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ザ・ショック
Shock
    1977年、イタリア 
 監督   マリオ・バーヴァ 
 撮影   アルベルト・スパニョリ、マリオ・バーヴァ 
 編集   ロベルト・ステルビーニ 
プロダクション・デザイン   フランコ・ヴァノリオ 
美術   フランコ・ヴァノリオ(フランチェスコ・ヴァノリオ名義) 
 セット装飾   ピエトロ・スパドーニ 
    約1時間33分 * 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* 手もとのソフトはイタリア語版ですが、[ IMDb ]によるとイタリア版は約1時間35分、USA版が約1時間33分となっています。
………………………

 この作品はバーヴァの劇場用映画としては最後のものとなりました(TV用の作品はこの後1篇製作されたということです)。とはいえ本作についてはしばしば、バーヴァの本領が発揮されてはいないと評されているようです。「マリオの息子、ランベルトがかなりの割合で実際の演出を行なった作品と言われている」(下掲殿井君人「オカルト」、p.145)とのことですが、『呪いの館』(1966)あたりから父の監督作品で助監督をつとめ、本作では脚本にも参加しているランベルト・バーヴァは、後に『デモンズ』(1985)等を監督、しばしば不肖の息子扱いされるのでした。もっとも、ランベルトの作品をそんなに見たわけではないのですが、TV用の『バンパイア 最後の晩餐』(1987)は古城度の高い作品でしたので、いずれ取りあげたいと思っています。イタリアにかぎらず大概な監督はたくさんいますから、それに比べてランベルトがとりわけひどいとは思えなかったりもする。
 それはともかく、物語はほぼ一軒の家のみを舞台に展開し(隣近所も出てきません)、日本の平均的水準からすれば充分広いということになろうものの、さすがにどこに向かっているのかわからないほど廊下をさまよったり階段を上り下りするというわけにはいきません。[ IMDb ]によるとローマの
Enrico Maria Salerno Villa でロケされたとあり、俳優のエンリコ・マリア・サレルノの持ち家でした(下掲山崎圭司「マリオ・バーヴァ」、p.167 も参照。追記:イタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ロケ先に関しウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Schock - Transfer, suspence, hypnos (1977)"([ < il Davinotti ])を参照)。また手もとのソフトで見るかぎり、全体にややくすんで不透明な中間色が目につき、皆無ではないとはいえ、かつての作品におけるような彩度の高い色彩とそれを可能にする透明感は見られませんでした。ついでに以前の作品でいやというほど登場した霧も焚かれません。
 とはいえよく動き廻るカメラにはバーヴァらしさを認めることができるでしょうし、光と影の配分にもとりわけ後半、面白がれる点は少なくない。その結果家の中の空間はなかなか複雑な表情を浮かべてくれているのではないでしょうか。

 本作のヒロインをつとめるダリア・ニコロディはダリオ・アルジェントの『サスペリア PART2』(1975)などに出演したのみならず、一時期のアルジェントのパートナーでもありました。本作は「『白い肌に狂う鞭』(63)の現代風翻訳といった赴きのサイコホラー」(山崎圭司「マリオ・バーヴァ」、同上)と形容されたりもしますが、実際『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963)の第1話・第3話や『白い肌に狂う鞭』に続いて、ヒロインの描写を軸に展開する作品となっています。
 また音楽のイ・リブラについてはアウグスト・クローチェ、宮坂聖一訳、『イタリアン・プログ・ロック イタリアン・プログレッシヴ・ロック総合ガイド(1967年-1979年)』、マーキー・インコーポレイティド、2009、pp.304-305 を参照ください。プログレ寄りのロック・バンドの起用は、やはりアルジェントの『サスペリア PART2』や『サスペリア』(1977)におけるゴブリンからの影響が指摘されています([ IMDb ]によると『サスペリア』は1977年2月1日イタリア公開、『ザ・ショック』は77年8月12日公開とのこと。下掲[ YELLOW-EUROTRASH MOVIES ]中の「ザ・ショック」のページも参照)。ゴブリンほど強迫的な印象はありませんが、時代を感じさせてはくれることでしょう。
『ザ・ショック』 1977 約0分:荒れた回廊  夕刻の海辺を映した後、赤茶の門、その先にあるやはり赤茶の壁の家が見えてきます。交叉リヴで分割された白い天井を見上げながら、手持ちカメラが低い位置で回廊を前進する。壁はやはり赤茶で、扉類は暗色です、回廊には木の葉がたまり、椅子はひっくり返っています。 
 次いで赤煉瓦の壁が正面からとらえられる。煉瓦と煉瓦の境目は白い漆喰です。カメラが少し後退し、右から左へ撫でていきます。蜘蛛の巣に覆われた家具類に占められたそこは、物置らしい。先に見えるのは白い壁に開く半円アーチです。向こうに上への階段が見えます。やはり白い。幅は広くなさそうです。階段の右手の壁はごつごつした粗造りです。上は真っ暗で、カメラはそこに入っていきます。  『ザ・ショック』 1977 約1分:一階から地下室への階段
 上の階ということなのでしょう、多角形をなすらしき食堂が映されます。大きな窓がありますが、やはり空き家相応の荒れ具合です。台所がこれに続く。

 昼間の海辺を経て、玄関が開き、引っ越し作業員が荷物を運びこんでくる。扉は画面右奥に位置し、その手前には暗色と濃い黄色の縦縞に覆われたソファのセットが配されています。ソファは玄関に背を向けている。ソファのすぐ向こう、右手には天井まで伸びるらしき金属の枠があり、その左にもやはり銀色に光る、こちらは普通の棚が見えます。
 作業員二人は左に進む。カメラもそれを追います。手前の柱越しになり、その左先にピアノが置いてある。さらに左は段差があるようで、左から手すりが伸びており、一番右側が降り口になっている。低くなった向こうには撞球台があります。その右には半円アーチの扉、奥に窓が開く。
 
