トーロップ《リサデルのアニー・ホール》1885

ヤン・トーロップ (1858-1928)
《リサデルのアニー・ホール》
1885年
油彩・キャンヴァス
99.0×73.0cm
アムステルダム市立美術館


Jan Toorop
Annie Hall at Lissadell, Kenley, Surrey
1885
Oil on canvas
99.0×73.0cm
Stedelijk Museum, Amsterdam

Cf., Catalogue of the exhibition J. Th. Toorop. De jaren 1885 tot 1910, Rijksmuseum Kröller-Müller, Otterlo, 1978-79, pp.51-52 / cat.no.10

『ヤン・トーロップ展』図録、東京都庭園美術館、ナビオ美術館、三重県立美術館、ハーグ市立美術館、1988-89、pp.60-61 / cat.no.5

 褐色を基調にした伝統的な明暗の対比の枠内で、空気の存在を感じさせる空間に光のあたった人物を浮かび上がらせようとする意図は、女性の横顔がやや硬直していはいるが丁寧に型どられている点からも確認できよう。
 空間の深さはしかし、明暗の連続的な推移によって示されているわけではない。油分の少ない堅練りの絵具を堅めの平筆か描画用ナイフですくう幅広いタッチは、深みよりは物質としての絵具の重なりを感じさせ、現在の画面を覆う亀裂の一因ともなった。
 背景はまったくの闇ではなく、さまざまな調度が描きこまれている。その形はタッチを秩序づけながら、かえって空気と光を振動させる役割を果たす。女性の背後の壺の位置はやや不明瞭だが。
 平らなタッチの重層は光のあたった女性を一層浮き上がらせて存在感を強める。伝統的な明暗の諧調がそれを全体に溶かしこんで、画面を内省的な気分でみたしている。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1989.1.5、「光と闇を描く ヤン・トーロップ展 作品紹介 1」

『ヤン・トーロップ展』(1989/1/4~2/5)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
 なお、やはり三重県立美術館のサイトより;

カード城の崩壊 ヤン・トーロップ展より」、『ひる・ういんど』、no.26、1989.3.31

 同じく同サイト所蔵品頁のうち、トーロップ《種蒔く人》(1895)の解説
などもご参照ください。

こちら(「カード城の崩壊Ⅱ - フェルナン・クノップフ展より -」(1990)でも触れています

あちらも参照:トーロップ《テニス・コート》(1890)の頁
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