ブリューゲル《深い渓谷に区切られているアルプス風景》1555-56頃

ピーテル・ブリューゲル(父) (c.1525/30-1569)
(ヨハネスおよびルーカス・ファン・ドゥエテクムによるエッチングとエングレイヴィング)
《深い渓谷に区切られているアルプス風景》
1555-56頃
銅版画・紙
32.0x42.2cm


BRUEGEL the Elder, Pieter
etching and engraving by Johannes and Lucas van Doetecum
Alpine Landscape with a Deep Valley
c.1555-56
Etchong and engraving on paper
32.0x42.2cm<

Cf., 『ペーテル・ブリューゲル版画展』図録、神奈川県立近代美術館、1972、cat.no.4、pp.147-148

『ピーテル・ブリューゲル全版画展』図録、ブリヂストン美術館、石橋美術館、三重県立美術館、広島県立美術館、1989、p.108 / cat.no.4


 Cf.cf.,

原画について;

Ludwig Münz,translated by Luke Herrmann, The Drawings of Bruegel. A Complete Edition, Phaidon, 1961, pl.13, p.209 / no.13


 まず注意を引くのは、中央の岩山が左方に傾いている点であろう。この傾斜から生じる位置エネルギーは、深い渓谷にいったん落ちこむことで、描かれた地形全体が巨大な凹面の内側としてせり上がってくるような運動をはらませている。空の雲も大地の潜勢に呼応して渦を巻く。ここでは、大地の気脈を表わさんとした五代北宋の山水画にも通じる、活けるものとしての自然の姿をとらえることがはかられているのだ。
 他方画面が横長であることで、大地は大地固有の安定感を授けられる。さらに、前景右の登り坂をはじめとする多くの山道の交錯と明暗の配分が、大地を分節し秩序づけている。もって景観は現実味を帯びることになる。
 銅版画への彫りは残念ながら、下絵素描の繊細な調子をよく移したとはいえまい。しかし、おのが微妙さを失なってなお、自然の壮大なひろがりと生命を伝えうるだけの骨格を、下絵はそなえていたのである。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1989.4.19、「16世紀の寓話 『ピーテル・ブリューゲル全版画展』作品紹介 3」

『ピーテル・ブリューゲル全版画展』(1989/4/15~5/14)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
 →そちら(ブリューゲル《悔悛のマグダラのマリア》(1555-56頃、銅版画)や、またあちら(ブリューゲル《キリストの冥府への降下》(1557-58頃、銅版画)も参照
 →ここでも挙げました:「〈怪奇〉と〈ホラー〉、若干の用語について」の頁

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