『ザ・ショック』 1977 約8分:家の外観  屋外の眺めです。家は左から画面と平行に伸びてきて、赤茶の壁の2階建て、その上に小さく2.5階だか3階部分がのっています。1階正面は回廊状をなしており、地面より少し高くなる。 
右手では棟が手前に突きでています。後の場面で突きでた部分の底面が円弧をなしていることがわかります。その下、右上がりの5段ほどの階段が地面とやはり回廊になった左側前面をつないでいる。手前の芝生は緑で、壁の赤茶と対比される。オープニングの部分では暗色だった扉の枠等は、白塗りになっています。

 ここで登場する少年マルコ(デヴィッド・コリンJr.、[ IMDb ]によると1970年7月生まれとのことなので、撮影当時6~7歳でしょうか)は、この時点でさっそく〈見えないお友だち〉とお話ししています。


 マルコは母のドーラ(ダリア・ニコロディ)に呼ばれた後、屋内に入ります。ピアノのところへやって来る。ここはソファのある居間より少し高くなっているようです。またピアノは壁に対し斜めに配されている。
 次いで画面左右の手前を暗い壁と扉にはさまれた、その向こうに左下から右上に上がる白い階段が見えます。右側の扉のすぐ向こうには、大きな柱頭のようなものが床に置いてあります。ここにマルコは右から走ってきて、手前へ進む。
 地下室でした。おりてきて右から左へ進む。カメラもそれを追います。先に赤煉瓦の壁がある。
 マルコは義父のブルーノ(ジョン・スタイナー)に呼ばれ、上に戻ります。やはり左右に壁と扉があり、向こうに右上がりの階段が見えますが、さらに左上、吹抜に面した2階回廊がちらっと見えます。
 ブルーノは地下室への扉に鍵をかけます。


 ドーラが外で運送業者のトラックを見送ります。家の外にも2階への階段があるとわかります。残念ながらこの後出てくることはありませんでした。この階段があるのは庭に面した側ではありません。

 戻ってきたドーラがソファの後ろの棚を拭き掃除していると、ソファのクッションの下に指先のようなものが見えます。引っ張りだしてみると大きな手の彫刻でした。そんなに重くはなさそうです。焼物でしょうか。
 ブルーノがやってきて、7年ぶりだと言う。つまりこの家には新たに引っ越してきたのではなく、以前住んでいたところに戻ってきたわけです。
 ブルーノとドーラをカメラは少し斜めにとらえています。手前に金属の棚があり、棚の右寄りに大きな白い手を置いてある。右奥の壁には木の戸棚が見えます。左奥はフランス窓になっており、向こうに奥へ並ぶ回廊の柱が覗いています。


 ブルーノがマルコのために木の枝にブランコを吊します。太いロープは白、座板は赤茶です。
 マルコの部屋は天井が湾曲しているようにも見えます。壁の下の方は細かく幾何学的に分割された薄青の壁紙で覆われている。
 家は空港の近くとのことです。ブルーノは旅客機の操縦士でした。ドーラに地下室の扉に鍵がかかっていると言われて、探しておくと答えます。先だって鍵をかけたのは安全のためと見なせますが、この時点であれれ?となるのでした。

 地下室の赤煉瓦の壁が正面からとらえられ、カメラは後退、右から左に動きます。どうも赤煉瓦の壁に何か意味があるらしいと、見る側も気がつきだすのでした。
 カメラは灯りの消えた階段踊り場から下を見下ろします。左へ回され、階段を上にのぼる。上にも踊り場があり、折れて右上に上がっています。上がった先には通路をはさんで窓があり、左手に白い扉が見える。これがマルコの部屋でしょうか。
 カメラは中に入る。マルコはベッドで目を見開いています。
 カメラはピアノを上から見下ろしてから、左から右へ流れる。ソファで二人が愛しあっています。
 カットが換わると、ソファの奥を右から左へ動く。手前に棚があり、右に角笛状の飾り、左に白い手が置いてあります。白い手がガタッと動く。
 寝室のマルコが「豚ども、豚ども……」となじる。

 庭でドーラとマルコが追いかけっこしている。捕まったマルコはドーラの上にのしかかります。いささか危ういものを感じさせる場面です。
 
『ザ・ショック』 1977 約15分:海辺、遠くに角塔の町  公園へ行って人形劇を眺め、車で海辺に立ち寄る。夕刻です。岩の多い浜です。遠景にかすんで町が見える。高い角塔が何基もそびえています(追記:上掲"LOCATION VERIFICATE: Schock - Transfer, suspence, hypnos (1977)"([ < il Davinotti ])によるとラツィオ州ヴィテルボ県のタルクィーニアの眺めとのことです)。マルコが実父のことを尋ね、ドーラが死んだと説明する。マルコは死ぬってどういうことなのと聞きます。 
 手前右に扉、左に壁がかなり近い位置でとらえられます。双方の間で向こうに楕円形の大きな姿見が見える。まずドーラの前向きの姿がそこに映り、カメラが少し左右に振られると、左から本体が現われます。マルコがいっしょに寝てと入ってくる。
 夜の庭でブランコが少し揺れます。
 
