ヴァン・ド・ヴェルド《ピアノ用椅子》1907

ハンリィ・ヴァン・ド・ヴェルド (1863-1957)
《ピアノ用椅子》
1907年

H.61, 110x46cm
装飾美術館、ゲント


Henry van de Velde
Piano Bench
1907
Wood
H.61, 110x46cm
Museum voor Sierkunst, Ghent

Cf., 『ヴァン・ド・ヴェルド展』図録、東京国立近代美術館工芸館、三重県立美術館、伊丹市立美術館、1990、p.42 / cat.no.18

 笠木が描く緩やかな曲線に、とりあえず、もっとも目をひく点を見てよいだろう。頂から両端に下がるにしたがって太さを増すことに加え、背の低さ、横に長い型、それに座の直線などが強調する水平性に安定させられて、この曲線は、地平を連想させるひろがりを獲得している。
 他方、角を丸め、座を除いた外の空間に接する境界を穏やかな曲線とすることで、一体としてのまとまりがもたらされる。笠木とほぼ平行なアーチをなす後脚の貫も、構造体としての統一を強めている。
 にもかかわらず、笠木が描くひろがりは、物体の限界を越えて膨張していくように思われる。ただしそれは、ばらばらになってしまわない、ぎりぎりの地点で引き戻されている。これは、作品が、外の空間との緊張のうちに構想されていることによるのだろう。
 笠木の曲線は、内からの膨張を示すと同時に、外から包みこまれたものでもあり、作者が語るように、二つの力が交わる境界なのである。そして格子状の組み立てが、内と外を流通させる。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1990.7.19、「『ヴァン・ド・ヴェルド展』から 3」

『ヴァン・ド・ヴェルド展』(1990/7/14~8/19)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
なお、やはり三重県立美術館のサイトより;

ハンリィ・ヴァン・ド・ヴェルド 『バックル』」、『ひる・ういんど』、no.32、1990.9

こちら:ヴァン・ド・ヴェルド《雑誌『ヴァン・エン・ニュー・ストラックス』第一号表紙》(1893)の頁や、またあちら:同《インク壺》(1898以降)の頁も参照
 
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