呪いの家 The Uninvited
DVD(『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』(→こちらを参照)より) ……………………… 古典的な幽霊屋敷ものであるとともに、そこで起こっている謎を解き明かそうとする探偵もの的な要素も備えた作品。原作はドロシー・マカードル Dorothy Macardle の Uneasy Freehold (1941)で、邦訳はされていないようです。レイ・ミランド演じる音楽家とルース・ハッセイ演じるその妹が、得体の知れない出来事にひるんだりはするものの、それでも終始快活で健康的なこともあってか、あまりおどろおどろしい印象は受けません。それでも怪奇映画としてのありようを保っているのは、夜の場面における暗さの遍在ゆえでしょう。 イギリスの西海岸、岸に荒波が打ちつけるさまを映しながら物語は開幕します。カメラが移動するその先に、崖の上に建つ屋敷が遠く見えてくる。少し斜めに映るそれは、破風をいただく玄関部分の左右にひろがり、両端では煙突がそびえているようです。屋敷の手前、崖にさしかかるところにはねじくれた枝が交差するかのような枯木がぽつんとあります。アクセントのための単なる点景と思いきや、この枯木は後に重要なポイントとなるのでした。遙か遠方には塔も見えます。 |
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崖の手前の方にいた二人の人物が進むとともに、より近づいて館が映されます。二階建てに広い屋根を足した態のようで、玄関部分の左に、格子状に分割された方形の窓が二つずつ、二段になっています。右は画面端で切れていて、一列だけ見える。玄関部分は屋根の高さの三角破風の下に丸窓があり、その下に少し小さい三角破風、方形と下がって、両脇に柱を控えて扉となる。さらに近づけば、左右の柱の前に石の球が据えつけてあることがわかります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
栗鼠を追いかけて窓の隙間から飛びこんだ犬を追って、二人は屋敷の中に入りこみます。玄関の向かってすぐ左にある窓です。何てうらやましいんでしょう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
しばしば框と扉を枠どりにして、いくつもの部屋を巡ることになる。何もない部屋、台所、暖炉のある部屋など。空き家なので家具類は据えつけのもの以外はからっぽで、壁は概して白っぽく、扉もすべて白塗りのようです。窓もいずれも広く、さんさんと光が射しこみ、床などに淡い桟の影を落としている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
うろうろする内に螺旋階段のある吹き抜けにたどりつきます。画面の手前を陰になった柱が縦断して奥行きを確保する。二人が出てきた戸口のすぐ上は1階分の高さの天井で、それを壁側と少し前に出た柱が支えています。柱が支えている部分は、2階の廊下にあたり、上の方に手すりが見える。この階段室も随所に窓があって、明るい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
2階にあがれば、吹き抜けはほぼ円形をなしているようで、それに沿った手すりと廊下が囲んでいます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
階段をあがったすぐ先では、壁を大きくえぐって、半円アーチの窓が設けられています。曲線状の桟が左側の壁や天井にやはり淡い影を映しています。左側へ少し進んだ先の扉を開くと、海の見える窓がある。やや戻って、階段をあがってすぐのところにも扉があるのですが、こちらは鍵がかかっていました。半円アーチの窓からさらに右側に来ると、やはり凹みに方形の窓、暖炉と続きます。 ここまでで始まってまだ7分くらいです。 |
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空き家であり昼間であるがゆえの明るさは、しかしまず、家主である退役軍人の屋敷内部の重厚さと対比されることになります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
そこでの会話から、崖の上の空き家が「ウィンドワード Windward 」と呼ばれ、築200年を閲することが伝えられるとともに、夜に風が吹くと音を出すこともほのめかされるのでした。 とまれ兄妹はウィンドワードを購入し、再訪すればさっそく、2階階段先の開かずの間を開いてみる。 |
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ここは屋根裏部屋のように天井が傾斜しており、広い窓も、床から少し垂直にあがってから、内側に傾いて天井に達します。窓からは海が見える。天井の傾斜は二段になっているように見え、桟の影とともに明暗を微妙に分割しています。アトリエとして使われていたのだろうと語られる。画面手前にはグレーのベッドらしきものが斜めに配され、奥行きを強調しています。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
階段室の吹き抜けでは、前回の時よりさらに左に進めば、楕円形の深い凹みの中にやはり楕円形の窓が設けられていました。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
また前回は階段の壁に木の枝の影が淡く映っていたものですが、今回は夕方も近いのでしょう、手すりの影がより濃くなっています。これは以後の場面で、さらに濃さを増すことになるでしょう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
音楽家がいったん出向いたロンドンから家政婦とともに戻ってきたのは、やはり夕刻です。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
玄関を開けば階段室、そこからさらに奥に入った脇に、台所への入口があります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
留守の間に妹が内装を進めており、家具が入ってくると、空き家の状態でのすがすがしいまでの明るさとは雰囲気も変わってこようというものです。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