『ザ・ショック』 1977 約16分:寝室、扉の隙間越しに楕円形の鏡
 灯りの消えた部屋で、楕円の鏡にベッドのドーラとマルコが映っています。  『ザ・ショック』 1977 約17分:楕円形の鏡
右手前でカーテンが揺れて鏡面を塞ぎ、また右へ戻ります。カメラは前進し、縁が消えるまで鏡面に近づくと右から左へ動く。前にある物に接近した距離で流れて、眠るマルコに達します。左下にドーラが眠っている。マルコが起きだす。 
右の窓まで行き、ブランコを見つめると、強く揺れだします。  『ザ・ショック』 1977 約18分:窓に映るマルコの顔、庭で揺れるブランコ
左のベッドに戻り、ドーラの顔に手を伸ばす。1度手を引っ込め、また伸ばされた手だけが映るのですが、その手はやけに白く、関節部分は赤くなっている。子供の手より大きいような気もします。

 食堂でドーラがパーティーの準備をしています。帰省祝いということのようです。
 空港にブルーノを迎えに行く。マルコは前にねだっていた犬をブルーノがおみやげにくれるはずだと言いますが、ブルーノはごまかします。
 パーティーが開かれています。ソファの向かい、左手に暖炉のあることがわかります。暖炉の上に額絵が掛けてあり、下辺沿いだけ見えるのですが、どうも中世風の絵のようです。この家には絵がいろいろと架かっており、以後ぼちぼちと出てくることでしょう追補:→「怪奇城の画廊(幕間)」の頁でも触れました)。
 暖炉の向かいには木の半円アーチがあります。手前の床より少し高くなっているようです。その向こうにピアノ、さらに奥に手すり、そして低くなった撞球台のコーナーです。アーチの下にいた精神科医との会話から、ドーラの前夫カルロが薬物中毒だったこと、カルロが海にボートを漕ぎだして帰ってこなかった後、ドーラが精神科医にかかっていたことなどがわかります。

 奥に扉口があって、その向こうは廊下のようです。そこからドーラが、空になった食器類をのせた皿を手に出てきます。左に窓、右は少し手前で折れて壁になっている。額絵が2段に掛けてあり、下のものは近世の風景画でした。上の絵はこの時点ではあまりよく見えませんが、後にもう少しはっきり映ります。その下にソファがあり、ぬいぐるみとともにマルコが坐っています追補:→「怪奇城の画廊(幕間)」の頁でも触れました)。ドーラが手前に出てくると、マルコは「殺してやる」と言う。子供に言わせる台詞ではありません。手前に駆けだします。左に暗い壁が見える。 
 左に入ると先に階段があります。前に出た地下室への扉の向かいにある吹抜のものとは別で、幅が狭い。手前下から奥の上へ、踊り場で折れて左奥から手前上へあがっていく。そこをマルコがのぼります。 『ザ・ショック』 1977 約24分:狭い方の二階への階段
とまれこの家には少なくとも1階から2階への階段が屋内に2つ、屋外に少なくとも1つ、加えて地下室への階段が一つあることになります。撞球台コーナーのような段差は他にもありそうです。何て羨ましいんでしょう。
 気もそぞろになったドーラはそのまま階段の前を左へ進む。先は台所です。灯りがいきなり消え、転んでしまう。床は不規則な石畳でした。


 撞球室を手前の手すり越しにとらえます。左手に装飾的な2連半円アーチがあります。下は戸棚でしょうか。
 手すりの前にドーラが立っている。腕に包帯を巻いています。向こうでマルコが外へ出るのが見えます。ドーラは前に進んで窓から外の様子を見る。マルコはブランコのところへ行く。窓越しにズーム・インします。芝生の緑に、奥は真っ暗で、ロープの白と座板の赤が対比される。
 マルコがブランコを漕ぎだします。カメラは前の下から、次いで横の下から、また前の下からとらえる。マルコが前に漕いで画面から消え、ブランコが揺れ戻ってくるといなくなっている。『呪いの館』(1966)におけるブランコの場面が連想されたことでした。
 窓越しにドーラの肩から上が左に寄せてとらえられます。窓の枠は白く、画面右は真っ暗です。ドーラが右に目をやると、メトロノームがこちこち鳴っている。カメラは揺れながらそれをアップにします。次いで揺れるブランコが下から見上げられる。
 ドーラの姿がぼやけると、やはりぼやけた縁の中にピアノの鍵盤の蓋が笑うように上下します。弾こうとする手が伸ばされますが、震えている。音もちゃんと出ません。満月でしょうか、暗がりに黄色の円が映され、ピントが合うと注射器でした。夕べの海辺をはさんで、ひずんだ顔、夕べの海辺、吹きだすコーヒー・ポットとつながっていく。
 朝の食堂でした。手前にテーブルがあり、奥に多角形の空間、その左に出口があります。


 白い服を着たドーラがピアノをぽつぽつ鳴らす。と、鍵盤の間に剃刀の刃がはさまっていました。
 ドーラは右へ、カメラもパンします。ソファの向こうを右へ進む。
 扉口の奥から出てきます。先にある扉からマルコが現われる。地下室への扉なのでした。マルコは開いていたと言います。しかしドーラが開けようとすると開きません。


