フランシスコ・リバルタの工房《聖ビセンテ、聖ビセンテ・フェレル、聖ライムンド・ペニャフォルト》1620代

フランシスコ・リバルタ(1565-1628)の工房
《聖ビセンテ、聖ビセンテ・フェレル、聖ライムンド・ペニャフォルト》
1620年代
油彩・キャンヴァス
264.6×1785cm
エルミタージュ美術館、サンクト・ペテルブルク


Workshop of Francisco Ribalta
Saint Vincent, Saint Vincent Ferrer and Saint Raymond of Peñafort
1620s
Oil on canvas
264.6x178cm
The State Hermitage Museum, Saint Petersburg

Cf., 『エルミタージュ美術館展 16-19世紀スペイン絵画』図録、東武美術館、茨城県近代美術館、三重県立美術館、1996、pp.70-71 / cat.no.11

 画面は、手前を向いた三人の男性によって大きく占められており、縦が二メートル半をこえることもあって、一種の圧迫感すら感じさせるかもしれない。三人の顔立ちに目をやれば、端正に描きこまれてはいるのだが、それだけにかえって、こわばった印象を与えなくもない。とりわけ彼らの視線は、よく見ると、どこに向けられているのか定かではなく、うつろに見開かれているかのようだ。こうしたこともあって、画面は何か不安な、緊迫感をもたらすことになるだろう。
 さらに目を注いでみよう。豪奢な赤い衣裳をまとった中央の人物が右手をのせている大きな石臼は、手前から奥の方へと、斜めにとらえられているわけだが、必ずしもうまく処理されているとはいいがたく、不自然なほど目立って見える。この点は左脇にはさんだ十字架も同様だ。上の方には、格子をはさんで海の情景が描かれた窓がのぞいている。しかしこの窓をいただく壁と、手前の人物との関係も、どれだけの距離があるのか、三人が画面を横いっぱいに埋めているせいもあって、不明瞭といわざるをえない。
 また、中央の人物が石臼にかけた右腕は、ひじの上下の関係や、腕と肩のつながり方が曖昧だし、右肩はさらに、首がその上にただのせられているだけであるかのような印象を呼びおこしはしないか。
 この絵は、フランシコ・リバルタの工房の作とされている。リバルタは、十六世紀末のスペインの美術にイタリア絵画の影響を導入した画家の一人として位置づけることができるのだが、右にあげたようないくつかの点が、この作品を工房作と見なさせている理由の一つかもしれない。
 しかし、工房作ゆえのこわばりにもかかわらず、いや、むしろだからこそ、描写の几帳面さとあいまって、ここにはある種の緊張感が宿ったともいえようか。左右の修道士の衣服の黒と白に対比されてあざやかさを強調された、中央の人物の透明な赤が、こうした緊張にいっそうの存在感をもたらしている。

(県立美術館学芸員・石崎勝基)
『朝日新聞』(三重版)、1996.11.6、「スペインの光と影 エルミタージュ美術館展から 6」

『エルミタージュ美術館展 16-19世紀スペイン絵画』(1996/10/29~12/15)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
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