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Visual Field, no.3, 1991.11.19, p.8
(「
Voice to Voice」欄)
 
目を細めれば逢魔が時

石崎勝基
 

 さまざまな条件と観者の訓練を前提とするかぎりで、ある作品の質は、直観的に把握される。直観的というのは、社会的なり歴史的、知覚的・心理的・感情的・主題的・技術的にせよ、他の何ものにも還元することができないからだ。「筆致にはりがある」、「色が浸透しあう」、「指の間をすりぬける奇妙さ」等のいいまわしは、別のことばにおきかえられない。人類史の枠内でではあれ、これはまた、時間の中での前後にも左右されない:ヤン・ヴァン・エイクや范寛以上に新鮮な作品が、どれだけあろう(ある時点に属する観者への条件の作用は、作品が制作された時点とのへだたりしだいで変化するだろうが)。すぐれた作品は、時間に、少なくとも垂直しようとする(完全に超時間的な神々ではありえない)。
 ところで、こうした質と、形式に相即する内容(主題や意図ではない)とは、どれだけずれるのか? 質は、形式・構造いかんを問わず、中性的であるように思われる。媒体として一点一点の作品が伝えようとする差異とは、必ずしも一致しない − 表現は、どこに生じるのだろうか?

 
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