 マルコがブランコに乗ってロープをぐるぐるとねじっています。 
 ドーラがシャワーを浴びています。マルコの入ってくる姿が楕円形の大きな姿見に映る。カメラは後退し、マルコの像が鏡の左に消えると、手前右から本体が現われ、左へ進む。『リサと悪魔』(1973)における柱時計の場面が思いだされるところでした。 『ザ・ショック』 1977 約30分:楕円形の鏡、まず像が左へ、次いで実体が右から
 マルコは奥の浴室を確認してから戻り、箪笥から下着を一枚抜きとります。
 ドーラは気配を感じたのか、浴室から出てくる。浴室への扉の右手の壁には、赤茶と焦茶からなる、石の斑紋のような質感の絵がかけてあります追補:→「怪奇城の画廊(幕間)」の頁でも触れました)。その右手で壁は奥に折れ、奥の壁の箪笥の上にもくすんだ緑と茶の絵が見える。双方抽象的なもののようです。緑と茶の絵の右手に、楕円形の大きな鏡が置いてある。部屋の壁は白です。


 階段が下から見上げられる。右上から左下に下がっています。ドーラがおりてくる。壁の上方に曲線飾りのついた燭台が見えます。
 カメラは後退しつつ右下を向く。下の踊り場の上には回廊の天井がある。その下の壁は陰になっており、図柄のよく見えない絵が架かっています。この絵は後にある役割を果たすことでしょう。
 下の踊り場で手前に折れ、5~6段下りれば床です。右の階段下は凹んでおり、真っ暗です。
 向かいの地下室への扉が半開きになっている。
 カメラは左から右に流される。開いた扉、閉じた扉、角をはさんで地下室の扉と並んでいます。
 ドーラが地下室への階段をおりると、カメラのみ前進します。奥で右に曲がると、赤煉瓦の壁があり、その下にマルコがうずくまっている。
 ドーラはマルコを抱きあげ、左に戻る。カメラもそれを追います。
 1階から2階への階段が上から見下ろされ、ドーラがのぼってきてカメラの前を横切り、背を向け上へ急ぐ。カメラも下向きから上向きになります。
 階段をあがった先にはガラスのはまった白格子の扉があり、その右手前に欄干が伸びている。すぐ奥の壁には緑がかったキュビスム入りらしき静物画がかかっています。
 ガラス戸の向こうでは廊下が奥に続いている。一つ扉口を経て、その向こうにも扉が見えます。ただしドーラは一つ目の扉口の奥を左に入ります。
 マルコの部屋ではありません。ドーラがアップから引きになり、左へ進む。途中に楕円形の大鏡がありました。自室だったわけです。
 箪笥を開けるさまがほぼ真上から見下ろされます。上の段を開けるとずたずたになった下着が見つかります。とりあえず放っておいて2段目から体温計をとりだす。
 ベッドのマルコは苦しそうですが、いきなり跳ね起き、だましたんだよと言って駆けだします。苦しそうな様子に嘘はなかったように見えましたが、はっきりとはわからない。
 マルコは庭に出る。手前に赤と白の薔薇が映りこみます。
 ドーラは右の扉から左へ出る。背後に額絵が掛かっており、街景を描いたもののようにも見えますが、定かではない。色のバランスはよくありません。ソファの向こうを右へ進みます。プリミティヴな木彫が置いてあります。右の格子状の棚には仏頭らしきものがある。その奥の壁にも絵がかかっており、青緑と明褐色からなります。
 手前左に暗い壁、右に明るい壁の間を奥から手前に出てくる。ドーラが手前まで来ると、カメラは後退しながら左を向きます。手前の影になった左の階段からマルコが飛びだす。奥の壁は以前マルコが「殺してやる」と呟いた場所で、二段にかかっていた絵の内、上のものが20世紀の人物画であることがわかります。下の風景画はもっと前の時代のものでしょう。
 
『ザ・ショック』 1977 約36分:回廊の端  ドーラはマルコを追って、戸口から庭に出て右へ走ります。カメラの前を横切り背を向けて右奥へ、カメラは左から右へ振られる。
庭でその前にマルコが馬代わりにしていた熊手に足を引っかけて転ぶ。振りかえると地面から這いでた死者の手が足を摑んでいる。あらためて見直すと熊手が刺さっているのでした。これは痛そうです。転ぶのは2度目で、さんざんというほかありません。

 地下室の赤煉瓦の壁が映されます。暗い。前かがみの人型のような光が当たります。それが壁に沿って右へ移動すると、カメラもそれを追います。マルコが写真を手にしています。写真にはドーラが映っていますが、その隣の人物が切り抜かれている。切り抜かれた部分にランプの光を当てたものが、先ほどの人型なのでした。切り抜かれたのはブルーノの姿です。

 ブルーノにドーラが当たっています。二人の部屋の浴室への扉の左側の壁に、楕円形の鏡が二つ、並べてかけられています。入口側にあった大きな楕円鏡とはまた別のものです。いやに鏡が多い。右の壁には前にも出た石紋風の絵がかかっている。
 ドーラをなだめ、秘かに薬を飲ませた後、ブルーノは扉から出る。それが下からとらえられます。出た後、左に半開きで揺れる白い扉、右の壁には額絵の左端が入る。扉の向こうは緑がかったグレーで、明暗の対比が強い。
 カメラは右から下へ、次いで左に流れる。マルコが眠っています。
 ブルーノが地下室への扉に鍵がきちんとかかるかどうか確かめる。地下室への階段の側から鍵がアップになります。
 暗がりです。右に蜘蛛の巣のかかった籐椅子らしきものが見える。扉が開いたために奥から光が射しこみます。カメラはピントをずらしつつ後退する。ブルーノがおりてきます。彼が手前まで来るとカメラは前進する。
 赤煉瓦の壁が接近して上から見下ろされる。カメラは下へ、上へ、そして左へ。


