ヴァン・ド・ヴェルド《インク壺》1898以降

ハンリィ・ヴァン・ド・ヴェルド (1863-1957)
《インク壺》
1898年以降
真鍮
H.6.8, 21x9.5cm
ノルデンフィエルドスケ工芸美術館、トロントハイム


Henry van de Velde
Inkpot
after 1898
Brass
H.6.8, 21x9.5cm
Nordenfjeldske Kunstindustrimuseum, Trondheim

Cf., 『ヴァン・ド・ヴェルド展』図録、東京国立近代美術館工芸館、三重県立美術館、伊丹市立美術館、1990、p.107 / cat.no.125

 インクを溜める壺の蓋から、宙に浮くようにして出発する曲線は、本体に戻ったりまた離れたりしながら、連続した一本の線をなしている。見るものの視線がそれをなぞれば、ジェットコースターよろしく循環するだろう。
 ジェットコースター同様、外へ飛びだそうとする遠心力と、それを引き戻そうとする求心力のせめぎあいが、線の軌跡を決定していく。両者が力であるがゆえに、線は静止するべくもなく、たえず突き動かされざるをえない。
 遠心力と求心力、底部の瓢箪型のふたつの焦点、線と立体的なヴォリュームなど、作品に生動感をもたらしているのは、さまざまな相でのふたつの因子の拮抗である。しかしまた、二者は対立したまま膠着してしまうのではなく、相互流動によって、一体として溶けあっている。
 このため、装飾的な曲線で目をひきながらも、それが表面につけ加えられた飾りでおわらず、内在的な必然性に充たされるのである。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1990.7.20、「『ヴァン・ド・ヴェルド展』から 4」

『ヴァン・ド・ヴェルド展』(1990/7/14~8/19)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
 なお、やはり三重県立美術館のサイトより;

ハンリィ・ヴァン・ド・ヴェルド 『バックル』」、『ひる・ういんど』、no.32、1990.9

こちら:ヴァン・ド・ヴェルド《雑誌『ヴァン・エン・ニュー・ストラックス』第一号表紙》(1893)の頁や、またあちら:同《ピアノ用椅子》(1907)の頁も参照
 
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