫敦の人狼』 1935、約54分:宿、第二の階段、上がり口附近

『倫敦の人狼』 1935、約52分:宿、第二の階段、途中
『倫敦の人狼』 1935、約52分:宿、第二の階段、屋根裏部屋附近 『倫敦の人狼』 1935、約49分:宿、第二の階段、屋根裏部屋の扉の前
 下宿での自己監禁はあっさり失敗して、次の夜はもっと頑丈なところということでしょうか、家で管理しているらしい古い僧院の一室に閉じこもります。僧院を管理するって、どんだけ金持ちなんだという点はさておき、石積みの壁、扉のある手前の部分と、そこから何段か低くなった奥の縦長の窓のある部分に分かれた部屋は、もはや人が住んでいないだけに荒れていて、ここはいかにもそれらしい雰囲気が出ています。ただしここも、本篇中では一夜の宿という扱いにすぎませんでした。 
『倫敦の人狼』 1935、約1時間1分:僧院、外観 『倫敦の人狼』 1935、約1時間2分:僧院の一室
 閑話休題、例によって記憶違いしていた点を挙げると、クライマックス第一段は、ずっと二体の人狼が争う場面だと思いこんでいました。あらためて見直してみれば、ヨガミ博士の方は「輝ける狼の花」ことマリフェイザの花の汁を塗って変身を回避しており、主人公だけが人狼化して、ということは一方的に博士を殺したことになります。
 ちなみにこのヨガミ博士は、チベットに留まっていた方が花をみつける機会はありそうなものを、わざわざロンドンまで追ってくるという設定はともかく(自分の株がだめになってしまったという説明はあるのですが)、主人公が採取してきた花を奪ったりともっぱら利己的にふるまっているとの印象があったのですが、叔母の悲鳴にかけつけようとする主人公の妻を気遣ったり、その言動も必ずしもおのれの変身を避けようとするだけではなさそうなのでした。
 
 クライマックス第二段は、妻の部屋から玄関広間にいたる空間で展開します。妻の部屋は2階にあるのですが、そこを出ると吹き抜けの玄関広間で、ちょうど玄関の上をまたぐようにして回廊が伸び、右端で階段になって1階におりてくるという、これもいささか変わった形になっています。右の奥の方に進むと実験室に通じ、手前は食堂になっているようです。とまれここの階段で、銀ならぬ通常の銃弾に撃たれて本作での人狼は滅びるのでした。  『倫敦の人狼』 1935、約1時間11分:玄関の上の回廊と階段
『倫敦の人狼』 1935、約1時間11分:玄関の上の回廊 『倫敦の人狼』 1935、約1時間12分:玄関、屋外から
Cf.,

菊地秀行、「我が狼人間(ウィアウルフ)映画の時代」『妖魔の宴 スーパー・ホラー・シアター 狼男編 1』、1992、pp.302-305

トム・ウィーバー、石田恵子・大下美男訳、「REEL世界の人狼伝説」、『日本版ファンゴリア』、no.1、1994.9、pp.9-10

石田一、Monster Legacy File、2004、p.9

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.153-155

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.52-53

Cleaver Patterson, Don't Go Upstairs! A Room-by-Room Tour of the House in Horror Movies, 2020, pp.192-195

 →『狼男』(1941)のこちらなども参照
 2014/11/06 以後、随時修正・追補
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