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奇巌城の冒険

    1966年、日本 
 監督   谷口千吉 
撮影   山田一夫  
編集   黒岩義民 
 美術   植田寛 
 照明   森弘充 
    約1時間43分 
画面比:横×縦    2.35:1 
    カラー 

ケーブルテレビで放映
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 『大盗賊』(1963)の姉妹篇というべき作品で、三船敏郎主演による異国の地での冒険譚です。監督も同じ谷口千吉。ただ荒唐無稽に徹した前作に比べると、太宰治の「走れメロス」(1940)を骨子にした物語は、いささか散漫なように思われます。平田昭彦が宰相役で出演しているにもかかわらず、悪役にもう一つ魅力がないのもその理由でしょうか。若林映子扮する宰相の娘がかろうじて面白くなりそうかとも思ったのですが、あまり活躍することもないまま引っこんでしまいました。三橋達也演じる王との葛藤が主軸になるため、悪役を展開させる余地がなかったのかもしれません。それでも妖婆役で天本英世および仙人役で有馬一郎が前作に引き続き続投している点が嬉しいところです。しかも天本英世は今回は吹替ではありません。加えて音楽が伊福部昭ではあり、もってよしとすべきでしょうか。
 タイトルにもあるとおり、今回もお城が主要な舞台の一つをつとめます。ただし「奇巌城」と呼ぶのはいささか苦しい。とはいえ双子城というか、主人公の台詞を借りれば「城の中の城」という設定は注目に値します。

 イランでロケしたということで、いわゆるシルク・ロードの眺めがセールス・ポイントの一つとなっています。敦煌の奴隷市場で競売に出された主人公を、同じ日本人だからと、仏僧が救いだすところから物語は始まります。仏僧は日本の寺に納めるための仏舎利を求めての旅の最中で、その道中に主人公が同行するというのは、『西遊記』を範にしているのでしょう。
 二人が参加したキャラヴァンが盗賊、次いで竜巻の難を避けるために入りこんだ洞窟が、まずは古城映画的な前哨戦をなします。低い通路の先には広間状の空間があり、その中央に大きな舎利塔(ストゥーパ)があります。その基壇部分を崩してみると、仏舎利を入れた容器が出てくるのでした。
 石窟寺院の廃墟だったわけですが、キャラヴァンの他の面々は呪いのかかった王墓と思いこんで、二人を残して先に出発してしまいます。二人は徒歩で荒野を進まなければならなくなるのですが、道中ところどころに、彫像が倒れていたりするのも面白がれる点でしょう。またたどり着いたオアシスで仙人と出くわしたりもします。


 その後二人はペシルの町に到着します。町の通りの先に王城がある。宿屋での騒動を経て、主人公はお城に向かいます。模型でしょうか、正面からの眺めは一風変わったデザインでした。1階中央に城門があり、その上にもう一層、さらにその上でドームが左右に顔を出しています。城壁は白で、ドームは青、その上に金の針状のものが立っている。一層目、城門の左右には、メソポタミア風とでもいえるでしょうか、横向きの茶色い浮彫が施されています。
 問題は一層目と二層目でそれぞれに四本、細長い円錐形の小塔状の設備が付随しているのです。いずれも各層の壁よりも高く頭を出しています。塔といっても銃眼らしきものは見当たらず、軍事的な機能を有しているようには見えないのが面白いところです。

 廊下を経て玉座の間に入ると、床には青・黄・赤の三色からなる円形の装飾が施されています。赤が強すぎて、あまり調和がとれているとはいいがたい。また玉座の斜め後ろ、壁の高い位置に怪鳥の浮彫が飾られているのですが、その目が覗き穴になっています。覗き穴の奥は寝台もある部屋で、その壁の隠し棚の中に覗き穴があるのでした。

 城には地下牢もあります。牢が並ぶ廊下には低く緩やかなアーチが連なっています。『大盗賊』の場合同様、城の上層では室内に華やかな色が用いられていますが、地下牢はもとよりグレーです。