 ドーラがうなされています。暗い室内のショットをはさんで、目を覚ます。暗い室内をカメラは右に撫でる。箪笥の扉がアップになります。ギギと音を立てて右へ箪笥が動き、扉を塞いでしまう。同じ箪笥かどうかわかりませんが、後に違う場所でも箪笥が勝手に動くことでしょう。扉は少し開き、向こうから手が伸びてきます。カッター・ナイフを持っている。
 ドーラは何とか扉を閉じ、窓のカーテンの方へ駆け寄ります。カーテンにドーラの影が落ちている。カーテンを開くと、そこは赤煉瓦の壁でした。カメラがアップで壁をとらえます。叫ぶドーラの影が落ちる。
 ドーラが壁に飛びつくさまをカメラは下からとらえます。音に振り向くと、カッター・ナイフがこちら向きで宙に浮いている。寝着の胸もとを切り裂きます。
 飛び起きる。夢でした。しかし寝着は切れています。


 朝、ドーラが果物をかじりながら食堂の窓から半身を突きだし、出勤するブルーノを見送っています。奥でマルコが見つめていると、窓のシャッターを吊していた紐が切れ、シャッターが落ちます。間一髪でした。

 マルコがブランコに何か細工しています。強く揺らす。同時にブルーノの操縦する旅客機も振動を起こします。操縦できない。マルコが向こうに行ってから、ドーラがやってきて揺れていたブランコを止めると、飛行機の振動も治まる。マルコはブランコの座板にブルーノの写真を留めていたのですが、ドーラが目を離した隙に回収します。
 宅配便が配達されます。約52分にして名字がバルディーニだとわかります。荷物は赤い薔薇の花束で、メッセージが添えられている。「お前はいつまでも俺のもの」と子供っぽい字で書かれていました。


 車の多い街路が俯瞰されます。窓から見下ろしているのはドーラです。モラージ医院の受付でした。マルコと入れ違いに診察室に入ると、パーティーに出席していた精神科医です。壁もカーテンも白い。壁にはずいぶん横長の絵がかかっています。鉤型の幾何学的形態が二つ向かいあっている。形態はスティールのような金属的な銀白で、コラージュではないかと思われます。医師の机の向かいの壁にも絵がかかっています。見えるのは下の方だけですが、明灰色の色面の中央に、上から白の切りこみが落ちてくるというものです。いずれも明るいモノトーンに近いもので、これがマルコの描いたカラフルな絵と対照的でした(追補:→「怪奇城の画廊(幕間)」の頁でも触れました)。
 ドーラは先夫が死んだ頃のことは思いだせない、でも今思いだしかけていると言います。


 下から明灰色の天井が見上げられます。小振りのシャンデリアがかかっており、それを中心に白で方形に枠取られている。シャンデリアの下には赤い何かが吊され、揺れています。シャンデリアのつけ根を中心に装飾的な影が放射状にひろがっている。
 マルコが大きな女人形の首にハサミを入れます。


 約1時間、古城映画的山場の始まりです。黄色い服を着たドーラが浴室で薬瓶を開けようとしています。浴室の壁は暗褐色です。蓋はなかなか開かず、瓶を割ってしまう。ドーラは浴室を出、左から右へ、扉に向かいます。 
 先に階段の待つ廊下をカメラは前進する。追って左手前からドーラの背が現われます。  『ザ・ショック』 1977 約1時間1分:一階へ下りる階段の手前
 下から階段が見上げられる。ドーラがおりてきます。影が濃い。階段は右上から左下へ伸び、踊り場に達する。踊り場の向かって奥の壁低く、左下がりに欄干の影が落ちています。実体は右下がりです。この影がやや薄めなのに対し、左の壁は明るく、ドーラの影が濃い。ドーラがおりてくると、彼女の影が手すりの影を覆います。こちらの影はやはりややぼんやりしており、やや明るい。階段室の壁はグレーで、上方で白になっています。壁の上の方には前にも登場した曲線付きの燭台がかかっているのですが、左にその引き伸ばされた影が薄く落ちています。  『ザ・ショック』 1977 約1時間1分:一階へ下りる階段、下から
 手前までおりてくるとドーラもシルエットと化します。ドーラは右下へ、カメラも右に振られます。 『ザ・ショック』 1977 約1時間2分:階段を降りたあたり
 カットが換わってもカメラは前進しつつ右へ動きます。先・左に居間の木製半円アーチが見える。向こうは薄暗い。  『ザ・ショック』 1977 約1時間2分:居間附近、アーチの向こう左にピアノ
 また切り替わって、ドーラの頭部が下からアップでとらえられる。右向きで画面左半に配されています。すぐ奥に円形の網状の影が落ちている。

 カメラは半円アーチに向かって前進する。向こうは暗く、左にピアノの右側が見えます。その下には、奥から手前へ放射状の光と影の縞が伸びている。左下からドーラの背・肩から上が現われます。カチャッと音がする。カメラは右へ振られます。ターン・テーブルの針が上がる音でした。
 ピアノの鍵盤に赤い染みが浮かびあがる。ドーラの顔がアップになり、目元にズーム・インします。染みと見えたのは赤薔薇の花びらでした。ピアノの上に花束を置いてあったのです。『白い肌に狂う鞭』の一場面が思い起こされるところです。
 カメラが引きになると、ピアノの蓋がいきなり落ちます。
 
