萬鐵五郎《薬罐と茶道具のある静物》1918

萬鐵五郎 (1885-1927)
《薬罐と茶道具のある静物》
1918(大正7)年
油彩・キャンヴァス
53.4×73.0cm
岩手県立博物館


YOROZU Tetsugoro
Still-life with a Kettle and a Tea Set
1918
Oil on canvas
53.4x73.0cm
The Iwate Prefectural Museum

Cf., 陰里鐵郎、「萬鐵五郎(二) - 生涯と作品 -」、『美術研究』、no.258、1968、図版6
 同、 「萬鐵五郎(三) - 生涯と作品 -」、『美術研究』、no.262、1968、p.216


陰里鉄郎、『萬鐵五郎 近代の美術 No.29』、至文堂、1975、第70図

『生誕百年記念 萬鐵五郎展』図録、神奈川県立近代美術館、三重県立美術館、宮城県美術館、1985、cat.no.85

『二〇世紀日本美術再見Ⅰ 一九一〇年代……光り耀く命の流れ』展図録、三重県立美術館、1995、p.139 / cat.no.4-28

『萬鐵五郎展 絵画の大地を揺り動かした画家』図録、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、岩手県立博物館、1997、p.127 / cat.no.145

 描かれているのは何の変哲もない卓上の静物だが、見る内に、ごとごとと揺れ、がたがた震えだすかのような気がしてこないだろうか。
 対象の輪郭はくつきり縁どられ、塗りも稠密だ。それでいて、物はそれぞれ孤立しているのではなく、空間全体を揺り動かす渦に巻きこまれているのである。
 中央下の茶碗を左方になびかせ、右上の薬罐の柄にそつて右へ、そして右の壺のひずみへといたる渦状の動きが、見おろす視点によってさらにダイナミズムを与えられる。ほぼ茶色の変化だけに抑えられた色調も、渦の一体感を強めることになるだろう。
 この時静物は、単なる物体にとどまらず、嵐の中の生き物のような表情をもってたたずんでいる。

(県立美術館学芸員・石崎勝基)
『中日新聞』(三重版)、1995.11.17、「美術館だより」

『二〇世紀日本美術再見Ⅰ 一九一〇年代……光り耀く命の流れ』展(1995/10/28-12/3)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
   HOME美術の話著作権切れ日本美術等400字前後解説輯挿図一覧