鹿子木孟郎《ブルターニュの丘》1917

鹿子木孟郎 (1874-1941)
《ブルターニュの丘》
1917(大正6)年
コンテ、クレヨン、サンギーヌ、ペン・紙
29.7×43.5cm
個人蔵


KANOKOGUI Takeshiro
Hill in Brittany
1917
Conté, crayon, sanguine and pen on paper
29.7x43.5cm
Private collection

Cf., 『鹿子木孟郎 水彩・素描展』図録、三重県立美術館、1989、cat.no.D-103

『没後五十年 鹿子木孟郎展』図録、三重県立美術館、神奈川県立近代美術館、京都国立近代美術館、岡山県立美術館、1990-91、 cat.no.B-41、p.154

 後景の丘へと連なる眺望 - 左手前の暗部が、後退する明部を遠ざけ、それをさらに、右の木叢がひきしめる。
 空間を肉づけするのは、さまぎまな画材である。左下でのコンテによる強い線影と、岩などの弱い輪郭との対比、これら粉状の質感に、ペンの流動が切りこみ、その間を色クレヨンが仲介する。短い線に手のリズムがきいている。複数の技法を受け入れるのは、明暗を自動的に調節する紙の褐色であろう。
 遠近を引き立てる暗部といい、有色地といい、西欧絵画の伝統的な手法である。画面を安定させるこれらは、ただし、基底の枠組みに支えられてこそ力を発揮する。
 地面と空の境界は、きわめて高い。それはしかし、近世以前または以後におけるように、画面に沿ってせり上がる空間を形成しない。丘と手前の部分は人物の配置によって区別され、視線はあくまで画面と垂直に進む。上下が厳然と意識され、画面を窓とする箱型の空間 - これこそ西欧近世絵画を貫く視覚であり、ここで骨格として選ばれた枠なのである。

(石崎勝基・県立美術館学芸員)
『讀賣新聞』(三重版)、1990.10.18、「写実の語り 鹿子木孟郎展への誘い 8」

『没後五十年 鹿子木孟郎展』(1990/9/29~11/4)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
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