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REAR、no.1、2003.1.23、p.37
いっぱいの中でからっぽ

栗本百合子展“the warehouse”
2002.10.19−12.28 佐久島

石崎勝基(三重県立美術館学芸員)


 島で撮影された写真を展示する弁天サロン(第一会場)をプロローグに、佐久島に散らばる三つの倉庫が会場だった。佐久島漁協漁具倉庫(第二会場)と共勢丸漁具倉庫(第四会場)では、ともに木造の建物半分ほどを占める部屋が、前者は壁下半の板張り部分および床を黒く塗られ、天井の梁を反転して床に黒塗りで設置、後者は室内いっさいを白く塗る。双方一つずつの窓には紗がかけられた。いずれも手狭な分、集中性が高いのに対し、佐久島漁協集荷場(第三会場)はかなり広い屋内が、壁の上半を白、下半を緑がかった水色に塗り分けた他ほとんどからっぽ近い状態で、いくつもの窓は開け放たれている。
 複数の空間に対照的な性格をもたせるという方途は以前にも採用されていたが、今回はとりわけ色濃い。第二・第四会場の瞑想的といえそうな求心性に対し、第三会場では窓から景色や空気、光が往来することで、訪問者の足場をも身軽にせずにいない。第二・第四会場も、黒と白の対比だけでなく、床が塞がれているいないによって、観者の体勢に働きかけることになる。ただし以上の対照は固定したものではあるまい。周囲の環境、たとえば日の射しぐあい如何によっても、各々の傾向はただちに変化するはずだ。
 また今回の場合、各会場をつなぐ佐久島の地勢およびそこを巡るための時間も、来訪者の経験に対し大きな比重を占めていた。さらに第三会場に顕著なとおり、施された処理は、必ずしも〈作品〉ばれることを必要としていないのではないか。栗本の操作は、周囲と不連続な作品を吃立させるのではなく、地勢の内に埋もれつつ、それをひそかに変容させる結節点のごとき機能をはたしていた。まったき日常でも非日常でもない、盲点のような空所といえるだろうか。ある時点、倉庫の閉じられた扉の奥は今回と同じ状態だったかもしれない。扉がたまたま開かれた今、光と影の変転、そして観者を通過させる。

Cf., 第三会場/佐久島漁協集荷場の挿図

『佐久島からの手紙』、vol.7、2003新春号、表紙に「the middle warehouse (中倉庫)」(2002)の図版、p.1に「リポート1 栗本百合子展」に「共勢丸漁具倉庫」、「佐久島漁協集荷場」(2点)の挿図


山本さつき、「ギャラリー・レビュー 名古屋エリア 栗本百合子」、『美術手帖』、no.831、2003.2、p.209
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(2003)