ドーラは左奥へ逃げだす。カメラは右から左へ振られる。室内の陰影は濃い。ドーラは左奥の扉から外へ出ます。 『ザ・ショック』 1977 約1時間3分:居間、奥左に玄関
 右手前から屋外に出ます。回廊が奥に伸びている。やはり陰影は濃い。手前へ進む。物音がします。 
『ザ・ショック』 1977 約1時間3分:回廊 振り返ります。前向きで奥に後ずさる。カメラは少し斜めになっています。壁の茶色、窓枠の白とドーラの服の明黄色が対比されています。照明がその対比を強めている。床に柱の影が斜めに落ちています。手持ちカメラが前進する。
ドーラは壁に濃い影を落としています。壁に飛びつく。カメラは仰角で右に振られる。
 マルコの声に右へ、屋内に戻ります。手前左にピアノが映りこんでいる。カメラはズーム・インする。ドーラは右へ進み、画面から消えますが、棚の白い手が映され続ける。向こうは真っ暗です。
 左奥から前に進みます。手前に階段が見える。カメラは右へ動く。
 見上げると、下から階段がアップになります。尺取り虫状のバネがおりてきます。カメラは左上から右下に振られる。
 階段が正面下から見上げられます。これまで気づきませんでしたが、接写のため蹴込みが古びて見えることが目につきます。手すりの影が落ちている。
 
 また階段が横から見下ろされます。バネが停止する。  『ザ・ショック』 1977 約1時間5分:階段、尺取り虫状のバネ
 床の人形の首からバネがはみ出ているさまが、上から見下ろされる。カメラは上昇します。右上にドーラの頭後部が現われる。
 ドーラのアップが下から見上げられます。
 人形のまわりに散らばっていたお絵かきが舞いあがります。
 ドーラは後ずさりして奥へ退く。
 下から階段が見上げられ、ドーラがおりてきます。カメラの前を横切り右下へ、カメラは上・左から下・右に振られる。その際やや後ろから横顔がアップになります。
 
 ドーラはいったん止まり、また階段をおりて地下室への扉に背を向け入っていく。 『ザ・ショック』 1977 約1時間5分:地下室への扉、やや上から
 地下室です。おりてきて手前・右へ進みます。カメラもそれを追います。マルコは見当たらず、戻っていきます。 『ザ・ショック』 1977 約1時間5分:地下室、奥に上への階段
 左手前に右下がりの階段の手すりが上から見下ろされる。その向こうにドーラがいます。左奥へ進む。カメラも左へ追います。 
 居間です。右奥からドーラが出てくる。手前に棚が入りこんでいます。 『ザ・ショック』 1977 約1時間5分:居間
カメラは右から左へ振られる。ドーラは手前に進みます。カメラの前を横切り右へ、肩から上の姿で背を向けています。声に振り返ります。

 向こうにマルコがいます。カメラは前進する。
 ドーラが下から見上げられる。
 マルコが左奥から右手前に進みますが、首や肩が動きません。カメラは左から右へ振られる。近づいてくると左の目の下に涙の跡が残っています。手にした画用紙を持ちあげる。
 ドーラが下から見上げられる。
 マルコは背を向け右へ、先にドーラがいます。「なぜ?」と問う。画用紙に描かれているのは手にナイフを持つドーラで、横たわる父の首から血が流れています。渡したマルコは後退する。ここまでで約1時間7分でした。


 画面が波打ち、ドーラの回想が始まります。目元のアップからズーム・アウトして頭部になる。暗がりにぼやけた像が左から右へ動き、男の姿を結びます。ドーラの歪んだ像が左から右奥へ、男の歪んだ像が手前へ出る。同じくドーラの歪像も手前へ。
 男の倒立像が映ります。すぐ上に緑がかった大きな白い手がやはり逆さになっている。カメラが前進し、下から上へ動くと下に白い手、その上に男の順像となります。カメラはさらに上へのぼる。また倒立像が映るのでした。
 
ドーラもくっきりした倒立像から順像、そして倒立像に移ります。  『ザ・ショック』 1977 約1時間8分:ドーラの順像から倒立像へ
 手前に棚と白い手、その向こうにいる男がこちらにあるドーラの腕に手を伸ばす。
 カッター・ナイフを手にしたドーラは黒い服を着ていました。ここまでで約1時間9分でした。


 ドーラが撞球台に倒れこみ、撞球を散らします。黄色い服を着ている。「私が殺したのよ」と叫びます。ブルーノは何とか言い聞かせようとする。二人が奥へ行くとカメラは後退し、右から左へ振られる。 
次いで急速に左から右へ、下から階段が見上げられ、影が駆けあがる。マルコなのでしょう。 『ザ・ショック』 1977 約1時間13分:階段、下から
 約1時間13分、ベッドでドーラの手を握るブルーノの手にカメラはズーム・インします。 
右にフランス窓があり、左は暗がりです。窓の向こうは暗青色で、白い光が射している。
 窓が手前に開くとともにカメラは左へ動きます。壁に落ちる格子の影、真っ暗な一角、そして室内です。
『ザ・ショック』 1977 約1時間13分:窓
向こうにマルコのベッドが見えます。手持ちカメラが前進する。上から見下ろした後、また左へ、マルコの頭から足へなぞり、足もとを越えてベッドの左下、床に散らばった絵をとらえ、さらに左は暗がりでした。カメラはぐるっと回るかのようです。右半を扉が占め、その奥へ進む。向こうに楕円形の大鏡がある。その右手前に窓です。風にカーテンが揺れる。カメラは前進し、見下ろしつつまた左下へ、暗がりを経てベッドの掛け布団を接写する。明るい緑の模様で覆われています。左にドーラが眠っている。上から近づく。寝苦しそうです。
 赤煉瓦の壁が歪んで映されます。うなされるドーラをはさんで、赤煉瓦がピントを合わせ、しかし斜め下から接写されるとそこから血が滲みだすのでした。うなされるドーラと血の滲みだす煉瓦壁のカットを反復、次いでドーラの手がアップになり、ベッドの上を這うと別の手に行き当たる。その手はぐずぐずと崩れます。上からドーラが見下ろされ、掛け布団の上に右から光が射すのですが、ぼんやりと両手の形をしているかのごとくです。掛け布団が右へ引かれる。裸のドーラが身を丸めています。歪像の男が奥から手前へ進んでくる。楕円形の大鏡が上で枠取っているらしい。肩から上のドーラが真上から見下ろされ、目を見開く。身を微かにのけぞらせるようにすると、右に流れていた髪がスロー・モーションで浮きあがって左へ、顔を覆ってから今度は手前=真上に立ちあがります。また右へ倒れ、ドーラが払いのける。この間効果音をかぶせたパイプ・オルガンの音が響いています。男の歪像をはさんで、ドーラは叫んで飛び起きる。寝着をつけています。

