アルプ《翼のついた実体》1961

ジャン(ハンス)・アルプ (1886-1966)
《翼のついた実体》
1961年
ブロンズ
126x35×30cm


Jean / Hans Arp
Entité ailée
1961
Bronze
126x35x30cm

Cf., 『生誕100年記念 アルプ展』図録、富山県立近代美術館、山梨県立美術館、横浜市民ギャラリー、埼玉県立近代美術館、宮城県美術館、三重県立美術館、1985-86、p.48 / cat.no.54、p.167

『ジャン・アルプ&ゾフィー・トイベル=アルプ』展図録、豊田市美術館、1998、p.234 / cat.no.96

 会場をざっと見渡しても有機的な抽象作品が多い中で、この作品は一見して、すぐ人体を思わせる形態を示している。一番上には頭部、次に首にあたる部分で細くなって肩から胸につながる。腰がぎゅっとすぼまり、臀部を暗示して像は終わっている。
 ただし、像の底部は斜めに断ち切られており、そのため像は大地とのつながりを失なって、浮遊したものとなっている。腰のくびれはかなりきつく、像の下部から上部へと駆け上がる、力の流れの上昇感を強調している。像をかたどる曲線は、すべて地面に対して斜めに配され、中央の軸に対して螺旋を描くようにして、像は形作られている。
 像全体は横へのひろがりを抑えた垂直性の強いものだが、アルプの他の、植物の生長を連想させる、いわゆる〈トルソ〉の系列の作品に比べると、より緊密で凝縮された構成を示している。
 これらの点を総合すると、宙を翔け昇ってゆく何者かのイメージが浮かんでくる。肩から斜めに持ち上げられた部分が、翼と呼べるほど大きくないにもかかわらず、アルプがこの作品に与えた「翼のついた実体」という題名も、不自然には感じられなくなるだろう。
 そしてアルプ自身にとっても、このようなイメージは、作品が完成した時はじめて明らかにされたようだ。彼は述べている、作品の「基体の各々は精神的内容を持っているが、作品が完成した時にだけ、私はその内容を解釈し、それに名前をつける」と。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中部讀賣新聞』(三重版)、1986.7.15、「生誕100年記念 アルプ展に寄せて 6」

『生誕100年記念 アルプ展』(1986/6/28~7/27)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
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