ホーム 宇宙論の歴史、孫引きガイド 古城と怪奇映画など 美術の話 おまけ
デ ジャ ヴュ
Jenatch
    1987年、スイス・フランス・西ドイツ 
 監督   ダニエル・シュミット 
撮影   レナート・ベルタ 
 編集   ダニエラ・ロデレール 
 美術   ラウル・ヒメネス 
    約1時間37分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    カラー 

VHS
………………………

 主人公の妄想ないし幻覚と見なすこともできなくはありませんが、ここはやはり、現在と過去の時間が交叉するという超自然現象ないしSF的現象が起こったととりたいところです。同じ監督による『今宵かぎりは…』(1972)および『ラ・パロマ』(1974)に続いて古城も登場します。手短かにとりあげることにしましょう。
 [ IMDb ]にはロケ先としてグラウビュンデン(グリゾン)州のクール市 Chur, Kanton Graubünden としか記されていませんでしたが、クロージング・クレジットの謝辞に人物名それぞれに続けて
・リートベルク城 Château de (Schloß, Schloss) Rietberg(→独語版ウィキペディア該当頁。ドイツに同名の城がありましたが、取り壊されたという→独語版ウィキペディア該当頁
・オルテンシュタイン城 Château de Ortenstein(→独語版ウィキペディア該当頁
・フュルステナウ城 Château de Fürstenau(同名の城はドイツにも2つありますが、グラウビュンデン州にあるのはフュルステナウ司教城 Bischöfliches Schloss Fürstenau →独語版ウィキペディア該当頁
・ハルデンシュタイン城 Château de Haldenstein(→独語版ウィキペディア該当頁
・ライヒェナウ城 Château de Reichenau (→公式サイト、その内→ここ。同名の城はオーストリアにもあり、またライヒェナウという土地は修道院のある島を始めドイツにも複数ありますが、グラウビュンデン州にある村は Reichenau GR →独語版ウィキペディア該当頁
が挙げられています。謝辞にあがったからといって撮影に用いられたとはかぎりますまい。ただ上記各ページの画像等で見るかぎり、リートベルク城とオルテンシュタイン城はゆるやかな尖り屋根をいただく太めの角塔を軸にするという点で共通するものの、篇中にトゥシス(テュシス、トゥージス) Thusis 近郊のリートベルク城として出てくる山上の城の外観は、オルテンシュタイン城のもののようです。屋内が実際のリートベルク城なのでしょうか?

 モノクロのニュース映像から本作は始まります。クール市の大聖堂でイエナチュの頭蓋骨が人類学者トブラー博士によって発見されたという。イェナチュは1621年に政敵プランタを殺害したが、1639年謝肉祭の夜、クールの居酒屋で殺された。なおイェルク・イェナチュ(Jörg (Jürg oder Georg) Jenatsch 1596-1639)は実在の人物で、踊共二「三十年戦争期スイスの門閥エリート-グラウビュンデンの場合」(森原隆編、『ヨーロッパ・エリート支配と政治文化』、成文堂、2010、第Ⅱ部第8章)などで取りあげられているとのことですが、未見。
 後に25年前のものであることがわかるニュースを見ていた人物(ミシェル・ヴォワタ)が室外に出ると、そこはTV局のようです。オープニング・クレジットがかぶさります。

  同じ人物がのぼりのケーブル・カーに乗っています。ケーブル・カーはこの後何度か出てきます。
 薄暗い階段室が下から見上げられ、ドアをノックする。トブラー博士の部屋でした。ノックした人物は記者のクリストフ・スプレッシャー。博士に扮するのはジャン・ブイーズで、同じシュミットの『ヘカテ』(1982)での諦念に満ちた外交官とは打って変わって、取り憑かれたような研究者を演じています。薄暗い部屋でイェナチュの死のありさまを文字どおり見てきたかのように語るのですが、そんな細部をどうして知り得たものか、訝しくなるほどです。唐突に帰れという。


 クリストフがくだりのケーブル・カーに乗っています。画面が真っ暗になった後のぼりのケーブル・カーとすれ違うのですが、そちらに乗っていた誰かに気をとられる。

 自宅です。やはり薄暗い。恋人か妻のニナ(クリスティーヌ・ボワッソン)がいます。母と電話します。母との電話はこの後何度か出てきます。母親が実際に画面に映ることはなく、何やら意味ありげです。
 またTV局の映写室でニュース映画を見ます。博士の家で見かけた髑髏がイェナチュのものか、確認するためでした。

 ニナとのやりとりをはさんで、氷河特急 Glacier Express に乗っています。窓の眺めから湾曲する橋の上を渡っていることがわかります。
 約21分、カメラが下から上へ振られると、イェナチュの墓でした。クールの大聖堂なわけです。神父と話します。リートベルク城にイェナチュを殺した斧があり、プランタ嬢が見せてくれるという。
 夜のバーです。知り合った女に氷河特急でブリックへ行くと告げますが、翌朝駅で乗り遅れます。地図を買い駅のでしょうか、トイレに入る。