 先に仙人と出会ったオアシスとはまた別のオアシスがあり、ここを「おばば」が見張っています。まわりの地面も黄色だったり、「地獄池」に溜まっているのは燃える水だったりするのでした。本作では妖婆は火を、仙人を水を司るという設定です。
 旧知の間柄らしい妖婆と仙人とのやりとりを経て、妖婆が退散した後、仙人が主人公に指さすのが、丘か小山から見下ろした城の眺めです。最初に映るのはマット画で、建物と建物の間がけっこうすかすかでした。すぐにもう少し近づいた景色に変わり、こちらは模型でしょう、これが始めに触れた双子城のありさまなのです。
 手前は左右端からくだってくる丘などの地形が縁取り、その向こうに二つの城が並んでいます。右側のものは白く、左は黒っぽい。白い城は町に面していたものなのでしょう。この模型では角張った城砦風のものに見えます。左のものは大きなドームをいただいている。左の城の土台付近からは、宙に右上がりで長い階段のようにも見えるものが突きだされています。二つの城の間は黒い濠で満たされており、突きでたものは吊り橋であるようです。濠というより、湖の中に黒い城が建てられているように見えます。また濠の水は、「地獄池」の見える水が引いてあるのだという。二つの城の奥には高い塀が左右に伸びています。


 前作同様王妃の部屋に忍びこんだ主人公が、部屋から出た際に通る廊下は、壁が白っぽいグレーで、アーチや柱は緑、そこに金で紋様のようなものが刻まれていました。廊下の奥には階段があり、まっすぐ少しあがってから、左右に枝分かれします。このパターンの階段は、後の場面で、地下牢の廊下の奥にも登場します。
 また城には大浴場があり、明るい黄色の壁に緑の付け柱が付されています。


 玉座の間で、玉座の後ろの床のパネルを踏むと、奥の壁が回転します。入った先は華やかな玉座の間とは対照的に、地下牢に近い薄茶色の石の部屋です。床は黒い。入ってすぐに数段さがります。宰相の娘が合図すると、別の扉の前にいる侍女が、やはり手前の床にあるスイッチを踏みます。すると黒紫の吊り橋がおりてくるのでした。侍女のいた扉は、白い城側ではなく、濠をはさんだ黒い城側にあったわけです。黒い城の内部は王のいる部屋が登場するだけで、それ以上の情報が得られないのは残念でした。他方吊り橋は、クライマックスの立役者となることでしょう。

 「走れメロス」よろしく、主人公は三日の内に仏舎利を届けて、また戻ってこなければならないことになります。そうしないと主人公の身代わりに仏僧が火刑に処せられてしまうのです。
 出発するにあたって、馬を留めた木の左側に、灯りをともすためのものでしょうか、青灰色の石でできた、塔状の設備が下から映されます。右側には階段がついていて、頂き部分でも、左半分が少し高くなっている。ここには凧がくくりつけてあって、帰ってきた時の目印にしろというのです。また馬を留めた木には、様式化された人面が刻まれています。これは何かモデルがありそうです。


 首尾よく仏舎利を届けた主人公は、しかし帰路、到着を妨害しようとする宰相に操られた盗賊団によって、「地獄谷」に追いこまれてしまいます。まずは真っ黒な谷として登場し、続いて谷底へ落とされた主人公の位置から上を見上げるカットが映されます。これがなかなか印象的でした。シネスコープの横長画面に応じて、上辺沿いには黒い岩が伸びています。下辺沿いには白い岩、そしてその間は真っ青な空が占める。白い岩から騎馬の盗賊二人が真っ黒な衣装で見下ろしているのでした。
 また谷底には、髑髏が転がっていたり、禿鷹が襲いかかってきたりする他、巨大なキノコが生えていたりします。本作品には円谷英二は関わっていないようですが、数年前の『マタンゴ』(1963、監督:本多猪四郎)が思いだされるところです。

 とまれ、主人公は地獄谷を脱出、あわやというところで約束の刻限に到着、王位簒奪を企てた宰相一味との活劇を経て、二つの城を結ぶ吊り橋での妖婆との顛末をもって大団円を迎えるのでした。
Cf.,  コロッサス編、『大特撮 日本特撮映画史』、朝日ソノラマ、1980/1985、p.311

日本特撮・幻想映画全集』、1997、p.171

『ウルトラマン研究読本 別冊映画秘宝』(洋泉社MOOK)、洋泉社、2014、p.64(また p.244)
によると、本作のオープン・セットは
『ウルトラマン』第7話「バラージの青い石」(1966年8月28日放映)
に用いられたとのことです。

おまけ  双子城のモティーフと、こじつければ通じる点がなくもないものとして;
エラリー・クイーン、井上勇訳、「神の灯」、『エラリー・クイーンの新冒険』(創元推理文庫 151)、東京創元社、1961、pp.8-132

原著は Ellery Queen, "The Lamp of God", 1935

二階堂黎人、『人狼城の恐怖』(全4巻)(講談社 NOVELS)、講談社、1996-1998
 2015/01/01 以後、随時修正・追補
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