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『Meigaを探せ!』 
第2回
『リンダリンダリンダ』(監督:山下淳弘、2005年、日本映画)

『三重県立美術館ニュース』、第67号、2008.10.10

 先頃閉幕した佐伯祐三展(追補:『没後80年念 佐伯祐三展 鮮烈なる生涯』図録、三重県立美術館、2008/6/29-8/17)は、近代洋画の展覧会に人があまり集まらないという昨今の傾向にもかかわらず、佐伯の人気ぶりを見せつけてくれましたが、そんな佐伯の作品が意外なところに顔を出していました。

 『リンダリンダリンダ』は軽音楽部に属する女生徒3人が、文化祭のためそれまでいっしょに練習していたメンバーとの間に支障が生じたため、急遽韓国人留学生をひきずりこみ、The Blue Hearts(知りませんでした、すいません)の曲をマスターして演奏しようとする4日間のお話です。

 公開当時は前年の『スウィングガールズ』(監督:矢口史靖、2004)に似ているといわれたそうですが、むしろ『青春デンデケデケデケ』(監督:大林宣彦、1992)を連想させる、いささか気恥ずかしくはあるものの、楽しい作品でした。翌年の『グエムル-漢江の怪物』(監督:ポン・ジュノ、2006)ではジャージ姿で奮闘するペ・ドゥナが、日本語が流暢でないからというだけではなさそうな、とぼけた存在感を放っています。

 さて、主な舞台である高校、その軽音楽部の部室の壁にはミュージシャンのポスターやポートレートなどがたくさん貼ってあるのですが、その中に一点、先の回顧展でも展示された佐伯の《立てる自画像》(1924年)の複製が混じっていたのです。
 
『リンダリンダリンダ』 2005 約33分:上左寄りに佐伯祐三《立てる自画像》(1924)
『リンダリンダリンダ』 2005 約33分
佐伯祐三《立てる自画像》1924年
佐伯祐三《立てる自画像》1924年
 他にレッド・ツェッペリンのポスターが貼ってあったところからして、素材の選択は現役の高校生によるものと設定されているという以上に、スタッフの素養が反映したものと考えてよいでしょう(代々受け継がれてきた設定ともとれますが)。

 その中に佐伯の《立てる自画像》が混じっているのは、この絵が、やはりいささか気恥ずかしい青春を象徴するに値するものと見なされた、と思って大きな間違いではありますまい。

 佐伯の絵は物語の中で何かキーになる役割をはたすというわけではありません。何度かちらっと映るだけです。そんな小さな細部が、しかし作品全体の雰囲気に何らかの形でつながっていたり、スタッフの発想を憶測させるという点が、映画にかぎらず作品というものの面白いところなのでしょう。
学芸員 石崎勝基(の真骨頂炸裂) 
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