ターナー《ファイン入江のインヴレーリー埠頭、朝》1845頃

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)
《ファイン入江のインヴレーリー埠頭、朝》
1845年頃
油彩・キャンヴァス
91.5×122cm

エール大学英国美術センター、ポール・メロン・コレクション、ニュー・ヘイヴン

TURNER, Joseph Mallord William
Inverary Pier, Loch Fyne, Morning
c. 1845
Oil on canvas
91.5×122cm
Yale Center for British Art, Paul Mellon Collecction, New Haven

Cf., 『英国風景画展』図録、伊勢丹美術館、大分県立芸術会館、郡山市立美術館、ひろしま美術館、大丸ミュージアム・梅田、三重県立美術館、1992-93、pp.60-61 / cat.no.19

 形というものがほとんど溶解してしまったこの作品に、後の印象派をこえてさらに、抽象絵画の先駆けを認めうるとしても、ここで主題をなすのはやはり、光、そしてそれを受けいれる風景=自然であろう。
 白からオレンジまで、きわめて狭い範囲の転調で画面を覆いながら、黄は決して、ひとつの色としておのれを主張してはいない。範囲が狭いことでかえって、幾段階にも分割しうるふくらみが獲得される。このふくらみと明度上の調子の高さがあいまって、色は光に変容したのである。
 光のふくらみをひろげるにあたっては、隠し味というべき水と空の青の役割が小さくない。さらに、明度を異にする色と色の重ね塗り、絵具の溶きぐあいの変化が空間を組織している。
 こうして、茫漠としながら確実に深さをともなった空間が、左の丘と水平線が交差する地点へと収斂していく。地水火風をのみこみ、同時に湧きださせる光の浸潤がとらえられているのだ。

(石崎勝基)
『讀賣新聞』(三重版)、1993.4.20、「光と風の饗宴 英国風景画館展 5」

『英国風景画展』(1993/4/10~5/9)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
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