 タクシーに乗っていると、約26分、窓から山上の城が見えてきます。両端を円塔ではさまれた壁、その上に暗色の太い角塔が聳えている。空が青い。なおタクシーの運転手に扮しているのは本作美術監督のラウル・ヒメネスです。
 2階以上の窓からタクシーの到着が見下ろされます。背を向けた老女が見ている。
 約27分、玄関先です。手前右に塀があり、その奥、少し高くなった大きくはない半円アーチの扉口、その左にも大きな開口部があるようです。扉口の右では左上がりの階段が扉口の高さあたりまで、そこで折れて右上がりとなります。右手は葉叢に覆われている。
 半円アーチ扉口から老婆が出てきます。扉口ではなく右手の階段に案内する。

 約28分、左下から右上がりの階段をのぼってきます。階段は折れて左上へ続いている。階段のすぐ右に白い柱があり、上で半円を描きます。さらに右奥、白い半円アーチの開口部がある。
 老婆は奥へ、クリストフは右に進みます。カメラも右へ追う。奥にはゆるい半円アーチが連なる廊下が伸びているのですが、暗い。右手の壁にイェナチュの肖像画がかかっていました。
 別の老女、プランタ嬢(ラウラ・ベッティ)がやって来て、斧は塔にあるといって奥へ向かいます。「長い階段」だという。


 なぜかというべきか残念ながらというべきか、階段の途中は映されません。狭い螺旋階段をあがってきたところです。手前で1~2段下り、右へ、白のゆるいアーチが2つ連なっています。扉口の奥は部屋のようです。また1~2段下ります。
 上半が壁、下半が凹んでおり、その奥に小さな窓がある。1621年2月25日の夜、ポンペイウス・フォン・プランタ(Pompejus/Pompeius (von) Planta)はここで殺された。暖炉の中に隠れたが見つかったのだ。左下に斧があります。20年後同じ斧でイェナチュも殺される。斧は新しいものに見えます。
 左で角をはさんで壁に鏡がかかっています。格子窓が斜めに映っている。


 約31分、客間か居間です。ポンペイウスの娘ルクレツィアも現場にいたという。彼女の肖像画の話をしますが図柄を示しません。博士同様、唐突に帰れといいます。クリストフにまた会う、ペストがクールに近づいていると告げます。

 約34分、城門に出てくるとタクシーが見えない。しょうことなく右下への坂を下ります。馬車に乗せてもらう。途中で別れると雷鳴が鳴ります。小屋の軒下で雨宿りする。なぜか博士に見せられた鈴を持っていました。角から少年が顔を出す。
 約36分、そちらをのぞくと鈴を鳴らす行列がいました。ペストで死んだ亡骸が運ばれる。振り返った人物はイェナチュ(ヴィットリオ・メッツォジョルノ、『季節のはざまで』(1992)で再会できることでしょう)でした。
 タクシーの運転手が肩に手をかけます。空は晴れている。

 約38分、レストランです。ニナに電話して今トゥシスだという。電話が通じにくい。にぎやかになります。
 約40分、戸外に出て鈴を鳴らすと、松明の列です。にぎやかな酒場か何かに入っていく。「ルスカ」「殺せ」「イェナチュ万歳」などと叫びがあがる。ルスカ司祭長をイェナチュが拷問しています。
 また街路です。オートバイのエンジンの音が響き、通り過ぎます。
 レストランに戻ると薄暗く静かになっている。女将と話す。


 翌朝女将の部屋から出ていきます。列車に乗ると同室に牧師(?)が入ってくる。
 部屋にニナが入ってきます。クリストフは浴槽にいました。過去のことを見たと話すと、ニナは〈既視感(デジャ=ヴュ)〉だという。
 レストランです。ニナと男女2人の知人といっしょです。男の方は後に編集者のクラウスとわかります。女の名は出ませんが、下掲採録シナリオによるとエスターとのこと。またデジャ=ヴュの話になります。エスターはグリゾンには水底に沈んだ村があるという話をする。クリストフが店を出ようとすると昔風の服を着た一団をかき分けることになります。


 自宅の玄関でのニナとのやりとり、編集室でのクラウスとのやりとり、図書館でのイェナチュに関する文献調べ、自宅でのニナとの喧嘩と続いて、約55分、列車に続いてまたタクシーです。運転手は同じ人でした。
 古城訪問第2回です。城の入口を経て、約56分、肖像画の前にいるとプランタ嬢が塔で待っていると老婆が言います。
 奥へ進み、切り替わって塔の上の部屋です。暗い。プランタ嬢はいません。塔は16世紀のものとのことです。
 何か落ちます。鈴でした。犬が吠える声、馬の蹄の音、松明と人々の声。
 鏡の前に来るとそこに過去が映ります。クリストフは「暖炉の中だ」とイェナチュらに告げる。娘ルクレツィア(キャロル・ブーケ)がいました。背後にクリストフが立っている。娘が振り返るとプランタ嬢でした。
 2階廊下を奥からクリストフが駈けてきます。
 城外に出ると今回はタクシーが待っていました。


