ブラック《クラブのエースのある静物》1914-18

ジョルジュ・ブラック(1882-1963)
《クラブのエースのある静物》
1914-18年
油彩・キャンヴァス
57.0×53.0cm
個人蔵


Georges Braque
Nature morte à l'as de trèfle
1914-18
Huile sur toile
57.0x53.0cm
Collection particulière

Cf., 『ジョルジュ・ブラック回顧展』図録、丸亀市猪熊弦一郎美術館、鹿児島市立美術館、Bunkamura ザ・ミュージアム、三重県立美術館、1998、p.77 / cat.no.21

 四角い画面を横切るひしゃげた円の中に、たくさんの形というか面が、がしゃがしゃと噛みあい、重なりあっている。散らかしたジグソーパズルのようなさまは、動きの予感を宿すと同時に、ある種の緊迫感をたたえていはしないだろうか。
 これは、上端下端にのぞく黒地が、中央部でも、筆の動きをしめす半透明な塗りの奥に、その存在を感じとらせずにいないためだろう。面と記したのは、形の各単位が、厚みを帯びない平らなものだからだ。にもかかわらず、遍在する黒地は、そうした平らな面の集合全体との間に緊張関係を結んでいるのである。白、グレー、褐色といった色の幅の狭さも、緊張を散らさずにおく役割をはたす。
 遠近法による三次元的な空間の暗示に頼ることなく、キャンヴァスや紙の平らさに即しながら、しかし、決して平板ではない空間をはらみうるという、絵のなりたちをあきらかにした点が、キュビスムの最大の成果だったのかもしれない。

(県立美術館学芸員・石崎勝基)
『中日新聞』(三重版)、1998.11.18、「触るように見る ブラックの世界。回顧展 1」

『ジョルジュ・ブラック回顧展』(1998/11/3~12/13)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
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