トーロップ《テニス・コート》1890

ヤン・トーロップ (1858-1928)
《テニス・コート》
1890年
油彩・キャンヴァス
43.0×76.0cm
ハーグ市立美術館、デン・ハーグ


Jan Toorop
The Tennis Court ( Het tennisveld )
1890
Oil on canvas
43.0×76.0cm
Haags Gemeentemuseum, Den Haag

Cf., Catalogue of the exhibition J. Th. Toorop. De jaren 1885 tot 1910, Rijksmuseum Kröller-Müller, Otterlo, 1978-79, p.30, p.57 / cat.no.29

『ヤン・トーロップ展』図録、東京都庭園美術館、ナビオ美術館、三重県立美術館、ハーグ市立美術館、1988-89、pp.78-79 / cat.no.23

 この作品が観る者に与える奇妙な感じは、右手の人物が半透明であることにのみ負っているのではない。それだけなら、絵が未完成だからとかたづけることもできよう。
 上部三分の一を占める木々は、微妙に調子づけられつつ、くっきりした輪郭で区切られて装飾的なパターンをなしている。薄く延ばした塗りのため画布の織り目がはっきり認められる。塗りの透明さはパターンの平面性を補強することで、形態ひとつひとつを観者に対して正面から向きあうものとし、もってそれぞれに独自の顔を与えている。
 下三分の二は湾曲した二層の帯をなして平面化するのだが、中央斜めに置かれたネットこそが、その唐突な奥への後退で、薄塗りとあいまって上記の平面的な処理すべてをゆさぶり、摑みどころのない距離感を生み出しているのだ。幽霊めく人物はこの透明/距たりに準じているのであろうし、左の五つのボールは曖昧な位置のままに浮遊している。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1989.1.12、「光と闇を描く ヤン・トーロップ展 作品紹介 7」

『ヤン・トーロップ展』(1989/1/4~2/5)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
こちらも参照:トーロップ《リサデルのアニー・ホール》(1885)の頁
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