 約1時間18分、浴室へ行く。カメラは右から左、浴室内の不規則な形の鏡を経て、下に動く。出てきます。左から右に進む。楕円形の大鏡に映った扉の向こうに何か映っている。振りかえると背後の鏡には何も映っていません。
 右へ、画面は真っ暗になり、すぐ向こうに横長の楕円の額縁がある。廃墟を描いているのでしょうか? カメラは絵の右で壁に接しつつ手前に振り向くドーラに近づき、また後退します。額絵ががたがた揺れて落ちる。
 上からマルコがアップでとらえられます。目を開くと瞳孔が白い。
 階段をおりるドーラの背が見下ろされます。手前左に壁、右にガラス戸が枠取っている。画面は緑を帯びています。
 下から階段をおりてくるさまが見上げられます。あたりは暗い。
 地下室への扉が少し開いています。
 ドーラが下からアップでとらえられます。
 
 真っ暗な中、少し開いた扉から白い光が洩れています。カメラは下から上へ、画面が真っ暗な中、上から下へ少し斜めで白い縦線が切り裂いているのはあたかもバーネット・ニューマンの作品のごとくです。ドンドンという音がする。  『ザ・ショック』 1977 約1時間19分:地下室への扉の隙間
 接写で内側から扉が映される。画面は明るく青緑を帯びた灰色です。向こうからドーラが顔を出す。強い光で明るく照らされています。 
 階段が上から見下ろされる。こちらは暗い。左から画面3分の2ほどを壁が占めています。向こうで影と光が交わっている。右上から左下へと暗がりになっています。ここまでで約1時間19分でした。  『ザ・ショック』 1977 約1時間20分:地下室への階段、上から
 下から地下室の階段が見上げられます。右3分の2ほどが壁です。青緑を帯びた灰色です。上にドーラがいる。透けた白い寝着を着ています。  『ザ・ショック』 1977 約1時間20分:地下室への階段、下から
おりてくると、右に大きく不定型な影が落ちる。手前まで来るとドーラ自身シルエットと化します。左から右へ、左に頭の後ろが入り、右奥の壁で鶴嘴をふるう影が落ちている。左から右へ、煉瓦壁の前にいるのはブルーノでした。ここまでで約1時間21分です。

 赤煉瓦の壁に横長の穴が開いています。カメラが右に振られると真っ暗になる。 
穴の奥から向こうの二人がとらえられます。カメラは下から上に振られる。  『ザ・ショック』 1977 約1時間22分:地下室、穴の中から
 二人に左下からランプの光が強く当たっています。カメラは右から左に振られる。二人はやや上からとらえられます。
 また穴の奥からの眺めです。ブルーノが手当てしようとしますが、ドーラは「放っておいてよ」と左へ消える。
 ブルーノが振りかえるとドーラが鶴嘴をふりかぶっていました。
 ドーラはブルーノを穴に押しこみます。穴の奥からのショットと外からのショックが切り返される。
 ドーラがブルーノを入れるさまを穴の奥からとらえ、カメラは下に振られる。奥に丸いランプのみが残っています。右には純白の椅子か何かが見える。
 
 約1時間24分、倒立するドーラのアップが映ります。ぶるぶるしています。カメラは後退しつつ下から上へ、上に順像のアップが映る。黒いテーブルか何かも見えます。すぐ右にはコップが2つある。上辺は赤く、蠟燭なのでしょうか? 画面右半は緑の蔦と明茶色の板が占めています。板が波打ちます。カメラは前進する。  『ザ・ショック』 1977 約1時間25分:テーブルに突っ伏すドーラ
 揺り椅子が揺れます。カメラは下から上へ、そして左へ、棚におかれた暗緑色に染まった白い手が下・正面から見上げられる。手は手前に出てくる。落ちて粉々になるさまが真上から俯瞰されます。カメラは少しだけ下がる。 
 かなり上から、左上から右下への階段が見下ろされる。下の床にドーラがいます。カメラは左から右に流れる。ドーラは階段をよじ登ります。周囲は暗く、奥に見える窓の枠は真っ白です。その左下には緑の鉢植えが置いてあります。踊り場の額が落ちる。 『ザ・ショック』 1977 約1時間26分:階段、上から
 ドーラはカメラの前を横切り背を向けて上へ、アップで進みます。  『ザ・ショック』 1977 約1時間27分:階段を上がった先
 マルコの部屋です。ドーラが扉を開けるとカメラは彼女の方へ前進し、次いでベッドに向かって前進する。マルコは布団をかぶって泣いています。ドーラの背でその姿が見えなくなり、次いで手をさしのべると振り向くのは前夫でした。パーカッションがバタバタしています。悲鳴を上げて左から右へ逃げだす。
 左の扉から出て右へ進みます。背を向けると奥に廊下が伸びている。向こうにマルコがいます。マルコはドーラに駆け寄る。画面下に消えると、現われるのはまたしても前夫です。突き飛ばす(
追補:この場面は『アナベル 死霊館の人形』(2014、監督:ジョン・R・レオネッティ)に引き継がれたとのことです)。
 下から薄暗い階段を駈けおりるさまがとらえられる。カメラの前を横切り、背を向け下へ、カメラは上・左から下・右に振られます。玄関の扉は開かない。向かいの扉に飛びつくもこちらも開きません。右の扉に背を向けたドーラが向かう。左に欄干の斜めの影が落ちています。
 
