萬鐵五郎《庭の花》1919

萬鐵五郎 (1885-1927)
《庭の花》
1919(大正8)年
油彩・キャンヴァス
53.0×40.5cm
個人蔵(寄託作品)


YOROZU Tetsugoro
Flower in a Garden
1919
Oil on canvas
53.0x40.5cm
Private collection ( deposited in Mie Prefectural Art Museum )

Cf., 陰里鐵郎、「萬鐵五郎(四) - 生涯と作品 -」、『美術研究』、no.273、1970、p.195 / 挿図1

 この作品はモノクロの図版で見ただけでは、何が描かれているのかよくわからないかもしれない。右端でカーテンの青、左の柱などに黒が混ぜられてはいるものの、画面はほぼ、茶色と緑の変化によっておおわれている。茶は木や垣根、緑は葉を表わすわけだが、その際、一方が他方の背景として退き、中心にくるイメージを浮かびあがらせる、という風には配されていない。茶と緑は比重の点で、まったく等価なのだ。そのため、色彩がイメージに収斂していかず、キャンヴァス上に散乱したままになってしまった。しかしそのかわり、画面全体としての統合性を獲得することになるだろう。
 この統合を保証するのは、筆致の速度感である。茶と緑はそれぞれ、明度の変化に応じて浮きだしたり沈んだりするはずだが、それも筆致ゆえ、同一平面上にせりだしてくる。筆致の動きを強調するため、画面は細長い色の帯の綴織として形成されている。筆触のあいまで白地が残されているところも少なくない。ゆるい湾曲をもって斜めに走る色帯の集合は、画面に圧縮されたエネルギーを宿らせている。

(石崎勝基・県立美術館学芸員)
『中日新聞』(三重版)、1994.2.18、「美術館だより」
* 94年の紙面に掲載された原稿は、93年10月に一度書いた原稿を短縮したものでしたが、
ここには原型を載せておきます。
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