電気はまだ来ていないらしく、夜ともなれば階段をあがるのに蠟燭を手にしなければなりません。2階まで来ると蠟燭の炎が揺らめくのでした。 音楽家の寝室はアトリエの左隣のようですが、夜中、物音に目が覚めて蠟燭を手に廊下に出ます。壁にシャンデリアの影が、縦にひずんでいます。 |
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音だか声は階下から聞こえるようで、吹き抜けの手すりから見下ろすさまが下からとらえられる。彼の影は斜めになって右側に落ちています。手すりは底面だけ明るく反射し、側面と支え柱は暗く沈む。すぐ右後ろの扉から妹も出てきます。彼女の影は二度左側に映ります。最初は薄く、二度目はより濃く、進みでるにつれ大きさを変えながら左上へと回りこむ。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
二人がアップになっても、カメラはやはり下から見上げています。二人は左側に寄せられ、画面右三分の一ほどは影が上の方を占めています。夜明けが近づくと、半円アーチの窓から風が吹きこみ、カーテンを揺らすのでした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
音楽家は妹を部屋の前まで送るのですが、戸口は少し凹んで扉となり、その縁と壁、天井などで明暗の面の幾何学的な分割が目につく構図となっていました。手にした蠟燭の灯りだけが明るい。左側には音楽家の影が大きく映っています。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
音楽家は自室に戻りますが、扉は勝手に閉じてしまう。この時だけカメラが斜めになっていました。この一連の場面では、何か目に見えるものが映るわけでもなく、ただ暗がりの構図が変化するばかりでいて、まごうかたない山場となっているのでした。また冒頭で昼間の明るさを見ていたからこそ、夜の闇もいっそう深く感じられるのでしょう。 退役軍人の孫にあたるヒロイン(ゲイル・ラッセル)が訪ねてきた時も、やはり夕暮れです。この時間のアトリエは明暗の対比が強まっており、二人の姿も逆光で暗くなっています。音楽家がヒロインであるステラのために自作の「星影のステラ」をピアノで奏でるのですが(聞いてみれば聞き覚えのあるメロディーで、後に歌詞をつけられてヒットしたそうです)、光が弱まると、曲調が変わってしまう。先立つ『女ドラキュラ』(1936)や翌年の『ドラキュラとせむし女』(1945)での同巧の場面が思いだされるところです。 |
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二人が吹き抜けに出ると、先ほどの真夜中の場面とはちがって、手すりの上面が暗くなり、支え柱と下側面が明るくなっているのでした。左には階段の手すりの影が急角度で落ちていきます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
比較的素直な人物が多いこのお話で、孫娘を危険から遠ざけようとするあまり強圧的になってしまう退役軍人(ドナルド・クリスプ)とともにひねりの効いた人物が、退役軍人の娘についていた看護士で、今は療養所を運営しているミス・ハラウェイ(コルネリア・オティス・スキナー)でした。彼女は退役軍人の娘を異様なまでに崇拝しており、その名誉を守るためなら手段を問わないという設定です。登場するのは後半から、またクライマックスのお膳立てだけして退場となりますが、その存在感は半端ではない。デュ・モーリアの『レベッカ』(→こちらも参照)におけるダンヴァース夫人が連想されるところです(追補:→「怪奇城の画廊(中篇)」でも少し触れています)。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
とまれ音楽家と妹がその療養所を訪れるのですが、ここも少ししか映らないとはいえ、建物の中に石造りのアーチが残されているという、魅力的なセットでした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
この後も、階段室を上から見下ろしつつカメラがぐるっと回ったり、異様に大きくなった手すりとその支え柱の影が映る壁の前で、背を向けた人物の影が大から小へと変化したり、アトリエの扉が斜めに映されたり、階段の手すりの柱が実は捻り柱であったことがわかったりしながら、物語は急展開を経由しつつ、大団円へと向かうのでした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
Cf., Jeremy Dyson, Bright Darkness. The Lost Art of the Supernatural Horror Film, 1997, pp.157-162 Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.243-244 Cleaver Patterson, Don't Go Upstairs! A Room-by-Room Tour of the House in Horror Movies, 2020, pp.195-198 美術監督の1人ハンス・ドライアーについて; 加藤幹郎、『映画の領分 映像と音響のポイエーシス』、フィルムアート社、2002、第3部12「新作家主義」中の pp.267-275:「ハンス・ドライヤー 『ルビッチ・タッチ』の設計者」 Juan Antonio Ramírez, Architecture for the Screen. A Critical Study of Set Design in Hollywood's Golden Age, 2004, pp.38-39 Beverly Heisner, Hollywood Art. Art Direction in the Days of the Great Studios, 1990, pp.165-183, etc., & pp.334-338(フィルモグラフィー) 撮影のチャールズ・ラングともども →『ゴースト・ブレーカーズ』(1940)も参照 |
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2014/11/29 以後、随時修正・追補 |
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