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『朝日新聞』名古屋版、1992.10.30(夕)
栗本百合子展(美術)

『栗本百合子展 Naked Wall』、ステゴザウルス・スタジオ、名古屋、1992.10.26-11.7

 古いビルの一室に足をふみいれると、そこは何か、とらえどころのない白い光にみたされている。窓もつぶして、壁は上半分が薄いグレー、下半分を白で塗ってある。これは、部屋の外の廊下などビルの他の部分で、上半が白、下半をグレーとなっているのを反転させたことになる。床はやはり白く塗られ、その上に蛍光灯が規則的に配される。それらの位置は、対応する天井の蛍光灯の真下だ。つまり、入口を境界に、外側の空間そのものをひとねじりしてできた袋が、この部屋なのである。
 ただし上下の反転は、観念的なトリックにおわりはしない。観念性は、非物質的な空間を現前させることになるだろう。壁の塗り分けや蛍光灯は、独立した物体ではなく、あくまでからっぼの空間を囲むだけだ。壁の下半と床が白によって連続しているため、天井と床の平行関係に壁と床の直角が加わり、密室の閉塞感を強める。天井と床の反転というなら、蛍光灯は床のものだけともせばいいはずだが、天井と床双方でつけられているので、上下の蛍光灯にはさまれた空虚こそが、主役となる。
 白さと蛍光灯の光は、内に入った人の輪郭をくっきり浮かびあがらせるにもかかわらず、人間の身体が宿している上下前後左石といった方位や距離の感覚を曖昧にしてしまう。ここでは人も、虚像となって漂うのみだ。虚としての空間の現前が、観念的でありつつ、感覚を了解させる点に、表現の成立を見ることができよう。

(石崎勝基 三重県立美術館学芸員)

Cf., 栗本百合子《Naked Wall》の挿図掲載

また

「Artist Interview 栗本百合子」、『美術手帖』、no.672、1993.7、pp.105-114 中の pp.106-107 に図版


『クリテリオム'94 13. 栗本百合子』展パンフレット、水戸芸術館、1994.11.3-12.18
p.2 に図版


『美術館を読み解く 表慶館と現代の美術』展図録、東京国立博物館、2001.1.23-3.11
p.31 に図版

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