 約1時間1分、列車を経て約1時間2分、自宅です。クラウス、エスター、ニナがいる。クリストフが入ってきます。
 約1時間3分、のぼりのケーブル・カーです。クリストフとニナが乗っている。
 約1時間4分、暗い階段室が下から見上げられます。左上からおりてきた老女が博士は昨夜亡くなったという。
 タクシーです。ニナが途中で車を停め、橋の上から鈴を投げ捨てます。


 イェナチュの墓があるクールの大聖堂です。2人は右へ進む。
 地下の展示室です。奥に上への狭い階段があります。
 イェナチュが殺された場所の裏にあるレストランです。ニナ、クリストフと歴史家のカベルティが食事しています。大聖堂の神父もそうでしたが、イェナチュはあまり評判がよくないようです。冒頭のニュース映画ではグリゾン解放の英雄とされていましたが、どんな風に評価されているのでしょうか。
 クリストフは別の客とロマンシュ語で挨拶を交わします。ロマンシュ語が話せるのかとニナが訝ります。


 約1時間9分、外に出ると松明の列に出くわす。
 約1時間10分、夜の列車です。食堂車にニナとクリストフがいる。すれ違う列車の窓にルクレツィアが見えました。


 約1時間12分、階段をおりるニナが下から見上げられます。ホテルでしょうか。ロビーにクリストフがいます。
 約1時間13分、大浴場です。クリストフは禿げて太った男(ジャン=ポール・ミュエル)と話す。「幻覚を見たね」と男はいいます。幻覚は記憶の復活、窓だ、前世が見えるとのことです。男は湯の中に沈みます。
 もう一つよくわかりませんでしたが、下掲パンフレットのインタビューによると、男は「3世紀ほど未来に生きている人間」とのことです(p.6)。


 約1時間14分、森の中の道をクリストフが歩いています。双眼鏡でのぞく。マラソンする人々の脇を騎馬の一団が駆け抜けます。イェナチュもいる。
 クリストフは逃げだします。それを窓から見る女がいる。森の居酒屋に入ります。老婆が応対する。下掲採録シナリオによると老婆の第1声はロマンシュ語とのことです(p.30)。
 約1時間17分、また森の道です。イェナチュとルクレツィアが木にもたれて交接しています。ルクレツィアはクリストフの方を見る。


 約1時間18分、ホテルの部屋のクリストフとニナ、母からの電話、約1時間20分、ピアニストに続いてレストランのニナとクリストフ、約1時間22分、列車の2人と続いて、約1時間23分、タクシーです。またしても同じ運転手です。他にタクシーはないのでしょうか。
 窓から山上の城が見えます。第1回の際とやや角度が違い、角をはさんで左奥に小塔がありました。やはり空は青い。
 古城訪問第3回です。3階からの右下がりの階段を老婆がおりてきます。左下からはクリストフとニナがあがってくる。右へ進むと肖像画が消えていました。要らなくなったと老婆はいう。
 半円アーチの廊下の奥からプランタ嬢が現われます。謝肉祭の間は斧は見せないという。自家製ワインを買ってくれといって追い返します。
 3人は左下へ階段をおります。


 約1時間24分、タクシーを経てレストランです。祭りとあって子供たちが歌いながら入ってきます。
 クリストフは部屋に戻り、録音機を聞くと過去のポンペイウス殺害時の音が入っている。丸鏡が壁に掛かっています。窓の外に松明の火が見える。
 約1時間26分、レストランから外へ出ます。「イェナチュ万歳」の声がする。にぎやかです。皆踊っています。
 暗がりをカメラが上向きになれば、ドミノ仮面をつけたルクレツィアがいました。
 約1時間29分、屋内に入ります。カメラは上下しながら右から左へ、また右へ流れます。仮面を外すクリストフ、仮面を外すルクレツィア、クリストフは斧をふるいます。しがみついたイェナチュに鈴を取られる。ルクレツィアは仮面をつけます。


 約1時間32分、ドアのチャイムを鳴らす手が大写しになります。暗い室内をカメラは左から右へ撫でる。チャイムを鳴らしたのは郵便配達でした。カメラは右から左へ流れます。
 小包を開くと鈴が入っていました。床に落ちます。その周りに発泡スチロールの小片が次々に降り積もり、その上にクロージング・クレジットが重ねられます。

Cf.,  『デ ジャ ヴュ』パンフレット、シネセゾン、1988
二つの現実が幻想のなかで美しく交叉する一幕の夢 解説、ストーリー/「デ ジャ ヴュ」-それは誰の現実なのか? ダニエル・シュミット インタビュー/非現実的時間に栖む(坂東玉三郎)/シュミットとユング(大窪一志)/ある双斧伝説(種村季弘)/生と死の妄想-その危険な誘惑(松本俊夫)/いつか見た幻女たち(久世光彦)/スタッフ&キャスト/採録シナリオなど、32ページ。


ダニエル・シュミットについて→こちらも参照
 2016/8/9 以後、随時修正・追補
   HOME古城と怪奇映画などデ ジャ ヴュ 1987