 ドーラが見上げると、斜め下から階段は見上げられ、カメラはズーム・インする。上の回廊にマルコがいます。その左、回廊下の天井に格子状の影が放射状に落ちています。  『ザ・ショック』 1977 約1時間28分:階段、下から
 ドーラのショットをはさんで、階段が下から見上げられる。誰もいません。
 またドーラのショットをはさんで、シャンデリアが落下します。
 ドーラは跳ね飛ばされたかのように、地下室への階段を転げ落ちます。
 ポルターガイストが起こる。縦長の箪笥が前に進む。ドーラは追いこまれます。
 箪笥の扉が開き、下の棚板にカッター・ナイフが落ちている。暗がりの中から手が伸び、カッター・ナイフを手に暗がりから前へ進んでくる。
 ドーラが自らの首を掻き切っていました。
 見上げると、地下室上方の横に長い窓が見上げられます。窓は白く、まわりは暗いグレーです。ここにカメラはズーム・インする。


 庭のテーブルは白く、芝生は緑、家の壁は赤茶です。芝生と壁はやや暗めでその分彩度が高い。
 カメラが後退して、マルコが「パパ、何して遊ぶ」と言います。椅子が勝手に動きます。カメラは右へ後退する。手間から奥へブランコが揺れます。マルコが駆け寄り、カメラは前進するのでした。


 『白い肌に狂う鞭』で亡霊が出現するのは、笑い声をヒロインの夫たちが耳にした点を例外に、原則としてヒロインがいる場面だけでした。対するに本作では、ヒロインの目の届かないところでのマルコの振舞に大きな比重が割かれています。その意味で本作は、ヒロインが精神的に追いこまれるサイコ・スリラー的な過程を軸とするものの、れっきとした超自然現象を描いていると見なしてよいでしょう。
 ところで画面に現われたことで見るかぎり、前夫がドーラに刺されたのは自業自得のようで、彼女に祟るのは逆恨みにも見えますが、そんなことはおかまいなくひたすらドーラを追いつめるのは、それが悪霊たるゆえんということでよいでしょう。いささか解せないのは、マルコが亡父に唯々諾々と従っているように映る点です。マルコを演じたデヴィッド・コリンJr.の実年齢が当時6~7歳、劇中での前夫の事件は7年前に起こったとのことなので、マルコが生まれたのは事件の直前か直後あたりでしょうか。前夫が死んだ後しばらくはドーラも子育てに励めるような状態ではなかったはずですが、冒頭での描写を見るかぎり母子の関係に問題があったようには描かれていません。ブルーノが実の父親でないことは早くから知っていたようで、そこに微妙な齟齬があったとしても(犬を飼いたい云々のくだりはその現われなのでしょうか)、少なくとも表面的にはうまくやっていました。
 本篇中、マルコが素の状態の時、マルコが亡父に乗っ取られている時、マルコが自らを保ちつつ亡父の力をふるう時と、3つの状態が区別されているようではありますが、その関係はなかなか微妙です。『呪いの館』(1966)における少女も殺人を繰り返していましたが、彼女の場合すでに死んでおり、1つに復讐、1つに操られてといった状況でした。それに比べても、生前はほとんど接することもなかったであろう亡父と結託して実の母を責め苛む幼い息子というのは、この年頃の子供が母親とまだ密接な関係にあるであろうことを思えば、やや疑問を感じなくもありませんでした。だから怖いんだということなのでしょうか。あるいは前夫の怨念とはすなわち家父長制の怨念にほかならないのか。西村安弘「家庭内の権力闘争が怖い!-マリオ・バーヴァ作品における家父長制」(下掲『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ所収)では本作への言及はなされていませんが、テクストのタイトルはそのまま本作に当てはまりそうです。
 またラストを迎えた時点で、マルコが語りかけそれに応えるのが亡父だけでなく、ドーラやブルーノもいるという場面が思い浮かんだりもしたことでした。庭は晴れて和解した家族の笑いに包まれるというわけです。とまれ幼い子供一人になって、これからどうするんだろうといささか心配になる結末ではありました。

 
Cf.,

The Horror Movies, 2、1986、pp.16-17

殿井君人、「オカルト」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.144-145。

 また

山崎圭司、「マリオ・バーヴァ 息子ランベルトが語る〝色彩の魔術師〟」、同書、 p.167。


 サイト[ YELLOW-EUROTRASH MOVIES ](*リンク切れ)中の
 「ザ・ショック」のページ(*2017/11/17現在こちらはあり)


Kim Newman, Nightmare Movies. Horror on Screen since the 1960s, 1988/2011, p.264

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.146-151, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.974-996

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.352-353

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1970-1979, 2017, pp.177-180

 バーヴァに関して→こちらも参照
 2015/7/8 以後、随時修正・追補
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